【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ

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【番外編】皆とバレンタイン6

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 すっかり茜色に染まってしまった練習場。人影はもうまばらで、冷や水をかけられたみたいに背筋が冷たくなってしまう。

 しまったなぁ……部活の後に二人きりで会えないかって、登校中にサルファー先輩と約束していたのに……

 つい居心地が良すぎて長居してしまった……先生の膝の上という誘惑には勝てなかったよ……至近距離には豊満な雄っぱいがあるしさ……

 うだうだ考えていても仕方がない。一縷の望みをかけ、剣術部が修練している奥の練習場を目指す。

 もし先輩が居なかったら電話して、帰ってるんだったら三年の寮まで行って謝ろう。

 事情は……詳しくは説明しづらいけど、誠心誠意謝れば許してくれるはずだ。

 大股で地面を蹴って進む俺の視線の先にベンチが映る。そこには、今朝見たばかりの明るい黄色の頭が見えて、思わず大きな声で呼びかけていた。

「サルファー先輩!」

 弾かれるように振り向いた先輩の表情は明るく微笑んでいた。ホッとしたせいだろう。少し涙ぐみそうになってしまった。


「ごめんなさい、遅くなってしまって……」

「いや、俺も丁度着替え終わったところだったからな。気にしないでくれ」

 あんなに走って疲れただろう? と俺の手を取るとベンチに座らせ、息が整うまで背中を撫でてくれた。

 優しい……さっきとは違う理由で心臓が騒がしくなってしまったんだが。

「……ありがとうございます。ところで、何の用事だったんですか? やっぱり部活関係ですか?」

 と聞いてはみたものの、俺はあくまで部員としては下っ端。それどころか体験入部の延長で、先輩が都合のいい時に指導してもらってるだけだもんなぁ……それ関係のお話だと、とても役に立てるとは思えないんだけど。

「いや、すまない……非常に言いにくいんだが……」

 困ったように笑う先輩の黄色の瞳が、ひっきりなしに左右に泳いでいる。なにかよっぽど深刻なことなんだろうか?

「……なんでも言ってください。俺、頼りないかもしれないけど、先輩の力になりたいです」

「ありがとう……シュン。だが、そんなにおおごとではなくてな……ただ、君に会いたかっただけなんだ」

「へ?」

「いや、渡したい物も有るんだぞ! ちゃんと! ただ、俺は、料理は出来ないし……かといってセンスがあるわけでも無くてな……だからこんな物しか用意出来なくて……」

 思わず間の抜けた声を出してしまった俺を見て、先輩が慌てたように弁解し始める。

 頬を真っ赤に染め、決まりが悪そうにガタイのいい身体を折り曲げるその姿には、普段の頼もしい先輩の面影は一ミリもない。へにょんと垂れ下がった犬の耳と尻尾の幻覚まで見えてくるくらいだ。

 可愛いな……めっちゃ頭、撫でたい……よしよししてあげたい……

 いやいや、先輩に対してなに失礼なことを考えているんだ俺は。

「だが、君を想う気持ちだけは他の誰よりも負けないつもりだ……受け取ってくれないか?」
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