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それだけ?
理由もなく俺を閉じ込めるような、話の通じない感じはしない。
ちょんと控えめに、足首に何かが触れてきた。白いふわふわのあの子が寄り添ってくれるようにそこにいた。身体を丸めて、また俺を心配そうに見つめている。
「みゅ……なぁう……」
「あ……」
強張っていた肩の力が抜けていく気がした。
頭の中を変に熱くさせていた何かも和らいできて、気にしていなかった自身の鼓動が煩く響く。胸に手を当て、浅くなっていた呼吸を整えてからしゃがみ込む。
「さっきはごめん、驚かせて……大丈夫か? ケガとか、してないか?」
「みゃっ」
元気よく鳴いてから、その場でゆっくりひと回り。ほら、何ともないでしょう? と俺に見せてくれているようだった。
「みぁ、みゅっ」
ふわふわな身体がみょいんっと伸びた。小さな後ろ足で立ちながら、膝小僧に乗せていた俺の手に前足をちょこんと乗せてくる。手のひらを差し出せば、自ら頭を擦り寄せてきてくれた。
「……ありがとう」
みゃっ!
小さな口がにぱっと笑うように開く。元気な声と共に胸元へと飛び込んできた小さな温もりを慌てて受け止めた。
「……安心しました。落ち着いて頂けたようで」
待っていてくれたんだろう。
首やら胴体やらをめいいっぱい伸ばして、頬へと擦り寄ってきてくれていたふわふわ。この子が満足して、構って撫でている間に俺の気分も和らいでいて。そんな頃に改めて、声をかけてきたのだから。
「あ……えっと、ごめんなさい……」
「気にしないで下さい、人間様。貴方の反応は至極当然なものです。目が覚めたら、見知らぬ場所に居たのですから。何の説明もなく」
何か、引っかかるような感覚はあった。けれども、それよりもこの人は何か知っているんじゃないかと、教えてくれるのではないかという期待の方が勝っていた。
「あの、俺、聞きたいことが」
「生きています」
「え」
「貴方だけではありません。他の人間様も、この星に住む生き物全てが何の問題もなく生きております」
「皆、生きて……?」
思い出されるのは、青、青、青。
全てが飲み込まれたハズだった。人も、散歩中の犬も、多分虫や鳥だって。そもそも街全体があの液体に。なのに。
「勿論、貴方がお会いする予定だったお友達も」
ふと浮かんだ。屈託なく笑うアイツの顔が。
「そ、か……本当に生きて……」
落ち着いてはいたものの、胸の奥で燻ぶり続けていた不安。それが、今度こそ消えていくような。不思議と、この声が言うことを信じることが出来ていた。
嬉しいハズなのに、鼻がツンと痛んで視界がみるみる内にボヤけていってしまう。ぼろぼろと頬を、顎を伝い落ちてしまう。
「なぁう……」
腕の中で寛いでいたこの子にまた心配をかけてしまっていた。柔らかな毛並みが濡れてしまうのに、俺の頬に擦り寄ってきてくれた。
この人も、気遣ってくれているんだろう。また少し待ってくれてから、遠慮がちに話しかけてきた。
「……大丈夫、ですか?」
「……ごめん、取り乱してしまって」
「その反応も当然かと。少し、休まれますか?」
「いや、大丈夫……だから、話の続きを聞かせて欲しい……」
分かりました。
了承してくれた声色には、まだ心配が滲んでいるように思えた。やっぱり悪い人ではなさそうだ。
「先程もお伝えしましたが、この星の皆様は全てご無事です……ですが、私の言葉だけでは信じられないことは分かっています。貴方が置かれている現状に対しても、納得が出来る説明も必要でしょう」
「そりゃあ、まぁ……でも、いいのか? そういうのって、機密事項とかだったりするんじゃ」
「貴方には知る権利がございます」
「そっか……それじゃあ、教えて欲し……いや、お願いします、教えて下さい」
「分かりました。ただ、その前に一つだけ、宜しいでしょうか?」
緩みかけていた気持ちが引き締まる。イヤな緊張が背筋に走った。
やっぱり交換条件の一つや二つあるよな。機密事項なんだし。俺が出来ることなら良いけど。
見えないスピーカーの向こうからも、緊張が伝わってくるような。張り詰めた空気の中、ふわふわなこの子だけが、俺の胸元に擦り寄りながら呑気にくわぁっと欠伸をしていた。
「……姿を見せないままでは不誠実だと私は思います」
「へ?」
「このままでも、説明をする上では何も問題はありません。ですが、やはり面と向かっての方が……ですから、今から人間様の居るお部屋にお邪魔しようと思うのですが……宜しいでしょうか?」
早口で述べられた言葉は、声色から伝わってくる焦りからか、まるで言い訳を並べているように聞こえた。けれども内容自体は至極真っ当なことを言っていたと思う。思うのだけれども。
「……えっと? つまり?」
「……貴方と会って話がしたい……そうお願いしております」
「俺と、会って?」
「はい」
「それだけ?」
つい俺は口にしてしまっていた。明らかに友好的に接してくれている相手に対して、失礼だよな、と思いながらも。
「それだけ、とは?」
ちょんと控えめに、足首に何かが触れてきた。白いふわふわのあの子が寄り添ってくれるようにそこにいた。身体を丸めて、また俺を心配そうに見つめている。
「みゅ……なぁう……」
「あ……」
強張っていた肩の力が抜けていく気がした。
頭の中を変に熱くさせていた何かも和らいできて、気にしていなかった自身の鼓動が煩く響く。胸に手を当て、浅くなっていた呼吸を整えてからしゃがみ込む。
「さっきはごめん、驚かせて……大丈夫か? ケガとか、してないか?」
「みゃっ」
元気よく鳴いてから、その場でゆっくりひと回り。ほら、何ともないでしょう? と俺に見せてくれているようだった。
「みぁ、みゅっ」
ふわふわな身体がみょいんっと伸びた。小さな後ろ足で立ちながら、膝小僧に乗せていた俺の手に前足をちょこんと乗せてくる。手のひらを差し出せば、自ら頭を擦り寄せてきてくれた。
「……ありがとう」
みゃっ!
