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【400 出立】
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夜が明けて、帝国へ進軍する運命の朝が来た。
12月初旬、今年は雪が少なくほとんど積もっていない。この日も僅かに粉雪が舞う程度だ。
孤児院の玄関前で、俺と師匠はみんなに見送りの言葉を受けていた。
「ウィッカー、無理しちゃだめだよ。あんたには奥さんと子供がいるんだからね」
リン姉が俺の肩に手を置き、真剣な眼差しを向けてくる。
「はい、絶対に帰ってきますよ」
俺の言葉にリン姉は満足そうにうなずいた。
リン姉は妊娠している。ドミニクさんの忘れ形見だ。
まだお腹が目立つ程ではないが、王位継承の儀の後で妊娠が分かり、それ以降はこの戦争から身を引いている。
今日は白いセーターの上に、体を冷やさないように厚地のケープを肩に掛けている。
ベリーショートだった銀色の髪も少し伸びて、今は耳が隠れるくらいになった。
どことなく雰囲気が柔らかくなったのは、母親になったという事だろうか。
「ウィッカー・・・ヤヨイさんやロビンさん、みんなの事は私も胸が痛い。でもね、あんたは自分を大事にするんだよ。復讐とか・・・そういう感情に流されて、大切なものを忘れちゃダメだからね」
ニコ姉も俺に言葉をかけてくれた。
ニコ姉は戦争でレイジェスを休業してからは、孤児院の手伝いに来てくれている。
俺や師匠、ヤヨイさんが戦場に出て、孤児院に大人が少なくなってしまったので、ニコ姉が毎日通いで来てくれたのは本当に助かった。
今、ニコ姉はリン姉と一緒に住んでいる。
ドミニクさんが亡くなって、不安定になっていたリン姉を一人にしておけないと言って、孤児院での仕事をしながらリン姉を支えている。
ニコ姉は一見気弱に見えるけど、本当は強くて頼りになる。
「うん・・・ニコ姉、ありがとう」
「ちょっと、今真顔でそんな事言われたら・・・なんだかお別れみたいじゃない?帰ってきたら、みんなで美味しいもの食べようね」
「うん、ありがとう。楽しみにしてるよ」
メアリーとニコ姉がいれば孤児院も安心だ。
トロワとキャロルも頼りになるし、スージーとチコリもちょっと手を焼かされる事はあるけど、お手伝いは進んでやってくれる。
「ウィッカー兄ちゃん、孤児院は俺らに任せとけ。大丈夫、しっかり護ってみせるからよ」
トロワが俺の胸を軽く叩く。いつの間にか頼もしくなった。
「ウィッカー兄さん、体に気を付けてね。バカトロワは私がフォローするから安心して」
その隣に立つキャロルは、トロワを指差してからかうように笑っている。
キャロルは色々あったけれど、今はとても自然体に見える。
バカトロワと言われた事にトロワが抗議するが、キャロルはほとんど無視して軽くあしらっている。
今から尻に敷かれているのかと、少し笑えて来た。
「・・・ウィッカー君、色々お世話になったねぇ~・・・アタシ、カエストゥスが大好きだよ」
「レオネラさん・・・俺の方こそ、レオネラさんには本当にお世話になりました。今日すぐに発つんですか?」
「・・・うん、やっぱりねぇ~、アラルコン商会の跡取りだからさ、戦争してる国にいつまでも置いておけないってさ。この前父親の秘書が来て、キツく言われたよ。まぁ、しかたないかなぁ~、アタシも商会の娘だし立場を考えたらさ、親の言う事は筋が通ってるし・・・・・」
レオネラさんは寂しそうに目を流す。
リサイクルショップ・レイジェスの開店準備の時に知り合って、それからはよく遊びに来てくれるようになった。
ヤヨイさんとジャニスとは特に仲が良くて、今回のヤヨイさんの死はレオネラさんにとってとても大きなショックだった。
「・・・・・でもね。戦争が終わったらまた来るよ。だってここにはヤヨイちゃん・・・アタシの親友のヤヨイちゃんがいるんだから・・・ウィッカー君、キミも立場があるんだろうけど、家族を一番に考えるんだよ?逃げてもいいんだからね?」
