【完結】俺の愛が世界を救うってマジ?

白井のわ

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早速、赤木さんとの甘いシチュエーション? 否、始まったのは、スポ根でした

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 施設内なら自由に行動して構わないから。話しするなり、遊ぶなり、スキンシップするなり、キスするなりして頑張ってイチャイチャしてね。

 実戦投入は八時間後。殲滅対象が少ない場所で行うし、万が一の時は緑山クンに変身してもらうから気負わずにいこーねー。

「……赤木さんって、やっぱり身体鍛えるの好きなんですか?」

「そうだな。それもあるが、いざって時に動けるように鍛えておきたいんだ」

 緊張感のない笑顔に見送られ、二人っきりにされた俺と、今日の訓練相手である赤木さん。

 現場の指揮はキミが執るんだしーリーダーが変身出来ないのはマズいでしょ? というのが人選理由だ。

 施設内に詳しくないのでお任せした結果、連れて来られたのはトレーニングルーム。

 ルームランナーの類は勿論、ジムで見たことのある筋トレ器具はフル完備。スイミング教室並みのプールにお風呂、サウナまである充実っぷりだ。どんだけ広いんだ、ここ。しかも貸し切りって。

「キミも好きなマシンを試すといい。泳ぎたい時は声をかけてくれ。一緒に行こう」

「え?」

 白い歯がこぼれる、爽やかな笑顔。少し固い手のひらで俺の肩を優しく叩くと広い背を向け、近くのマシンへ向かってしまった。

 手慣れた様子で座席の下を何やら扱ってから座り、左右から伸びる胸元の高さまであるレバーを掴んで前へ押し出している。重たい音と息遣いが一定のリズムを鳴らし始める。

 解散! 自由行動! と言わんばかりに取り残された。いやいやいや、それはないだろう。仲良くなれって言われたのに、仲良くならないと力を発揮出来ないってのに。

「赤木さんっ」

 慌てて駆け寄った俺を目にした途端にまた、爽やかな笑顔。流石イケメン。ちょっぴりときめいてしまったじゃないか。不覚にも。

「ん? どうした? プールに行きたいのか?」

「そ、そうじゃなくて……何か、しないんですか? 一緒に」

 少しつり目の瞳が瞬く。そんな意外そうな顔しないでもいいだろうに。

「……嫌じゃ、ないのか?」

「はい?」

「拘束し、無理矢理連れてきただけじゃない。俺は、キミを利用しようとしているんだぞ?」

 伏せられた赤の瞳には、同じ色が宿っていた。ヒスイと同じ寂しい色。

 ……やっぱり気にしていたんだ。いや、余計に気を遣わせたんだ。俺の覚悟が決まってなかったから。

 そうだ。全然ダメだった。口だけだった。守る為なら、戸惑ってる場合じゃないのに。

『世界の為なんだから、倫理観なんてごみ箱にポイしちゃいなよ』

 ……正しいな……くそっ……

「嫌じゃないです……だって、赤木さんも皆さんも、誰も悪くない……世界を守る為に頑張ってるんだから」

「天音……」

「俺も、今度こそ決めました……覚悟。だから、力を貸して下さい。俺だけじゃダメなんです。赤木さんの、皆さんの力が必要なんです」

 僅かに見開かれた、俺を映す赤。夕陽よりも眩い瞳が細められる。

「ありがとう……俺にも、俺達にもキミの力が必要だ。これから、よろしく頼む」

「はいっ」

 立ち上がりざまに差し出されたゴツゴツした手。握ると強く返される、剣だこのついた熱い手が、スゴく頼もしく感じた。



「で、やっぱりトレーニングですか……」

 壁全面が鏡張り、床にはヨガマットが敷かれたエリアに連れて来られたかと思えば、先ずはストレッチから始めよう! だもんなぁ。

「ああ、キミの為にトレーニングメニューを考えていたんだ。誘う勇気はなかったけれどね」

「俺の?」

 隣でお手本になってくれていた赤木さんと、鏡越しに目が合う。和やかだった空気がピリッと肌を撫でていく。雰囲気が変わった。

 黄色い声援が上がりそうな笑顔が引き締まる。緩やかな笑みを描いていたラインが、真一文字に結ばれた。

「今、キミに必要なのは足の速さだ。俺達に万が一があった場合、すぐに戦線を離脱することが出来る速さが」

「万が一って……」

 まさか、俺だけ逃げろってことか?

