1,259 / 1,560
1258 奇妙な因縁
しおりを挟む
「ジャロン・リピネッツ・・・レイチェルじゃなくて私が当たりを引いたのは、まぁ、なるべくしてなったって感じはするよね」
目の前にズラリと立ち並び帝国兵達を越えて、アゲハの視線は自分の後釜に座ったジャロン・リピネッツを捉えていた。
ユーリからレイマートが帝国軍の後を追ったと聞いたレイチェルとアゲハは、二手に別れて捜索をしたのだが、先に見つけたのはアゲハだった。
元帝国軍で第二師団長を務めていた自分が、現第二師団長のジャロン・リピネッツと相対する。
アゲハは奇妙な因縁を感じていた。
薙刀を腰の高さで脇に構えるアゲハに、レイマートが背中から声をかけた。
「はぁ・・・はぁ・・・お前、レイジェスのアゲハだったな?どうしてここに・・・」
疲労と負傷でレイマートの息は大きく上がっていたが、その目と声にはまだ力がある。戦意はいささかも衰えていない。
「どうして?何言ってんの?あんたを助けに来たに決まってんでしょ?まぁ、それとは別に私用もできたけどね」
前を向いたまま質問に答えたアゲハは、前に立つ帝国兵ではなく、奥にいるジャロン・リピネッツだけに焦点を合わせていた。
自分が師団長だった時と、外見的には大きな変化は見られない。
180cmに満たない身長、細くはないがしっかりとした筋肉があるわけでもない。
襟足の長い金色の髪、後ろに撫でつけた前髪。
やや釣り上がった青い目は特徴的かもしれないが、目を引くところなんてせいぜいそこくらいだ。
だが自分が師団長だった時、ジャロン・リピネッツのその目が気にかかった事もまた事実だ。
そして今あらためてこの男を見て、一つだけ確信できた事がある。
ガラス玉のように空っぽだからこそ、情も温かみも感じない。むしろ空虚だからこそ、寒気すら感じさせられる。
「・・・あの目、変わらないな」
少しだけ唇を動かして呟いた。
話しをしてもこちらを全く見ていない。
意識はどこか別の場所に向いており、ただ顔を向けているだけなのだ。
一言で言って何を考えているか分からない男だ。だがこいつはそれだけではなかった。
薙刀の柄を握る腕に、意識せず力が入る。
まだ自分が師団長だった時に感じた微かな恐れ・・・
ジャロンのあの目・・・人間なら誰しもそこにあるはずのもの、そう、人への関心というモノがこの男には無いのだ。おそらくこの男にとって、他人とは道端の石ころと同じなのだ。踏もうが蹴ろうが意識にさえ止めない、声をかければとりあえずの反応はするが、それだけなのだ。そこに興味を持つ事も関心を寄せる事ない。
それが分かった時、私はジャロン・リピネッツに言い知れぬ怖さを感じたのだ。
「・・・レイマート、あんたも色々あるんだろうけど、一度現実を見なよ。あんたは体力の限界で、もうすぐ夜が来る。このまま戦い続ける事は不可能だ。分かるよね?」
「・・・ここまで来て、逃げろって言うのか?」
アゲハの言っている事は理解できる。だがレイマートの感情が、素直に受け入れ事を拒んでいた。
師であるアルベルト・ジョシュアの仇討ちに乗り込み、おめおめと退く事などできない。
そんなレイマートの心中を察し、アゲハは言葉を重ねた。
「レイマート、ゴールド騎士のお前に今更言う事ではないが、死んだら終わりだぞ?目的のために今は退け。敵は私が食い止める」
アゲハも最初はここで、ジャロン・リピネッツを仕留めようと考えた。
大将首まであと数十メートルと、敵陣奥深く入り込む事ができたのだ。アゲハはこれを好機と捉えた。
だが本来の目的は、レイマートを連れて帰る事である。
もうだいぶ陽が傾いている。夜になれば闇の主トバリによって食われる運命にあるのだ。
戦いたくとも時間が無い。
不本意ではあるが、一度退いて仕切りなおすしかないのだ。
レイマートも一度戦闘を止められた事で、頭に上っていた血が下りたのだろう。
一度目を閉じた後、分かった、とだけ短く言葉を返した。
「よし、じゃあ私が道を作る。準備はいいな?」
握りしめる長物の刃先に、緑色の風が渦巻きだした。
「ジャロン団長、懐かしい顔がありますよ?あの女、元第二師団長のアゲハです」
突如乱入した長物を持つ黒髪の女を見て、トリッシュはチラリとジャロンに目を向けた。
かつての上官の登場に、この無表情な男にも何か反応があるかと思ったのだ。だがジャロン・リピネッツの表情は変わらず、眉の一つも動く事はなかった。
「そうだな。クインズベリーにいるとはアルバレスから聞いていた。ずいぶん強い殺気を向けてくるものだ。よほど俺の首が欲しいらしいな」
淡々と、まるで他人事のように話す。ジャロン・リピネッツにとっては、かつての上官と戦う事になっても、それはただそれだけの事である。国を裏切った憎き相手という感情など一切無い。目の前に敵意を向ける者がいれば倒す。ただそれだけなのだ。
