どうか、教えて下さい人間様(毎日更新中)

白井のわ

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スマホと、不思議な腕輪と

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「カイト様が、ですかっ?」

 まだ作ってもいないのに。まるで、もう目の前に俺が作った出来立てがあるかのよう。その眼差しは星々をいくつも閉じ込めたかのように煌めいている。黒い瞳に滲んでいるオレンジもより鮮やかに見えて、つい笑みがこぼれていた。

「ああ、パンでリングは難しいかもだけど……ドーナツ自体なら何とかなるだろ」

「ありがとうございますっ」

「はは、喜んでもらえたようで嬉しいよ。でも、今日はちょっと疲れたから、明日でも良いかな?」

「ええ、勿論。カイト様の体調の方が大事ですから」

 ただ気遣ってくれてるだけだろうに。大事だと、面と向かって言われてしまうと胸の辺りが擽ったくなってしまう。何でか心臓まで煩く高鳴ってしまう。

「じゃ、じゃあ、約束、だな……出来れば、レシピを確認しておきたいところだけど」

 調べなくては、そう思うと同時に自然と手が探そうとしていた。今日の俺が持っていた筈の小さなバッグを。そこにしまっていた端末を。
 そっか、スマホは。そもそもバッグはなくなってしまっていたし、服自体も着せ替えてもらっていたんだったな。

 気が付いて、当てを無くしてしまった手を見る。何も無い手のひらに、白い手が重ねられた。

「もしかして、此方でしょうか?」

 此方って? そう尋ねるよりも先に彼の手が離れていく。そうして何も無かったハズの手のひらの上に乗っかっていたのは見慣れた端末。

「スマホっ、俺のっ」

「どうぞ、お返し致します。返却が遅くなってしまい申し訳ございません。固まる前の保護液から取り出したので、念の為に動作確認等をしておりました。他のお持ち物や服も、貴方のお部屋に送っておきましょう。宜しいですか?」

「ああ、ありがとう」

 側面にあるボタンを押せば、見慣れた画面が表示された。ロックを解除してみてもいつも通りで安心した。あらかじめ大丈夫だと言われていても、申し訳ないけれどもやっぱり実際使ってみないことには。
 じゃあと、検索アプリをタップしようとしていたところで気が付いた。画面の右上に表示された見慣れない文字に。

「圏外……何で? 宇宙でもスマホは使えるハズじゃ……」

「……申し訳ございません」

「え、リアムが謝ることは……あ、」

 そうだった。地球は今あの青色の液体、保護液によって守られている。全ての高層ビルも、山も。それこそスマホへと電波を送受信させる基地局だって。

「そっか……あの液体は保存は出来ても、中にある機械は動かないんだな?」

「はい……」

 まぁ、全ての生き物が生命活動を維持しながらも眠ったままになるくらいだ。機械だけは大丈夫って方がおかしいだろう。

 リアムは再び俺に向かって頭を下げたが、やっぱり彼が謝る必要はない。大丈夫だと、仕方がないと伝えれば、まだ申し訳なさそうに瞳を細めながらもおずおずと尋ねてきた。

「やはり、そちらは情報の検索や閲覧が出来るものなのですね?」

「ああ。でも、どうして」

「どのような物か、調べさせてもらいました。大丈夫、分解はしておりませんので」

 分解しなくても調べられるのか。いや、でも俺達の技術でもX線やら何やらで内部構造は調べることが出来るんだもんな。それくらいは。

「……もう、渡しておこうか」

「え」

「宜しければ、此方をどうぞ」

 小さな呟きに向きかけていた意識が、差し出された物によって有耶無耶にされてしまう。

「腕輪……?」

 リアムがしていたものとそっくりだ。シンプルで控えめな光沢のある輪っか。違うところと言えばあしらわれている宝石の色ぐらい。彼のものは黒かったが、こっちは黄色だった。

「そちらは私の腕輪と同様に、貴方が使用していた情報端末……スマホ、というものと同じ機能も持っております。事前に貴方の星の情報も入れておりますので、そのドーナツというお菓子の作り方も調べることが出来るかと」

 他にも現在の時刻、装着した者の健康状態、リアムへの連絡手段。他にもつらつらと説明してくれていたが、情報過多で上手く飲み込めなかった。まぁ、要はスマートウォッチの上位互換って感じだろう。

「スゴいな」

「ですから御用の際は、どうか、気軽にご連絡下さい。些細なことでも構いませんので」

「ありがとう」

「では、先ずはどちらかの手首に装着してみて下さい」

「ああ、でも、どうやって?」

「手首に当てるだけで大丈夫ですよ」

 そう言うならばと、言われた通りに当ててみた。

「っわ」

 触れた際の感触は確かに硬く、金属のようなすべすべとした触り心地と冷たさがあった。けれども、それはまるで生き物のように蠢いて、ヘビのようにするりと俺の手首へと巻きついてみせたのだ。
 ぴたりとハマってしまった後はまた、何事もなかったかのよう。ただ普通の腕輪として、俺の手首で淡い光沢を帯びている。

「はっ、外す時はっ?」

「軽く引っ張れば、」

 言い終わるよりも先に、俺は腕輪を引っ張っていた。するとまた腕輪は自ら隙間を作って、俺の腕から離れていってくれた。すぐさま輪っかへと戻ったそれは、外す際も、今も、硬い感触は変わらなかったというのに。

「ホントだ……外れた、簡単に、」

「……また驚かせてしまいましたか?」

「ああ、驚いた……でも、大丈夫だよ。仕組みは分かったから」

 未知のものは、どうしても怖いと思ってしまう。でも、分かってしまえば。

「よし、ついた。次は、検索や連絡をしたい時はどうすれば良いんだ?」

 着けたばかりの腕輪を見せるように軽く掲げれば、リアムは僅かに目を見開いていた。すぐにまたいつもの平然とした表情に戻っていたけれども。

「……では、そちらの宝石に触れてみて下さい」

 触れるだけで良いのだろうか。
 思いはしたものの、先ずは言われた通りにと黄色い宝石の表面に人差し指を乗せてみる。すると、ものの一秒も経たない内に淡い光を帯び始めた。さっきのリアムの腕輪の時と同じように。
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