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1242 奇襲
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バイロン・ロサは勘の良い男だった。
人の感情の機微もだが、とりわけ敏感なのが場所、環境の変化にである。
昨日までは普通に歩けた場所でも今日は違う、ここから先へは行きたくない。そう感じて立ち止まると、危険を避ける事ができた。
軍の遠征でロサが提言した事により、台風を避ける事ができた。
吊り橋の縄の痛みを見つけ、事故を未然に防ぐことができた。
深い森で迷った時も、ロサが道を示せばそこは出口に続いていた。
それが何度も続くと、次第に周囲もロサの勘の良さを噂するようになり、それはやがて軍の上層部にも伝わる事となった。
ロサがそんな能力を身につけたのは、彼の複雑な家庭環境が要因だったのかもしれない。
幼い頃に両親を亡くしたロサは、親戚の家に引き取られるも、人見知りが災いしてかなかなか馴染む事ができず、短い期間にいくつもの家を回される経験をしている。
生来大人しい性格のロサは、環境が変わる度に更に自分の殻に閉じこもるようになっていった。
やがて人の顔色ばかりを窺(うかが)うようになったロサは、嫌がらせをされる事も多くなり、その経験から常に周囲へ意識を向けるようになった。
どこに行けば安全か?誰の近くにいれば安心できるか?
そればかりを考え大人になったロサは、本人も意識せぬまま、無類の危険察知能力を身につける事となった。
「ロサ、どうだ?」
クインズベリー軍がパウンド・フォーに足を踏み入れ、三十分程登った頃、カルロス・フォスターは、先頭を歩くバイロン・ロサの背中に声をかけた。
「まだ大丈夫です。嫌な感じはしません。もう少しこのまま進みましょう」
足を止めずに顔だけ振り返ると、ロサは迷いの無い目で言い切った。
かつては人に怯えながら生きていた。だが軍に入り幾つもの戦場を駆け抜け、多くの経験を重ねたロサは、今や自分の勘に絶対の自信を持っている。
「そうか、ならばそうしよう」
ロサの返事を聞いて、カルロスは一つの疑問さえ挟む事なく決定を下した。
ロサの危険回避能力に、全幅の信頼を置いている証である。
五万の軍勢が隊列を組んで雪の山中を登っている。
パウンド・フォーの西峰はゆるやかだが、それでも雪山が危険な事に変わりはない。雪に慣れているクインズベリー軍も、足を滑らさないように慎重に一歩を踏んでいた。
ロサの先導がある中で、各自も警戒を怠らずに進軍しているのだから、敵の奇襲にも即座に反応できる。
クインズベリー軍は、順調に進んでいたはずだった。
それは山を登り始めて一時間が過ぎた頃だった。
先頭を歩くバイロン・ロサがふいに足を止め、山の上を睨むように見据えると、声を大にして叫んだ。
「来るぞ!結界を張れェェェェェーーーーーーーーーーッツ!」
訓練された青魔法兵は即座に動いたが、誰よりも早く行動を起こしたのは、カルロス・フォスターだった。
黒魔法使いのカルロスが結界を張る事はできない。だが黒魔法使いにも結界同様の防御方法はある。
振り返ったロサの顔を見た瞬間、カルロスはすでに風の魔力を発動し、ロサの前方に風の盾を作り出していた。
それは巨大な風の盾だった。ロサだけでなくその後ろにいるカルロス自身、その更に後方に立つ兵達も護れるくらいに大きな風の盾だった。