小さな口がにぱっと笑うように開く。元気な声と共に胸元へと飛び込んできた小さな温もりを慌てて受け止めた。
「……安心しました。落ち着いて頂けたようで」
待っていてくれたんだろう。
首やら胴体やらをめいいっぱい伸ばして、頬へと擦り寄ってきてくれていたふわふわ。この子が満足して、構って撫でている間に俺の気分も和らいでいて。そんな頃に改めて、声をかけてきたのだから。
「あ……えっと、ごめんなさい……」
「気にしないで下さい、人間様。貴方の反応は至極当然なものです。目が覚めたら、見知らぬ場所に居たのですから。何の説明もなく」
何か、引っかかるような感覚はあった。けれども、それよりもこの人は何か知っているんじゃないかと、教えてくれるのではないかという期待の方が勝っていた。
「あの、俺、聞きたいことが」
「生きています」
「え」
「貴方だけではありません。他の人間様も、この星に住む生き物全てが何の問題もなく生きております」
「皆、生きて……?」
思い出されるのは、青、青、青。
全てが飲み込まれたハズだった。人も、散歩中の犬も、多分虫や鳥だって。そもそも街全体があの液体に。なのに。
「勿論、貴方がお会いする予定だったお友達も」
ふと浮かんだ。屈託なく笑うアイツの顔が。
「そ、か……本当に生きて……」
落ち着いてはいたものの、胸の奥で燻ぶり続けていた不安。それが、今度こそ消えていくような。不思議と、この声が言うことを信じることが出来ていた。
嬉しいハズなのに、鼻がツンと痛んで視界がみるみる内にボヤけていってしまう。ぼろぼろと頬を、顎を伝い落ちてしまう。
「なぁう……」
腕の中で寛いでいたこの子にまた心配をかけてしまっていた。柔らかな毛並みが濡れてしまうのに、俺の頬に擦り寄ってきてくれた。
この人も、気遣ってくれているんだろう。また少し待ってくれてから、遠慮がちに話しかけてきた。
「……大丈夫、ですか?」
「……ごめん、取り乱してしまって」
「その反応も当然かと。少し、休まれますか?」
「いや、大丈夫……だから、話の続きを聞かせて欲しい……」
分かりました。
了承してくれた声色には、まだ心配が滲んでいるように思えた。やっぱり悪い人ではなさそうだ。
「先程もお伝えしましたが、この星の皆様は全てご無事です……ですが、私の言葉だけでは信じられないことは分かっています。貴方が置かれている現状に対しても、納得が出来る説明も必要でしょう」
「そりゃあ、まぁ……でも、いいのか? そういうのって、機密事項とかだったりするんじゃ」
「貴方には知る権利がございます」
「そっか……それじゃあ、教えて欲し……いや、お願いします、教えて下さい」
「分かりました。ただ、その前に一つだけ、宜しいでしょうか?」
緩みかけていた気持ちが引き締まる。イヤな緊張が背筋に走った。
やっぱり交換条件の一つや二つあるよな。機密事項なんだし。俺が出来ることなら良いけど。
見えないスピーカーの向こうからも、緊張が伝わってくるような。張り詰めた空気の中、ふわふわなこの子だけが、俺の胸元に擦り寄りながら呑気にくわぁっと欠伸をしていた。
「……姿を見せないままでは不誠実だと私は思います」
「へ?」
「このままでも、説明をする上では何も問題はありません。ですが、やはり面と向かっての方が……ですから、今から人間様の居るお部屋にお邪魔しようと思うのですが……宜しいでしょうか?」
早口で述べられた言葉は、声色から伝わってくる焦りからか、まるで言い訳を並べているように聞こえた。けれども内容自体は至極真っ当なことを言っていたと思う。思うのだけれども。
「……えっと? つまり?」
「……貴方と会って話がしたい……そうお願いしております」
「俺と、会って?」
「はい」
「それだけ?」
つい俺は口にしてしまっていた。明らかに友好的に接してくれている相手に対して、失礼だよな、と思いながらも。
「それだけ、とは?」
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