「それはそうでしょう。ジャロン団長を倒せば、パウンド・フォーでの戦いはクインズベリーの勝ちですから。彼女の相手はお願いしますね、元師団長の相手をできるのなんて、ジャロン団長だけ・・・!?」
トリッシュがそう言い終えた直後、轟音とともに大爆発が起こり、荒ぶる風が帝国軍にぶつけられた。
目の前にズラリと立ち並び帝国兵達を越えて、アゲハの視線は自分の後釜に座ったジャロン・リピネッツを捉えていた。
ユーリからレイマートが帝国軍の後を追ったと聞いたレイチェルとアゲハは、二手に別れて捜索をしたのだが、先に見つけたのはアゲハだった。
元帝国軍で第二師団長を務めていた自分が、現第二師団長のジャロン・リピネッツと相対する。
アゲハは奇妙な因縁を感じていた。
薙刀を腰の高さで脇に構えるアゲハに、レイマートが背中から声をかけた。
「はぁ・・・はぁ・・・お前、レイジェスのアゲハだったな?どうしてここに・・・」
疲労と負傷でレイマートの息は大きく上がっていたが、その目と声にはまだ力がある。戦意はいささかも衰えていない。
「どうして?何言ってんの?あんたを助けに来たに決まってんでしょ?まぁ、それとは別に私用もできたけどね」
前を向いたまま質問に答えたアゲハは、前に立つ帝国兵ではなく、奥にいるジャロン・リピネッツだけに焦点を合わせていた。
自分が師団長だった時と、外見的には大きな変化は見られない。
180cmに満たない身長、細くはないがしっかりとした筋肉があるわけでもない。
襟足の長い金色の髪、後ろに撫でつけた前髪。
やや釣り上がった青い目は特徴的かもしれないが、目を引くところなんてせいぜいそこくらいだ。
だが自分が師団長だった時、ジャロン・リピネッツのその目が気にかかった事もまた事実だ。
そして今あらためてこの男を見て、一つだけ確信できた事がある。
ガラス玉のように空っぽだからこそ、情も温かみも感じない。むしろ空虚だからこそ、寒気すら感じさせられる。
「・・・あの目、変わらないな」
少しだけ唇を動かして呟いた。
話しをしてもこちらを全く見ていない。
意識はどこか別の場所に向いており、ただ顔を向けているだけなのだ。
一言で言って何を考えているか分からない男だ。だがこいつはそれだけではなかった。
薙刀の柄を握る腕に、意識せず力が入る。
まだ自分が師団長だった時に感じた微かな恐れ・・・
ジャロンのあの目・・・人間なら誰しもそこにあるはずのもの、そう、人への関心というモノがこの男には無いのだ。おそらくこの男にとって、他人とは道端の石ころと同じなのだ。踏もうが蹴ろうが意識にさえ止めない、声をかければとりあえずの反応はするが、それだけなのだ。そこに興味を持つ事も関心を寄せる事ない。
それが分かった時、私はジャロン・リピネッツに言い知れぬ怖さを感じたのだ。
「・・・レイマート、あんたも色々あるんだろうけど、一度現実を見なよ。あんたは体力の限界で、もうすぐ夜が来る。このまま戦い続ける事は不可能だ。分かるよね?」
「・・・ここまで来て、逃げろって言うのか?」
アゲハの言っている事は理解できる。だがレイマートの感情が、素直に受け入れ事を拒んでいた。
師であるアルベルト・ジョシュアの仇討ちに乗り込み、おめおめと退く事などできない。
そんなレイマートの心中を察し、アゲハは言葉を重ねた。
「レイマート、ゴールド騎士のお前に今更言う事ではないが、死んだら終わりだぞ?目的のために今は退け。敵は私が食い止める」
アゲハも最初はここで、ジャロン・リピネッツを仕留めようと考えた。
大将首まであと数十メートルと、敵陣奥深く入り込む事ができたのだ。アゲハはこれを好機と捉えた。
だが本来の目的は、レイマートを連れて帰る事である。
もうだいぶ陽が傾いている。夜になれば闇の主トバリによって食われる運命にあるのだ。
戦いたくとも時間が無い。
不本意ではあるが、一度退いて仕切りなおすしかないのだ。
レイマートも一度戦闘を止められた事で、頭に上っていた血が下りたのだろう。
一度目を閉じた後、分かった、とだけ短く言葉を返した。
「よし、じゃあ私が道を作る。準備はいいな?」
握りしめる長物の刃先に、緑色の風が渦巻きだした。
「ジャロン団長、懐かしい顔がありますよ?あの女、元第二師団長のアゲハです」
突如乱入した長物を持つ黒髪の女を見て、トリッシュはチラリとジャロンに目を向けた。
かつての上官の登場に、この無表情な男にも何か反応があるかと思ったのだ。だがジャロン・リピネッツの表情は変わらず、眉の一つも動く事はなかった。
「そうだな。クインズベリーにいるとはアルバレスから聞いていた。ずいぶん強い殺気を向けてくるものだ。よほど俺の首が欲しいらしいな」
淡々と、まるで他人事のように話す。ジャロン・リピネッツにとっては、かつての上官と戦う事になっても、それはただそれだけの事である。国を裏切った憎き相手という感情など一切無い。目の前に敵意を向ける者がいれば倒す。ただそれだけなのだ。
「それはそうでしょう。ジャロン団長を倒せば、パウンド・フォーでの戦いはクインズベリーの勝ちですから。彼女の相手はお願いしますね、元師団長の相手をできるのなんて、ジャロン団長だけ・・・!?」
トリッシュがそう言い終えた直後、轟音とともに大爆発が起こり、荒ぶる風が帝国軍にぶつけられた。
0
あなたにおすすめの小説
俺! 神獣達のママ(♂)なんです!
青山喜太
ファンタジー
時は、勇者歴2102年。
世界を巻き込む世界大戦から生き延びた、国々の一つアトランタでとある事件が起きた。
王都アトスがたったの一夜、いや正確に言えば10分で崩壊したのである。
その犯人は5体の神獣。
そして破壊の限りを尽くした神獣達はついにはアトス屈指の魔法使いレメンスラーの転移魔法によって散り散りに飛ばされたのである。
一件落着かと思えたこの事件。
だが、そんな中、叫ぶ男が1人。
「ふざけんなぁぁぁあ!!」
王都を見渡せる丘の上でそう叫んでいた彼は、そう何を隠そう──。
神獣達のママ(男)であった……。
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
正しい聖女さまのつくりかた
みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。
同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。
一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」
そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた!
果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。
聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!
Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。
裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、
剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。
与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。
兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。
「ならば、この世界そのものを買い叩く」
漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。
冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力――
すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。
弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。
交渉は戦争、戦争は経営。
数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。
やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、
世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。
これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。
奪うのではない。支配するのでもない。
価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける――
救済か、支配か。正義か、合理か。
その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。
異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。
「この世界には、村があり、町があり、国家がある。
――全部まとめて、俺が買い叩く」
【完結】奪われたものを取り戻せ!〜転生王子の奪還〜
伽羅
ファンタジー
事故で死んだはずの僕は、気がついたら異世界に転生していた。
しかも王子だって!?
けれど5歳になる頃、宰相の謀反にあい、両親は殺され、僕自身も傷を負い、命からがら逃げ出した。
助けてくれた騎士団長達と共に生き延びて奪還の機会をうかがうが…。
以前、投稿していた作品を加筆修正しています。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる