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月にはウサギ、じゃあ死者の国? には
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みゃ、みゃう……
直ぐ側で何かが鳴く声がする。可愛い鳴き声だ。猫、だろうか?
月にはウサギがいるなんて、昔話やら何やらで聞いたことがあるけれども。死者の国には猫が居るのか。
当たり前だけど、猫語なんて分からない。けれども、どこか不安気なその声は、何だか俺のことを心配してくれているような。
みゅ、みゅあ……なぁぅ……
また、俺へと呼びかけるように鳴いてから、頬の辺りに柔らかな毛が触れた。ふかふかだ。
どうやら、この子は随分と人懐っこいタイプらしい。手探りで触ってみても、驚いたり、逃げたりするような様子もない。自ら手のひらへと擦り寄ってきてくれた。
「大、丈夫……今、起きる、から……」
死んでいるのに起きるって、変な感じだけれども。
「みゃっ」
重たい瞼をどうにか開ければ、それはそれは嬉しそうな声で鳴いた。
ボヤけていた視界が瞬きを繰り返すことで徐々にクリアになっていく。見えてきたのは、触った感触通りのふわふわな毛並み。ドングリのような愛らしい瞳。それから、イタチのように長い胴体。
「……猫? 新種の?」
「みゅあ?」
ぼくに尋ねられましても。
そう言わんばかりに、真っ白なマフラーのようなもふもふが小首を傾げた。というか、どこまでが首でどこからが胴体なんだ?
仰向けに寝ていた俺の胸元にちょこんと乗っかり、長い首、いや胴体? を伸ばすようにして俺を見つめていた謎の猫。そのふわもふな身体を起き上がりざまに抱き上げる。
「みゃ、みゅ、みゅうわっ」
構ってもらえたと思っているのか、白い謎猫は嬉しそうに尻尾を、いや身体全体を? ふわふわと揺らしていた。小さな前足が俺の手のひらにちょこんと乗せられた。
「前足は……あるな。じゃあ、後ろ足も? ……あるな」
これで歩けるのかと、失礼にも心配してしまう程。可愛らしい足が撫で心地のいい毛並みに埋もれている。
抱えてみたことで分かったが、子猫のように軽い。それから、やっぱりマフラーみたいだ。細長く見えるイタチでも背骨のラインというか、人で言うくびれというか、どこから部位が切り替わるかは見て分かるもんなのに。
「耳は……なさそう……いや、小さくて毛に埋もれてるだけ、なのか?」
「みゅう……みゅぁ……」
謎猫はやはり懐っこく、あまり触られたくなさそうな顔の周りを触っても、甘えるような声を上げて指先へと擦り寄ってきてくれる。その仕草はやはり愛らしく、毛並みは綿毛のように柔らかで心地がいい。
「……何でもいいか」
新種の猫であろうが、俺の全く知らない生物だろうが。この子が俺を心配してくれて、懐いてくれていることに変わりはない。
じゃあ、まぁ、それでいいんじゃないだろうか。死んでもまだこうして俺でいられているのだ。そんな不思議に比べれば大したことはない。それに。
「可愛いもんな」
「みゃっ」
膝の上で丸まっていた細長いふわふわが、顔を上げて明るく鳴く。賢いな。褒められたことは分かっているようだ。
そう言えば。今更ながら自身を見る。
動かせたし、感覚があるから分かっていたが、やっぱり五体満足だ。ケガをしている感じもなければ、痛みや不調もない。
濡れてもいないし、服も着ていた。でも、最期に着ていた服ではなかった。パジャマというか、甚平、だっけ? 浴衣と似た感じの。そんな服と足首までの丈があるズボンをはいていた。着心地は悪くはない。寧ろ動きやすくて快適だ。
念の為、深呼吸をして。両手を握って、開いてを何度か繰り返す。そろそろと足も動かしてみて。改めて何の問題もないと思えたところで周囲を見渡した。
「それにしても……随分と殺風景なんだな。死者の国ってヤツは」
「みゅあ?」
俺が眠っていたところは有難いことにベッドの上だった。シングルよりも大きく、広い。自室のベッドよりも寝心地が良いかもしれない。
以上。他に目ぼしい物はない。またしても可愛らしく首を傾げているこの子と同じで真っ白な部屋があるだけだった。窓一つないから、余計にその白さが際立っている。
「いや、病室……みたいだな。床も壁も、扉すらも真っ白で……扉?」
もしかして、国ですらなかったんじゃ。いや、そもそも、ここは本当に、死者の国なのか? 普通に、何処かの病室とか? 俺はまだ生きていて?
待ち合わせ場所は、いつもの喫茶店でいいか?
果たせなかった、最期の約束。別に、特別でも何でもない、いつもの約束。俺が生きているなら、アイツも、もしかして。
「っ……」
「みゃぅっ」
俺が立ち上がろうとする気配を察したのか、寛いでいた温もりが飛び跳ねるように膝の上から降りていった。悪いことをしてしまったと思いつつも驚く声に構ってはいられない。
確かめないと。
走ればすぐに辿り着けた扉のノブを力任せに掴む。ビクともしない。引いてみようが、押してみようが動かない。そもそも手応えがない。何で? 鍵でもかかって。
「……落ち着いて、下さい」
不意に聞こえてきたのは、耳に馴染む、柔らかな声だった。
咄嗟に声のした方を見上げたものの、やはり白い天井ばかりが広がっているだけ。部屋へと声を届ける、スピーカーのような物を見付けることは出来なかった。かといって、扉の方から聞こえていた感じはしない。
「っ、誰、ですか? ここは、一体」
「落ち着いて下さい……どうか……」
本当に俺のことを心配してくれているだけのようだ。
直ぐ側で何かが鳴く声がする。可愛い鳴き声だ。猫、だろうか?
