1,559 / 1,560
1558 動き出した男
しおりを挟む
「な!?う、腕がぁぁぁッ!」
帝国兵の顔が驚きと恐怖で歪んだ。白い刃で斬られた右腕が、パキパキと音を立てながら氷で固められていくからだ。
そして次の瞬間には、己の首がへし折れる音が脳に響き、自分が何をされたのか分からないまま砂の上に崩れ落ちた。
「フン」
ラクエル・エンリケスは左脚を蹴り抜くと、つま先を地面に刺すようにして、ザックザックと鳴らした。
前線に追いついてから、圧倒的なスピードで帝国軍をかく乱し、卓越したナイフ術と鋭い技で帝国兵を沈めていった彼女は、仲間であるクインズベリー兵と治安部隊ですら息を飲むほどだった。
「・・・レイチェル並とは聞いていたが、なるほど、確かに」
治安部隊隊長補佐のモルグ・フェンテスは、感嘆の声を漏らした。
たった一蹴りで帝国兵の首をへし折った、鋭く重い蹴りにも目を奪われるが、身のこなしにナイフ捌きもずば抜けていた。
「俺も負けていられないな」
ラクエルの動きに感心はしたが、フェンテスはすぐに切り替えて正面に向き直った。
正面から剣を掲げて向かって来る帝国兵に対して、フェンテスはぐっと姿勢を低くして入り込んだ。
それは対峙する敵が、一瞬フェンテスを見失う程の低さだった。膝よりも低い位置に頭を置き、両手を砂の上に着くと独楽のように体を回した。
「なッ!?」
遠心力を乗せた両足が、帝国兵の足を刈り取るように払い飛ばす!
「ハァッ!」
地面に倒れた帝国兵の背中に、深くナイフを突き立てる!
流れるような動きで一人仕留めると、フェンテスはそのまま二人目、三人目と、帝国兵達を斬り捨てて行った。
「へっ、フェンテスのヤツ、気合い入ってんじゃねぇか!」
治安部隊隊長ヴァン・エストラーダも、フェンテスの戦いぶりを見て闘争心に火が付いた。
「死ねぇぇぇーーーッ!」
ヴァンの背後から帝国兵が、振り被った剣をその頭目掛けて振り下ろす!
「へっ!あまいな!」
振り向く事もなく身を捻ると、ヴァンは背後からの剣を紙一重で躱した。まるで背中に目が付いているかのように、剣の軌道を完全に見切っていた。
「なにっ!?」
「足音に鎧のスレる音、殺気もだだ漏れだ、お前全然ダメだな」
帝国兵の剣が地面に刺さると同時に、ヴァンは帝国兵の首を斬り裂いていた。
「が、ゴフッ・・・」
血を吐き出して倒れる帝国兵を一瞥すると、ヴァンは右手に持ったナイフをクルリと回し、刃に付いた血を地面に向けて払った。
「さてと、帝国兵どもにクインズベリーの強さを見せてやるか?なぁ、エルウィン」
ヴァンが顔を向けた先には、治安部隊隊員エルウィン・レブロンの姿があった。
「はい!ヴァン隊長!」
声を大にして返事をすると、エルウィンは腰には差していた大振りのナイフを取り出した。
少し短めの無造作にフワっとした金色の髪、まだあどけなさの残る顔は優し気で、戦いとは無縁にすら感じられる。だがその目には戦場に立つ覚悟を固めた者だけが持つ、断固たる強さがあった。
いい返事だ。
ヴァンはエルウィンの成長に頼もしさを感じていた。
自分が治安部隊隊長に就任してから二年余り、できる限りの事は教えて来たつもりだ。
そしてエルウィンは乾いた砂が水を吸収するように、知識も技もみるみる飲み込んで自分のものとしていった。
二年前は150cm足らずだった身長も10cm以上伸び、逞しさを感じるくらいに筋肉も付いた。
こいつは将来の隊長の座を狙える器だ。そしてこの戦いで更なる成長を遂げるだろう。
そう強く思えるくらい、ヴァンはエルウィンに可能性を感じていた。
だからこそ数多い治安部隊隊員の中から、エルウィンを隣に置いたのだ。
「よし」
エルウィン、俺について来れるか見てやる。
ヴァンはナイフを掲げると、帝国軍に向かって突き付けた。
「治安部隊!突撃だーーーーーッツ!」
ヴァンの号令で、治安部隊全隊員が走り出した!
