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第17話『勇者パーティ、再び王都へ!因縁の決着』
しおりを挟む「天の裁定」を手に入れ、レオンとシルヴィアが王都に戻ったのは、予定より一日早いことだった。フィオナたちの「星降りの神殿」への出発は明日に迫っており、彼らはぎりぎりのタイミングで合流できる見込みだった。
二人が王都の門に到着すると、いつもとは異なる緊張感が漂っていることに気づいた。城壁には通常より多くの兵士が配置され、警戒を強めているようだった。
「何かあったのでしょうか」レオンが門番に声をかけた。
「ああ、レオン殿」門番は彼を認めると、敬意を込めて頭を下げた。「昨日、北方の境界線で魔王軍が大規模な動きを見せたという報告が入りました。王宮は非常態勢に入っています」
「魔王軍?」レオンは眉をひそめた。「詳しいことは?」
「詳細は存じませんが、陛下が緊急会議を開いておられます。レオン殿も早急に王宮へ向かうようにとの伝言がありました」
レオンとシルヴィアは視線を交わし、すぐに王宮へと向かった。城内では騎士たちが忙しく行き来し、ただならぬ雰囲気が漂っていた。
大広間に案内されると、そこには国王バイロン、フィオナ王女、そしてルートヴィヒ教授の姿があった。だが、レオンの目を引いたのは、彼らの隣に立つ四人の姿だった。
勇者アレン。
魔法使いセリア。
槍使いガルム。
魔法剣士ノイル・グランツ。
かつてレオンが所属していた勇者パーティのメンバーたちだ。
「レオン!」フィオナが彼の姿を見つけると、すぐに駆け寄ってきた。「無事だったのね。『天の裁定』は?」
彼は腰に下げた青く輝く剣を示した。「手に入れました」
フィオナの表情が明るくなったが、勇者パーティの方からは緊張した空気が流れてきた。特にノイルの敵意のこもった視線がレオンに向けられていた。
「レオン・グレイ殿」国王バイロンが厳かな声で言った。「汝の無事な帰還を喜ぶ。そして、『天の裁定』の入手も成し遂げたようだな」
「はい、陛下」レオンは敬意を示して膝をついた。「ですが、魔王軍の動きについて伺いました。何が起きているのでしょう?」
国王は顔を曇らせた。「北方の『闇の森』周辺で、魔王軍の大規模な集結が確認された。その目的はまだ不明だが、『月の門』に関係していると思われる」
ルートヴィヒ教授が一歩前に出た。「『星降りの神殿』と『闇の森』は近い。魔王軍が『星のルーン』と『月の欠片』を狙っている可能性が高い」
レオンは状況を整理した。魔王軍の動き、「月の門」、そして勇者パーティの存在。全てが繋がっているようで、まだ見えない部分がある。
「そこで」国王が続けた。「勇者アレンたちを召喚した。魔王軍への対抗策として、彼らの力も必要だろう」
アレンが一歩前に出た。彼は以前と変わらず堂々とした姿勢で、聖剣を腰に下げていた。しかし、その表情には何か複雑なものが浮かんでいた。
「レオン」彼は静かに呼びかけた。「お前の力、王国のために貸してくれないか?」
部屋に緊張が走る。かつてレオンを「役立たず」と呼び、パーティから追放した勇者が今、彼の力を求めている。
レオンは冷静に答えた。「私は『王家の守護者』です。王国を守るのは当然の務めです」
アレンは微かに安堵の表情を見せた。「そうか…ありがとう」
しかし、ノイルが不満そうに一歩前に出た。「待ってくれ、アレン。この一般職風情と共に戦うつもりか?」
「ノイル!」ガルムが制止しようとしたが、ノイルは聞く耳を持たなかった。
「忘れたのか?彼は無能だからこそ、我々のパーティから追放されたのだ。今さら彼の力など」
レオンは冷ややかな視線をノイルに向けた。「君はまだ理解していないようだね」
「何を?」
「私がどれほど変わったかを」
レオンはゆっくりと「天の裁定」を引き抜いた。剣が鞘から抜かれる音が部屋に響き、同時に青白い光が広間を照らした。「智慧の輝き」も共鳴し、レオンの周りにオーラが形成される。
「これが『神域の賢者』の力だ」
彼は剣を軽く振るっただけだった。しかし、その一振りから放たれた風圧が広間を駆け抜け、ノイルの背後の壁に小さな穴を開けた。
「な…」ノイルは驚愕の表情で壁を見つめ、次にレオンを見た。「こんな力、どこで…」
「ノイル、下がれ」アレンが静かに命じた。「レオンの力は本物だ。それに…」
