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第13話『王家の守護者、初仕事!『月の門』の封印を探れ』
しおりを挟む王都ソレイユの朝は、いつもより賑やかだった。
先日の冒険者選抜試験と「闇の眷属」の襲撃から数日が経ち、街は徐々に平穏を取り戻しつつあった。しかし、英雄として名を馳せた「神域の賢者」レオン・グレイの噂は、衰えるどころか日に日に大きくなっていた。
「あれが噂の賢者様だ!」
「王家の守護者になったんだってな」
「聞いたか?あの黒装束の連中を一人でやっつけたらしいぞ」
レオンは、そんな市民の視線を背に受けながら、王宮へと足を運んでいた。昨晩、王宮から使者が訪れ、「明朝、国王陛下が謁見される」との伝言を受けたのだ。
「なんだか落ち着かないな…」
レオンはその言葉を小さく呟きながら、「智慧の輝き」に触れた。女神アステリアから授かったこの髪飾りは、彼の心を落ち着かせる不思議な力を持っていた。
王宮の門をくぐるとすぐに、近衛騎士団の隊長を務めるカイル・ウォレンが彼を出迎えた。
「レオン殿、お待ちしておりました。陛下は謁見の間でご準備されています」
レオンは軽く頷き、カイルの案内に従った。王宮内部の豪華な装飾や芸術品を見るのは二度目だったが、それでもその壮麗さに圧倒される。
謁見の間に到着すると、すでに国王バイロンとフィオナ王女が待っていた。レオンは礼儀正しく片膝をつき、頭を下げる。
「レオン・グレイ、王家の守護者として参りました」
「うむ、よく来た」国王の声は威厳に満ちていた。「早速だが、汝に重要な任務を与えたい」
レオンは黙って頷き、国王の言葉を待った。
「『月の門』の調査だ」
その言葉に、レオンの脈が速くなった。あの黒装束たちが狙っていた「月の門」。「星のルーン」と何らかの関係があるという、古代の遺跡。
「『月の門』に関する情報は限られている。しかし、この王国に古くから伝わる伝説によれば、それは古代の神々と人間を繋ぐ門であり、『大災厄』の際に封印されたものだという」
フィオナ王女が一歩前に進み、言葉を継いだ。
「レオン、あなたには王立図書館の禁書庫へ行ってもらいます。そこにある古文書から、『月の門』についての手がかりを探し出してください」
「禁書庫ですか?」
「そう。通常は王族と一部の学者にしか開放されていないけれど、あなたは『王家の守護者』。立ち入りを許可します」
フィオナの口調は公的なものだったが、その瞳には少し前とは違う、何か特別な感情が浮かんでいるように見えた。
「ルートヴィヒ教授があなたを案内します。彼は古代魔法学の権威で、『月の門』についても研究を続けてきました」
謁見の間の扉が開き、白髪と長いひげを持つ老学者が入ってきた。レオンはその姿に見覚えがあった。王国冒険者選抜試験の開始前に、古代魔法について講義をしていた人物だ。
「レオン・グレイどの、お会いできて光栄です」ルートヴィヒ教授は目を細めて微笑んだ。「あなたの活躍は聞いております。『神域の賢者』として、我々の研究にも新たな光を当ててくれるでしょう」
レオンは軽く会釈をし、教授に敬意を示した。
「では、さっそく王立図書館へ向かおう」
教授の案内で王宮を出たレオンは、歩きながら質問を投げかけた。
「教授、『月の門』について何かご存知ですか?」
「わずかな伝説と断片的な記録だけだ。それは『大災厄』の時代、つまり2000年以上前に封印されたとされる。『星のルーン』が鍵の一部だということもわかっている。しかし、その場所や開く方法、そもそもなぜ封印されたのかは謎のままだ」
二人は王立図書館の壮大な建物に到着した。入り口の大きな扉を通り、ルートヴィヒ教授は図書館の奥へとレオンを導いた。通常の書架が並ぶエリアを過ぎ、特別な鍵で開く扉の先には、より古く貴重な書物が保管されているエリアがあった。
さらに進むと、大きな魔法の封印が施された扉があった。
「ここが禁書庫だ」
教授は特別な魔法の紋章を扉にかざした。紋章が青く輝き、扉の封印が解けていく。
「通常、ここに入れるのは特別な許可を得た者だけだ。王家の血筋か、図書館に仕える者のみ」
扉が開き、中に入ると、レオンの目が見開いた。壁一面に並ぶ古い書物の数々。天井まで届く高い書架と、空中に浮かぶ魔法の灯り。そして中央には、大きな石のテーブルがあり、その上に古い羊皮紙や巻物が広げられていた。
「これが我々の研究資料だ。『月の門』についての手がかりを探してきたが、多くは古代語で書かれており解読が難しい」
レオンはテーブルに歩み寄り、手を伸ばそうとした時——
「レオン」
振り返ると、フィオナ王女が静かに禁書庫に入ってきていた。
「私も手伝わせて」
「王女殿下、お手伝いいただけるとは」ルートヴィヒ教授は驚いた様子で頭を下げた。
「ええ。私も『月の門』には興味があるの。それに…」彼女はレオンの方を見て、少し言葉を選ぶように間を置いた。「あなたにお話ししたいことがあるわ」
三人は石のテーブルを囲み、古文書の調査を始めた。ルートヴィヒ教授は、すでに部分的に解読された内容を説明した。
「『月の門』は『星のルーン』だけでは開かないようだ。複数の鍵が必要で、それらは世界の各地に隠されている」
レオンは古文書に目を凝らした。見慣れない文字が並んでいるが、不思議と意味が理解できる。これは「全知識吸収」の効果だろうか。彼は首にかけた「星のルーン」に触れながら、古文書を一枚一枚調べ始めた。