ここまではクインズベリー軍が優勢に戦いを進めていた。
クインズベリー軍と帝国兵軍の戦力は互角だったが、大陸一の軍事国家であるブロートン帝国の兵士を相手に、クインズベリー軍の兵士も騎士団も治安部隊も、一歩も引かず勇敢に戦っていた。
では、互角であるならばどこで天秤が傾いたのか?それは主力の差だった。
ゴールド騎士のフェリックス・ダラキアン。魔導剣士ラクエル・エンリケス。治安部隊隊長のヴァン・エストラーダ。隊長補佐のモルグ・フェンテス。彼らは帝国軍第七師団の部隊長クラスをも、苦とせずに倒してのけた。このまま一気にいけると思えるくらい、クインズベリー軍には勢いがあった。
だが一人の男によって、戦況はあっという間にひっくり返される事になる。
「へぇ、思ったよりやるじゃないか。けどさ、あんま調子に乗るなよ?」
第七師団副団長であるアンジェロ・アンドゥハスが、深紅のマントをはためかせながら前に出た。
「ア、アンジェロ副団長?出られるのですか?」
「情けないなぁ、たかがクインズベリー相手にここまでやられちゃって。帝国の名折れだよ。お前達は邪魔だから下がってろよ」
突然前に現れたアンジェロに気が付き、兵達にざわめが起こる。だがアンジェロは彼らの反応など気にも留めず、面倒そうに眉を寄せ、追い払うように手を振った。
「まったく、凡人共は地面に這いつくばっていればいいのにな」
吐き捨てるように言い放つと、アンジェロは前方で戦っているクインズベリー軍に目を向けた。
「しかたねぇから、ちょっと遊んでやるか」
歪んだ笑みを浮かべ、アンジェロ・アンドゥハスが動きだした。
帝国兵の顔が驚きと恐怖で歪んだ。白い刃で斬られた右腕が、パキパキと音を立てながら氷で固められていくからだ。
そして次の瞬間には、己の首がへし折れる音が脳に響き、自分が何をされたのか分からないまま砂の上に崩れ落ちた。
「フン」
ラクエル・エンリケスは左脚を蹴り抜くと、つま先を地面に刺すようにして、ザックザックと鳴らした。
前線に追いついてから、圧倒的なスピードで帝国軍をかく乱し、卓越したナイフ術と鋭い技で帝国兵を沈めていった彼女は、仲間であるクインズベリー兵と治安部隊ですら息を飲むほどだった。
「・・・レイチェル並とは聞いていたが、なるほど、確かに」
治安部隊隊長補佐のモルグ・フェンテスは、感嘆の声を漏らした。
たった一蹴りで帝国兵の首をへし折った、鋭く重い蹴りにも目を奪われるが、身のこなしにナイフ捌きもずば抜けていた。
「俺も負けていられないな」
ラクエルの動きに感心はしたが、フェンテスはすぐに切り替えて正面に向き直った。
正面から剣を掲げて向かって来る帝国兵に対して、フェンテスはぐっと姿勢を低くして入り込んだ。
それは対峙する敵が、一瞬フェンテスを見失う程の低さだった。膝よりも低い位置に頭を置き、両手を砂の上に着くと独楽のように体を回した。
「なッ!?」
遠心力を乗せた両足が、帝国兵の足を刈り取るように払い飛ばす!
「ハァッ!」
地面に倒れた帝国兵の背中に、深くナイフを突き立てる!
流れるような動きで一人仕留めると、フェンテスはそのまま二人目、三人目と、帝国兵達を斬り捨てて行った。
「へっ、フェンテスのヤツ、気合い入ってんじゃねぇか!」
治安部隊隊長ヴァン・エストラーダも、フェンテスの戦いぶりを見て闘争心に火が付いた。
「死ねぇぇぇーーーッ!」
ヴァンの背後から帝国兵が、振り被った剣をその頭目掛けて振り下ろす!
