とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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第二ラウンド開始

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 始まった第二ラウンド。ブルーカラー側はカナさん、相手は両手斧使いである。互いに距離を詰めるが、なかなかお互いに攻撃を振らない。カナさんは両手斧の一発の重さを警戒し、両手斧の相手はカナさんの盾によるパーリングを警戒しているのかな? とはいえ、すでに一分経過したと言うのにお互い武器を一回も振っていない。まるで我慢大会だ。

 その我慢が伝播しているかのように、誰もしゃべらない。静寂の中、カナさんと両手斧使いの動きが生み出す僅かな音しか耳に入らない。ただ移動しているんじゃなくて、お互い牽制しあっているのは分かる。踏み込みぞ、と見せかけたりここは引くと見せて相手の攻撃を誘ったり。そう言った読み合いができる二人がいきなりぶつかってしまったからこそ、互いに手を出せないのだろう。

 そしてそのまま三分経過。だが、ヤジを飛ばす人はいない。分かっているからだ、二人が必死の駆け引きをしている事を。しかし、このまま時間切れとなった場合はどうなるんだ? こっちは先にラウンドを一つ取っているが……考えられるパターンとしては引き分けとして両者ポイントなし。もう一つは引き分けではあるが両者にポイントを与えるパターン。

 前者はともかく、後者だとその時点でこっちが二ラウンド取った事になるから勝利が確定する。だからこそ、向こうは何としてでもこのラウンドを取らなきゃならないんだがカナさんの動きが厄介で仕掛けるに仕掛けられないという状況に陥ってしまっている。もはや武舞台から感じる空気は、異様な熱気で肌をチリチリと焼かれているかのようだ。

 なんと五分が経過してもまだお互い攻撃を一回も振るわない。一方で流石に焦れてきている両手斧使いによる足の牽制回数が明確に増えてきた。踏み込もうとする、回りこもうとする、そして突然停止して揺さぶってくる。この足の動きだけで相当対人戦をやってきたという事が伺える。だが──

(カナさんには一切通じてないんだよな)

 カナさんは相手を見据え、程よい緊張感を維持したまま静かに盾を構えている。それだけなのだが、攻めいる切っ掛けを掴ませないのだ。リアルの家でブドウをたしなんでいる影響なのか、心の揺らぎが本当にないのだ。全く揺れない水面を見ているような気持になってくる。ただひたすらに静かに、自然体でそこにいる。

 ある意味、とても不気味である。だからこそ、まだ一回も武器を振るっていないのに両手斧使いの顔から汗が流れだしているのだろう。どう攻めたらいいのか分からない焦りと、全く動じない不気味さが入り混じった汗だろう。しかし、この均衡はここで破られた。その切っ掛けは相手チームの両手剣使いの乱入によるものであった。

「《マルチスラッシュ》!」

 乱入した両手剣使いは、残像を残しながら斬る事で周囲からは分身しながら相手を切り刻んでいる様に見えるという、大剣としては非常に珍しい一発を重視するのではなく手数を重視したアーツである《マルチスラッシュ》でカナさんに対して攻撃を仕掛けた。しかし、カナさんはその攻撃をことごとく片手剣と盾を使って相殺したり受け流したりと対処した。

 だが、防御行動をとった事で当然両手斧使いに対する構えは解かれる。当然そこに突っ込み、ついに両手斧を振るう事となった。だが、カナさんはそれも予測済みだったようで振り下ろされた両手斧の攻撃を盾で受け流しつつ両手剣使いのアーツの終了の隙に対して片手剣による突き攻撃を放っていた。

 突き攻撃は両手剣使いの胸元に深く刺さり、彼は短い苦悶の声を上げる。そこで乱入時間の時間切れのため両手剣使いは場外へと移動させられる。結局、両手剣使いは乱入したがカナさんにダメージを与える事が出来ず逆に自分が手傷を負う形となった。

