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第10話 因縁の対決!魔法剣士VS隠された賢者の力
しおりを挟む「始めっ!」
合図の声が響き渡ると同時に、ノイルの剣が青白い魔力を纏って輝いた。王都競技場のど真ん中、無数の観衆が見守る中、レオンとノイルの因縁の対決が始まった。
「『一般職』の分際で、この私と戦うとはな」
ノイルの声には傲慢さが滲んでいた。彼は優雅なステップで距離を詰めながら、剣を横に構えた。
「かつての勇者パーティから追い出された落ちこぼれが、なぜこんな場所にいる? 君の席はもっと下だ」
観客席からはざわめきが起こった。多くの人々はこの二人の因縁について知らなかったのだ。
レオンは静かに剣を構え、「神託解析」を発動させた。
【ノイル・グランツ】
【クラス:魔法剣士(Sランク)】
【特性:魔力と剣技の高い連携、風属性魔法に特化】
【弱点:近接戦での隙、魔力枯渇時の脆さ】
【戦術:距離を取りつつ魔法剣技による遠距離攻撃、相手を翻弄後の急接近】
情報を得た瞬間、ノイルの攻撃が来た。
「風牙剣!」
彼の剣から青緑色の風の刃が放たれ、空気を切り裂いてレオンに迫る。レオンは身をひねり、かろうじて回避した。だが、風の刃は曲線を描いて彼を追いかけてくる。
「どうした? 逃げるだけか?」
ノイルの挑発に応じず、レオンは冷静に状況を分析する。風の刃は彼の魔力で操られている。この攻撃を避け続けるだけでは勝機はない。
「はっ!」
レオンは大きく踏み込み、魔法の刃に向かって突進した。観客からは驚きの声が上がる。
「あの魔法に立ち向かうつもりか? 無謀だ!」
ノイルも驚いた表情を見せたが、すぐに余裕の笑みに戻った。
「自ら死に向かうとは愚かな……」
しかし、彼の言葉は途中で途切れた。レオンが風の刃に向かって突進するかに見えたが、直前で鮮やかに身をひねり、刃がかすめた瞬間に剣を振るった。魔法の刃に僅かに剣が触れた瞬間、それは粉々に砕け散った。
「な、なんだと!?」
ノイルの動揺した声が響く。彼の魔法を、レオンは完璧なタイミングで打ち消したのだ。
「『神託解析』で魔法の構造を見抜いた」
レオンは静かに言った。「あなたの魔法剣技は見事だが、魔力を固定する点が弱い」
観客席からはどよめきが起こった。一般職の冒険者が、Sランクの魔法剣士の技を見破ったのだ。
「よくも……! 風嵐連剣!」
ノイルの怒りに満ちた声とともに、複数の風の刃が放たれた。今度は一度に五本、しかも角度を変えながらレオンを取り囲む。
レオンは冷静に周囲を見回した。「全知識吸収」の力が働き、かつて目にした剣術の書から得た技が脳裏に浮かぶ。
「円月歩」
彼の動きが変わった。まるで円を描くように滑らかに動き、風の刃をかわしていく。そして一本一本、タイミングを合わせて剣で打ち消していった。
「あり得ない! あの動きは王国騎士団の秘伝剣技……素人が使えるはずがない!」
ノイルの混乱した叫びに、観客たちも驚きの声を上げた。確かにレオンの動きは、名のある剣術師でさえ習得に何年もかかる高度な技だった。
「私は書物から学んだ」
レオンの言葉に、ノイルはさらに表情を歪めた。
「嘘を言うな! そんな技、書物を読んだだけで身につくものではない!」
「だが、習得した」
レオンの声は静かだったが、確信に満ちていた。「全知識吸収」の力により、彼は書物の知識を実戦で使えるレベルまで理解していたのだ。
ノイルの顔が怒りで真っ赤になった。「言わせておけば……! 本気を見せてやる!」
彼は剣を頭上に掲げ、大きく魔力を纏わせ始めた。競技場の空気が震え、風が渦を巻き始める。
「風王剣・暴風圏!」
ノイルの剣から放たれた魔力が、競技場全体に風の壁を作り出した。渦巻く風の中、レオンは一瞬、視界が遮られた。
その隙を突いて、ノイルが猛スピードで接近する。
「隙あり!」
彼の剣がレオンの胸元を狙った。しかし——
「シッ!」
驚きの声が観客から漏れた。レオンは目を閉じたまま、ノイルの剣を正確に受け止めていたのだ。
「どうして……!? 目も見えていないのに!」
ノイルの困惑した声にレオンは静かに答えた。
