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1367 フェムケのサイレント・バブル
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東のセインソルボ山。
ブロートン帝国とカエストゥスの国境の山でもあり、標高6636メートルの霊峰である。
かつては風の精霊の住む山と言われていたが、200年前の戦争でカエストゥスが敗れて以来、夜の闇に追いやられた風の精霊はその数をどんどん減らしていった。そして今では、かつてこの地で戦死した、兵士達の怨念が宿る山と言われている。
その証拠にセインソルボ山の東側、かつてのカエストゥス方面は、足を踏み入れれば死ぬとさえ言われている。事実レイジェスのケイトが、以前ウィッカーとともにこの山を訪れた時は、山の東側に入ったら自分は生きて帰れないとさえ感じた程だった。
しかしその後ウィッカーが精霊の呼びかけに応じ、カエストゥスに入り闇の化身を倒した事で、完全ではないものの闇の気配は相当薄れた。
現在のセインソルボ山は、カエストゥス側であっても人を死に至らしめるような、恐ろしい怨念は渦巻いてはいない。
そして今この山で、帝国とロンズデールの戦いの火ぶたが、切って落とされようとしていた。
「う~・・・マレスさんは本当に強引なんだよねぇ。そりゃあ住む家もご飯もお世話してもらってるけど、あの悪人顔で睨みを利かせてくるんだもん」
フェムケ・ソルスランドは自分にしか聞こえない程度の小さな声で文句を言いながら、左右の切り立った崖に目を向けた。
何十メートル、いや百メートル以上はあるだろう、雪と氷に覆われた巨大な石の壁だった。
セインソルボ山は草木の無い大きな岩の集合体である。
この山を登るのであれば、青魔法のストーンワークが必須になる。
鉱物を自在に操れるこの魔法を使い、空中で石を固定して足場にするのだ。
つまりストーンワークを使えば、頭上で待ち構えている事も可能なのだが、フェムケの見た限り、どうやら待ち伏せは無さそうだった。
「はぁ~、面倒くさい。家ももらったし、もうスリをしなくてすむし、アラルコン商会は安定した良い仕事場だけど、まさか戦争に駆り出されるなんてなぁ・・・マレスさんに魔道具見つかったのが痛かったなぁ」
ぶつぶつと文句を言っているフェムケだが、背中に刺さる視線を感じ、慌てて背筋を伸ばした。
やばいやばい!マレスさんメッチャ見てるよね!あの人悪い人じゃないんだけど、こういうとこ面倒くさい!はいはい、分かりましたよ!やればいいんでしょ、やれば!
「はぁ~~~・・・・・」
フェムケは諦めたように溜息をつくと、薄水色のローブの中から透明な小瓶を取り出した。
そして中に入っている小さな白い玉を1粒、手の平に落とした。それは指先で摘まめる程度の白い球である。
フェムケはその白い玉を手の平に乗せたまま口元に近づけると、フー、と息を吹きかけた。
するとほんの1センチ程度の小さな白い玉から、まるでシャボン玉のように大小さまざまな、何十何百の無色透明な泡が噴き出した。泡はふわふわと切り立った崖の間を抜けて、まるで意思を持っているかのように、その全てが道の先へ飛んで行った。
そして全ての泡を噴き出した白い玉は、乾いた石が砕けるようにボロボロと崩れ、風に飛ばされて散って行った。
「・・・ん~、まぁこんなもんでしょ。マレスさーん、終わりましたぁ」
くるりと後ろを振り返ると、フェムケは右手を挙げてブンブンと左右に振った。
「よし、ご苦労フェムケ。じゃあ合図だけ頼む、そのあとは俺達に任せろ」
アブエル・マレスはスタスタと近づいて来ると、フェムケの肩にポンと手を置いた。
すでに隊の編成は終えている。体力を前面におき、その後ろに黒魔法使いと青魔法使いを交互に配置した、攻撃型の並びである。
「はーい、えっと着弾まであと十五秒ってとこですねぇ・・・準備はいいですか?」
フェムケは兵士達の邪魔にならないように後ずさりしながら距離をとると、場にそぐわないのんびりした口調でカウントダウンを始めた。
「マレス、なんか緊張感のねぇ子だな?」
「フッ、まぁいいじゃないか。それよりさっき話した通りだ。作戦通りにいくぞ」
ニールが苦笑いをして見せると、マレスも小さく笑って返すが、その口ぶりは真剣そのものだった。
それを受けてニールも、分かった、と短く言葉を返す。
「さーん、にー、いーち・・・はい!今です!」
「総員突撃ィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーッツ!」
フェムケが口の横に手を当てて声を上げると、マレスがそれをかき消すほどの大声を張り上げた。
先陣を切って走りだしたマレスの後を、五千の兵士達が追って走り出す!
「う~ん、すごいなぁ・・・みなさん、頑張ってくださいねぇ」
地鳴りを響かせるクインズベリー軍の背中を見送りながら、フェムケは呟いた。
ブロートン帝国とカエストゥスの国境の山でもあり、標高6636メートルの霊峰である。
かつては風の精霊の住む山と言われていたが、200年前の戦争でカエストゥスが敗れて以来、夜の闇に追いやられた風の精霊はその数をどんどん減らしていった。そして今では、かつてこの地で戦死した、兵士達の怨念が宿る山と言われている。
その証拠にセインソルボ山の東側、かつてのカエストゥス方面は、足を踏み入れれば死ぬとさえ言われている。事実レイジェスのケイトが、以前ウィッカーとともにこの山を訪れた時は、山の東側に入ったら自分は生きて帰れないとさえ感じた程だった。
しかしその後ウィッカーが精霊の呼びかけに応じ、カエストゥスに入り闇の化身を倒した事で、完全ではないものの闇の気配は相当薄れた。
現在のセインソルボ山は、カエストゥス側であっても人を死に至らしめるような、恐ろしい怨念は渦巻いてはいない。
そして今この山で、帝国とロンズデールの戦いの火ぶたが、切って落とされようとしていた。
「う~・・・マレスさんは本当に強引なんだよねぇ。そりゃあ住む家もご飯もお世話してもらってるけど、あの悪人顔で睨みを利かせてくるんだもん」
フェムケ・ソルスランドは自分にしか聞こえない程度の小さな声で文句を言いながら、左右の切り立った崖に目を向けた。
何十メートル、いや百メートル以上はあるだろう、雪と氷に覆われた巨大な石の壁だった。
セインソルボ山は草木の無い大きな岩の集合体である。
この山を登るのであれば、青魔法のストーンワークが必須になる。
鉱物を自在に操れるこの魔法を使い、空中で石を固定して足場にするのだ。
つまりストーンワークを使えば、頭上で待ち構えている事も可能なのだが、フェムケの見た限り、どうやら待ち伏せは無さそうだった。
「はぁ~、面倒くさい。家ももらったし、もうスリをしなくてすむし、アラルコン商会は安定した良い仕事場だけど、まさか戦争に駆り出されるなんてなぁ・・・マレスさんに魔道具見つかったのが痛かったなぁ」
ぶつぶつと文句を言っているフェムケだが、背中に刺さる視線を感じ、慌てて背筋を伸ばした。
やばいやばい!マレスさんメッチャ見てるよね!あの人悪い人じゃないんだけど、こういうとこ面倒くさい!はいはい、分かりましたよ!やればいいんでしょ、やれば!
「はぁ~~~・・・・・」
フェムケは諦めたように溜息をつくと、薄水色のローブの中から透明な小瓶を取り出した。
そして中に入っている小さな白い玉を1粒、手の平に落とした。それは指先で摘まめる程度の白い球である。
フェムケはその白い玉を手の平に乗せたまま口元に近づけると、フー、と息を吹きかけた。
するとほんの1センチ程度の小さな白い玉から、まるでシャボン玉のように大小さまざまな、何十何百の無色透明な泡が噴き出した。泡はふわふわと切り立った崖の間を抜けて、まるで意思を持っているかのように、その全てが道の先へ飛んで行った。
そして全ての泡を噴き出した白い玉は、乾いた石が砕けるようにボロボロと崩れ、風に飛ばされて散って行った。
「・・・ん~、まぁこんなもんでしょ。マレスさーん、終わりましたぁ」
くるりと後ろを振り返ると、フェムケは右手を挙げてブンブンと左右に振った。
「よし、ご苦労フェムケ。じゃあ合図だけ頼む、そのあとは俺達に任せろ」
アブエル・マレスはスタスタと近づいて来ると、フェムケの肩にポンと手を置いた。
すでに隊の編成は終えている。体力を前面におき、その後ろに黒魔法使いと青魔法使いを交互に配置した、攻撃型の並びである。
「はーい、えっと着弾まであと十五秒ってとこですねぇ・・・準備はいいですか?」
フェムケは兵士達の邪魔にならないように後ずさりしながら距離をとると、場にそぐわないのんびりした口調でカウントダウンを始めた。
「マレス、なんか緊張感のねぇ子だな?」
「フッ、まぁいいじゃないか。それよりさっき話した通りだ。作戦通りにいくぞ」
ニールが苦笑いをして見せると、マレスも小さく笑って返すが、その口ぶりは真剣そのものだった。
それを受けてニールも、分かった、と短く言葉を返す。
「さーん、にー、いーち・・・はい!今です!」
「総員突撃ィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーッツ!」
フェムケが口の横に手を当てて声を上げると、マレスがそれをかき消すほどの大声を張り上げた。
先陣を切って走りだしたマレスの後を、五千の兵士達が追って走り出す!
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