「あのバカ……相手の動きから安易なアーツを振るうのは下策だと分からなかったのか」「──貴方は武道の心得がありそうですね。もちろんこちらの世界ではなく」

 そんな言葉が両手斧使いから漏れた為だろうか、カナさんが話しかけていた。もちろん、お互いにらみ合った状態でだが。

「お見通しか。まあそっちもかなり鍛錬を積んでいるようだな……動きで分かる」「ではもしかしたら、リアルの方で手合わせをしているかもしれませんね」

 なんて会話をしながら、間合いを詰めていく。そのためまた周囲に独特な緊張感が高まっていく。そのため、話をしているのは武舞台にいる二人だけである。

「かもしれないな……だが、リアルの追及はネットではご法度だ。それに、そろそろにらみ合いも終わりにしないか? お互いの動きで大体知りたい事は知れただろう? それにこのままでは、周囲からつまらないとヤジを飛ばされそうだ」

 両手斧使いはそんな事を口にしたが、この緊張感の前にそんなヤジを飛ばせる肝の太い人はそうはいないと思うけどな? 実際ヤジなんて試合開始後から一つも飛んじゃいない。

「そうですね、確かにここまで睨み合いが続いてしまったのはこちらとしても想定外でした。道場での勝負であるならまだしも、この場にはふさわしくないでしょうね。ならば、始めましょうか」

 カナさんがその言葉を言い終えると、一瞬だが確実に、痺れるかのような緊張感が走った。直後、二人とも一気に間合いを詰めて本格的な戦闘が始まった。両手斧を次々と迎撃するカナさん、そしてカナさんの片手剣による攻撃を両手斧のあらゆる個所を使ってはじき返したり受け流す両手斧使い。お互いアーツは一切使っていない、プレイヤー自身の技量のみで戦っている。

「マジかよ、あの女性プレイヤーアイツの本気でやっている両手斧の攻撃を見切ってやがる」「武道をやっているあいつについていくあの女性プレイヤーも、リアルでかなり鍛錬を積んでいるな。そうじゃなきゃあんな動きは出来ない」

 向こうのプレイヤーの声が聞こえてきた。やや引き気味ながらもすごいと認めているのだろう。食い入るように試合を見ている。こっちも同じで、カザミネとエリザ──特にエリザが目に焼き付けるかのような勢いで武舞台上の戦いを見ている。

(カナさんに杖術を教わっているらしいし、少しでも観ておきたいって所か。見る事もまた経験って言葉も確かあったしな)

 もちろん自分もしっかりと見ている。見ごたえがあるのも理由の一つだが何より両者の動きは見ていて参考になる。やはり強い人の動きというものは違うな、非常に学べるものが多い。そんな武舞台上の戦いだが、高いレベルで互角の勝負が繰り広げされている。互いに明確な被弾が一つもないのだ。

 もちろん掠った程度の被弾は両者ともにある。しかし、ダメージと表現するレベルの物ではない。そんな力と技量のせめぎ合いが続いている。こういった戦いは、一発まともに攻撃を貰た方が一気に崩れていくことが多い。それを戦っている2人はもちろん分かっているだろう。だからこそ、お互いに最初の一手であり決め手となる一手を決めるべく攻防を目まぐるしく入れ替えながら戦っているのだ。

 だが、その戦いもいつかは決着がつく。そのいつかがいつ来るかが分からないだけ。もしくは来ないまま時間切れの可能性もあるか。何せ始まってから五分もにらみ合っている形で始まっているからな。だが、それでも両者汗こそ流しているがしっかりと相手を見据えて戦っているのは素晴らしいという他ない。

(両手斧使いも、焦りの雰囲気が引っ込んだしな。本当にどっちが勝つのかが分からない薄氷の上の戦いだ。こういうレベルの戦いになるとアーツなんて邪魔なだけだ。アーツを起動してしまうと、マニュアル操作にしていても動きが見切られやすくなるからな……だからこそ、こういう戦いはリアルと同じような戦いになる。火花とかは少々派手だけど)

 少しだけ周囲に目をやると、誰もが食い入るように戦いを見守っていた。そして時間を確認すると、残り一分三二秒と出ていた。明確な一撃を叩き込むことができるのか? それともこのまま時間切れで終わるのか? 武舞台の二人を見ながら、時間が過ぎていくのを見守る。
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