「『神託解析』は目で見るだけのものではない。私は世界そのものの真実を感じている」
二人の剣がぶつかり合い、競技場に金属音が響き渡る。ノイルは圧倒的な魔力を剣に込め、レオンを押し返そうとする。しかし、一般職のはずのレオンの剣が、驚くほどの強さで耐えていた。
「なぜだ……! 一般職がこんな力を!」
ノイルの焦りの声が響く。
「私は『一般職』と表示されていても、その裏には『神域の賢者』という真のクラスがある」
レオンの言葉に、観客席から驚きの声があがった。特に控え席の勇者アレンとそのパーティメンバーたちは、言葉を失ったようにレオンを見つめている。
「『神域の賢者』? 聞いたことがない! 嘘をつくな!」
ノイルの剣に青白い魔力がさらに激しく纏わりついた。彼は全力で押し寄せる。
「これが私の全力だ! 受けてみろ!」
風と雷を帯びた剣がレオンに向かって振り下ろされる。その威力は競技場の地面さえ割るほどだ。しかし——
「はっ!」
レオンは一歩踏み込み、剣を振るった。彼の剣からは青い光が放たれ、ノイルの魔法剣と真正面からぶつかり合った。
「智慧の輝き」の髪飾りが明るく光り、レオンの「神託解析」の力が最大限に引き出される。彼はノイルの魔法の構造を完全に見抜き、その弱点——魔力の流れが最も細くなる瞬間を捉えた。
「そこだ!」
レオンの剣がノイルの魔法の核心を突き、青白い光が爆発的に広がった。観客たちは目を覆うほどの眩しさに顔を背ける。
光が収まると、競技場の中央には二人の姿があった。
ノイルは膝をつき、剣が砕け散っていた。一方、レオンは静かに立ち、剣を構えたままだった。
「勝負あり!」フィオナ王女の声が響き渡った。「勝者、レオン・グレイ!」
観客席から大きな歓声が湧き上がった。「一般職の賢者」が、Sランクの魔法剣士を打ち破ったのだ。まさに番狂わせ。
ノイルは呆然としていた。彼の自信と傲慢さは完全に打ち砕かれていた。
「なぜだ……私が……バルテウス家の誇りが……」
レオンは静かに剣を鞘に収め、ノイルに近づいた。
「あなたは強い。しかし、強さだけでは勝てない戦いもある」
彼は手を差し伸べた。「立ち上がれ。あなたはまだ成長できる」
ノイルはその手を見つめ、震える指で掴んだ。彼の目には、怒りと共に、わずかながら敬意の色も浮かんでいた。
「次は負けない……」
小さく呟く彼に、レオンは頷いた。
「楽しみにしている」
二人が競技場を後にする際、観客たちの歓声はさらに大きくなった。誰もが歴史的な戦いを目撃したことを理解していた。
---
控え室に戻ったレオンは、疲労感と共に達成感も感じていた。初めて公の場で、自分の真の力——「神域の賢者」としての力を示したのだ。
「見事だったわ!」
シルヴィアが駆け寄ってきた。「あの戦い方、本当に素晴らしかった!」
「ありがとう」
「しかし『神域の賢者』って何? 初めて聞いたわ」
レオンは少し躊躇ったが、もはや隠す必要はないと感じた。
「特殊なクラスだ。一般には表示されないんだ」
「そう……だからあなたが『一般職』でありながら、あれほどの力を持っているのね」
彼女は驚きと敬意の眼差しでレオンを見つめた。「ますます興味深い人ね」
その時、扉が開き、ヴァレンが入ってきた。
「これで私たちの対戦が確定したな、レオン」
トーナメント表によれば、レオンとヴァレンの試合は準決勝で行われることになっていた。
「楽しみにしています」
「私も同じだ。『一般職の賢者』……いや、『神域の賢者』の真の力を見せてほしい」
ヴァレンの目には敬意と闘志が宿っていた。しかし彼は言葉を続ける前に、別の足音が聞こえた。
「レオン・グレイ」
振り返ると、勇者アレンがそこに立っていた。彼の表情は硬く、読みにくい。
「話がある。付いてきてくれ」
レオンは一瞬躊躇ったが、頷いて従った。二人は人気のない廊下の隅に移動した。
「『神域の賢者』……その力が本物だということは今の試合で証明された」
アレンの声は低く、重々しかった。
「なぜそれを隠していた? パーティにいた時から、その力を持っていたのか?」
レオンは首を振った。「いいえ。あなたたちに追放された後、女神アステリアと出会い、この力に目覚めたんです」
「女神?」
アレンの表情が変わった。「そんな……本当に神の啓示を受けたというのか」
