風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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女を黙らせるにはこうするんだろ? 前編 朝乃宮千春SIDE

2/8 その六

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「藤堂はん、どうしました? 顔色が悪いですけど?」
「……問題ない」
「?」

 なんやろ? 顔がしかめっ面になっとる。
 もしかして……。

「仙石和志のこと、気になりますの?」
「……気にならないとは言えない。なあ、朝乃宮。俺は仙石に勝てると思うか?」

 ちょっと引っかかったけど、今は藤堂はんに伝えておかんと。
 仙石和志との戦力差を。

「ウチの見立てでは、1:9で仙石和志の圧勝です」
「……現実を突きつけられるとヘコむな。3:7くらいにはなると思っていたんだが……」

 うつむく藤堂はんにウチは更に言葉を続ける。

「まず、体格については藤堂はんは仙石和志と同じ、いえ、その上です」
「えっ?」
「身長は藤堂はんの方が十センチ以上も上、握力や筋肉も仙石和志は藤堂はんにかないません」

 これは事実。体格では藤堂はんが上。
 格闘技は基本、体格が大きい方が有利。筋肉やスタミナ等、有利な点が多い。
 それを覆すとなると、武器や格闘技の経験、知識が必要となる。


「そ、それならなぜ……」

 藤堂はんの方が体格については圧倒的に有利。
 その藤堂はんが圧倒的に不利な理由は……。

「心構えです。藤堂はんは仙石和志を恐れてる。自分でも3:7って言ってるくらいですし」
「そ、それは……」
「そんな弱気なら、勝てるモンも勝てへん。もっと自信を持ってください」

 そう、心構えからして負けてる。
 昔なら仙石和志は藤堂はんを圧倒してたやろ。けど、それは過去の話し。
 今は……。

「心構えが出来ていたとしたら……どうなる?」
「五分五分。身体能力は高くても、喧嘩の場数は圧倒的に千石和志が上ですから」

 嘘は言ってへん。けど、隠しておきたいことがある。
 ウチの見立てやと、ほんまは……。

「……五分五分ならやる価値はあるな」
「ウチは困るんですけど」

 これみよがしにため息をついてみせた。

「困るって……」
「やるなら必勝、10:0で勝負してもらわんと」

 そう、五分五分やなんて、分の悪い賭け。
 朝乃宮なら10:0で戦いを挑む。

 勿論、勝負事に限らず100%はない。
 けど、99.99999999999999999999999999999パーセントならありえる。

 それくらいでないと、最悪のケースになってまう。
 最悪のケースとは……藤堂はんが今、千石和志に勝ってしまうこと。
 それが大問題。もし、そうなったら……最悪、ウチらは破局してまう可能性がある。

「だが、そんなこと出来るのか?」
「……その件に関しては特別講師を用意します」
「特別講師?」
「喧嘩に特化した先生を呼んで藤堂はんを鍛えます。一週間もあれば確実に勝てます」

 仙石和志のデーターはある。兄の方はすでに攻略済。
 そのデーターを元にして、藤堂はんを特訓。実力をつけさせる。

 けど、仙石和志だけではなく、今後の……レッドアーミーのナンバーズに備えて、藤堂はんをレベルアップさせる。

 心身と技術。

 これを朝乃宮流で鍛える。
 そうせえへんと……藤堂はんはまた……。

「……もし、一週間以内に仙石が来たら……」
「そのときはウチが仙石和志を叩きのめします」

 ウチなら勝てる。木刀で充分。
 ほんまはそっちの方が楽で確実。

 せやけど、それは問題を先送りにしているだけ。それなら、荒療治やけど今、藤堂はんには千石和志を踏み台にして強くなってもらう。
 あのときのことを繰り返さんようにするために……。

「……悪い、朝乃宮。この喧嘩は俺に……」

 やっぱり、男の子やな~。
 負けず嫌いで腕力に自信があり、喧嘩を女の子任せにしない。
 けどな……。

「別にええですけど、もし、藤堂はんが負けることがあれば……」
「あれば?」
「ウチ、どんな手を使っても、仙石グループ……藤堂はんに害する『敵』を駆逐しますから」

 それは肉体的だけやない。社会的にも全てにおいて『処分』する。
 これからの長い人生、地獄と思えるほどの苦痛を背負わせる。
 藤堂はんが負けるということは……藤堂はんが傷つくということ。
 それは……絶対に許せへん!