月にはウサギがいるなんて、昔話やら何やらで聞いたことがあるけれども。死者の国には猫が居るのか。
当たり前だけど、猫語なんて分からない。けれども、どこか不安気なその声は、何だか俺のことを心配してくれているような。
みゅ、みゅあ……なぁぅ……
また、俺へと呼びかけるように鳴いてから、頬の辺りに柔らかな毛が触れた。ふかふかだ。
どうやら、この子は随分と人懐っこいタイプらしい。手探りで触ってみても、驚いたり、逃げたりするような様子もない。自ら手のひらへと擦り寄ってきてくれた。
「大、丈夫……今、起きる、から……」
死んでいるのに起きるって、変な感じだけれども。
「みゃっ」
重たい瞼をどうにか開ければ、それはそれは嬉しそうな声で鳴いた。
ボヤけていた視界が瞬きを繰り返すことで徐々にクリアになっていく。見えてきたのは、触った感触通りのふわふわな毛並み。ドングリのような愛らしい瞳。それから、イタチのように長い胴体。
「……猫? 新種の?」
「みゅあ?」
ぼくに尋ねられましても。
そう言わんばかりに、真っ白なマフラーのようなもふもふが小首を傾げた。というか、どこまでが首でどこからが胴体なんだ?
仰向けに寝ていた俺の胸元にちょこんと乗っかり、長い首、いや胴体? を伸ばすようにして俺を見つめていた謎の猫。そのふわもふな身体を起き上がりざまに抱き上げる。
「みゃ、みゅ、みゅうわっ」
構ってもらえたと思っているのか、白い謎猫は嬉しそうに尻尾を、いや身体全体を? ふわふわと揺らしていた。小さな前足が俺の手のひらにちょこんと乗せられた。
「前足は……あるな。じゃあ、後ろ足も? ……あるな」
これで歩けるのかと、失礼にも心配してしまう程。可愛らしい足が撫で心地のいい毛並みに埋もれている。
抱えてみたことで分かったが、子猫のように軽い。それから、やっぱりマフラーみたいだ。細長く見えるイタチでも背骨のラインというか、人で言うくびれというか、どこから部位が切り替わるかは見て分かるもんなのに。
「耳は……なさそう……いや、小さくて毛に埋もれてるだけ、なのか?」
「みゅう……みゅぁ……」
謎猫はやはり懐っこく、あまり触られたくなさそうな顔の周りを触っても、甘えるような声を上げて指先へと擦り寄ってきてくれる。その仕草はやはり愛らしく、毛並みは綿毛のように柔らかで心地がいい。
「……何でもいいか」
新種の猫であろうが、俺の全く知らない生物だろうが。この子が俺を心配してくれて、懐いてくれていることに変わりはない。
じゃあ、まぁ、それでいいんじゃないだろうか。死んでもまだこうして俺でいられているのだ。そんな不思議に比べれば大したことはない。それに。
「可愛いもんな」
「みゃっ」
膝の上で丸まっていた細長いふわふわが、顔を上げて明るく鳴く。賢いな。褒められたことは分かっているようだ。
そう言えば。今更ながら自身を見る。
動かせたし、感覚があるから分かっていたが、やっぱり五体満足だ。ケガをしている感じもなければ、痛みや不調もない。
濡れてもいないし、服も着ていた。でも、最期に着ていた服ではなかった。パジャマというか、甚平、だっけ? 浴衣と似た感じの。そんな服と足首までの丈があるズボンをはいていた。着心地は悪くはない。寧ろ動きやすくて快適だ。
念の為、深呼吸をして。両手を握って、開いてを何度か繰り返す。そろそろと足も動かしてみて。改めて何の問題もないと思えたところで周囲を見渡した。
「それにしても……随分と殺風景なんだな。死者の国ってヤツは」
「みゅあ?」
俺が眠っていたところは有難いことにベッドの上だった。シングルよりも大きく、広い。自室のベッドよりも寝心地が良いかもしれない。
以上。他に目ぼしい物はない。またしても可愛らしく首を傾げているこの子と同じで真っ白な部屋があるだけだった。窓一つないから、余計にその白さが際立っている。
「いや、病室……みたいだな。床も壁も、扉すらも真っ白で……扉?」
もしかして、国ですらなかったんじゃ。いや、そもそも、ここは本当に、死者の国なのか? 普通に、何処かの病室とか? 俺はまだ生きていて?
待ち合わせ場所は、いつもの喫茶店でいいか?
果たせなかった、最期の約束。別に、特別でも何でもない、いつもの約束。俺が生きているなら、アイツも、もしかして。
「っ……」
「みゃぅっ」
俺が立ち上がろうとする気配を察したのか、寛いでいた温もりが飛び跳ねるように膝の上から降りていった。悪いことをしてしまったと思いつつも驚く声に構ってはいられない。
確かめないと。
走ればすぐに辿り着けた扉のノブを力任せに掴む。ビクともしない。引いてみようが、押してみようが動かない。そもそも手応えがない。何で? 鍵でもかかって。
「……落ち着いて、下さい」
不意に聞こえてきたのは、耳に馴染む、柔らかな声だった。
咄嗟に声のした方を見上げたものの、やはり白い天井ばかりが広がっているだけ。部屋へと声を届ける、スピーカーのような物を見付けることは出来なかった。かといって、扉の方から聞こえていた感じはしない。
「っ、誰、ですか? ここは、一体」
「落ち着いて下さい……どうか……」
本当に俺のことを心配してくれているだけのようだ。
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