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四章
四話 混迷 その五
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「真実はどこにあるんでしょうか?」
上春のつぶやきに、俺も朝乃宮も何も言えなかった。
井波戸の話を聞き終わった後、一度解散することになった。庄川は井波戸と話があるとのことで、井波戸と一緒に教室に残っている。
俺と上春、朝乃宮は今後の事を話すため、風紀委員室に戻る最中だ。廊下の窓からは夕日が差し込み、生徒も教師も誰もいない。
俺達の足音が響き渡る中、俺は上春のつぶやきの内容を考えていた。
真実はどこにあるのか?
まさにそれだ。何が事実で何が虚偽なのか? 誰が嘘を言って、誰が本当のことを言っているのか?
きっと、真実を突き止めることで全ての解が、問題が解決できると俺は信じている。
だが、真実が明らかになったとき、平村のイジメがなくなったとき、平村と白部の関係はどうなっているのだろうか?
親友同士だった白部と平村。問題が解決した後、二人はもう親友同士には戻れないのか?
おそらく、修復不可能だろう。
相手を裏切り、憎しみ、イジメて……どう考えても、ハッピーエンドにはなりえないな。
だから、どうしたのいうのか。
俺の目的は平村のイジメがなくなれば、それでよかったはずだ。イジメがなくなった後、白部と平村の関係がどうなろうと知ったことではなかったはずだ。
そう思っていたのに……今はそれでいいのか、迷っている。
なぜ、こんな気持ちになったのか?
白部と平村が親友だと聞いたときから、俺は昔の親友、健司のことを思い出してしまったことが原因だろう。
田宮健司。
幼稚園のときからの親友で、いつも一緒にいた。ずっと一緒にバカやって楽しくやっていけると信じて疑わなかった。
俺達の仲を壊したものがイジメだった。
健司は正義感が強かったことから、悪いヤツに目をつけられ、イジメにあっていた。
俺は健司を救おうとしたが、逆にイジメの標的にされてしまい、助けようとした健司からイジメにあう最悪な展開になってしまった。
もちろん、健司はイジメの主犯だった男に脅されて、仕方なく俺をイジメていただけだが、分かっていても辛かった。
俺は健司にイジメられても、いつの日かやり直せると、親友同士に戻れると信じていた。だが……。
「藤堂先輩、どうかしました? すごく悲しい顔をしていますけど」
「……なんでもない」
そうだ、今は過去を振り返っていても仕方ない。出来ることだけをやれ。二兎追うものは一兎をも得ずと言うしな。
ここは欲張らず、平村のイジメをなくすことだけに集中するべきだ。たとえ、平村が親友を裏切るようなヤツでも、イジメを容認することなんて出来るはずがない。
俺は気を取り直し、朝乃宮に意見を求めた。
「朝乃宮はどう思った?」
「案外、オリエント急行殺人事件みたいなオチかもしれませんね」
「白部以外全員が犯人だと言いたいのか?」
朝乃宮の言葉に、俺は呆れながらも、その可能性もあるかもしれないと思った。しかし、白部を陥れるだけなら、全員が犯行に加担する必要はない。
「それなら、腕時計の持ち主と平村の二人が共謀すれば、事が足りるな」
「せやね」
朝乃宮は面白そうに笑っている。朝乃宮には今回の件、全く興味がないのだろう。平村がどうなろうと関係ない、上春が関わっているから一緒に行動しているだけだ。
俺とは違い、すがすがしいまでの私関係ありませんという態度に、俺は怒りよりも感心させられる。
朝乃宮はしっかりと見据えているのだ。救うべき者と見捨てるべき者を。