レオネラさんは俺の目を真っ直ぐに見る。
そしてメアリーとティナに顔を向けると、ウィッカー君が一番護らなきゃならないのは家族だよ。
そう優しく言葉にしてくれた。
「レオネラさん・・・・・はい。ありがとうございます。また、会いましょう」
「うん、また会おうねぇ~」
明るい口調だったけど、レオネラさんの目には涙が浮かんでいた。
きっとこの街での、孤児院での思い出が溢れているんだと思う。
「ウィッカー様・・・私はここでお帰りをお待ちしています」
メアリーは笑顔だった。
でも俺には分かる。メアリーは俺が心配しないように、自分の不安を隠しているのだろう。
「メアリー」
俺は最愛の妻を、メアリーを抱きしめた。
「ウィッカー様・・・」
腕の中のメアリーは、やっぱり少し体に力が入っている。気を張っているのだろう。
「メアリー、愛している・・・俺は絶対に帰って来るから」
「嬉しいです。私も愛してます」
そう言葉を返してくれるメアリーは、俺の背中に両手を回し優しく抱きしめてくれた。
・・・・・ウィッカー様、忘れないでください。メアリーはいつもウィッカー様のお傍にいます
いつだってメアリーは俺の傍にいてくれた。
楽しい時だけじゃない。辛い時も苦しい時も、俺の隣にはいつもメアリーがいてくれた。
そしてこれからも・・・・・
「パパ!ティナも一緒だよ!ティナもずっと一緒なんだよ!」
ティナが俺の腰にしがみ付いて来た。
そのまま両脇に手を入れて、最愛の娘ティナを抱き上げる。
「もちろんだよティナ。パパとママとティナはずっと一緒だよ」
「うふふ、ティナは甘えん坊ね」
「えへへ、ティナはみんな大好き!」
ティナが笑うとみんな笑顔になって、束の間戦争を忘れられた。
「スージー、チコリ、ティナの事よろしくな」
ティナを下ろし、後ろにいる二人に声をかけた。
いつもは元気の良い二人だけど、今日はなんだか表情が暗い。
「・・・ウィッカー兄ちゃん、帝国なんてサッサとやっつけて早く帰って来てね」
スージーが俺を睨むように見てくる。
「ティナちゃんは私とスージーの妹だから安心して。でも、ウィッカー兄ちゃんも早く帰って来る事!」
チコリは俺を指差して言葉強めに発した。
・・・そっか、この二人いつも俺をからかってくるけど、心配してくれてるんだ。
早く帰って来いと言われる事はとても嬉しかった。
俺はスージーとチコリの頭を撫で、ありがとう。と言葉をかける。
子ども扱いしないでよ。と、二人とも少し頬を膨らませる。本当にあっという間に大きくなったものだ。
「・・・ウィッカーさん」
最後にクラレッサが声をかけてきた。
この数日で、俺はクラレッサに対する印象がガラっと変わった。
王位継承儀ではあれほどのプレッシャーをかけてきて、俺を殺しかねない程の力を見せたのに、今はどこにでもいる普通の女の子という感じだ。
少し人見知りでスージーやチコリにもいじられていたりするし、本当にあの時のクラレッサと同じ人物なのかと疑ってしまうくらいだ。
「クラレッサ、キミの白魔法は素晴らしいよ。街の人もとても感謝していた。孤児院を頼むよ」
そう言葉をかけると、クラレッサは少し言葉に詰まったように一瞬息を飲んだ。
少し目元が潤んでいる。自分が頼りにされる事が嬉しかったのかもしれない。
「・・・皇帝の魔力は、黒魔法兵団団長だった兄よりもはるかに大きいです。どうかお気を付けて。ご武運をお祈りしております」
そう言ってクラレッサは頭を下げた。
クラレッサと皇帝の関係は師匠から聞いている。
そのクラレッサが皇帝ではなく俺の身を案じた事に驚いた。
これはクラレッサのけじめなのだろう。
帝国とたもとを分け、カエストゥスで生きていくという覚悟だ。
「あぁ、ありがとう」
俺はクラレッサに笑顔を返した。
彼女ももう家族だ。
そして俺と師匠は孤児院を出て、待たせてあった馬車に乗り込んだ。
最後に一度だけ振り返ると、みんな俺と師匠の名前を呼びながら、孤児院の外に出て手を振ってくれていた。
