【完結】俺の愛が世界を救うってマジ?

白井のわ

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黒野先生……いや、キョウヤさんと

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 すでに日は落ちてしまっているけれど、白を基調とした部屋は変わらず俺を迎えてくれた。少し気怠げな笑顔も。

「いらっしゃい。今日は……コーヒーは止めておこうか。眠れなくなるといけないからね」

 白い頬にサラリとかかった黒髪を耳にかけ、黒野先生がいつもの席を俺に勧めてくれる。

「ごめんなさい、遅い時間に」

「言っただろう? いつでも連絡してくれと」

「ありがとうございます」

 ホットミルクかな。テーブルの上で二人分のマグカップから立ち上る湯気が甘い香りを室内に漂わせている。先生は甘党だから蜂蜜入りかも。

「それで、何を悩んでいるんだ?」

「その……鎧兜のこと、なんですけど」

 向かいでリラックスしていた長身の体躯に緊張が走る。上品に傾けていたカップを置き、静かに俺の続きを待った。

「どうにかして……話し合うことって出来ないんですかね」

 紫の瞳が見開かれ、シワの寄った眉間にさらにもう一本深いのが刻まれる。

「す、すみません……変なこと言ってるってのは分かってるんですけど……」

「理由は?」

「え……」

「君がそう思ったからには、何か理由が有るんだろう?」

 促されて、蘇った。今でも頭にこびりついて離れない……切なくて焦がれるような声が。

「あの人、言ってたんです……ようやく取り戻せるって、セレネ……君をって」

 形のいい眉がぴくりと跳ねた。

「セレネって、人の名前……ですよね? だから、もしかしたらあの人も……誰か、大切な人の為に」

「だから、構わないと?」

 遮られた声の低さに今度は俺の肩がビクリと跳ねる。

「え?」

 呆れたような吐息を漏らし、立ち上がる。

 ブーツの底で甲高い音を鳴らしながら歩み寄ってきた長身が、俺の顔に影を落とした。

「青岩君は、君は殺されかけたんだぞ? 仮に君の思う通りだったとして……奴の望みが叶うならば、仲間が自分が犠牲になってもいいと、そう思うのか?」

「それはっ!」

 立ち上がりざまに椅子が激しい悲鳴を上げる。マグカップからこぼれたミルクが、テーブルに数滴のシミを作っていく。

 見下ろす紫はほんの少しも揺るがなかった。

「っ……それは……」

 頭に過る陽だまりみたいに温かい笑顔。ヒスイ、コウイチさん、ダイキさん、アサギさん……黒野先生、博士。

「……イヤ、です……死ぬのはイヤだ……皆が死ぬのはもっと……絶対にイヤだ……」

「……ならば考えないことだ。迷いは、哀れみは決断を鈍らせる。捨てなさい。大事なものを失いたくなければ」

「……はい」

「いい子だ」

 温かい手が俺の頬を撫でてくれる。もう先生は優しい口調に戻っていた。

「ところで……このことは誰かに話したのか?」

「いえ、黒野先生が初めてですけど」

「そうか」

 吐息をフッと漏らした口元が柔らかい笑みを描く。

「それだけ、私に信頼を寄せてくれてると……君の特別になれていると自惚れてもいいのかな?」

「へ? そ、それは……頼りに、してますけど……」

「レン……」

 ごく自然な動きだった。腰を抱かれ、顎を優しく持ち上げられる。キス……される。

「あ……ま、待って……待って下さい……」

 寸前で止まってくれた微笑みが切なく歪んだ。

「もう……私は用済みか? 彼等に、緑山君達に愛してもらえているから?」

「そんな……そもそも、俺だけでしょう? 俺が黒野先生のこと好きってだけで、先生は俺のこと、何とも……んっ」

 今度は止まってくれなかった。噛みつくみたいに塞がれて口づけられた。まるで先生の温度を刻みつけられてるみたいに、何度も何度も。

「んん……ふ、ぅ……っん、ん……」

 こんな時でも俺は嬉しいと思ってしまっていた。無理矢理なのに。俺だけなのに。

「は、ぁ……言った……のに、待って、って……」

「こうでもしないと分からないだろう? あれだけアピールしていたのに伝わっていなかったんだからな」

「? アピールって……」

 肩をそっと掴まれる。熱を帯びた紫の瞳が俺を真っ直ぐに射抜いた。

「好きだ」

「……え?」

「君が好きだ。愛してる」

「ふぇっ!?」

「どうだ? 君だけじゃないだろう?」

 柔らかく、どこか得意げに微笑む唇が優しく触れてくれる。そっと取られた手の甲に、まるで誓いを捧げるみたいに。

「レン……」

 いけないのに……縋るみたいに見つめられると堪らなくなってしまう。込み上げてきてしまう。好きだって……俺も先生のことが好きだって。

「せんせ……」

「名前を呼んでくれないか?」

「……キョウヤさん」

「レン、愛してる……どうか私を受け入れて欲しい……愛してくれないか?」

 指を絡めて繋がれて、額がそっと重なった。熱く求めるような眼差しに囚われて鼓動が一際高鳴った。

「……はい、俺もキョウヤさんのこと……愛してます……」

 吐息が触れ合う寸前だった。突然俺達の間で眩い白が輝き始める。

 煌めく粒子が集まり、続けて鳴った金属がかち合うような高い音。

 現れ、浮かぶ結晶は輝石に似ていた。でも形が違う。まるで宝石をハート型にカットしたような。

「……ああ、本当に君は私を愛してくれていたんだな……愛してしまったんだな……」

 結晶を手にしたキョウヤさんが静かに呟く。嬉しそうなのに酷く嘆いているような声だった。

「……キョウヤさん? これは、一体?」

「神子と守護者……想い合う両者が愛を誓い合うことによって生まれる輝石」

 ……愛の輝石。

「これが……え? でも、何で……キョウヤさんと?」

「愛の輝石は邪神をも封じる力を持つ……だが同時に邪神への、我らが神への最上の供物となる……復活を果たす為のな」

「何を……言って……」

 俺達を照らしていた明かりが消え、室内を薄闇が支配する。水溜りが広がっていくみたいに足元からどろりとした影が滲み出していく。

 纏っていた白衣が影に染まった。アイツと同じだ。あの鎧兜と同じ……漆黒の鎧。

 黒い金属に覆われた指先が俺の頬を冷たく撫でた。

「哀れで愛おしい私のレン……大丈夫、君が気に病むことはない……眠っていなさい。その間に全てを終わらせてあげよう」

「そんな……ウソだ……キョウヤさ……っ……」

 ……瞼が重い。身体も言う事を聞いてくれない。全身に鉛を背負っているみたいだ。

 耐えられず、膝から崩れ落ちた俺をキョウヤさんが静かに見下ろしている。

「言っただろう? 人の一面を見ただけで信用してはならないと……私は邪神の守護者。影の一族の生き残り……全てはこの時の為だった……愛していたよ……レン」

 紫の瞳が寂しそうに微笑む。

「キョウ、や……」

 最後の力を振り絞り、伸ばした手は届かなかった。深い眠りに落とされるように、遠ざかっていく意識と一緒にゴトリと落ちて闇に飲まれた。
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