俺の場合、イジメを受けている者は目にとまる範囲で助けたいと思っている。全ての人を助けることなんて出来ないことは知っている。目にとまる人でさえ助けることが出来ないことも自覚している。
でも、それでも、俺は助けたいんだ。イジメの辛さを、恐ろしさを知っているから。
朝乃宮は俺とは正反対だ。誰がイジメられようが関係ない。上春がイジメられていた場合のみ、全力で阻止する。相手を半殺しにしてでも、助けるだろう。
朝乃宮には迷いがない。だから、ぶれない。
それこそが朝乃宮の強さであり、自分に課した贖罪なのだろう。
朝乃宮は一度、親友を失っている。その後悔が朝乃宮の狂気を押さえつけ、上春を溺愛している理由だ。
そんな朝乃宮を上春は悲しげな瞳で見つめている。
上春は感じているのだろう。このままでは、朝乃宮は幸せになれないと。
二人を見ていると、少しせつない気持ちになるが、俺はあえて無視を決めこんだ。
二人を救えるのは、きっと二人を心の底から想うことが出来る人物だけだ。それこそ、家族か親友のような強い絆が必要だと思う。俺にはそれがない。
朝乃宮と親友でもなければ、血のつながった家族でもない。赤の他人といってもいい。
押水の件で学んだんだ。八方美人は何の解決にもならない。人を救うということは、本当に大切な者だけを見据え、全力で助ける覚悟が必要なのだと。
だから、俺は二人の事情に足を踏み入れない。俺と二人が強い絆で結ばれる日は永遠にこないのだから。
俺は無理矢理考えを元に戻す。
白部と平村の一件、知れば知るほど解決が難解になっていくのを感じる。まるで底なし沼にはまってしまった気分だ。
解決策が思い当たらない。どうしようもない無力感に暗い気分になっていく。
希望があるとしたら、それは白部と平村だ。二人は親友同士だった。まだ、互いを想い合う気持ちがあるのなら、そこに全てを解決する鍵があるかもしれない。だが、そんなことはありえるのだろうか……二人は憎しみあっているのに。
ただ、井波戸の話を聞いていて、何かが引っかかっているのも事実だ。それが何かは分からないが、それこそ、二人の仲を修復する可能性があると思う。
ダメだ。堂々巡りになっている。考えがまとまらない。結局のところ、俺は二人の仲が修復できると思っているのか? それとも、無理だと思っているのか?
くそっ! 分からねえ……。
こんなとき、伊藤がいてくれたら……情けないと自覚していても、そう思わずにはいられなかった。
上春のつぶやきに、俺も朝乃宮も何も言えなかった。
井波戸の話を聞き終わった後、一度解散することになった。庄川は井波戸と話があるとのことで、井波戸と一緒に教室に残っている。
俺と上春、朝乃宮は今後の事を話すため、風紀委員室に戻る最中だ。廊下の窓からは夕日が差し込み、生徒も教師も誰もいない。
俺達の足音が響き渡る中、俺は上春のつぶやきの内容を考えていた。
真実はどこにあるのか?
まさにそれだ。何が事実で何が虚偽なのか? 誰が嘘を言って、誰が本当のことを言っているのか?
きっと、真実を突き止めることで全ての解が、問題が解決できると俺は信じている。
だが、真実が明らかになったとき、平村のイジメがなくなったとき、平村と白部の関係はどうなっているのだろうか?
親友同士だった白部と平村。問題が解決した後、二人はもう親友同士には戻れないのか?
おそらく、修復不可能だろう。
相手を裏切り、憎しみ、イジメて……どう考えても、ハッピーエンドにはなりえないな。
だから、どうしたのいうのか。
俺の目的は平村のイジメがなくなれば、それでよかったはずだ。イジメがなくなった後、白部と平村の関係がどうなろうと知ったことではなかったはずだ。
そう思っていたのに……今はそれでいいのか、迷っている。
なぜ、こんな気持ちになったのか?