俺も、行ってくる!と声を上げて手を振った。
この光景は今も目に焼き付いている。
12月初旬、今年は雪が少なくほとんど積もっていない。この日も僅かに粉雪が舞う程度だ。
孤児院の玄関前で、俺と師匠はみんなに見送りの言葉を受けていた。
「ウィッカー、無理しちゃだめだよ。あんたには奥さんと子供がいるんだからね」
リン姉が俺の肩に手を置き、真剣な眼差しを向けてくる。
「はい、絶対に帰ってきますよ」
俺の言葉にリン姉は満足そうにうなずいた。
リン姉は妊娠している。ドミニクさんの忘れ形見だ。
まだお腹が目立つ程ではないが、王位継承の儀の後で妊娠が分かり、それ以降はこの戦争から身を引いている。
今日は白いセーターの上に、体を冷やさないように厚地のケープを肩に掛けている。
ベリーショートだった銀色の髪も少し伸びて、今は耳が隠れるくらいになった。
どことなく雰囲気が柔らかくなったのは、母親になったという事だろうか。
「ウィッカー・・・ヤヨイさんやロビンさん、みんなの事は私も胸が痛い。でもね、あんたは自分を大事にするんだよ。復讐とか・・・そういう感情に流されて、大切なものを忘れちゃダメだからね」
ニコ姉も俺に言葉をかけてくれた。
ニコ姉は戦争でレイジェスを休業してからは、孤児院の手伝いに来てくれている。
俺や師匠、ヤヨイさんが戦場に出て、孤児院に大人が少なくなってしまったので、ニコ姉が毎日通いで来てくれたのは本当に助かった。
今、ニコ姉はリン姉と一緒に住んでいる。
ドミニクさんが亡くなって、不安定になっていたリン姉を一人にしておけないと言って、孤児院での仕事をしながらリン姉を支えている。
ニコ姉は一見気弱に見えるけど、本当は強くて頼りになる。
「うん・・・ニコ姉、ありがとう」
「ちょっと、今真顔でそんな事言われたら・・・なんだかお別れみたいじゃない?帰ってきたら、みんなで美味しいもの食べようね」
「うん、ありがとう。楽しみにしてるよ」
メアリーとニコ姉がいれば孤児院も安心だ。
トロワとキャロルも頼りになるし、スージーとチコリもちょっと手を焼かされる事はあるけど、お手伝いは進んでやってくれる。
「ウィッカー兄ちゃん、孤児院は俺らに任せとけ。大丈夫、しっかり護ってみせるからよ」
トロワが俺の胸を軽く叩く。いつの間にか頼もしくなった。
「ウィッカー兄さん、体に気を付けてね。バカトロワは私がフォローするから安心して」
その隣に立つキャロルは、トロワを指差してからかうように笑っている。
キャロルは色々あったけれど、今はとても自然体に見える。
バカトロワと言われた事にトロワが抗議するが、キャロルはほとんど無視して軽くあしらっている。
今から尻に敷かれているのかと、少し笑えて来た。
「・・・ウィッカー君、色々お世話になったねぇ~・・・アタシ、カエストゥスが大好きだよ」
「レオネラさん・・・俺の方こそ、レオネラさんには本当にお世話になりました。今日すぐに発つんですか?」
「・・・うん、やっぱりねぇ~、アラルコン商会の跡取りだからさ、戦争してる国にいつまでも置いておけないってさ。この前父親の秘書が来て、キツく言われたよ。まぁ、しかたないかなぁ~、アタシも商会の娘だし立場を考えたらさ、親の言う事は筋が通ってるし・・・・・」
レオネラさんは寂しそうに目を流す。
リサイクルショップ・レイジェスの開店準備の時に知り合って、それからはよく遊びに来てくれるようになった。
ヤヨイさんとジャニスとは特に仲が良くて、今回のヤヨイさんの死はレオネラさんにとってとても大きなショックだった。
「・・・・・でもね。戦争が終わったらまた来るよ。だってここにはヤヨイちゃん・・・アタシの親友のヤヨイちゃんがいるんだから・・・ウィッカー君、キミも立場があるんだろうけど、家族を一番に考えるんだよ?逃げてもいいんだからね?」
レオネラさんは俺の目を真っ直ぐに見る。
そしてメアリーとティナに顔を向けると、ウィッカー君が一番護らなきゃならないのは家族だよ。
