異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

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【728 あなたの心を ①】

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月がよく見える静かで美しい夜だった。
バリオスは一人、レイジェスの外の樹に背を預けて、夜空を眺めていた。

夜、外に出る事は自殺行為である。
闇の主であるトバリに食われるからであるが、バリオスだけは例外だった。

闇に対抗する力、光魔法を持つバリオスだけは・・・・・


アラタとカチュアの結婚式は無事に終わった。
予定としては城に戻らなければならないのだが、バリオスはアンリエールに話して、朝まで時間をもらい店に残った。


「・・・200年か」

誰もいない闇に向かって呟いた。

夜風がバリオスの金色の髪をなびかせる。
カチュアのウエディング姿を見て、考えないようにしていた記憶が呼び起こされた。






時の流れが感じられなくなって200年。


あの日・・・帝国との戦争に敗れ、無様に生き残った俺は大陸中を彷徨い歩いた。

何度死にたいと思ったか分からない。
妻も子も、多くの仲間も亡くし、故郷さえ失った俺には生に対する執着は無かった。

けれど、どうしても死ねなかった。

闇に囚われた王子の魂を開放する。

そのためには、師匠とジャニスと俺の三人で研究を重ねた、光魔法を完成させる事。
闇・・・黒渦を消すにはそれしか手段は無い。これは俺にしかできない事だからだ。

どんなに辛くても、みんなの想いに報いるためには、歯を食いしばって生きるしかなかった。




敗戦から一年、俺はクインズベリー領内の小さな村に身を寄せていた。
薄汚れた格好で行き倒れ同然だった俺を、この村の人間が介抱してくれたのだ。


・・・こんなご時世です。あなたの傷が癒えるまで居てくれていいんですよ


そう言って、俺に寝屋を世話してくれた村娘は今も覚えている。

レイラという長い栗色の髪をした、儚げでいつも寂しそうに笑う女性だった。

村の人間の俺に対する反応は、賛成と反対が丁度半々というところだった。

帝国のカエストゥスの戦争は、言うまでもなく大陸中に知れ渡っていた。
俺の身なりや風貌から、敗戦した国の人間だと察していたのかもしれない。
なんせ、擦り切れてボロボロのローブに、肌も髪も汚れにまみれているのだ。
おかしいと思わないはずがない。

面倒に巻き込まれたらという警戒があるのだろう。
だが、レイラが自宅で世話をして、村の人間に迷惑をかけないとハッキリ口にしているため、反対派も強引に俺を追い出す事はできないようだった。


レイラの家は木造で部屋は二つしかなかった。
人の面倒を見るどころか、むしろ自分の生活だけで精一杯なのではないかと思えた。

・・・狭いところですが

黒い瞳を伏せて、申し訳なさそうに口にするが、屋根の下で寝れるのならば、俺にはそれだけで十分だった。

俺の残りの人生は光魔法を完成させて黒渦を消し、王子の魂を救う。

ただそれだけだ。

それ以外はどうでもいい




村に住むようになって三ケ月が経った

俺は必要がなければ家にこもり、魔法の研究に明け暮れていた。
光魔法は9割型完成している。あと一歩で完成なのだが、そのあと一歩が遠い。

師匠、ジャニス・・・三人で知恵を出し合って研究していた時は良かった。
きっと三人揃っていれば、とっくに完成していたはずだ。

けれどもう俺しかいない。
頼れる仲間はもういない。

だから一人でやるしかない。命を懸けて完成させなくてはならない。




「バリオスさんは毎日ずっと魔法の研究をされてますね。どのような研究か、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

ある日の夜。
いつものようにレイラと共に食事をしていると、向かいに座るレイラが、僅かに視線を下げながら静かに口を開いた。


「・・・光魔法だ。俺は・・・新たな属性の魔法を作るために研究している」

隠す事ではない。だが、あまり話して回る事でもない。
俺がレイラに光魔法の研究を話した事は、嘘はつきたくなかった事と、レイラという女性は人から聞いた話を、軽々しく吹聴して回る人間ではないと判断したためだ。


「・・・きっとそれは、何をしてでも成さねばならない事なのでしょう。でも、お体は一つです。あまり無理はなさらないでくださいね」

「・・・ああ、そうしよう」

「・・・それでは、私は後かたずけをして、休ませていただきます」

レイラは食が細かった。
俺の半分程の量しか口にせず、食器をまとめると音も立てずにキッチンへと歩いて行く。
そして洗い物が済むと隣の部屋で休むというのが、一日の流れだった。

言うまでもないが、男の俺は同じ部屋で休むわけにはいかないため、食事をするこの部屋で寝起きをしている。

レイラは俺の寝床を用意してから、部屋に戻り自分の寝床を作っている。
居候の身なのだから、布団くらい自分で用意すべきだし、できる事は率先してやるべきなのだが、この時の俺はいつ追い出されてもかまわない気持ちだった事もあり、魔法の研究以外何もやる気がなかった。


三ヶ月同じ家に住んでいるが、俺とレイラは男女の関係にはない。

最初はただの親切で住まわせてくれているのかと思ったが、おそらくそれだけではない。

この家で生活をして気がついた事だが、男性物の衣服が置いてあるのだ。
子供用もあったため、俺はレイラには夫と子がいると思った。
レイラは俺より若く見える。おそらく22~23歳くらいだろう。結婚して子供がいても、なんらおかしい歳ではない。



・・・レイラは既婚者なのだろう?素性の知れない男がいては、旦那と子が帰って来た時にまずいだろ?今はどこかに出ているんじゃないのか?

ある日の晩、このままここにいては迷惑になるだろうと考えた俺に、レイラは目を伏せて静かに口を開いた。


・・・二人とももういません

ささやくような声だったが、深い悲しみを含んだその声は、耳にハッキリと届いた。

俯くレイラの長い栗色の髪が、頬を伝うように下がり、髪の間から覗く黒い瞳は、何もかも諦めたように力を無くしていた。

事故なのか、病死なのか、それとも賊に殺されたのか・・・原因は分からないし聞くつもりもなかった。
けれど、妻と娘を失った俺と、レイラの境遇は同じだった。


きっと、生きる希望を失った俺を見て、自分を重ねたのではないだろうかと思う。

だから俺もレイラに打ち明けた。


・・・俺も・・・妻と娘を失った

・・・・・・・・・・そうですか


少しの沈黙の後、レイラはポツリと一言だけ返した。
感情のこもらない無機質な声色だったが、今の俺にはその方が楽だった。

それ以上は何も話す事は無かった。

ただ、夜の静けさと部屋の小さな明かりの下で、俺とレイラは目を合わせる事もなく向かい合っていた。


不思議と心の傷が少しだけ癒される感じを覚えた。
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