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理太郎

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【875 カエストゥス 対 帝国 ⑨ 戦場で聞こえた声】

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「こ、これは・・・・・」

思わず戦う手を止めてしまった。
俺だけではない、帝国兵達もカエストゥス軍も、誰もが手を止めてその爆炎を見ていた。


凄まじい魔力が解き放たれたと感じた次の瞬間だった。
耳をつんざく爆音と、空を黒く染める巨大な煙、爆発にともなう炎は、吹雪の中でもハッキリと見えた。


そしてその爆発を起こしたものは・・・・・



魔法使いの戦いでは、暗黙の了解が一つある。

それは、上級魔法を使うにあたり、光源爆裂弾だけは場所を選ばなくてはならない。
強過ぎる破壊力は、計らずとも周囲を巻き込んでしまうからだ。

今回のように、敵と味方が入り乱れて戦っていては、ほぼ確実に味方を巻き込んでしまう。
自軍の被害を無視できるのならば使えるだろう。だが果たしてそれができるかと言えば、まずできない。

だからこそ、立て続けに二発の光源爆裂弾が撃たれた事は、両軍にとって予想だにできない事だった。

一発目を撃ったカエストゥスの魔法兵は、位置は考えていた。
ジャミールの後ろには帝国の城があるのみ。標的と一緒に城を破壊する事に抵抗はない。
城の中には非戦闘員もいるのかもしれないが、そこまで気に掛ける余裕はなかった。

そして次にジャミールの撃った一発だが、これは完全に味方をも巻き込む一発だった。


ジャミール・ディーロは、仲間意識というものが非常に希薄だった。
大事なものは自分の一族だけである。故郷というものにも執着がない。生きていければ場所などどうでもいいのである。だからこそ、この戦争で帝国の旗色が悪いと見ると、すぐに見限って離れようとした。

ジャミールの光源爆裂弾は、パトリックの結界技で撥ね返されたため、結果として周囲に被害は及ばなかった。だがジャミールの後ろにある城は別である。爆発の余波はいまだ治まらず、炎は燃え上がり続けている。そしてその炎は、城までも焼き尽くさんとしているように見えた。




「・・・ん?」

光源爆裂弾が起こした爆炎を見て、ウィッカーはある事に気が付き眉を潜めた。

「いったい、どうやって・・・・・」

あれだけの魔力で放たれた光源爆裂弾だ。それは城壁を破壊し、その後ろの城も焼いていなければならない。だが、自分が目に映しているものの異様さに気が付き、その疑問が口をついて出た。

爆炎が城まで届かない。いや、正確には炎が城を避けているのだ。

大きく燃え盛る炎は、一見すると城壁を越えて城をも焼いているように見えるが、その実は見えない何かに阻まれているかのように、城壁を境にして城には火の粉の一つも飛ばしていない。


「・・・結界じゃない。なにかの魔道具か?だが、魔力は感じない・・・・・っ!?」

城と炎、正体不明なその境界を見ていると、ふいに視線を感じて顔を向けた。


城の前に立っている人物、やはり距離があり顔もハッキリと見えず、性別も分からない。
だが強く感じる視線で、自分を見ている事だけは分かった。

その体が発している炎からは魔力は感じない。俺の予想が正しければ、こいつの炎は火の精霊の力だ。

そして確信した。

「・・・あいつの仕業だな。火の精霊の力で、光源爆裂弾の爆炎を防いでいるんだ」


俺は足元から風を巻き起こした。
やはり皇帝にたどり着くには、あいつを何とかしなければならないのだ。


俺はジョルジュとの組手以外では、精霊使いと戦った事はない。
そのジョルジュも風の精霊の力を使う時、俺に殺意を持っていたわけではないから、必然と手加減はされていた。

だが、いくら手加減されていても、精霊の力はとてつもなく大きなものであり、風魔法と風の精霊の力は、似ているようで全く異なっていた。

ジョルジュの風の精霊の力の前では、俺の風魔法は全くの無力だった。
下級も上級も無い。風をぶつようにも、そもそも風が取り込まれて流されていくのだ。

考えてみれば当然だろう。
風の精霊は風そのものである。魔力を使って風を操っても、その風が精霊なのだ。
どうして精霊に危害を加える事ができるだろう?

