【完結】オーロラ魔法士と第3王子

N2O

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「────っ、待て!リーシュ!誤解だ!行くな!!」



"僕"の転移魔法が発動して、「あの方」の姿が見えなくなる瞬間、最後に聞こえた言葉だった。





"僕"ことリーシュ・ギデオンは、とあるド田舎の伯爵家次男である。
全ての者が魔力を持ち、日常生活には魔力が必要不可欠な世界。
もちろん魔力量には個人差があるが、リーシュは国でも上位の魔力を持った人間として生まれた。



16歳になった彼は国から認定を受けなければ名乗れない「魔法士」となり、当主の父や尊敬する兄の補佐、近隣の魔物討伐をしている。






「リーシュ、そろそろ・・・王都に行かないか?沢山誘いの話が来ているのだ。それからな、他にも婚約の話もあってだな・・・」




それなりに年季の入ったソファー。
向かい合って座る親子二人。
苦笑いの父、そして・・・・・・




「父上・・・もう何度もお伝えしましたが、あんなに人が多いところ、想像しただけで目が眩みます。嫌です。」

「し・・・しかし、だな・・・」

「それに学ぶべきものはこの地にたくさんあります。王都にこだわらなくてもいいのです。あと、婚約の話も全てお断りください。」

「り、リーシュぅ・・・」




ふぅーっと深い深い溜め息をつきながらリーシュはそう言うと、その綺麗な二重瞼の黒い瞳が細くなる。




「お前ほどの魔力量と魔力操作ができる者がなぜこちらに来ない!と、何度も何度も王都から手紙がくるのだよ・・・?」

「はあ、そうですか。」

「父さんは板挟み・・・」

「大変ですね。」

「リーシュぅ・・・」



犬で言えば、大型犬。
リーシュの父、名をガーディナー。
彼もまたかなり腕の立つ魔法士、そして当主ながら騎士並みの戦闘力を持った有能な男。
その男の頭上に垂れ下がった耳が見えたような気がした。
例えるなら・・・そう、シベリアンハスキー。
そこにはないはずの犬耳が、しゅんっと音を立てて下に垂れた。



ギデオン家の人間は代々魔力量が多く、魔力操作も得意であり、魔法士になるものが殆どで、その一族の特徴として美しい黒髪、濃い灰色、もしくは黒の瞳の者が多かった。
リーシュは肩甲骨あたりまで伸びたサラサラの髪、アーモンド型の真っ黒の瞳。
髪は濃い緑の髪紐でくるりと一つ結びにしている。
ここだけの話、若い領民たちからは、「黒の君」と呼ばれ人気があるのだ。
街に出てこないので、滅多にお目にかかれないが。



その整った容姿を本人は気に留めておらず、婚約者どころか「人が多いと魔力の"塵"も多いのです。疲れるところには行きません」と、きっぱり。
彼の興味関心は貴族云々よりも、家族のこと、領地の発展のこと、魔法のこと。
恋だの、愛だの、王都だの、殊更どうでもいいのだ。




「話はそれだけだけでしょうか?」

「ん?あ、ああ・・・そうだな。」

「では僕は森へ。魔物はお任せください。・・・ああ、王都からの手紙には適当に理由をつけて断ってくだされば構いませんので。」

「てきとう・・・」



「それでは」と言い残し、リーシュは得意の転移魔法で領地の森へと消えていった。
この転移魔法、ギデオン家以外に使える人物はほとんどいない秘法。
転移するときに発生する特有の光から別名「オーロラ魔法」とも呼ばれている。
その秘法を父の話から逃れるために使うとは・・・規格外もいいところ。



ゆらゆらと揺らめくオーロラのような光を残った部屋には、しゅんっと見えないはずの犬耳が垂れたガーディナーと、部屋の隅で終始それを見守っていた執事長のジョンソンが取り残されていた。




「・・・旦那様。」

「・・・ああ。」

「例の件、いかがいたしましょう。リーシュ様がああ言われましても、例の件となれば話は別です。」

「だろうな。」

「こうなれば強行手段、アレを準備致しましょう。」

「仕方がない。その手で無理にでも王都に連れて行こう。・・・あのお方達も人が悪い。リーシュの性格は少なからずご存知のはずなのに・・・」





この二人、"大人組"に残された猶予はもうなかったのである。
そうと決まれば大人組の行動も早いもので。



翌日起きたリーシュの腕には特注の魔力封じの腕輪がついていた。


しかも両腕に。



「何だろう、えらく綺麗な腕輪だな」と、ぼんやりする思考の中、かの有名な魔力封じ一族の家紋が入った腕輪と対面するリーシュ。
美しい目元をしぱしぱと何度も動かした彼の、言葉にならない叫び声が屋敷中に響き渡ったのはその直後であった。
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