「結婚しよう」

まひる

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第九章

≪Ⅷ≫こんな物……【1】

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「ん~……」

 唸る私でした。
 非常に苦しいです──何がおきているかといえば、船酔いなのです。
 私は今、大型客船の中にいました。勿論ヴォルもベンダーツさんも一緒です。
 結界を張ってくれる筈では?──とか、何それ美味しいのレベルでした。
 そうなのです、結界がないのです。私の真正面に立ち塞がる船酔いという壁が、登る事は勿論、避けて通る事も出来ませんでした。
 現状ではヴォルに頼む事も出来ません。──何故ならば。

「……悪……い…………、メル……」

 かすれたヴォルの声が聞こえました。
 彼もとても苦しそうです。

「いえ……、大丈夫……です」

 隣のベッドに横たわっているヴォルに、私も同じように身体を横たえたまま答えました。
 実際には全然全くこれっぽっちも大丈夫ではありません。でも仕方ないではないのでした。
 そう、仕方がないのですよ。

「全く、お二方は繊細でいらっしゃいますね」

 冷たく言い放つのは、他でもないベンダーツさんでした。
 いつものようにピシッとした服装で、執事のようにそばに立っています。揺れる船内でも何のそので、彼に弱点はないのかと思ってしまいました。

「……うるさ……い……」

「あぁ、それくらいの元気はまだ残っていましたか。ですが私も、まさか床が魔封石で出来ているとは思いもよらなかったですよ」

 切れ切れに言い返したヴォルでしたが、ベンダーツさんは全く意に介していないようです。意気揚々と遠回しの嫌味で応酬していました。
 ちなみに魔封石と言うのは、魔力を封じてしまう石なのだそうです。

「こんな物……」

「あぁ、また無理に魔力を高めないで下さいよ。ヴォルティ様にとって『魔封石』は封じる物ではなく、吸収体なのですから」

「……っく……」

 抵抗するように半身起き上がろうとしていましたが、すぐにガクッと力なくベッドに伏せるヴォルでした。
 今の状況を説明します。
 私達は船の中です、先程も言いました。そして私は単なる船酔いです。医師の診断を受けてはいませんけれど、一度経験済みなので嫌でも分かりました。
 そしてヴォルは、『魔封石』とやらに魔力を吸いとられているようなのです。常に体力を奪われているかのごとく、酷い倦怠感にさいなまされるとの事でした。
 あ、勿論ベンダーツさんは全く痛手を受けていません。一人だけ物凄く元気です。

「魔力を高めず、ご自身の内側で循環させて肉体を回復させるようにしてください。外に魔力を出さなければ、恐らく魔封石は反応しないでしょうから。で、メルシャ様。貴女はとりあえず我慢してください」

 二人して横たわる部屋の中、ベンダーツさんは細々と身の回りの世話をしてくれていました。
 ですが、優しい言葉が返ってくる訳でもないところが彼なのです。そうなりますよね──分かっていましたけど。
 つまりはこういう事でした。
 この大型客船は防犯上の都合により、魔封石で床板を作るなんて事をしてくれています。そして魔封石は魔力を感じると、自動的にそれらを排除しようとするようでした。
 理由としては魔力所持者に対する警戒と、魔物への威圧なのだそうです。──理解は出来ますけど、納得出来る訳がないのでした。
 大目に見て、私の船酔いは良しとします。全然良くはないですけど、前回もありましたから覚悟もしてました。でも、魔封石って何ですかと声をだいにして問いたいです。
 物凄くヴォルが苦しそうなので、すぐにでもやめてほしいのでした。

「……メル……っ」

 苦しそうにこちらに手を伸ばすヴォルを見て、何故だかとても身体が熱くなります。
 こう言う時にドキドキしている場合ではないのですが──私、おかしいのですかね。とにかく、色っぽすぎでした。
 勿論ヴォルの顔色は悪いのですけど、何やら情欲的な成分がムンムンしています。
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