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19 集
修理されたばかりのテーブルの上でせっせとパンを捏ねていると突然視界が真っ暗になった。
・・・そんなことをする犯人はただ一人。
反応するのも癪なので、何も言わず動かないでいると、頭上から聞こえてきたのは「着ろ」の一言。
俺の視界を奪ったのは一着の外套。
刺繍もお洒落で、内側も全部モコモコでとても暖かい。
・・・しかし!俺は今、パン捏ねの最中。
「パン食べたい」とカルマにねだったところ、その翌日アイラさん(何と女性!かっこいい!)という竜騎士がわざわざ材料を持ってきてくれた。
我儘言って申し訳ないという気持ちと久しぶりのパンにありつけるルンルンな気持ちに挟まれながら、朝早く起きたわけ。
だから外套は綺麗に畳んでそっとお返しした。
そしてあからさまにムッとしたイルは、外套で俺をぐるんっと包んでそのまま連行。(そうきたか────・・・!)
脇に抱えられ、家を出る。
そして着地した先で予告もなくべしゃ、と地面に落とされた。
文句を言おうと顔を上げた先。
目の前にいたは人間の姿ではなく、竜の姿のイルだった。
竜のイルは、イーライやミシャ、グリムよりも大きくて、濃紺色に少し金色の粉を振りかけたような輝く美しい巨躯。
俺が乗るのを躊躇っていると外套を爪で引っ掛けようとしてきたから「破れる!もったいない!」と全力で逃げて、大人しく背に乗った。
・・・というか、本当に竜になれるんだ。びっくり。
もこもこの外套を羽織り、イルの風魔法に包まれた状態でさほど寒くなく、怖くもなく、安定した空の旅。
三十分・・・いや、一時間?くらいかな。
パン生地を放置(不本意)して向かった先は、雪がびゅうびゅう横殴りに降る北の山。
「うちのチビが世話んなったなあ!お前も随分チビだがなあ!」
「・・・????あの、あ、あなたは、うぐっ、」
「こいつに近づくな。下がれ、ガレル。」
「イルも久しいなあ!片角で生きとったか!そりゃあよかった!ガハハハハッ」
「・・・チッ、煩い奴。」
「????」
降り頻る雪の中、雪が一切積もっていない大木があった。
その木の下に、小さな家が一軒。
爺ちゃんと暮らしていた家よりも小さなそれは、どこか懐かしい気持ちになる佇まいをしていた。
イルがノックも無しに無遠慮に扉を開くと、イルよりも更に大きな体をした男が近づいてくる。
体毛が多く、まるで山男のような風貌の男は俺と目が合うと歯を出して笑い、頭をぐりんぐりん撫でまわして去っていく。目が回った。
家の中には「だから来たくなかったんだ」と小言を並べるイル、先ほどの山男さん、俺たちにひらひらと手を振るリーディア様に、そして、かくん、かくん、と船を漕ぐ白髪の老人がいた。
山男さんは老人に近づき、肩を叩く。
「長、揃った。始めよう。」
「・・・ん、そうか。」
さっきの陽気な声と全く違う、重量感のある声に背筋が伸びる。
俺以外の四人に共通するのは、その頭上の角。
紛うことなき、圧倒的な威圧感。
四人とも竜人だ。
・・・・・・ふと気づいた。
何で、俺ここにいるんだろう。
場違い感が物凄い。
家の周りだけ外、雪降ってなかったし、外で待っとこう。
俺は静かに、静かに、回れ右をして、扉めがけてダッシュ。
「その人間が、例の子どもか。」
「だったら何だ。」
「・・・(成人してるんですけど)」
逃げられなかった。
ガシッと胴体を後ろから固定されて、足が浮いた状態で元の位置に戻る。
聞こえてきたリーディア様のくすくす声に顔から火が出そうだったけど、イルは全く気にも止めず、近くにあった椅子に体を投げ出し、定位置になってきた膝の上に俺を乗せた。
「随分と・・・異質な魔力を持っとるのお。」
「・・・異質?」
火のついた顔で前を見ると、白髪の老人が俺をにこにこした顔で見ていた。
だけど目の奥、縦型の瞳孔が鋭く光っているような気がする。
緊張からか俺はイルのズボンをぎゅっとシワになるくらい握りしめていたけど、イルはそれを咎めることなく、老人を睨んでいた。
「そのおかげでうちの白チビは助かったんだ!今度礼に温泉に連れてってやろう!ガハハハ」
「・・・・・・ん?白・・・?」
「おい、片角。本当に何一つ話してないな。戯けめ。」
「・・・・・・必要ない。」
「必要あります!!!」
「っ、おい!」
手を挙げて大声を出す。
これはきっと、俺に関する大事な話。
イルは、俺の魔力について何も話してくれなかった。
リーディア様が「人間にしては多い」と言い、老人は「異質」と言った。
多くて、異質。
何とも不安を煽る言葉はかり。
だからこそ、自分を知っておかないと。
「今日ここに俺が来たのはイルの気まぐれじゃなくて、"俺が"、"ここ"に呼ばれたってことですか?」
俺の体を固定するイルの腕に力が入る。
それだけで、肯定だ。
老人の方を見ると笑顔のままゆっくりと頷いた。
「魔族が竜に手を出し始めた。その意味が分かるかのお?」
「・・・いいえ。」
「魔力を欲す強者が増えつつあるということだ。」
「・・・・!?」
もしかして・・・だけど。
フェイさんの言ってた騎士団での"いろいろ"って、魔族が人間を襲撃してるってことだったりする・・・?
