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第9話 宿敵、再び!勇者パーティとの予期せぬ再会
しおりを挟むアストラル迷宮の最深部、第五層。「星のルーン」を巡って緊張が高まる中、黒装束の集団とレオンたち参加者の対峙は一触即発の状況だった。
「みんな、王女様を守って!」
ヴァレンの声が響き、青い炎をまとった剣が闇を切り裂いた。ガロンも巨大な斧を振りかざし、黒装束の男たちに立ち向かう。
「フィオナさん、私の後ろに!」
レオンは剣を構え、王女を守る体勢を取った。シルヴィアは素早く弓を引き、的確な矢で敵の動きを牽制していく。
黒装束のリーダーは、その混乱に乗じて水晶球の下の「星のルーン」に手を伸ばした。
「させるか!」
レオンは咄嗟に動き、リーダーの腕を弾き飛ばした。二人は一瞬睨み合い、剣と短剣がぶつかり合う。
「邪魔をするな、小僧! お前にこの『星のルーン』の価値がわかるまい」
「わからなくても、あなたたちの手に渡してはならないことはわかる!」
レオンの剣筋は正確だった。「神託解析」で相手の動きを先読みし、的確に攻撃と防御を繰り出す。しかし、黒装束のリーダーもただの暴漢ではなく、熟練の戦士のような動きを見せる。
部屋の各所で戦いが繰り広げられる中、突然、入り口の扉が大きな音を立てて開いた。
「勇者の名において、そこで動きを止めよ!」
聞き覚えのある声に、レオンの体が固まった。振り返ると、そこにはかつての仲間たち——勇者アレンのパーティの姿があった。
「アレン……」
レオンの声は震えていた。一か月前、彼を「役立たず」として追放した勇者パーティが、なぜここに?
アレンは相変わらず銀の鎧に身を包み、鳳凰の紋章が描かれた聖剣を構えていた。その後ろには魔法使いのセリア、槍使いのガルム、そして新たにパーティに加わった魔法剣士ノイルの姿があった。
「何が起きている? なぜ王女殿下がここに?」
アレンの目が部屋を素早く見回し、状況を把握しようとしている。
「勇者様!」
フィオナが声を上げた。「この黒装束の者たちが『星のルーン』を奪おうとしています! 彼らは『闇の水晶』を使って魔物を操っていた集団です!」
アレンの顔が引き締まった。「なるほど。我々もその『闇の水晶』の調査で王都に呼ばれたのだ」
「貴様ら!」
黒装束のリーダーがアレンたちを認めると、部下たちに指示を出した。「計画変更だ! 撤退する!」
「逃がすな!」
アレンが叫ぶが、黒装束の者たちは煙玉を投げ、部屋が白い煙に包まれた。視界が悪くなる中、混乱が生じる。
「くそっ、見えない!」
レオンは「神託解析」を使って煙の中の動きを追った。黒装束たちは隠し通路から逃げようとしている。しかし、その前に——
「星のルーン」がまだ水晶球の下に残されていた。リーダーは煙に紛れてそれを奪おうとしている。
「させない!」
レオンは咄嗟に跳び、リーダーの手が「星のルーン」に触れる直前に、自らがそれを掴んだ。青い光が部屋中を明るく照らし、煙が一瞬で晴れた。
「レオンが『星のルーン』を!」
シルヴィアの声が響く中、黒装束たちは隠し通路へと姿を消した。アレンが追おうとするが、通路は彼らの後ろで崩れ落ち、封鎖されてしまった。
「逃げられたか……」
部屋に静寂が戻る。レオンの手の中で、「星のルーン」が淡い青い光を放っている。彼は自分が勝者になったことを理解しつつも、目の前の状況に戸惑っていた。
特に、かつての仲間たちとの再会は、彼の心に複雑な感情を呼び起こす。
「レオン……」
ガルムが一歩前に出た。元親友の目には、驚きと罪悪感が浮かんでいた。「お前が……『一般職の賢者』だったのか」
レオンは黙って頷いた。
「見事だ」