「俺達は武器だ。最悪、博士が何とかしてくれる。何らかの発明で、守護者でなくても戦えるようにしてくれるさ。変身出来なくても戦えるように、輝石から代用品を開発してくれたのは彼だからな」

 ただ前だけを見る、一切揺らぐことのない眼差し。断言した声が、酷く冷たく感じた。

「だが、キミは違う。キミの代わりはいないんだ。キミは生き残ることだけを考えろ。その為には俺達を見捨ててくれて構わない。皆、承知している。戦うと決めた時からな」

 そのまさかだった。しかも、皆、承知してるって……何だよ、それ。

 俺を見ていない瞳が、全てを悟っているような横顔が、あの時のヒスイと重なる。

『レンは、ここで待っていて』

 ……だから、何で、勘定に入れてないんだよ。

「……何で、簡単に割り切れるんですか?」

「天音?」

 また、意外そうな顔。何で問われたのか、分かっていない顔だ。

「……赤木さんだって、ヒスイも、黄川さんも青岩さんも、皆、代わりはいないじゃないですか……いる訳が、無いじゃないですか……」

 ようやく合った瞳が、眩しそうに俺を見つめている。

「……優しいな、キミは」

 寂しそうだった。諦めているような、受け入れているような、大人の声。

 大のために小を切り捨てる。よくある話。いや、常に行われていることだ。俺の知らない内に、今も何処かで。

 でも、嫌だ。我が儘だってのは分かってる。

 けど、知ったことか!

「もう、仲間でしょう? 俺達。だったら、団結すべきじゃないですか? 逃げる時も皆一緒に逃げましょうよ。その方が絶対に良いです。負けたっていいじゃないですか。体勢を立て直して、また戦えばいいじゃないですか。皆が無事なら、何とかなります」

 思わず握ってしまっていた手を、真っ赤な瞳が見つめる。確認しているみたいだった。

 そっと握って、緩めて、また握って……何度か繰り返してから小さく呟く。言い聞かせているみたいに。

「……負けたっていい、か。そうか……そうだな」

 弾かれるように上げた顔に、もう憂いはない。明るい笑顔が浮かんでいた。

「よっし! だったら、ますますトレーニングに励まなければな! 容赦なくビシバシいくから、しっかりついてくるんだぞ!」

 ニコッと開いた口から白い歯を見せつけながら、筋肉モリモリな腕が俺の背に回る。

 ガシッと抱き寄せ、ビシっと天高く指差す。眼の前に夕日か一番星でも見えてきそうだ。

「いや、何でそうなるんですか?」

 よっぽどトレーニングが好きなんだろうか。

 赤木さんとじゃ、博士が期待しているような甘い展開を描けそうにないな。青春熱血スポ根物語は絶賛描いているけれど。

「そりゃあ勿論、皆で帰る為さ。誰一人、欠けることなくな」

 少しだけ、ドキッとした。落ち着いた、けれども頼もしく力強い声が優しく語りかける。

「キミのことは俺達が全力で守る。だが、もしキミに敵の手が及んでしまった時、素早く躱すことが出来れば、キミが自分の身を守ることが出来れば、チームの生存率がぐっと上がるだろう?」

 確かに。皆が戦うことだけに集中出来れば、より早く確実に影を殲滅出来るな。

「……お願いします! 俺、頑張りますから! ビシバシやっちゃって下さい!」

「その言葉を待っていたぞ! 天音!」

 固くガシリと繋がれた手。やっぱり、始まるのはスポ根だった。
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