風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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五章

五話 希望 その一

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 ***



 ふう……。
 全く脳筋には付き合えきれない。
 私は御堂先輩の指導という名のしごきから抜け出してきた。付き合いきれませんから、全く。
 体操服も汚れちゃったし、本当に最悪。
 さて、悪魔みどうせんぱいから解放されたし、風紀委員室にある荷物をとって、もう帰ろう。先輩がいない風紀委員委に何の意味もないしね。

 先輩に会いたい。
 先輩が何を隠しているのかさっぱり分からない。
 先輩は突然、私とのコンビを解消した。それは一時期だけれども、ショックだった。
 私は断固抗議したけれども、先輩は悲痛な顔で私を巻き込みたくない、辛い思いをさせたくないと言ってくれた。
 それは涙が出るくらい嬉しいんだけど……でも、結局、理由が分からない。先輩はなぜ、私を遠ざけたの?

 知りたい……もし、先輩が何かに悩んでいるのなら。力になりたい。好きな人の役にたちたい。
 私が風紀委員ここにいる理由、それは先輩がいるからですよ。先輩がいない場所なんて寂しいだけですから。
 風紀委員室に入ろうとしたとき、中から声が聞こえてきた。

 この声って、先輩! それに、橘先輩とサッキーと朝乃宮先輩の声。
 これって……先輩が今関わっている事件の事?
 先輩は私に迷惑がかかるから関わって欲しくないって言ってたけど、よくよく考えるとおかしい。
 だって、サッキーは私と同じ一年じゃない。なのに、どうして、サッキーはOKなの?

 やっぱり、気になる!
 私の着替え、覗かれたんだし、先輩達の話を盗み聞きしても大丈夫だよね?
 今日の下着、あまり可愛くなかったけど、先輩は顔を真っ赤にしていたし、ちょっと、してやった気分だったかな。
 先輩、私と一緒にいても小言ばっかりだし、女の子扱いしてくれない……でも、今日は先輩、すごく慌ててたし、少しは私のこと、女の子だって認めてくれたってこと?

 これを機に、態度を改めてくれたらいいんだけど……。
 そう思いつつ、聞き耳を立てていると……。



「先輩!」
「……伊藤か」

 私はタイミングを見計らって風紀委員室から出てきた先輩に声をかけた。風紀委員室で先輩達の話を聞いて、どうしても話しておきたかったから。
 先輩は疲れ切った顔をしていたけど、私の顔を見て微笑んでくれた。

「御堂はどうした? 一緒じゃないのか?」
「……休憩中です」

 本当は嘘なんだけどね。
 先輩はそれ以上問いかけることはなく、そうか、と声を漏らしている。
 今から話すことは先輩にとって負担をかけてしまうかもしれない。でも、どうしても話したい。先輩の力になりたい。
 私は先輩の相棒として、好きな人の力になりたいの。だから、伝えないと。

「先輩、聞きたいことがあるんです」
「……なんだ? 今でなきゃいけないのか?」

 ううっ……そんなこと言われると泣きたくなるじゃないですか。邪険にしないでくださいよ……。
 そう思いつつ、私は恐る恐る先輩に尋ねる。

「……今、先輩が抱えている案件ですけど、私が外された理由って、私が……以前、イジメにあっていたから、だから巻き込みたくなかったんですか?」
「……」

 先輩は目を大きく見開き、驚いた顔をしている。
 やっぱり、そうなんだ。
 先輩の顔を見て確信した。私の考えは間違っていなかったって。
 私は先輩の優しさに愛おしさがあふれてくる。
 私は以前、先輩に自分がイジメられていたことを吐露とろしたことがある。
 ハーレム騒動で私のやることなすこと全てが裏目に出て弱気になっていたとき、先輩に話した。

 先輩はそのとき、先輩もイジメられていた経験があったことを教えてくれた。
 辛い話なのに、私は先輩と同じだったんだとシンパシーを感じ、親近感がわいたんだっけ。
 その後、先輩は降っていた雨を止める大技を披露してくれたんだけど、今はどうでもいい。
 先輩に言いたいこと、声に出さないといけない。

「先輩の気遣いは涙が出そうなくらい、嬉しいです。でも、私は先輩の後輩だけでなく、相棒なんですよ? 不良狩りと呼ばれた、不良が恐れる先輩のパートナーなんですよ。私、そんなにヤワじゃないですから。それとも、先輩は私のこと……頼りにならないって思われていますか?」
「そんなことはない!」
「きゃ!」

 お、驚いたぁ~! 急に大きな声出すんだもん。
 先輩も自分で言ったのに、呆然として驚いている。そ、即答してくれるのは嬉しいんだけど、驚かさないでよ……何て言葉をかけていいのか分からないじゃないですか。