時が経つにつれ、レオンの「全知識吸収」スキルが活性化していくのを感じた。最初は断片的だった理解が、徐々に鮮明になっていく。古代語の文字が、彼の頭の中で現代語に翻訳されていくような感覚。
「この文書には、『月の門』の鍵が七つあると書かれています」レオンが突然口を開いた。「『星のルーン』はその一つで、他にも『月の欠片』『太陽の印章』『風の笛』『炎の宝玉』『水の鏡』『土の鍵』があるようです」
ルートヴィヒ教授は驚愕の表情を浮かべた。
「な、なんと!それは我々が何年もかけても解読できなかった部分だ!どうしてわかるんだ?」
レオンは少し躊躇した後、正直に答えた。
「私には『全知識吸収』というスキルがあります。触れたものの知識を自分のものにできるんです」
「なんということだ…」教授の声は震えていた。「それは『神域の賢者』の伝説的な能力!古い記録にはあったが、実際に目の当たりにするとは…」
フィオナは静かにレオンの袖を引いた。
「他に何かわかる?」
レオンは再び古文書に集中した。「智慧の輝き」が青く光り、彼の「全知識吸収」を強化しているようだった。
「『月の門』は『大災厄』の際、古代神の力を封じるために造られたもの。しかし、同時に古代神と通じる道でもある。七つの鍵が揃うと門は開き、古き神々の力が解放される…」
彼は額に手を当てた。大量の情報が一度に流れ込んできて、頭が痛くなる。
「レオン!」フィオナが心配そうに彼の肩に手を置いた。
「大丈夫です。少し…情報が多すぎて」
ルートヴィヒ教授は興奮した様子で、急いでメモを取り始めた。
「これは大発見だ!『月の門』の真の目的が明らかになるかもしれない!」
数時間の調査の後、レオンはさらに多くの情報を解読することができた。「闇の眷属」は古代神の残存勢力であり、「月の門」を開いて古代神を復活させようとしていること。「大災厄」は神々の戦争の結果であり、その後の世界の再構築によって多くの真実が失われたこと。
調査が一段落したところで、ルートヴィヒ教授は別の古文書を探すために書架の奥へ向かった。レオンとフィオナは二人きりになった。
「レオン」フィオナは声を低くして言った。「あなたに話さなければならないことがあるの」
「何でしょうか?」
「王家の秘密よ」彼女は周囲を見回してから続けた。「私たちの血には、女神の力が流れているの」
レオンは驚いて目を見開いた。
「女神の…力?」
「ええ。2000年前、『大災厄』の後、世界を再構築するために女神が選んだ人間の血筋があったわ。それが王家の始まり。だから私たちは『月の門』を守る責任があるの」
フィオナは自分の手のひらを見せた。そこには小さな星型の印が浮かび上がっていた。
「この印は女神の恩恵の証。でも、その力は徐々に薄れてきている。古代の力が再び目覚めつつあるの」
レオンは自分の「智慧の輝き」に触れた。それとフィオナの印が反応し、二つの光が共鳴するように輝いた。
「アステリア様の力だ…」レオンは小さく呟いた。
「アステリア?」フィオナは驚いた様子で尋ねた。「あなた、女神の名を知っているの?」
「ええ、彼女が私に『神域の賢者』の力を与えてくれました」
二人の視線が交わった瞬間、なにか特別な絆を感じた。女神アステリアとの繋がりを共有する二人。
その時、ルートヴィヒ教授が興奮した様子で戻ってきた。
「見つけたぞ!古代の地図だ!」
教授が広げた羊皮紙には、複雑な線で描かれた地図が広がっていた。現代の地図とは微妙に異なるが、主要な山脈や川の位置から、この王国周辺の地図であることがわかる。
「これは『月の門』と関連する聖地を示しているはずだ」
レオンが地図に触れると、「智慧の輝き」が強く反応し、地図上の一点が青く光り始めた。
「この場所…」
フィオナが地図を覗き込んだ。「北部の古代遺跡!王国の記録では『星降りの神殿』と呼ばれる場所ね」
「『星降りの神殿』…」レオンは呟いた。「『星のルーン』と関係があるのでしょうか」
「間違いないわ」フィオナは確信に満ちた声で言った。「そこに行く必要があるわ」
ルートヴィヒ教授は興奮を抑えきれない様子だった。「この発見は学術的に非常に重要だ!『月の門』の謎に一歩近づいた!」
レオンは古代の地図を見つめながら、次の行動を決意した。「星降りの神殿」に行き、「月の門」の謎をさらに解き明かさなければならない。そして「闇の眷属」の計画を阻止するために。
「明日にでも出発しましょう」レオンは提案した。
フィオナは頷き、「私も同行するわ」と言い切った。
「しかし、王女様が危険な—」
「私は単なる王女ではなく、『月の門』の守護者でもあるの」彼女は毅然とした態度で言った。「それに、この印の力を使えば、何か助けになるかもしれない」
三人は翌日の出発の準備を整えることにした。これが「王家の守護者」としてのレオンの初仕事となる。「月の門」の封印を探り、その真実を明らかにする旅の始まりだ。
禁書庫を出る時、レオンはふと空に目をやった。青い空の向こうに、女神アステリアが見守っているような気がした。彼女は何を知っているのだろうか。そして、なぜ彼を選んだのか。
「明日からが本番だな」
レオンは「智慧の輝き」と「星のルーン」に触れながら、そう呟いた。これから始まる冒険の先に、彼を待つ運命に思いを馳せて。
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