アレンが冷静な声で言った。「『星のルーン』を手に入れたことで、次の段階に進む権利を得たな」
彼の表情は複雑だった。かつて「役立たず」と呼んだ相手が、今や王国の大試験で活躍しているという現実を受け入れられないようだ。
一方、セリアは明らかに不機嫌な様子で、腕を組んで遠くからレオンを睨みつけていた。そして、ノイル——レオンの後任として勇者パーティに加わった魔法剣士は、敵意むき出しの目で彼を見ていた。
「勇者様、なぜこんな者と話をしているのですか? 先ほどの黒装束を追うべきでは?」
ノイルの軽蔑に満ちた声に、レオンは眉をひそめた。
「黒装束たちの追跡は後回しだ。まずは王女殿下の安全を確保せねば」
アレンはフィオナに近づき、膝をついた。「殿下、ご無事で何よりです。王城からの連絡で、あなたの失踪が報告されていました」
「ありがとう、勇者アレン。私は無事よ」
フィオナはレオンの方を見た。「彼のおかげで命拾いしたわ」
アレンの目がレオンに向けられた。そこには複雑な感情が浮かんでいた。敬意と後悔、そして少しの嫉妬。
「ともあれ、試験は終了したようだな」
ヴァレンが全員の前に立った。「レオンが『星のルーン』を獲得した。彼が今回の勝者だ」
他の参加者たちも、状況を受け入れた様子で頷いた。
「では、上位五名が決まったということか」
アレンが言った。「レオン、ヴァレン、シルヴィア、ガロン、アッシュか」
「いや、まだだ」
ヘルマン運営責任者が階段を下りてきた。彼の後ろには複数の王国騎士団の兵士たちが続いている。
「黒装束たちの襲撃という予期せぬ事態が発生した。さらに王女殿下がここにいらっしゃったとは……」
ヘルマンは頭を下げた。「申し訳ありません、殿下。試験場の警備が不十分でした」
「気にしないで」
フィオナは毅然として答えた。「私が無断で来たのが原因よ。それより、この事態をどう処理するの?」
ヘルマンは深く頷いた。「まず、『星のルーン』を獲得したレオン・グレイ殿の勝利は確定です。残り四名の選出については……」
「我々勇者パーティも参加を希望する」
アレンが突然言い出した。「黒装束たちの正体を突き止めるため、我々も最終段階に参加させてほしい」
ヘルマンは困惑した様子で、フィオナを見た。王女は少し考え、頷いた。
「特例として認めましょう。勇者パーティは国家の守護者。彼らの参加は王国の安全にも繋がるわ」
「しかし殿下、それでは六名になってしまいます。最終段階のトーナメント表が……」
「では七名にしましょう」
フィオナは微笑んだ。「私も審判として参加します。父には後で説明するわ」
混乱の中、最終的な決定が下された。第三段階「一対一の決闘トーナメント」には、レオン、ヴァレン、シルヴィア、ガロン、アッシュ、そして特例としてアレンとノイルが参加することになった。
---
アストラル迷宮を出ると、すでに日は落ち、星空が広がっていた。観客たちは結果発表に大いに沸き、特に「一般職の賢者」が勝利したことに驚きの声が上がった。
レオンはどこか茫然としていた。「星のルーン」を手に入れ、次の段階に進む権利を得たものの、勇者パーティとの予期せぬ再会に心が揺れていた。
「よく頑張ったな」
振り返ると、ヴァレンが立っていた。
「あのカオスの中で冷静に行動し、『星のルーン』を確保するとは。さすがだ」
「ありがとうございます。あなたも素晴らしい戦いでした」
「明日は決勝トーナメントだ。お互い全力を尽くそう」
ヴァレンは軽く会釈して去っていった。彼の背中を見送りながら、レオンは明日の戦いに思いを馳せた。
「大丈夫?」
シルヴィアが心配そうに近づいてきた。「あなたの顔、暗いわよ」
「ああ、ちょっと考え事を……」
「あの勇者パーティ、あなたと何か関係があるの?」
鋭い洞察力だった。レオンは少し躊躇ったが、正直に答えることにした。