彼は深い後悔の色を浮かべながら続けた。「私たちは彼に謝るべきだ」
その言葉に広間が静まり返った。勇者が公の場で非を認めるなど、前代未聞のことだった。
「アレン…」セリアが驚いた様子で彼を見つめた。
しかし、アレンは毅然として言った。「レオン、あの時のことを謝る。お前の真の力を見抜けなかった私たちの過ちだった」
レオンはそこまで直接的な謝罪を予想していなかった。少し戸惑いながらも、彼は冷静さを保った。
「過ぎたことです。今は王国の危機に対処することが先決でしょう」
国王バイロンが満足げに頷いた。「よく言った、レオン殿。では、作戦会議を始めよう」
大きな円卓が用意され、全員がその周りに集まった。地図が広げられ、魔王軍の動きと「星降りの神殿」の位置が示された。
「我々の計画は、レオン殿とフィオナ王女が『星降りの神殿』で『月の門』に関する情報を集めることだった」ルートヴィヒ教授が説明した。「しかし、魔王軍の存在を考えると危険度が増す」
「そこで提案がある」国王が言った。「レオン殿、フィオナ王女、そして勇者パーティの一部で『星降りの神殿』へ向かい、残りの勇者パーティは魔王軍の動きを牽制する」
「賛成です」フィオナが頷いた。「でも、誰が『星降りの神殿』へ?」
短い議論の末、レオン、フィオナ、アレン、ガルムが「星降りの神殿」へ向かい、セリアとノイルが騎士団と共に魔王軍の監視を担当することになった。
会議が終わり、それぞれが準備に向かう中、ガルムがレオンに近づいてきた。
「少し話せるか、レオン」
二人は王宮の庭園に出た。夕暮れの光が静かな空間を照らしていた。
「久しぶりだな、ガルム」レオンは穏やかに言った。彼はガルムに対して敵意を抱いていなかった。追放の際も、ガルムだけは反対していたことを覚えていた。
「ああ」ガルムは少し申し訳なさそうに微笑んだ。「お前の活躍は聞いていた。『神域の賢者』か…驚いたよ」
「君は変わっていないな」
「お前こそ、見違えるほど変わった」ガルムは真剣な表情になった。「実はな、アレンもお前を追放したことを後悔しているんだ」
「後悔?」レオンは少し驚いた。
「ああ。お前が去った後、彼は何度も『あの判断は早すぎたかもしれない』と言っていた。特に最近、魔物の強さが増してきて、お前の分析能力が恋しくなったらしい」
レオンは沈黙した。かつて自分を追放した勇者が後悔していたとは。
「それだけじゃない」ガルムは声を落として続けた。「最近、アレンの様子がおかしいんだ」
「どういうことだ?」
「時々、彼の目が…違う色に変わるんだ。そして記憶の欠落があるような発言をすることがある」
レオンは眉をひそめた。「記憶の欠落?」
「ああ。まるで誰かに操られているかのようなんだ」
その言葉に、レオンの脳裏に「闇の眷属」の存在が浮かんだ。彼は「神託解析」を使い、ガルムの言葉の真偽を探った。
【ガルム】
【状態:正常、嘘なし】
【懸念:アレンの状態について真剣に心配している】
【警告:勇者パーティの中に異常あり】
「わかった」レオンは頷いた。「アレンの様子を注意して観察しよう」
「頼む。それと…」ガルムは躊躇った後、続けた。「お前を失ったことは、パーティにとって大きな損失だった。皆、表には出さないが、心のどこかではそう思っている」
「セリアとノイルも?」レオンは皮肉気に尋ねた。
ガルムは苦笑した。「セリアは…まあ、プライドが高いからな。ノイルは元々お前の代わりに入ったから、複雑なんだろう」
二人は静かに笑い合った。かつての仲間との再会は、思ったほど苦いものではなかった。
「明日の出発に備えよう」レオンは提案した。「長い旅になりそうだ」
ガルムが去った後、レオンは庭園に一人残った。「天の裁定」を見つめながら、彼は思考を巡らせた。勇者パーティとの再会、魔王軍の動き、そして「星降りの神殿」の謎。全てが複雑に絡み合っている。
「レオン」
振り返ると、フィオナが立っていた。彼女は懸念の表情を浮かべていた。
「フィオナ、どうしました?」
「勇者パーティのことよ」彼女は慎重に言葉を選んだ。「本当に彼らを信頼していいの?」
レオンは「神託解析」の結果を思い出した。「ガルムは信頼できる。アレンは…様子を見る必要がある」
「そう」フィオナは満足げに頷いた。「私も同じように感じていたわ。それと、もう一つ」
彼女は周囲を確認してから、声を落として言った。「父上が密かに調査を命じたところ、今回の魔王軍の動きについての情報は、バルテウス伯爵家からもたらされたものだったの」