白部と平村が親友だと聞いたときから、俺は昔の親友、健司のことを思い出してしまったことが原因だろう。
田宮健司。
幼稚園のときからの親友で、いつも一緒にいた。ずっと一緒にバカやって楽しくやっていけると信じて疑わなかった。
俺達の仲を壊したものがイジメだった。
健司は正義感が強かったことから、悪いヤツに目をつけられ、イジメにあっていた。
俺は健司を救おうとしたが、逆にイジメの標的にされてしまい、助けようとした健司からイジメにあう最悪な展開になってしまった。
もちろん、健司はイジメの主犯だった男に脅されて、仕方なく俺をイジメていただけだが、分かっていても辛かった。
俺は健司にイジメられても、いつの日かやり直せると、親友同士に戻れると信じていた。だが……。
「藤堂先輩、どうかしました? すごく悲しい顔をしていますけど」
「……なんでもない」
そうだ、今は過去を振り返っていても仕方ない。出来ることだけをやれ。二兎追うものは一兎をも得ずと言うしな。
ここは欲張らず、平村のイジメをなくすことだけに集中するべきだ。たとえ、平村が親友を裏切るようなヤツでも、イジメを容認することなんて出来るはずがない。
俺は気を取り直し、朝乃宮に意見を求めた。
「朝乃宮はどう思った?」
「案外、オリエント急行殺人事件みたいなオチかもしれませんね」
「白部以外全員が犯人だと言いたいのか?」
朝乃宮の言葉に、俺は呆れながらも、その可能性もあるかもしれないと思った。しかし、白部を陥れるだけなら、全員が犯行に加担する必要はない。
「それなら、腕時計の持ち主と平村の二人が共謀すれば、事が足りるな」
「せやね」
朝乃宮は面白そうに笑っている。朝乃宮には今回の件、全く興味がないのだろう。平村がどうなろうと関係ない、上春が関わっているから一緒に行動しているだけだ。
俺とは違い、すがすがしいまでの私関係ありませんという態度に、俺は怒りよりも感心させられる。
朝乃宮はしっかりと見据えているのだ。救うべき者と見捨てるべき者を。
俺の場合、イジメを受けている者は目にとまる範囲で助けたいと思っている。全ての人を助けることなんて出来ないことは知っている。目にとまる人でさえ助けることが出来ないことも自覚している。
でも、それでも、俺は助けたいんだ。イジメの辛さを、恐ろしさを知っているから。
朝乃宮は俺とは正反対だ。誰がイジメられようが関係ない。上春がイジメられていた場合のみ、全力で阻止する。相手を半殺しにしてでも、助けるだろう。
朝乃宮には迷いがない。だから、ぶれない。
それこそが朝乃宮の強さであり、自分に課した贖罪なのだろう。
朝乃宮は一度、親友を失っている。その後悔が朝乃宮の狂気を押さえつけ、上春を溺愛している理由だ。
そんな朝乃宮を上春は悲しげな瞳で見つめている。
上春は感じているのだろう。このままでは、朝乃宮は幸せになれないと。
二人を見ていると、少しせつない気持ちになるが、俺はあえて無視を決めこんだ。
二人を救えるのは、きっと二人を心の底から想うことが出来る人物だけだ。それこそ、家族か親友のような強い絆が必要だと思う。俺にはそれがない。
朝乃宮と親友でもなければ、血のつながった家族でもない。赤の他人といってもいい。
押水の件で学んだんだ。八方美人は何の解決にもならない。人を救うということは、本当に大切な者だけを見据え、全力で助ける覚悟が必要なのだと。
だから、俺は二人の事情に足を踏み入れない。俺と二人が強い絆で結ばれる日は永遠にこないのだから。
俺は無理矢理考えを元に戻す。
白部と平村の一件、知れば知るほど解決が難解になっていくのを感じる。まるで底なし沼にはまってしまった気分だ。
解決策が思い当たらない。どうしようもない無力感に暗い気分になっていく。
希望があるとしたら、それは白部と平村だ。二人は親友同士だった。まだ、互いを想い合う気持ちがあるのなら、そこに全てを解決する鍵があるかもしれない。だが、そんなことはありえるのだろうか……二人は憎しみあっているのに。
ただ、井波戸の話を聞いていて、何かが引っかかっているのも事実だ。それが何かは分からないが、それこそ、二人の仲を修復する可能性があると思う。
ダメだ。堂々巡りになっている。考えがまとまらない。結局のところ、俺は二人の仲が修復できると思っているのか? それとも、無理だと思っているのか?
くそっ! 分からねえ……。
こんなとき、伊藤がいてくれたら……情けないと自覚していても、そう思わずにはいられなかった。
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