「以前、彼らのパーティにいたんです。でも、『一般職』という理由で追放されました」
「なるほど……」
シルヴィアは理解したように頷いた。「だから複雑な反応をしていたのね」
「正直、再会するとは思っていませんでした。特にこんな場所で」
彼女は優しく微笑んだ。「運命ってものね。でも、あなたは今、彼らとは違う道を歩んでいる。『一般職の賢者』として」
シルヴィアの言葉に、レオンは少し勇気づけられた。確かに、彼は今や自分の力で前に進んでいる。かつての仲間たちの承認を得る必要はない。
「ありがとう、シルヴィアさん」
会話を終え、レオンが宿に戻ろうとした時、一人の男が彼を呼び止めた。
「レオン……少し話せるか?」
振り返ると、そこにはガルムが立っていた。槍を携えた昔の友人は、複雑な表情でレオンを見つめていた。
「ガルム……」
「すまなかった。あの時、お前を守れなくて」
彼の声には後悔の色が濃かった。
「気にするな。それぞれの道があるさ」
「でも、お前を追い出した後、ずっと気になっていたんだ。無事かどうか、どこで何をしているのか……」
ガルムの言葉は真摯に聞こえた。かつての友情は完全に消えてはいなかったのかもしれない。
「見ての通り、元気にやっている」
レオンは少し笑みを浮かべた。「『一般職の賢者』なんて呼ばれるようになったよ」
「噂は聞いていた。まさかそれがお前だったとは……」
ガルムの表情が曇った。「アレンたちには言わないが、俺は……お前の味方だ」
その言葉に、レオンは少し驚いた。「ありがとう、ガルム」
「明日の試合、もし俺たちが対戦することになっても、全力でいくぞ。昔の情は抜きにしてな」
「ああ、もちろんだ」
二人は固い握手を交わし、別れた。レオンの心は複雑だったが、少し軽くなったようにも感じた。
---
宿に戻ったレオンは、部屋で一人考え込んでいた。明日の決闘トーナメント。そして黒装束たちの狙い。さらには勇者パーティとの再会。あまりにも多くの出来事が一日で起きすぎていた。
「神託解析」で「星のルーン」を見ると、それが確かに古代の力を秘めた遺物だということがわかる。しかし、その具体的な力は明確ではない。何らかの「儀式」に使うと黒装束のリーダーは言っていたが……
考えに耽っていると、窓をノックする音がした。
「誰だ?」
窓を開けると、そこには赤い髪の少女——フィオナ王女が変装して立っていた。
「フィオナさん!? どうしてここに?」
「しーっ、誰かに見られたら大変よ」
彼女は素早く部屋に滑り込んだ。普段の豪華な衣装ではなく、簡素な服装に身を包み、髪も帽子で隠している。
「城に戻るはずでは?」
「一度は戻ったわ。でも、重要な話があって」
フィオナは真剣な表情で、レオンの目をまっすぐ見た。
「今日の黒装束たち、彼らが狙っていた『星のルーン』の真の力を知っているの」
「真の力?」
「ええ。あれは単なる試験の道具じゃないわ。古代の遺物で、『大災厄』の時代に封印された『月の門』を開く鍵なの」
レオンは驚いた。「『月の門』?」
「城の古文書庫で調べたの。『月の門』は古代の神殿に存在した門で、神々の世界と繋がっていたとされているわ。『大災厄』の後、危険だとして封印されたの」
「そして黒装束たちは、その門を開こうとしている……」
「そう思うわ。だからこそ、明日の決闘トーナメントは重要なの。彼らはまだ諦めていないはず。再び『星のルーン』を奪おうとするでしょう」
レオンは深く考え込んだ。女神アステリアの言葉、教授の研究、そして今回の事件。全てが「大災厄」と神々に繋がっているようだ。
「明日、私は審判として参加するけど……」
フィオナはレオンの手を取った。「あなたを信じているわ、レオン。『一般職の賢者』として、あなたなら何かを変えられる」