俺の待機は、避難の意味・・・?
だからイルも何も言わなかったんじゃ・・・
「そこで、じゃ。お前の力を借りたい。」
「・・・お、れ?」
「クソッ!やっぱりそういうことかよ!!帰るぞ餓鬼!」
「・・・っ、何?どういうこと?!ちゃんと説明しろよ!」
老人の言葉を聞くなり立ち上がり、俺を担いで扉の方へ歩き出すイル。
俺がじたばた暴れたところでびくともしない。
そしてそのイルの足を止めたのは、意外にもさっきまで船を漕いでいたあの白髪の老人だった。
「座れ、イル。」
たった一言。
その一言だけでイルの足が止まる。
ビリビリと、肌を刺すような空気の揺れを感じた。
ガリっと音がするくらい歯軋りをしたイルは、踵を返しさっきまでの椅子ではなく扉の前に腰を下ろす。
そして俺の体をあの外套で包み、存在を隠すように強く抱きしめた。
「お前の魔力の話をしよう。人間の子どもよ、名を何という?」
穏やかな声色に隠れた、威圧。
震えそうになる手を必死に握りしめる。
イルはそんな俺の体を力を緩めることなく抱きしめ続け、そのあまりの必死さに、俺は思わず笑ってしまった。
「挨拶が遅れてすみません。」
外套の中をしばらく彷徨って、ようやく外に顔を出せた。
目が合った琥珀色は明らかに怒っていて俺はまた笑ってしまい、さらに怒りの色を濃くさせてしまった。
「俺はレヴィ。人間です。これでも一応成人してます。」
俺の自己紹介に目を丸くさせた老人がふっと笑う。
「すまんかったのお」と平謝りの老人の名はルドラ。
竜族の長、その人だ。
・・・そんなことをする犯人はただ一人。
反応するのも癪なので、何も言わず動かないでいると、頭上から聞こえてきたのは「着ろ」の一言。
俺の視界を奪ったのは一着の外套。
刺繍もお洒落で、内側も全部モコモコでとても暖かい。
・・・しかし!俺は今、パン捏ねの最中。
「パン食べたい」とカルマにねだったところ、その翌日アイラさん(何と女性!かっこいい!)という竜騎士がわざわざ材料を持ってきてくれた。
我儘言って申し訳ないという気持ちと久しぶりのパンにありつけるルンルンな気持ちに挟まれながら、朝早く起きたわけ。
だから外套は綺麗に畳んでそっとお返しした。
そしてあからさまにムッとしたイルは、外套で俺をぐるんっと包んでそのまま連行。(そうきたか────・・・!)
脇に抱えられ、家を出る。
そして着地した先で予告もなくべしゃ、と地面に落とされた。
文句を言おうと顔を上げた先。
目の前にいたは人間の姿ではなく、竜の姿のイルだった。
竜のイルは、イーライやミシャ、グリムよりも大きくて、濃紺色に少し金色の粉を振りかけたような輝く美しい巨躯。
俺が乗るのを躊躇っていると外套を爪で引っ掛けようとしてきたから「破れる!もったいない!」と全力で逃げて、大人しく背に乗った。
・・・というか、本当に竜になれるんだ。びっくり。
もこもこの外套を羽織り、イルの風魔法に包まれた状態でさほど寒くなく、怖くもなく、安定した空の旅。
三十分・・・いや、一時間?くらいかな。
パン生地を放置(不本意)して向かった先は、雪がびゅうびゅう横殴りに降る北の山。
「うちのチビが世話んなったなあ!お前も随分チビだがなあ!」
「・・・????あの、あ、あなたは、うぐっ、」
「こいつに近づくな。下がれ、ガレル。」
「イルも久しいなあ!片角で生きとったか!そりゃあよかった!ガハハハハッ」
「・・・チッ、煩い奴。」
「????」
降り頻る雪の中、雪が一切積もっていない大木があった。
その木の下に、小さな家が一軒。
爺ちゃんと暮らしていた家よりも小さなそれは、どこか懐かしい気持ちになる佇まいをしていた。
イルがノックも無しに無遠慮に扉を開くと、イルよりも更に大きな体をした男が近づいてくる。
体毛が多く、まるで山男のような風貌の男は俺と目が合うと歯を出して笑い、頭をぐりんぐりん撫でまわして去っていく。目が回った。
家の中には「だから来たくなかったんだ」と小言を並べるイル、先ほどの山男さん、俺たちにひらひらと手を振るリーディア様に、そして、かくん、かくん、と船を漕ぐ白髪の老人がいた。