そこから導き出した答えは、火の精霊も同じだろうという事。

この火の精霊使いには、おそらく火魔法はまったくの無力。
系統の近い爆発魔法も、無効とまではいかなくても、効き目は薄いとみるべきだろう。

ならば戦闘手段は必然と、風魔法か氷魔法に絞られる。


「・・・やってやるよ」

俺は風を纏うと、視線の先に立つ、火の精霊使いに狙いを定めた。
そして足を浮かせて飛び掛かろうとしたその時、誰かが呼ぶ声が聞こえて足を止めた。



「・・・・・今のは」

すでに戦闘は再開されていた。剣と剣がぶつかり合う金属音。爆発魔法の轟音。射られた矢が空気を斬り裂く鋭い音。そしてここは、両軍が怒声を張り上げている戦場である。

誰かが自分を呼ぶ声なんて、それこそ耳元で言ってもらわないと聞こえない。

だが、俺にはその声を無視する事ができなかった。



「うぉぉぉぉぉぉぉー----ッ!」

一人の帝国兵が剣をかかげて斬りかかってきたが、右手を横に一線させて、風の刃を飛ばし首を斬り落とす。それが引き金となった。

これまで光源爆裂弾の爆炎と、ウィッカーの凄まじい魔力に圧倒され、動きがとれないでいた帝国兵達だったが、たとえ一瞬で殺されたとしても、味方が一人で飛び掛かっていった事は、彼らの闘志に火を付けた。

 「だぁぁぁぁぁぁー----ッ!」

正面から、後ろから、帝国兵が叫び声を上げながら、なだれ込んで来た。
剣を持ち、槍を持ち、斧を持ち、逃げ場をなくすようにして、一斉にウィッカーへと飛び掛かる!


「ジャマだぁぁぁぁー----ッ!」


胸の前で交差させた両腕を、一気に大きく外へ向けて開き、風の魔力を解き放った!

「ぐはぁー---ッ!」
「うぐぁッ!」
「がっ、はぁ・・・!」

ウィッカーを中心に巻き起こされた大風は、向かって来た帝国兵達を全て吹き飛ばし、地面に叩きつけた!

鍛え抜かれた帝国兵達だったが、ウィッカーの魔力の風は重く、大木で殴りつけられたかのような衝撃が全身を打ち付け、立ち上がる事ができなかった。

「・・・・・こっちか」

倒れている帝国兵達を一瞥すると、ウィッカーは声の聞こえた方へと歩き出した。

声は一度しか聞こえなかった。空耳だったかもしれない。
だがウィッカーは疑いもせずに歩き続けた。

あの声は無視できない。

だんだんと近づいてくるのは、燃え盛る業火、そして黒煙を立ち昇らせる爆心地。


・・・・・こっちは、光源爆裂弾のあった場所だ、まさか!?


嫌な予感が走った。すでにこの戦場は、敵味方問わず、多くの兵が倒れていた。

まさか・・・・・そんな考えが頭に浮かんだ。


そして一歩、また一歩と足を進めて・・・・・見た


考えてみれば分かる事だった
あれだけの魔力のぶつかり合い、光源爆裂弾が使われる程の戦いだったのだ。


おそらく自分の知っている誰か



「・・・パ、パトリック・・・さん・・・・・」



すでに体の半分ほどは、吹雪によって埋められそうになっていた。
だが、見間違いようがない。彫りの深い顔立ちに、肩まで伸びた長いシルバーグレーの髪。

口から血を吐き、事切れていたのは・・・・・パトリック・ファーマーだった。
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