彼女の緑の瞳には、確かな信頼の色が浮かんでいた。レオンは頷いた。
「わかりました。明日は全力を尽くします」
フィオナは微笑み、窓から出ようとした。
「気をつけて。それと……」
彼女は少し照れくさそうに言った。「明日、応援しているわ」
窓を閉め、フィオナの姿が夜の闇に消えると、レオンは再び考え込んだ。明日の決闘トーナメント。それは単なる試験ではなく、より大きな運命の一部なのかもしれない。
特に、もし勇者アレンと対戦することになれば……彼は過去と向き合わなければならない。「一般職」という理由で追放された屈辱。そして今、「神域の賢者」として成長した自分。
「明日、全てが決まる」
レオンは「智慧の輝き」の髪飾りに触れ、ベッドに横になった。明日への準備として、今は休息が必要だ。
しかし、彼の心の中では、様々な感情が渦巻いていた。勇者パーティとの再会。フィオナ王女からの信頼。黒装束たちの陰謀。そして何より——自分の本当の力と目的。
「女神アステリア……あなたは今、私を見ているのでしょうか」
窓から差し込む月明かりの中、レオンはそっと目を閉じた。明日への決意と、未知の運命への覚悟を胸に。
---
翌朝、王都全体が興奮に包まれていた。王国冒険者選抜試験の最終日、決闘トーナメントの開催日だ。王都競技場には早朝から多くの観客が詰めかけ、チケットは完売となっていた。
「本日の特別審判として、王女フィオナ・ラグナロク殿下をお迎えします!」
司会者の声に合わせ、観客席から大きな歓声が上がった。フィオナは正装で現れ、王族専用の観覧席に座った。彼女の隣には国王の補佐官と思われる年配の男性がいる。
参加者用の控室では、レオンが静かに準備をしていた。「智慧の輝き」を身につけ、剣の手入れを最後に確認する。
「緊張しているのか?」
シルヴィアが近づいてきた。彼女も弓を手入れしている。
「少しね。でも、これも修行のひとつだと思えば」
「そうね。特に勇者パーティと戦う可能性もあるんでしょう? 複雑な気持ちでしょうね」
レオンは頷いた。「でも、もう後悔はない。今の自分にできることをやるだけだ」
その時、係員が入ってきた。
「トーナメント表が決定しました。第一試合、レオン・グレイ対ノイル・グランツです」
レオンの体が固まった。最初の対戦相手が、自分の後任として勇者パーティに加わった魔法剣士ノイルだとは。
「勝負は五分だな」
ヴァレンが近づいてきて言った。「ノイルは若いが、魔法剣士としての才能は本物だ。だが、お前も並の冒険者ではない。良い試合になるだろう」
「ありがとうございます」
レオンは深呼吸した。勝つためには、「神託解析」で相手の弱点を見抜き、「全知識吸収」で得た戦闘技術を駆使する必要がある。
「さあ、参加者の皆さん、入場してください!」
係員の声に導かれ、七名の参加者が競技場へと歩み出た。万雷の拍手と歓声が彼らを迎える。
「まずは第一試合の選手、中央へ!」
レオンとノイルが指定の位置に立った。ノイルの目には明らかな敵意が浮かんでいる。
「レオン・グレイ、クラスは一般職、通称『一般職の賢者』! 対するはノイル・グランツ、クラスは魔法剣士、バルテウス伯爵家の御曹司!」
観客席からは様々な声が聞こえてくる。
「一般職と魔法剣士か。これは力の差がありすぎるな」
「いや、あの『賢者』は本物らしいぞ。噂では魔物の弱点を一目で見抜くとか」
フィオナが立ち上がり、声を上げた。
「両者、公明正大な戦いを」
レオンはノイルと向かい合い、一礼した。しかし、ノイルは冷たい目でレオンを見下すだけだった。
「始めっ!」
合図とともに、最終段階「一対一の決闘トーナメント」の火蓋が切って落とされた。
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