「へっ!あまいな!」
振り向く事もなく身を捻ると、ヴァンは背後からの剣を紙一重で躱した。まるで背中に目が付いているかのように、剣の軌道を完全に見切っていた。
「なにっ!?」
「足音に鎧のスレる音、殺気もだだ漏れだ、お前全然ダメだな」
帝国兵の剣が地面に刺さると同時に、ヴァンは帝国兵の首を斬り裂いていた。
「が、ゴフッ・・・」
血を吐き出して倒れる帝国兵を一瞥すると、ヴァンは右手に持ったナイフをクルリと回し、刃に付いた血を地面に向けて払った。
「さてと、帝国兵どもにクインズベリーの強さを見せてやるか?なぁ、エルウィン」
ヴァンが顔を向けた先には、治安部隊隊員エルウィン・レブロンの姿があった。
「はい!ヴァン隊長!」
声を大にして返事をすると、エルウィンは腰には差していた大振りのナイフを取り出した。
少し短めの無造作にフワっとした金色の髪、まだあどけなさの残る顔は優し気で、戦いとは無縁にすら感じられる。だがその目には戦場に立つ覚悟を固めた者だけが持つ、断固たる強さがあった。
いい返事だ。
ヴァンはエルウィンの成長に頼もしさを感じていた。
自分が治安部隊隊長に就任してから二年余り、できる限りの事は教えて来たつもりだ。
そしてエルウィンは乾いた砂が水を吸収するように、知識も技もみるみる飲み込んで自分のものとしていった。
二年前は150cm足らずだった身長も10cm以上伸び、逞しさを感じるくらいに筋肉も付いた。
こいつは将来の隊長の座を狙える器だ。そしてこの戦いで更なる成長を遂げるだろう。
そう強く思えるくらい、ヴァンはエルウィンに可能性を感じていた。
だからこそ数多い治安部隊隊員の中から、エルウィンを隣に置いたのだ。
「よし」
エルウィン、俺について来れるか見てやる。
ヴァンはナイフを掲げると、帝国軍に向かって突き付けた。
「治安部隊!突撃だーーーーーッツ!」
ヴァンの号令で、治安部隊全隊員が走り出した!
ここまではクインズベリー軍が優勢に戦いを進めていた。
クインズベリー軍と帝国兵軍の戦力は互角だったが、大陸一の軍事国家であるブロートン帝国の兵士を相手に、クインズベリー軍の兵士も騎士団も治安部隊も、一歩も引かず勇敢に戦っていた。
では、互角であるならばどこで天秤が傾いたのか?それは主力の差だった。
ゴールド騎士のフェリックス・ダラキアン。魔導剣士ラクエル・エンリケス。治安部隊隊長のヴァン・エストラーダ。隊長補佐のモルグ・フェンテス。彼らは帝国軍第七師団の部隊長クラスをも、苦とせずに倒してのけた。このまま一気にいけると思えるくらい、クインズベリー軍には勢いがあった。
だが一人の男によって、戦況はあっという間にひっくり返される事になる。
「へぇ、思ったよりやるじゃないか。けどさ、あんま調子に乗るなよ?」
第七師団副団長であるアンジェロ・アンドゥハスが、深紅のマントをはためかせながら前に出た。
「ア、アンジェロ副団長?出られるのですか?」
「情けないなぁ、たかがクインズベリー相手にここまでやられちゃって。帝国の名折れだよ。お前達は邪魔だから下がってろよ」
突然前に現れたアンジェロに気が付き、兵達にざわめが起こる。だがアンジェロは彼らの反応など気にも留めず、面倒そうに眉を寄せ、追い払うように手を振った。
「まったく、凡人共は地面に這いつくばっていればいいのにな」
吐き捨てるように言い放つと、アンジェロは前方で戦っているクインズベリー軍に目を向けた。
「しかたねぇから、ちょっと遊んでやるか」
歪んだ笑みを浮かべ、アンジェロ・アンドゥハスが動きだした。
0
あなたにおすすめの小説
俺! 神獣達のママ(♂)なんです!
青山喜太
ファンタジー
時は、勇者歴2102年。
世界を巻き込む世界大戦から生き延びた、国々の一つアトランタでとある事件が起きた。
王都アトスがたったの一夜、いや正確に言えば10分で崩壊したのである。
その犯人は5体の神獣。
そして破壊の限りを尽くした神獣達はついにはアトス屈指の魔法使いレメンスラーの転移魔法によって散り散りに飛ばされたのである。
一件落着かと思えたこの事件。
だが、そんな中、叫ぶ男が1人。
「ふざけんなぁぁぁあ!!」
王都を見渡せる丘の上でそう叫んでいた彼は、そう何を隠そう──。
神獣達のママ(男)であった……。
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
正しい聖女さまのつくりかた
みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。
同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。
一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」
そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた!
果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。
聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!
Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。
裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、
剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。
与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。
兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。
「ならば、この世界そのものを買い叩く」
漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。
冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力――
すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。
弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。
交渉は戦争、戦争は経営。
数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。
やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、
世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。
これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。
奪うのではない。支配するのでもない。
価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける――
救済か、支配か。正義か、合理か。
その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。
異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。
「この世界には、村があり、町があり、国家がある。
――全部まとめて、俺が買い叩く」
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【完結】奪われたものを取り戻せ!〜転生王子の奪還〜
伽羅
ファンタジー
事故で死んだはずの僕は、気がついたら異世界に転生していた。
しかも王子だって!?
けれど5歳になる頃、宰相の謀反にあい、両親は殺され、僕自身も傷を負い、命からがら逃げ出した。
助けてくれた騎士団長達と共に生き延びて奪還の機会をうかがうが…。
以前、投稿していた作品を加筆修正しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる