クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜

アルト

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2話

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 人を信じられなくなった一人のヒーロー王子がいた。

 魔法使いに目覚めてしまったが為に、人生を壊されたヒーロー公爵がいた。

 家族から忌子と呼ばれ、迫害されていたヒーロー勇者がいた。

 顔で笑って、心で泣く。
 誰にも本心を見せない孤独なヒーローがいた。

 誰にも認められなかった、ヒーロー聖者がいた。

 聖女候補に祭り上げられ、誰も彼もを救いたいと願い、その為に何もかもを犠牲に奔走したにもかかわらず、本当の意味で誰一人として助けられなかったヒロイン主人公がいた。

 原作では誰もが相応の地位を得て、恵まれた環境にいると錯覚をしてしまいがちだったが、彼ら全員が過酷な運命を辿って来た事を私は知っている。
 なのに、誰も報われず、誰も救われず、最悪の顛末BADエンドしか辿り着けなかった事を私は知っている。

「それに、希望がない訳じゃない」

 原作のカレン・ルシアータは、スタートラインに立った時点で手遅れであったが、今はそのスタートラインのはるか手前。
 フライングし放題の場所に、今私はいる。

 ヒーロー達を救う事が、巡り巡ってカレン・ルシアータの未来を良くする事にも繋がる事実を私は知っている。

 だったら────。

「だから、私は私なりに出来る事をしよう」

 やるべき事は決まった。
 

 一番は、作中随一の不遇キャラであり、今の己自身であるカレン・ルシアータの未来を良くする事。次に、ヒーロー達と、本来の主人公であるユリア・シュベルグを出来る範囲で助ける事。

「そうと決まれば────」

 ベッドから起き上がり、私は自室の机に向かう。

 緋咲葵としての私にとって、この部屋に覚えなどある筈がない。だけど、カレン・ルシアータとしての記憶を身体は覚えているのだろう。
 どこに何があるのかが、考えるまでもなく分かった。

「手紙を書きますかっ」

 引き出しを開き、手触りの良い紙を取り出す。

 ヒーロー達を救いたいのは山々だ。
 でも、原作開始と同時に一方的な婚約破棄をされ、原作通り、作中随一の不遇キャラとしての人生を送ってはそれから先の手助けが出来なくなってしまう。

 だから、まずは自分の未来の為に行動を起こす事にした。

「とはいえ、あの人間不信王子が手紙を書いて受け取ってくれるかは謎なんだけども……」

 不安しかなかったが、行動を起こしてみない事には何も始まらない。
 なので私は一抹の不安を覚えながらも、書き慣れない畏まった文面で己の婚約者となったゼフィール・ノールドへ手紙を書く事にした。


 †

『────俺は、誰も信じない』

 それは、〝クラヴィスの華〟におけるゼフィール・ノールドの台詞。

『誰にも頼らないし、誰もあてにしない。だから誰かを信用する事もしないし、誰かに背中を預ける事も、誰を助ける事もしない。俺は独りだ。俺は俺のしたいように、俺だけの為に生きる。分かったら金輪際、俺に関わるなユリア主人公

 プレイヤーの間で、人間不信王子なんて不名誉なあだ名を付けられていたゼフィールは、終始誰かを信用する事をよしとしなかった。
 壮絶な過去。
 魔法使いとして生まれてしまったが為に歪んでしまったゼフィールだが、原作主人公であるユリアによる献身的な支えもあって、ゼフィール√では主人公にのみ心を許す事になる。

 だが、仕方がなかったとはいえ、そういう生き方をしてきたゼフィールは多方面から恨みを買っており、そのせいで生まれたある事件によって、ユリアと結ばれる事なく悲劇の死を遂げた。

 人間不信を極めていたゼフィールの心をどうにか癒そうとするユリアの献身さは涙ものであり、そうして深まっていく絆にエンドが待ちきれなかったのだが、まさかのBADエンドという誰も救われない未来が待っていた。
 いや、ふざけんなー!!
 と、部屋の中で叫び散らした記憶はまだ新しい。

 だが、原作主人公であっても三年近い時を使って漸く距離を縮められた相手だ。
 そこには勿論、主人公補正があるだろうし、近い将来婚約破棄をされるカレンが同じことを試みて、果たして何年掛かるのやら。

 もしかすると、殺されるのではないだろうか。

 そんな危惧が頭を過ぎる私の下に、ゼフィールからの返事が届いたのは手紙を出してから三日後のことだった。

 婚約者になったのだから、一度顔合わせがしたい。話してみたい。
 出来る限り不自然に思われない理由で手紙を出したのが良かったのだろう。

 返事は、構わないとの事だった。
 基本的に王城にいるから、好きな時に訪ねてきてくれ。
 内容は、そんなものだった。
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