カルロスは山に入ってから一瞬たりとも気を抜かず、常に魔力を放出できるように備えていた。
そしてその魔力は、攻撃にも防御にも生かせる風の魔力である。
風ならば先制攻撃にも、不意を突かれた奇襲にも対応できる。
だからこそ振り返ったロサの表情を見た瞬間に、カルロスは誰よりも早く行動を起こす事ができた。
そして一瞬遅れて後方の青魔法使い達が結界魔法を使うと、瞬く間に青く輝く結界が五万人を包み込んだ。
これは一つの大きな結界を張ったわけではない。
青魔法使い一人一人が、あらかじめどの範囲まで結界を張るのかが決められていたのだ。
そのためクインズベリー軍五万人を覆う結界は、小さな結界の集合体という事になる。
そしてクインズベリー軍が防御膜を張った直後、足元が大きく揺れて、まるで雷でも落ちたかのような轟音と共に、何かが山の上から落ちて来た。
「なッ!?き、木だ!木が落ちてくるぞーーーーーッツ!」
前方に立つ兵士が山の上を指さして叫ぶ。
そう、揺れと轟音の正体は、山の上から転がり落ちてくる、何十、いや何百本もの大木だった。
「うろたえるなッ!これまでの訓練を思い出せ!お前達ならこの程度防ぎきれる!」
結界を張っているとはいえ、巨大な大木が頭の上に落下してくる光景は、いかに訓練られた兵であろうと恐怖をもたらすには十分であった。
だが最前線に立つカルロス・フォスターの一喝は、怯みそうになった兵達の気持ちを持ち直らせるには十分だった。
青魔法使い達は頭上に降ってくる大木から、目を逸らす事なく結界の維持に集中する。
大木が結界に衝突する衝撃は凄まじいものだった。
だが防御に全魔力を集中させた青魔法使い達は、打ち付けてくる何百本もの大木を全て防いで見せた。
敵の奇襲を凌ぎきった事で歓声を上げるクインズベリー軍。
その様子を数百メートル上から見下ろしているのは、帝国軍第二師団副団長、バージル・ビジェラ。
「へぇ、全部防ぎやがった。思ったよりやるじゃねぇか、ちょっとは楽しめそうだな」
バージルはニヤリと笑うと、右手を前に出して声高に号令を発した。
「黒魔法兵!一斉射撃だ!」
横一列に並び立っていた黒魔法使い達が、号令と共に破壊の光弾を撃ち放った。
人の感情の機微もだが、とりわけ敏感なのが場所、環境の変化にである。
昨日までは普通に歩けた場所でも今日は違う、ここから先へは行きたくない。そう感じて立ち止まると、危険を避ける事ができた。
軍の遠征でロサが提言した事により、台風を避ける事ができた。
吊り橋の縄の痛みを見つけ、事故を未然に防ぐことができた。
深い森で迷った時も、ロサが道を示せばそこは出口に続いていた。
それが何度も続くと、次第に周囲もロサの勘の良さを噂するようになり、それはやがて軍の上層部にも伝わる事となった。
ロサがそんな能力を身につけたのは、彼の複雑な家庭環境が要因だったのかもしれない。
幼い頃に両親を亡くしたロサは、親戚の家に引き取られるも、人見知りが災いしてかなかなか馴染む事ができず、短い期間にいくつもの家を回される経験をしている。
生来大人しい性格のロサは、環境が変わる度に更に自分の殻に閉じこもるようになっていった。
やがて人の顔色ばかりを窺(うかが)うようになったロサは、嫌がらせをされる事も多くなり、その経験から常に周囲へ意識を向けるようになった。
どこに行けば安全か?誰の近くにいれば安心できるか?
そればかりを考え大人になったロサは、本人も意識せぬまま、無類の危険察知能力を身につける事となった。
「ロサ、どうだ?」
クインズベリー軍がパウンド・フォーに足を踏み入れ、三十分程登った頃、カルロス・フォスターは、先頭を歩くバイロン・ロサの背中に声をかけた。
「まだ大丈夫です。嫌な感じはしません。もう少しこのまま進みましょう」
足を止めずに顔だけ振り返ると、ロサは迷いの無い目で言い切った。
かつては人に怯えながら生きていた。だが軍に入り幾つもの戦場を駆け抜け、多くの経験を重ねたロサは、今や自分の勘に絶対の自信を持っている。
「そうか、ならばそうしよう」
ロサの返事を聞いて、カルロスは一つの疑問さえ挟む事なく決定を下した。
ロサの危険回避能力に、全幅の信頼を置いている証である。
五万の軍勢が隊列を組んで雪の山中を登っている。
パウンド・フォーの西峰はゆるやかだが、それでも雪山が危険な事に変わりはない。雪に慣れているクインズベリー軍も、足を滑らさないように慎重に一歩を踏んでいた。
ロサの先導がある中で、各自も警戒を怠らずに進軍しているのだから、敵の奇襲にも即座に反応できる。
クインズベリー軍は、順調に進んでいたはずだった。
それは山を登り始めて一時間が過ぎた頃だった。
先頭を歩くバイロン・ロサがふいに足を止め、山の上を睨むように見据えると、声を大にして叫んだ。
「来るぞ!結界を張れェェェェェーーーーーーーーーーッツ!」
訓練された青魔法兵は即座に動いたが、誰よりも早く行動を起こしたのは、カルロス・フォスターだった。
黒魔法使いのカルロスが結界を張る事はできない。だが黒魔法使いにも結界同様の防御方法はある。
振り返ったロサの顔を見た瞬間、カルロスはすでに風の魔力を発動し、ロサの前方に風の盾を作り出していた。
それは巨大な風の盾だった。ロサだけでなくその後ろにいるカルロス自身、その更に後方に立つ兵達も護れるくらいに大きな風の盾だった。
カルロスは山に入ってから一瞬たりとも気を抜かず、常に魔力を放出できるように備えていた。
そしてその魔力は、攻撃にも防御にも生かせる風の魔力である。
風ならば先制攻撃にも、不意を突かれた奇襲にも対応できる。
だからこそ振り返ったロサの表情を見た瞬間に、カルロスは誰よりも早く行動を起こす事ができた。
そして一瞬遅れて後方の青魔法使い達が結界魔法を使うと、瞬く間に青く輝く結界が五万人を包み込んだ。
これは一つの大きな結界を張ったわけではない。
青魔法使い一人一人が、あらかじめどの範囲まで結界を張るのかが決められていたのだ。
そのためクインズベリー軍五万人を覆う結界は、小さな結界の集合体という事になる。
そしてクインズベリー軍が防御膜を張った直後、足元が大きく揺れて、まるで雷でも落ちたかのような轟音と共に、何かが山の上から落ちて来た。
「なッ!?き、木だ!木が落ちてくるぞーーーーーッツ!」
前方に立つ兵士が山の上を指さして叫ぶ。
そう、揺れと轟音の正体は、山の上から転がり落ちてくる、何十、いや何百本もの大木だった。
「うろたえるなッ!これまでの訓練を思い出せ!お前達ならこの程度防ぎきれる!」
結界を張っているとはいえ、巨大な大木が頭の上に落下してくる光景は、いかに訓練られた兵であろうと恐怖をもたらすには十分であった。
だが最前線に立つカルロス・フォスターの一喝は、怯みそうになった兵達の気持ちを持ち直らせるには十分だった。
青魔法使い達は頭上に降ってくる大木から、目を逸らす事なく結界の維持に集中する。
大木が結界に衝突する衝撃は凄まじいものだった。
だが防御に全魔力を集中させた青魔法使い達は、打ち付けてくる何百本もの大木を全て防いで見せた。
敵の奇襲を凌ぎきった事で歓声を上げるクインズベリー軍。
その様子を数百メートル上から見下ろしているのは、帝国軍第二師団副団長、バージル・ビジェラ。
「へぇ、全部防ぎやがった。思ったよりやるじゃねぇか、ちょっとは楽しめそうだな」
バージルはニヤリと笑うと、右手を前に出して声高に号令を発した。
「黒魔法兵!一斉射撃だ!」
横一列に並び立っていた黒魔法使い達が、号令と共に破壊の光弾を撃ち放った。
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