山男さんは老人に近づき、肩を叩く。
「長、揃った。始めよう。」
「・・・ん、そうか。」
さっきの陽気な声と全く違う、重量感のある声に背筋が伸びる。
俺以外の四人に共通するのは、その頭上の角。
紛うことなき、圧倒的な威圧感。
四人とも竜人だ。
・・・・・・ふと気づいた。
何で、俺ここにいるんだろう。
場違い感が物凄い。
家の周りだけ外、雪降ってなかったし、外で待っとこう。
俺は静かに、静かに、回れ右をして、扉めがけてダッシュ。
「その人間が、例の子どもか。」
「だったら何だ。」
「・・・(成人してるんですけど)」
逃げられなかった。
ガシッと胴体を後ろから固定されて、足が浮いた状態で元の位置に戻る。
聞こえてきたリーディア様のくすくす声に顔から火が出そうだったけど、イルは全く気にも止めず、近くにあった椅子に体を投げ出し、定位置になってきた膝の上に俺を乗せた。
「随分と・・・異質な魔力を持っとるのお。」
「・・・異質?」
火のついた顔で前を見ると、白髪の老人が俺をにこにこした顔で見ていた。
だけど目の奥、縦型の瞳孔が鋭く光っているような気がする。
緊張からか俺はイルのズボンをぎゅっとシワになるくらい握りしめていたけど、イルはそれを咎めることなく、老人を睨んでいた。
「そのおかげでうちの白チビは助かったんだ!今度礼に温泉に連れてってやろう!ガハハハ」
「・・・・・・ん?白・・・?」
「おい、片角。本当に何一つ話してないな。戯けめ。」
「・・・・・・必要ない。」
「必要あります!!!」
「っ、おい!」
手を挙げて大声を出す。
これはきっと、俺に関する大事な話。
イルは、俺の魔力について何も話してくれなかった。
リーディア様が「人間にしては多い」と言い、老人は「異質」と言った。
多くて、異質。
何とも不安を煽る言葉はかり。
だからこそ、自分を知っておかないと。
「今日ここに俺が来たのはイルの気まぐれじゃなくて、"俺が"、"ここ"に呼ばれたってことですか?」
俺の体を固定するイルの腕に力が入る。
それだけで、肯定だ。
老人の方を見ると笑顔のままゆっくりと頷いた。
「魔族が竜に手を出し始めた。その意味が分かるかのお?」
「・・・いいえ。」
「魔力を欲す強者が増えつつあるということだ。」
「・・・・!?」
もしかして・・・だけど。
フェイさんの言ってた騎士団での"いろいろ"って、魔族が人間を襲撃してるってことだったりする・・・?
俺の待機は、避難の意味・・・?
だからイルも何も言わなかったんじゃ・・・
「そこで、じゃ。お前の力を借りたい。」
「・・・お、れ?」
「クソッ!やっぱりそういうことかよ!!帰るぞ餓鬼!」
「・・・っ、何?どういうこと?!ちゃんと説明しろよ!」
老人の言葉を聞くなり立ち上がり、俺を担いで扉の方へ歩き出すイル。
俺がじたばた暴れたところでびくともしない。
そしてそのイルの足を止めたのは、意外にもさっきまで船を漕いでいたあの白髪の老人だった。
「座れ、イル。」
たった一言。
その一言だけでイルの足が止まる。
ビリビリと、肌を刺すような空気の揺れを感じた。
ガリっと音がするくらい歯軋りをしたイルは、踵を返しさっきまでの椅子ではなく扉の前に腰を下ろす。
そして俺の体をあの外套で包み、存在を隠すように強く抱きしめた。
「お前の魔力の話をしよう。人間の子どもよ、名を何という?」
穏やかな声色に隠れた、威圧。
震えそうになる手を必死に握りしめる。
イルはそんな俺の体を力を緩めることなく抱きしめ続け、そのあまりの必死さに、俺は思わず笑ってしまった。
「挨拶が遅れてすみません。」
外套の中をしばらく彷徨って、ようやく外に顔を出せた。
目が合った琥珀色は明らかに怒っていて俺はまた笑ってしまい、さらに怒りの色を濃くさせてしまった。
「俺はレヴィ。人間です。これでも一応成人してます。」
俺の自己紹介に目を丸くさせた老人がふっと笑う。
「すまんかったのお」と平謝りの老人の名はルドラ。
竜族の長、その人だ。
感想 7
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