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先生に対して妙に馴れ馴れしい男がアトリエに居たんだが?
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終業のチャイムが鳴り終わり、閑散とした廊下に響く俺達の足音。
今日も今日とてグレイ先生のアトリエにお邪魔することになった俺は、ピシリとスーツを着こなす彼と肩を並べ歩みを進めていた。
うららかな午後の日差しが窓から差し込んできて思わず欠伸が出そうになる。
「今日は随分と眠そうだね……大丈夫かい?」
後ろに束ねた青い髪に艷やかな光が浮かぶ。大きくて優しい先生の手が俺の背中を支えるようにそっと添えられた。
「何だか疲れが溜まってるみたいで……すみませんグレイ先生」
……よっぽど、なのかな俺。心配してくれたダンが部屋まで来てくれたのに、なかなか目が覚めなかったし。
「……ごめんねシュン君。あれだけ大口を叩いたのに結局君に怖い思いをさせてしまった」
急にその場で立ち止まった先生は自分のことみたいに辛そうな顔をしていた。青い瞳には深い悲しみの色が宿っている。
「そんな……あのブレスレットが無かったら俺、今頃どうなってたか……どうか、あまり自分を責めないでください」
ブレスレットに施されていた魔術によって、俺の身を守ってくれた障壁。あの守りが時間を稼いでくれたから、魔獣の猛攻を防いでくれていたから、サルファー先輩が間に合ったのに。
先生の顔を見上げるように前に立ち、その手を握りしめると目尻がふっと緩んだ。
「ありがとう、シュン君。でも、私はどうしても自分を許すことが出来ないんだよ、それに……」
青い瞳を静かに見つめて続きを促すと先生は頬を朱に染めて口をもごもごさせながら呟いた。
「悔しいんだ……私以外の男が君を助けたという事実が。男の嫉妬は見苦しいというが、全くその通りだね」
自嘲めいた笑みを浮かべながら太い指がゆるりと俺の頬を撫でる。熱い。顔から火が出そうなくらいに。思いもよらない先生の気持ちを知ってしまったからだ。
「えっと……先生、俺、その……」
「ごめんね、また君を困らせてしまって。つい君のことを独り占めしたくなってしまうんだ」
「先生……」
「つまらない話をしてしまったね。今日は君に会わせたい人がいるんだよ。あまり待たせても悪いからね、少し急ごうか」
もう、いつもの先生だった。優しく微笑んでくれてから俺の手を引き、歩き出す。
俺はかける言葉が見付からず、ただ付き従うしかなかった。
先生がアトリエの扉を開けると見慣れぬ白衣の男性がテーブルに腰掛けていた。眼鏡にサラリとかかった水色の髪を指先で弄りながら、リスみたいに膨らませた頬をモグモグと動かしている。
その手には、グレイ先生のお気に入りのチョコレートの空箱が握られていた。
呆然と立ち尽くすグレイ先生に気付いた男性が近付いてきて箱を先生に押し付ける。
「邪魔してるよグレイ。あっこれなかなか美味しかったよ、はい」
「今日のお茶請けに用意していたのに、君ってやつは……」
空き箱を見つめながら幅広の肩をガクリと落とし重い溜め息を吐く。よっぽど楽しみにしてたんだろうな……
「はっはっはチョコくらいで大げさだなぁ。ところで隣の彼は一体誰だい? 紹介したまえよ」
チョコくらいって……先生にとっては大事な物なのに勝手に食べておいて酷い人だな……
先生に対して妙に馴れ馴れしくて、ちょっとムカつく男は先生の肩をバシバシ叩きながらひとしきり笑った後、俺の方へと視線を向けてきた。
「あぁ、彼はシュン君。私の大切な人だよ」
今日も今日とてグレイ先生のアトリエにお邪魔することになった俺は、ピシリとスーツを着こなす彼と肩を並べ歩みを進めていた。
うららかな午後の日差しが窓から差し込んできて思わず欠伸が出そうになる。
「今日は随分と眠そうだね……大丈夫かい?」
後ろに束ねた青い髪に艷やかな光が浮かぶ。大きくて優しい先生の手が俺の背中を支えるようにそっと添えられた。
「何だか疲れが溜まってるみたいで……すみませんグレイ先生」
……よっぽど、なのかな俺。心配してくれたダンが部屋まで来てくれたのに、なかなか目が覚めなかったし。
「……ごめんねシュン君。あれだけ大口を叩いたのに結局君に怖い思いをさせてしまった」
急にその場で立ち止まった先生は自分のことみたいに辛そうな顔をしていた。青い瞳には深い悲しみの色が宿っている。
「そんな……あのブレスレットが無かったら俺、今頃どうなってたか……どうか、あまり自分を責めないでください」
ブレスレットに施されていた魔術によって、俺の身を守ってくれた障壁。あの守りが時間を稼いでくれたから、魔獣の猛攻を防いでくれていたから、サルファー先輩が間に合ったのに。
先生の顔を見上げるように前に立ち、その手を握りしめると目尻がふっと緩んだ。
「ありがとう、シュン君。でも、私はどうしても自分を許すことが出来ないんだよ、それに……」
青い瞳を静かに見つめて続きを促すと先生は頬を朱に染めて口をもごもごさせながら呟いた。
「悔しいんだ……私以外の男が君を助けたという事実が。男の嫉妬は見苦しいというが、全くその通りだね」
自嘲めいた笑みを浮かべながら太い指がゆるりと俺の頬を撫でる。熱い。顔から火が出そうなくらいに。思いもよらない先生の気持ちを知ってしまったからだ。
「えっと……先生、俺、その……」
「ごめんね、また君を困らせてしまって。つい君のことを独り占めしたくなってしまうんだ」
「先生……」
「つまらない話をしてしまったね。今日は君に会わせたい人がいるんだよ。あまり待たせても悪いからね、少し急ごうか」
もう、いつもの先生だった。優しく微笑んでくれてから俺の手を引き、歩き出す。
俺はかける言葉が見付からず、ただ付き従うしかなかった。
先生がアトリエの扉を開けると見慣れぬ白衣の男性がテーブルに腰掛けていた。眼鏡にサラリとかかった水色の髪を指先で弄りながら、リスみたいに膨らませた頬をモグモグと動かしている。
その手には、グレイ先生のお気に入りのチョコレートの空箱が握られていた。
呆然と立ち尽くすグレイ先生に気付いた男性が近付いてきて箱を先生に押し付ける。
「邪魔してるよグレイ。あっこれなかなか美味しかったよ、はい」
「今日のお茶請けに用意していたのに、君ってやつは……」
空き箱を見つめながら幅広の肩をガクリと落とし重い溜め息を吐く。よっぽど楽しみにしてたんだろうな……
「はっはっはチョコくらいで大げさだなぁ。ところで隣の彼は一体誰だい? 紹介したまえよ」
チョコくらいって……先生にとっては大事な物なのに勝手に食べておいて酷い人だな……
先生に対して妙に馴れ馴れしくて、ちょっとムカつく男は先生の肩をバシバシ叩きながらひとしきり笑った後、俺の方へと視線を向けてきた。
「あぁ、彼はシュン君。私の大切な人だよ」
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