どうか、教えて下さい人間様(毎日更新中)

白井のわ

文字の大きさ
4 / 84

それだけ?

 理由もなく俺を閉じ込めるような、話の通じない感じはしない。
 ちょんと控えめに、足首に何かが触れてきた。白いふわふわのあの子が寄り添ってくれるようにそこにいた。身体を丸めて、また俺を心配そうに見つめている。

「みゅ……なぁう……」

「あ……」

 強張っていた肩の力が抜けていく気がした。
 頭の中を変に熱くさせていた何かも和らいできて、気にしていなかった自身の鼓動が煩く響く。胸に手を当て、浅くなっていた呼吸を整えてからしゃがみ込む。

「さっきはごめん、驚かせて……大丈夫か? ケガとか、してないか?」

「みゃっ」

 元気よく鳴いてから、その場でゆっくりひと回り。ほら、何ともないでしょう? と俺に見せてくれているようだった。

「みぁ、みゅっ」

 ふわふわな身体がみょいんっと伸びた。小さな後ろ足で立ちながら、膝小僧に乗せていた俺の手に前足をちょこんと乗せてくる。手のひらを差し出せば、自ら頭を擦り寄せてきてくれた。

「……ありがとう」

 みゃっ!
 小さな口がにぱっと笑うように開く。元気な声と共に胸元へと飛び込んできた小さな温もりを慌てて受け止めた。



「……安心しました。落ち着いて頂けたようで」

 待っていてくれたんだろう。
 首やら胴体やらをめいいっぱい伸ばして、頬へと擦り寄ってきてくれていたふわふわ。この子が満足して、構って撫でている間に俺の気分も和らいでいて。そんな頃に改めて、声をかけてきたのだから。

「あ……えっと、ごめんなさい……」

「気にしないで下さい、人間様。貴方の反応は至極当然なものです。目が覚めたら、見知らぬ場所に居たのですから。何の説明もなく」

 何か、引っかかるような感覚はあった。けれども、それよりもこの人は何か知っているんじゃないかと、教えてくれるのではないかという期待の方が勝っていた。

「あの、俺、聞きたいことが」

「生きています」

「え」

「貴方だけではありません。他の人間様も、この星に住む生き物全てが何の問題もなく生きております」

「皆、生きて……?」

 思い出されるのは、青、青、青。
 全てが飲み込まれたハズだった。人も、散歩中の犬も、多分虫や鳥だって。そもそも街全体があの液体に。なのに。

「勿論、貴方がお会いする予定だったお友達も」

 ふと浮かんだ。屈託なく笑うアイツの顔が。

「そ、か……本当に生きて……」

 落ち着いてはいたものの、胸の奥で燻ぶり続けていた不安。それが、今度こそ消えていくような。不思議と、この声が言うことを信じることが出来ていた。
 嬉しいハズなのに、鼻がツンと痛んで視界がみるみる内にボヤけていってしまう。ぼろぼろと頬を、顎を伝い落ちてしまう。

「なぁう……」

 腕の中で寛いでいたこの子にまた心配をかけてしまっていた。柔らかな毛並みが濡れてしまうのに、俺の頬に擦り寄ってきてくれた。

 この人も、気遣ってくれているんだろう。また少し待ってくれてから、遠慮がちに話しかけてきた。

「……大丈夫、ですか?」

「……ごめん、取り乱してしまって」

「その反応も当然かと。少し、休まれますか?」

「いや、大丈夫……だから、話の続きを聞かせて欲しい……」

 分かりました。
 了承してくれた声色には、まだ心配が滲んでいるように思えた。やっぱり悪い人ではなさそうだ。

「先程もお伝えしましたが、この星の皆様は全てご無事です……ですが、私の言葉だけでは信じられないことは分かっています。貴方が置かれている現状に対しても、納得が出来る説明も必要でしょう」

「そりゃあ、まぁ……でも、いいのか? そういうのって、機密事項とかだったりするんじゃ」

「貴方には知る権利がございます」

「そっか……それじゃあ、教えて欲し……いや、お願いします、教えて下さい」

「分かりました。ただ、その前に一つだけ、宜しいでしょうか?」

 緩みかけていた気持ちが引き締まる。イヤな緊張が背筋に走った。
 やっぱり交換条件の一つや二つあるよな。機密事項なんだし。俺が出来ることなら良いけど。

見えないスピーカーの向こうからも、緊張が伝わってくるような。張り詰めた空気の中、ふわふわなこの子だけが、俺の胸元に擦り寄りながら呑気にくわぁっと欠伸をしていた。

「……姿を見せないままでは不誠実だと私は思います」

「へ?」

「このままでも、説明をする上では何も問題はありません。ですが、やはり面と向かっての方が……ですから、今から人間様の居るお部屋にお邪魔しようと思うのですが……宜しいでしょうか?」

 早口で述べられた言葉は、声色から伝わってくる焦りからか、まるで言い訳を並べているように聞こえた。けれども内容自体は至極真っ当なことを言っていたと思う。思うのだけれども。

「……えっと? つまり?」

「……貴方と会って話がしたい……そうお願いしております」

「俺と、会って?」

「はい」

「それだけ?」

 つい俺は口にしてしまっていた。明らかに友好的に接してくれている相手に対して、失礼だよな、と思いながらも。

「それだけ、とは?」
感想 2

あなたにおすすめの小説

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

捜査のあとはキミを食べたい!

インナケンチ
BL
警視庁イチ強面で柄が悪いと悪評高い捜査一課の刑事・陣内宗佑、46歳。 未婚の独身で浮いた話もない彼を、一途に慕う美しい青年がいて……。

推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました⁉~前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します~

いつく しいま
BL
やり込んだBLゲームの世界に転生していた。 しかも僕、そのゲームの推しを弁護することになりました。 ――前世は一流弁護士、現世は17歳の下級兵(モブ)。 冤罪に苦しむヴィラン攻略対象たちを、論理とハッタリで守り抜こうか! 腐敗した司法、王家の陰謀、国家規模の裁判戦争―― 全てをひっくり返したら、なぜか推したちに溺愛されることになって!? ちょっと待って、これ重大案件!!! *** ※男主人公をめぐる逆ハーレムあり ※法廷・ミステリーパート中心(基本理解できる範囲になっております) 以前こちらで投稿していた作品を、2章の構成を整えて再投稿します。以前読んでくださっていた方、本当にありがとうございました。3月9日追記:2章中盤45話まで一挙公開しました! 以降は基本二日~三日に1話ずつ公開となります。

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!

かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。 その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。 両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。 自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。 自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。 相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと… のんびり新連載。 気まぐれ更新です。 BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意! サブCPに人外CPはありますが、主人公は人外CPにはなりません。 (この世界での獣人は人間の種類の一つですので人外ではないです。) ストックなくなるまでは07:10に公開 他サイトにも掲載してます

春野くんち―僕の日常は、過保護な兄弟たちに囲まれている―

猫に恋するワサビ菜
BL
春野家の朝は、いつも賑やかで少しだけ過保護。 穏やかで包容力のある長男・千隼。 明るくチャラめだが独占欲を隠さない次男・蓮。 家事万能でツンデレ気味な三男・凪。 素直になれないクールな末っ子・琉生。 そして、四人の兄弟から猫のように可愛がられている四男の乃空。 自由奔放な乃空の振る舞いに、兄たちは呆れながらも、とろけるような笑顔で彼を甘やかす。