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恋愛強化訓練? 世界の為に四股しろ? 倫理観はどうなってんだよ!

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 間違いない。間違ってなんかある訳がない。

 確かに、感じた。触れ合ったハズだ。熱くて柔らかい温度と、なのに。

「何で、変身出来ていないんですか!? 赤木さん!!」

「俺だって聞きたいぞ! 天音!! 何故、俺は変身出来ていないんだっ!?」

 俺達が言い合っている間にも迫りくる人型の影の群れ。輪郭のボヤけた、いくつもの虚ろな腕が伸ばされ、触れようとした。その間近。

「俺とキスしたのに!!」
「キミとキスしたのに!!」

 仲良くハモった俺達の眼前で瞬く間に霧散した。

 俺を背に庇い、赤木さんがフルスイングした大剣。赤く煌めく刃の一閃が、邪魔だと言わんばかりに一蹴した。





「やぁやぁキミ達グッドモーニング! いい知らせだよぉ。今すぐ作戦会議室に来てね!」

 部屋でヒスイと朝食を、丁度済ませた頃にかかった呼び出し。お互い制服のまま、訪れた部屋にはすでに昨日会った青年達の姿があった。

 三人共似たような服装だ。

 黒いズボンに黒のブーツ……ジャケットなんか同じデザインだ。色違いの。

 こちらも黒をベースに、肩から袖、胸元から裾に向かって太いラインがアクセントとして入っている。色は髪の色と同じ、赤、黄、青。

 なんか、アイドルみたいだな。皆顔が整っているから、余計にそう見えてしまう。

 赤木さん……だっけ、リーダーっぽかった彼は、いかにもスポーツ万能そうな爽やか系。

 ヒスイを渾名で呼び、明るく気さくな感じだった黄川さんは、モデルみたいな華やかさがある。

 そして、常に表情を崩さず、冷静沈着だった青岩さんは、眼鏡が似合う知的なイケメン。やっぱりアイドル集団では? 戦闘集団ではなくて。

 それにしても、呼び出した張本人、白花博士が居ないのはどういうことだ?

「おはようございます、赤木先輩、黄川先輩、青岩先輩」

「おはようございます」

 何はともあれ先ずは挨拶。ヒスイに続いて彼らに頭を下げる。途端に、ホッとしたように顔を綻ばせた青年達。

「ああ、おはよう」

「おっはよー!」

「おはよう、二人共身体は大丈夫か?」

「はい、俺は大丈夫です」

「俺も……大丈夫、です」

 もしかして、気にしていたんだろうか? 昨日のことを。

 確かに彼らの手によって拘束されたのは事実だ。でも、強制されてだ。彼らだって被害者だろうに。

「おはよう、皆集まってるねぇーいいねぇ、いいよぉ」

 諸悪の根源側がやって来た。間延びした声でへらへらと。おはようございます、と頭を下げる皆と一緒に俺も返す。

 ひらひらと白衣を揺らし歩み寄ってきた博士がヒスイを眺めてから呟く。

「あれぇ、緑山クン隊員服は?」

「すみません……急いでいたので」

「そっかぁ、ならしょうがないねぇ。はい、天音クン」

 提げていた紙袋から、勢いよく取り出されたのは見覚えしかないジャケット。

 そう、彼らが着ている色違い。ピンク? いや、明るい紫にも見えるラインが印象的だ。

「これ……」

「キミの隊員服だよ。ここの一員だって証さ。防刃、防弾、防火は勿論だけどー……軽くて通気性抜群、肌にも優しいからね、結構快適だよ?」

 出来れば作戦中以外も着ていて欲しいな、と手渡された袋には、ズボンとブーツも収まっていた。曰く、こちらも機能性抜群らしい。戦闘服ってことか。

「さてさて、いいお知らせについてだけれど……天音クンが神子であることが確定しましたーやったね!」

 リアクションはてんでバラバラ。

 やっぱりな、っていう納得顔だったり、ホッと安堵していたり、特に驚きもしなかったり。ヒスイは相変わらず、複雑そうな顔で眉間のシワを深くしている。

 イヤ……なんだろうか。俺が戦うの。

 とはいえ、これだけは譲れない。ヒスイは俺が守るんだから。

 黒野センセから聞いたとは思うけど、と前置き。その後博士が話した内容は一緒だった。

「はいはーい、ここまでで何か質問はあるかな? 天音レンクン」

「……いえ」

 席についている俺達の前に立つ博士が、胡散臭い笑顔で尋ねる。正直、飲み込めてはいないが、気になることは特にない。分からないことが分からないってヤツだ。

「じゃあ、天音クンへの説明も終わったことだしー早速、恋愛強化訓練やってくよー!」

「恋愛?」

「強化訓練?」

 何じゃそりゃ。

「キミ達が守護者としての力を存分に発揮するには、神子である天音クンとの愛を育む必要がある。緑山クンは元々天音クンと仲良しだから、空いた時間にかるーくキスしといてくれればオッケーだけど、赤木クン達は初対面だからねぇ」

 あ、愛って、かるーくって……ホントこの人、普通じゃない。俺を、俺達を何だと思ってるんだ。

 スッと手が上がる。青岩さんだ。切れ長の目が、スクエアタイプの眼鏡越しに真っ直ぐ見つめている。

「済みません、博士。キスが変身のトリガーではなかったのですか?」

「……勿論、必須条件だよーでもね、変身を安定させる為には、皆が天音クンと仲良くならないとダメなんだよーほら、緑山クンの変身もスグに解けちゃったでしょ?」

 答えを求めるように、皆の視線がヒスイに集まる。確かに影を全滅させてすぐに役目を終えたみたいに消えちゃったっけ。光の粒になって。

「はい。俺自身は解いたつもりはなかったんですけど……」

「そうか、昨日のように一撃で一掃出来ればいいが……」

「増援が来ちゃってたら、マズかったかもね」

 腕を組み、表情を渋くした赤木さん。頷く黄川さんの声にも、いつもの明るさがなくなってしまっている。喜んでるのは博士だけだ。

「そうそう! という訳で、早急に隊員の皆と恋愛関係を構築してほしいんだよね! 天音クンを中心としたラブラブハーレムを!」

「……は、ハーレムって……まさか、俺に四股しろって言ってます?」

「うんっ! 世界の為なんだから、倫理観なんてごみ箱にポイしちゃいなよ」

 滅茶苦茶イイ笑顔だ。いっそ清々しいくらいに。

「というか、ヒスイだけじゃないんですか? 皆さん、お、俺と……キスしないと変身出来ないんですか?」

「うんっ! あれ? 言ってなかったっけ?」

「聞いてません! そもそも、皆さんはそれで……」

 それでいいんですか? と。嫌じゃないんですか? と。尋ねようとして、気づいた。

 いまだ現状を見れていないのは、子供なのは、俺だけなんだと。

「すまない……キミに負担ばかり強いてしまって」

「ごめんね……でも、オレ達にはキミの力が必要なんだよ」

「狡いとは分かっている、世界を盾にするのは……だが、僕達は……いや、済まない……何を言っても言い訳にしかならないな」

 とっくの昔に覚悟を決めた顔だった。同じ顔だ。昨日、影に立ち向かっていったヒスイと同じ。

 ふと手の甲に、温かい感触。握ってくれたのは、落ち着く体温。今の俺を支える唯一のよすが。

「ヒスイ……」

 緑の光が、寂しげに揺れていた。

「……訓練って、何をすれば良いんですか?」
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