「信じるか信じないかはあなた次第です」
アレンは複雑な表情でレオンを見つめた。彼の目には、かつての仲間を見下していた傲慢さはもうなかった。代わりに、混乱と、わずかながらの後悔の色が見える。
「私は……間違っていたのかもしれない」
その言葉にレオンは驚いた。勇者アレンが自分の判断の誤りを認めるとは。
「君を追放したこと……それは性急だった。クラスだけで人を判断するべきではなかった」
「アレン……」
「だが、過去は変えられない。今、私たちはそれぞれの道を歩んでいる」
アレンは真剣な眼差しでレオンを見た。「もし、決勝戦で対戦することになれば、全力で挑む。情は抜きにしてな」
「もちろんです。私も全力を尽くします」
二人は固い握手を交わした。かつての溝は完全には埋まらないかもしれないが、少なくとも互いを一人の冒険者として認め合うことはできた。
アレンが去った後、もう一人の人物が近づいてきた。
「王女様!」
フィオナが微笑みながらレオンの方へ歩いてきた。周囲には護衛がいるが、彼女は彼らに少し距離を取るよう指示した。
「素晴らしい戦いだったわ、レオン」
「ありがとうございます」
「『神域の賢者』……その力は確かに特別ね」
フィオナの目は好奇心と敬意で輝いていた。
「でも、それだけじゃない。あなたの心の強さ、思いやり、そして正義感。それらがあなたを真の英雄にしているのよ」
彼女の言葉にレオンは心を打たれた。
「フィオナさん……」
「私、決めたわ」
彼女は真剣な表情になった。「あなたが優勝したら、特別な地位を授けるつもりよ。『王家の守護者』として」
「え?」
「冗談じゃないわ。あなたのような力と心を持つ人物は、王国にとって貴重な存在。黒装束の脅威も含め、これからも危険は続くでしょう。私たちには、あなたのような人が必要なの」
レオンは言葉を失った。勇者パーティから追放された「一般職」の冒険者が、今や王家の守護者候補になるとは。
「考えておきます」
フィオナは微笑んだ。「急がないで。まずはトーナメントに集中して」
彼女は軽く会釈して去っていった。レオンはしばらくその場に立ち尽くした。この一か月で、彼の人生はどれほど変わったのだろう。
---
トーナメントは熱気に包まれながら進行していった。午後の部では、アレンがアッシュに、ヴァレンがガロンに勝利した。シルヴィアは惜しくもノイルの代わりに出場したセリアに敗れた。
夕方の準決勝、レオンとヴァレンの試合は多くの観客の期待を集めていた。
「『蒼炎の剣士』対『神域の賢者』、どちらが勝つのだろう?」
「両者とも圧倒的な実力の持ち主だ。まさに伝説の対決になるな」
控え室でレオンは最後の準備をしていた。「神託解析」と「智慧の輝き」の力を最大限に引き出せるよう、集中している。
「準備はいいか、レオン」
シルヴィアが近づいてきた。彼女は試合には敗れたが、応援に残っていた。
「ヴァレンは強いわ。でも、あなたなら勝てる」
「ありがとう、シルヴィア」
「それに……」
彼女は少し声を潜めた。「勝ち進めば、決勝でアレンと戦うことになるわね。過去の清算ができる」
レオンは頷いた。確かに、勇者アレンとの決闘は運命的なものに思える。しかし、まずはヴァレンとの戦いに集中しなければならない。
「準決勝、レオン・グレイ対ヴァレン・ブルーフレイム、入場してください!」
係員の声に導かれ、レオンは競技場へと歩み出た。もう一方からは、青い炎の剣を携えたヴァレンが現れる。
観客席からは歓声が上がり、フィオナ王女も前のめりになって見守っていた。
「レオン・グレイ、『神域の賢者』」
ヴァレンが微笑みながら言った。「君との対決を心から楽しみにしていた」
「私もです、ヴァレン。あなたとの戦いは名誉です」
二人は剣を交差させ、互いに敬意を示した。
「準決勝、始め!」
審判の声が響き渡る中、二人の剣士が一歩前に踏み出した。レオンの「神託解析」とヴァレンの「蒼炎」。二つの特殊な力が、今、ぶつかり合おうとしていた。
王国冒険者選抜試験の最大の山場——レオンの真の力が試される瞬間が訪れた。
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