「……そうはならない」

 消え入りそうな声やったけど、ハッキリと聞こえた。

「それは勝利宣言、と解釈してももええですの?」

 それやと、ウチも安心なんやけど……ちゃうわな……。

「そんなたいそうなものじゃない。けど……」
「けど?」
「朝乃宮を護る。それは絶対だからな」

 そ、それは絶対なんや……。口元が緩みそうやったから、扇子で隠す。
 仙石和志を恐れてるくせに、ウチを護る事には覚悟があるんやね。
 不思議と藤堂はんなら護りきってくれる、そんな予感があった。

「……期待してます」

 ウチは湧き上がる喜びを抑え、いつもの空き教室へ向かった。



 こんこん

「……」
「失礼します」

 返事がないけど、ウチは風紀委員室に入る。今からやることは裏工作やから、藤堂はんとは適当な理由をつけて別行動をしている。
 部屋の中には不機嫌丸出しな橘はんが座ってた。

「……やってくれたね、本当に……どこまで僕の邪魔をしたら気が済むの?」
「必要ならどこまでも」

 ウチと橘はんはお互いにらみ合う。
 もう、ウチらが手を組むことはないやろ。

「仙石グループは今月中にも解散してもらいます。仙石和志の退学をもって」
「……かつてないほどの抗争が起こるよ。御堂も黙ってないよ。だって、『Blue Ruler』は元々仙石篤史が立ち上げたグループだ。それを引き継いだ御堂は必ず仙石和志の味方をする。そうなったら流石に朝乃宮でも手を焼くんじゃない?」

 御堂はんが頭をしていたチーム『Blue Ruler』は元々仙石和志とその兄、仙石篤史の二人で立ち上げたチーム。
 それを引き継ぎ、トップをはっていたのが御堂はん。
 その不達が組むとなると……。

「御堂はんならウチに惨敗しましたけど?」

 何の支障もない。雑魚が一匹増えるだけ。
 仙石篤史の対策も済んでる。全てウチの計画通り。
 橘はんは歯ぎしりをしている。

「橘はん、やめとき。たとえ、万が一長尾はんがウチを倒せたとしても、『朝乃宮』が黙ってません。そうなればもう、子供の喧嘩ではすみませんから」
「仙石グループとの抗争を子供の喧嘩というの?」
「死人が出ない争いを子供の喧嘩だって言ってるんです」

 これは大げさなことやない。
 朝乃宮が動けば、死人が出るといっても過言ではない。まあ、橘もやけど。

「このままじゃあ、済まないよ」
「それはこっちの台詞です。よくもウチらを騙してましたなぁ」
「……そのことは悪かったと思ってる」

 ウチはある事実を今日の朝、メールで送っておいた。それがあったからこそ、橘はんはウチのやろうとしている事を黙認した。
 橘はんはため息をつく。

「ハッキリ言わせてもらいます。先に『協定』を破ったのはあんさんです。それなら、ウチはもうこの『協定』に従うつもりはありません。ウチが臨む世界の為、邪魔者達を排除していきます」

 これは宣言。もう橘左近とは袂を分かつ時がきた。

「ねえ、気づいている? そんなことをしたら、キミは孤独になる。誰もキミを愛さないし……」
「結構です。ウチには咲と藤堂はんがいてくれたらそれで。そもそも、ウチ、他人は誰も信じてませんから。あんさんかてそうですやろ? 今更綺麗事を吐き捨てる気なん?」
「……」

 そう、二人だけが充分。
 他にはいらない。

「話しは終わりました。失礼します。あっ、後、もしも咲に何かあったら……」
「分かってるよ。上春さんは関係ない。何もしないし、危険が及ばないようするから。上春陽菜さんに悪いしね。それより、朝乃宮こそ気をつけなよ。特に夜道はね」
「分かってくれたらええんです。それと余計なお世話です」

 さて、次に行こうか。



「そういうことなので、よろしゅうお願いします」
「分かった。『朝乃宮』が後ろ盾になってくれれば怖いものなしだ。応援する」
「流石は朝乃宮。期待しているぞ!」
「私も不良に対する厳罰化をずっと訴えていた。まさに今、そのときだ!」
「今日の朝礼で生徒の反応もいい。いけるぞ、これは」
「我々が手を組めば不良共を駆逐できる!」
「厳罰化はあまりよくないと思うが、今回は仕方あるまい。私はキミを支援しよう」

 右翼派(昔からある青島の伝統をまもり、凛とした態度で生徒の教育にあたることを考えている考え方)の先生方への協力を得るためにウチは視聴覚室で話し合いをしていた。
 集まっていただいた七人の先生方のうち、六人は承諾いただいたけど……。

「……」
「新見先生。何か不満でも?」

 右翼派の先生の一人、新見先生は黙ったままうつむいている。

「……気に入らん」
「何がです、新見先生」
「やり方が獅子王のときと同じだ。先生方はいいんですか? 生徒に学校の方針を決めさせて! 生徒の判断で退学者まで選定されて! 我々が先頭に立ってやるべきでしょう! 生徒の手など借りる必要なんてない!」

 新見先生らしい考え方や。
 でも……。

「……そう言ってますけど、どう思います? 校長先生」
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