「……その、怒鳴ってすまん。確かに、俺は伊藤がイジメられていた事を知っていたから、今回の件は伊藤を除外した。そのことで伊藤を傷つけてしまった事は謝る。だが、分かってくれ。俺は伊藤の先輩なんだ。後輩のことを護るのは先輩の役目なんだ。頼りになるとか、ならないとか、そういった問題じゃないんだ」

 先輩って、本当に空気を読む場所を間違っている。
 もっと、違うところを気遣って欲しいのに……。
 膨れ上がる愛情を押さえつけ、私は先輩に微笑んでみせる。

「……分かりました。今回だけ、先輩の言うとおりにします。でも、忘れないでくださいね」

 私は演技っぽく、くるりと先輩に背を向ける。

「いつかきっと、私は先輩に隣を歩きますから。後ろで護られているだけの関係なんてお断りですから」

 そう、これが私の本音。
 私は先輩に護られたいんじゃない。もちろん、女の子として、好きな人に護ってもらうことは憧れだった。でも、今は違う。
 先輩の力になりたい。負担になりたくない。だから、私は先輩の隣に立ちたいんだ。

 よし! このまま、御堂先輩の元へ戻ろう!
 しっかりとお勤めをはたしてこよう。パワーアップした私を先輩に披露しなきゃ。
 スキップしたい気分で、私は御堂先輩の元へと戻ろうとしたとき。

「ま、待ってくれ!」

 え……ええええええええええぇ!
 せ、先輩が私の手首をぎゅっと握っている! 握ってますから!
 こ、これってどういう意味? いくなってこと? それとも……や、やだ……どきどきが止まらない。
 あまりにも緊張して言葉が出ない私に先輩は……。

「……頼む、力を貸してくれ。巻き込みたくないといっておきながら、都合の良い話だと思うが、それでも、この一件を早期に解決したい。だから、頼む。伊藤の力を貸してくれ」

 そう、私に言ってくれた。
 これって私のこと、頼ってくれたって事だよね?
 私は言いようのない高揚感が胸の中で騒いでいるのを感じていた。
 先輩が私を頼ってくれた。これは小さな一歩だけど、私にとって、とても大切な一歩なわけで……。
 こみあげてくるものは、あまい感情ではなく、先輩のために何でもいいから力になりたいという熱いものだった。

 絶対に先輩の力になってみせる!
 強い意志を先輩に伝えるため、先輩の不安げな目を真っ直ぐ見据え、力強く頷いてみせた。

「任せてください!」

 ここからはおふざけはなし! 先輩のために、全力を注ぐんだ。
 先輩は私の変わりように唖然としていたけど、すぐに笑顔になって私の頭を撫でてきた。
 大きくて、がっちりした先輩の手の感触にくすぐったいものを感じ、幸せな気持ちにさせられる。

 も、もう! 子扱いしないで!
 真面目モードなのに、ご褒美モードに切り替わっちゃたじゃない。
 先輩はそっと私の頭から手をどける。それが寂しいって思えるけど、先輩の役に立ってからまた撫でてもらえばいい。
 先輩は私に事件の事を打ち明けてくれた。盗み聞きでは大まかなことしか分からなかったけど、これではっきりと事件の内容が理解できた。

 なるほど、これは難事件。そう思わずにはいられない。
 それにしても、平村さんと白部さんの名前、どこかで聞き覚えが……。

 ああっ! そっか! 思い出した! 平村さんは図書委員の子だ!
 私が中学二年のとき、当番が同じでよく平村さんと本について話をしたんだっけ。
 そっか……委員が終わったらよく平村さんを迎えに来ていた女の子が白部さんなんだ。懐かしいな……。

 ちょうどその頃、私はイジメにあって、自分を変えなきゃって思って図書委員をやめたんだけど、それ以来、ずっと平村さんと会ってない。
 でも、私だけでなく平村さんもイジメにあっていたなんて、図書委員って呪われてるの?

 それはともかく、事件の事を考えなきゃ。
 状況は全て白部さんが犯人と物語っている……っていうか、白部さんしか犯行できないよね、これ。
 でも、先輩の言うとおり、ちぐはぐさを感じる。平村さんが白部さんを陥れる為の事件と言われた方がしっくりとくる。

 ううん……親友を裏切るような行為をする子だったかな、平村さんは? 白部さんの事、すごく褒めていたし、すごく仲がよかった記憶があるのだけれど。
 平村さんが白部さんを裏切る理由が分からない。恋愛のもつれ? まさかね。
 けど、親友同士が傷つけあうなんて、後味が悪すぎる。もし、事件が解決しても誰も幸せにならないよね、このままじゃあ。

 先輩もそう思っているから暗い顔をしている。
 でも、私はある可能性を感じていた。そのことを先輩に伝えてみよう。
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