「バルテウス伯爵?」レオンは即座に反応した。「ノイル・グランツの父親か」
「そう。ノイルはあなたに敵意を抱いている。そして彼の父親から得た情報で、あなたと勇者パーティが同じ任務に就くことになった」
レオンは状況を整理した。これは単なる偶然ではなさそうだ。
「罠の可能性もありますね」
「その通り。だから、明日からの旅では特に警戒して」
レオンは「天の裁定」の柄に手を置いた。「ありがとう、フィオナ。気をつけます」
彼らが話している間、王宮の別の場所では、ノイルが父親のバルテウス伯爵と密かに会話していた。
「全て計画通りに進んでいる」伯爵は満足げに言った。「『星降りの神殿』で、あの小僧の力を試せ」
「はい、父上」ノイルは冷たく微笑んだ。「彼の『神域の賢者』の力が本物なら、それを『闇の眷属』様に捧げる準備も整っています」
「よし。だが、慎重にな。あの小僧は以前とは違う。特に『天の裁定』を手に入れた今は」
「心配には及びません」ノイルは自信満々に言った。「私たちには、勇者という切り札がありますから」
伯爵は不気味な笑みを浮かべ、息子の肩を叩いた。「では頼んだぞ。『月の門』の開放のために」
***
翌朝、レオンは早くに目を覚ました。今日から始まる「星降りの神殿」への旅が、簡単なものにならないことは予想できた。勇者パーティとの再会、そして隠された罠の可能性。
彼は「天の裁定」と「智慧の輝き」に触れ、「星のルーン」と「月の欠片」を確認した。これらの力が、来るべき試練に役立つはずだ。
「見守っていますよ、アステリア様」
彼は小さく呟いた。女神からの返答はなかったが、「智慧の輝き」が微かに脈動し、彼女の存在を感じさせた。
出発の時刻が近づくにつれ、王宮の前庭は騎士たちや荷物を積んだ馬車で賑わっていた。フィオナ王女は実用的な旅装に身を包み、短剣を腰に下げていた。アレンは勇者の証である聖剣を背負い、ガルムはいつもの槍を持っていた。
レオンが近づくと、アレンが彼に向き直った。
「準備はいいか、レオン」
「ええ」レオンは簡潔に答えた。
「お前の新しい剣、本物の力を持っているな」アレンは「天の裁定」を見て言った。
「ああ。『蒼月の神殿』で手に入れた。『神域の賢者』のための武器だ」
アレンの表情に一瞬、何かが浮かんだ。嫉妬?それとも別の感情?
「私の聖剣も強いが、それほどの光は放たない」彼は少し皮肉を込めて言った。
レオンは警戒しながらも、平静を装った。「それぞれに合った武器があるだけだ」
この時、突然ノイルが二人の間に割り込んできた。彼の目には明らかな敵意が浮かんでいた。
「一般職風情が…」彼は低い声で言った。「あんな派手な剣を振り回して、何様のつもりだ?」
レオンは冷静に対応した。「『神域の賢者』だ。そしてこれは『天の裁定』。女神アステリアから与えられた力だ」
「女神だと?笑わせるな」ノイルは嘲笑した。「そんな作り話、誰が信じる?」
「ノイル」アレンが厳しい声で言った。「任務中は個人的な感情は抑えろ」
「わかっている」ノイルは不満そうに言ったが、一歩下がった。しかし、去り際にレオンに向かって小声で言った。「『星降りの神殿』でお前の正体を暴いてやる」
レオンは黙って彼を見送った。「神託解析」を使えば、ノイルの敵意の背後に何かあることは明らかだった。しかし、今はそれを追及する時ではない。
フィオナが近づいてきた。「全て準備が整ったわ。出発できる?」
「ええ」レオンは頷いた。「行きましょう。『星降りの神殿』へ」
四人は馬に跨り、王宮の門を出た。王都の市民たちが道の両側に集まり、彼らを見送っている。特にレオンに向けられる視線には、尊敬と期待が込められていた。
「王国の英雄、頑張れ!」
「神域の賢者様、無事に帰ってきてください!」
「勇者と賢者が共に戦うなら、絶対に勝てる!」
市民たちの声援を背に、一行は北へと進んだ。「星降りの神殿」への道のりは長く、そして危険に満ちていた。
レオンは馬上から振り返り、王都を見下ろした。その先には、まだ見ぬ試練と真実が待っている。そして彼は、それに立ち向かう準備ができていた。
「因縁の決着をつける時が来たな」彼は静かに呟いた。「勇者パーティとの、そして私自身の過去との」
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