そう優しく言葉にしてくれた。
「レオネラさん・・・・・はい。ありがとうございます。また、会いましょう」
「うん、また会おうねぇ~」
明るい口調だったけど、レオネラさんの目には涙が浮かんでいた。
きっとこの街での、孤児院での思い出が溢れているんだと思う。
「ウィッカー様・・・私はここでお帰りをお待ちしています」
メアリーは笑顔だった。
でも俺には分かる。メアリーは俺が心配しないように、自分の不安を隠しているのだろう。
「メアリー」
俺は最愛の妻を、メアリーを抱きしめた。
「ウィッカー様・・・」
腕の中のメアリーは、やっぱり少し体に力が入っている。気を張っているのだろう。
「メアリー、愛している・・・俺は絶対に帰って来るから」
「嬉しいです。私も愛してます」
そう言葉を返してくれるメアリーは、俺の背中に両手を回し優しく抱きしめてくれた。
・・・・・ウィッカー様、忘れないでください。メアリーはいつもウィッカー様のお傍にいます
いつだってメアリーは俺の傍にいてくれた。
楽しい時だけじゃない。辛い時も苦しい時も、俺の隣にはいつもメアリーがいてくれた。
そしてこれからも・・・・・
「パパ!ティナも一緒だよ!ティナもずっと一緒なんだよ!」
ティナが俺の腰にしがみ付いて来た。
そのまま両脇に手を入れて、最愛の娘ティナを抱き上げる。
「もちろんだよティナ。パパとママとティナはずっと一緒だよ」
「うふふ、ティナは甘えん坊ね」
「えへへ、ティナはみんな大好き!」
ティナが笑うとみんな笑顔になって、束の間戦争を忘れられた。
「スージー、チコリ、ティナの事よろしくな」
ティナを下ろし、後ろにいる二人に声をかけた。
いつもは元気の良い二人だけど、今日はなんだか表情が暗い。
「・・・ウィッカー兄ちゃん、帝国なんてサッサとやっつけて早く帰って来てね」
スージーが俺を睨むように見てくる。
「ティナちゃんは私とスージーの妹だから安心して。でも、ウィッカー兄ちゃんも早く帰って来る事!」
チコリは俺を指差して言葉強めに発した。
・・・そっか、この二人いつも俺をからかってくるけど、心配してくれてるんだ。
早く帰って来いと言われる事はとても嬉しかった。
俺はスージーとチコリの頭を撫で、ありがとう。と言葉をかける。
子ども扱いしないでよ。と、二人とも少し頬を膨らませる。本当にあっという間に大きくなったものだ。
「・・・ウィッカーさん」
最後にクラレッサが声をかけてきた。
この数日で、俺はクラレッサに対する印象がガラっと変わった。
王位継承儀ではあれほどのプレッシャーをかけてきて、俺を殺しかねない程の力を見せたのに、今はどこにでもいる普通の女の子という感じだ。
少し人見知りでスージーやチコリにもいじられていたりするし、本当にあの時のクラレッサと同じ人物なのかと疑ってしまうくらいだ。
「クラレッサ、キミの白魔法は素晴らしいよ。街の人もとても感謝していた。孤児院を頼むよ」
そう言葉をかけると、クラレッサは少し言葉に詰まったように一瞬息を飲んだ。
少し目元が潤んでいる。自分が頼りにされる事が嬉しかったのかもしれない。
「・・・皇帝の魔力は、黒魔法兵団団長だった兄よりもはるかに大きいです。どうかお気を付けて。ご武運をお祈りしております」
そう言ってクラレッサは頭を下げた。
クラレッサと皇帝の関係は師匠から聞いている。
そのクラレッサが皇帝ではなく俺の身を案じた事に驚いた。
これはクラレッサのけじめなのだろう。
帝国とたもとを分け、カエストゥスで生きていくという覚悟だ。
「あぁ、ありがとう」
俺はクラレッサに笑顔を返した。
彼女ももう家族だ。
そして俺と師匠は孤児院を出て、待たせてあった馬車に乗り込んだ。
最後に一度だけ振り返ると、みんな俺と師匠の名前を呼びながら、孤児院の外に出て手を振ってくれていた。
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