【完結】待って、待って!僕が好きなの貴方です!

N2O

文字の大きさ
8 / 19

しおりを挟む
僕の家には鏡というものが無かった。
それは"竜人たる者、常日頃から身だしなみは整っていて当たり前、確認するべきことではない"という謎の教えからである。
だから僕は鏡がなくても髪を結えるし、前髪程度なら自分で切れる。(兄さんが基本やってくれていたけど)


だから朝起きて洗面台に行き、鏡を見て落ち込むなんてこと、今までに経験がない。





「・・・・・・ひっどい顔。」




目は充血、その周りは赤く腫れていて、いかにも「一晩中一人で泣いてました~」って顔してる自分に嫌気がさす。
小さな桶に水を溜め、氷魔法を応用しながらギリギリ凍らない程度に水を冷やす。
布を浸し、ぎゅっと絞って閉じた目の上に乗せると、昨日のあの光景が鮮明に瞼の裏に浮かんできて、また泣きそうになった。



ほとんど寝れず、今はまだ早朝。
太陽はまだ顔を出していないから、外はまだ薄暗い。カーテンをしている室内は尚の事。
・・・ああ、空気が澱んでる。入れ替えだけでもしよう。

両開き窓の錆びた鍵に手を伸ばし、音で隣の部屋の子を起こさないよう、静かに開いた。
僕の部屋はニ階。森と校舎以外何もないけど、割と見晴らしは良くて気に入ってる。

肌寒い空気が部屋に入ってきて、少し気持ちも落ち着いた。
登校時間までまだ時間はある。
部屋でゆっくりストレッチでもしようかなー・・・・・・




「ラウー、」

「・・・・・・え?」




突然自分の名前を呼ばれ、ギシッと、と大きく胸が軋む。
声がした先、薄暗い中で目を凝らさなくても分かる。
だってさっきまで夢の中でも貴方に会っていたから。





「ク、ロヴィスさん・・・ど、うして・・・」

「ラウーと話がしたいからだ。」

「・・・あ、え・・・っと、それは・・・」

「どうして、昨日帰った?」

「あの・・・アン、トス先輩、から、」

「聞いたさ。ラウーは・・・帰ったと。ついでに一発強烈なのを貰ってな。」

「・・・ええっ?!」





ニ階からここからじゃ、さすがに傷や腫れは分からない。
ア、ア、アントス先輩・・・本当に殴ったんですか・・・?!史科だからそういう訓練も経験も殆どないはずなのに。





「ご、ごめん、なさい!ぼ、僕が、そのっ、」

「誤解されては困るが、ラウーのせいだとは一切思っていない。どうして、泣いた?」

「・・・・・・それは・・・・・・言いたく、ありません。」

「"邪魔してごめんなさい"とアントスに言伝をしたな。それは何に対しての邪魔だ?」

「・・・・・・だ、からっ・・・」






視界が霞む。
泣くな、泣くな。泣いちゃだめだ。
ここで泣いてしまったら、もう幼馴染としてそばに居るのもだめになる。


喉が締まる。息ができない。


どうして僕は、こんなにも貴方が好きなんだろう。
どうして貴方は、いつも真っ直ぐ僕を見るんだろう。



グッと奥歯を噛み締めようとして、唇を犬歯で強く噛んでしまった。
血の味がして、涙が少し引っこむ。



「・・・大事な、方との・・・貴重な時間を・・・邪魔して・・・しまいました。」

「・・・ラウー、やはり何か誤解をして、」

「自分の立場も弁えず・・・・・・ほ、っんと、僕、馬鹿、で・・・・・・」

「お願いだ、ラウー。ちゃんと話を、」

「僕、人よりも魔法が使えて、良かったと・・・今までで一番思ってます。」

「・・・っ、何をっ!」

「ごめんなさい・・・クロヴィスさん。」








転移魔法は竜人族が誇りとする固有魔法の一つ。
消費する魔力量が一般的な攻撃魔法の何倍も掛かるため、一度使うとその日は他の魔法を何も行使できない。


そうなってでもいい。
僕は今、貴方に会うことができません。






「今日以降ここへ来ても僕はいません。クロヴィスさんの時間が勿体無いです。」

「ラウー!!お願いだ、話をっ、」

「すぐ・・・幼馴染のラウーに戻ります。その時は僕を思いっきり殴ってください。」

「そんなこと・・・っ、するわけがなかろう!!」

「クロヴィスさん、怪我はしないでくださいね。」

「・・・・・・っ、ラウー、」








「・・・会いに来てくれて、嬉しかったです。ありがとうございました。」








苦しそうに顔を歪ませたクロヴィスさんが次の言葉を紡ぐ前に、足元を囲うようにして展開した魔法陣が一気に光り輝き、そして消失する。


崩れるようにしてその場に座り込んだ。
ギリギリまで耐えた僕の涙は、一度許してしまえばもう止められない。

僕は嗚咽が出るまで泣き続け、この日初めて学校を休んだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「嵐を呼ぶ」と一族を追放された人魚王子。でもその歌声は、他人の声が雑音に聞こえる呪いを持つ孤独な王子を癒す、世界で唯一の力だった

水凪しおん
BL
「嵐を呼ぶ」と忌み嫌われ、一族から追放された人魚の末王子シオン。 魔女の呪いにより「他人の声がすべて不快な雑音に聞こえる」大陸の王子レオニール。 光の届かない深海と、音のない静寂の世界。それぞれの孤独を抱えて生きてきた二人が、嵐の夜に出会う。 シオンの歌声だけが、レオニールの世界に色を与える唯一の美しい旋律だった。 「君の歌がなければ、私はもう生きていけない」 それは、やがて世界の運命さえも揺るがす、あまりにも切なく甘い愛の物語。 歌声がつなぐ、感動の異世界海洋ファンタジーBL、開幕。

虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした

水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。 強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。 「お前は、俺だけのものだ」 これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。

オメガだと隠して地味なベータとして生きてきた俺が、なぜか学園最強で傲慢な次期公爵様と『運命の番』になって、強制的にペアを組まされる羽目に

水凪しおん
BL
この世界では、性は三つに分かたれる。支配者たるアルファ、それに庇護されるオメガ、そして大多数を占めるベータ。 誇り高き魔法使いユキは、オメガという性を隠し、ベータとして魔法学園の門をくぐった。誰にも見下されず、己の力だけで認められるために。 しかし彼の平穏は、一人の男との最悪の出会いによって打ち砕かれる。 学園の頂点に君臨する、傲慢不遜なアルファ――カイ・フォン・エーレンベルク。 反発しあう二人が模擬戦で激突したその瞬間、伝説の証『運命の印』が彼らの首筋に発現する。 それは、決して抗うことのできない魂の繋がり、『運命の番』の証だった。 「お前は俺の所有物だ」 傲慢に告げるカイと、それに激しく反発するユキ。 強制的にペアを組まされた学園対抗トーナメント『双星杯』を舞台に、二人の歯車は軋みを上げながらも回り出す。 孤独を隠す最強のアルファと、運命に抗う気高きオメガ。 これは、反発しあう二つの魂がやがて唯一無二のパートナーとなり、世界の理をも変える絆を結ぶまでの、愛と戦いの物語。

役立たずと婚約破棄された僕、極寒の辺境でもふもふ聖獣に懐かれたら、なぜか氷の公爵様にも執着されて甘々に溺愛されてます

水凪しおん
BL
聖女の婚約者でありながら、強力な魔獣を従えられない「役立たず」として婚約破棄され、極寒の北の辺境へ追放された青年リアム。彼が持つスキルは、動物や植物と心を通わせる【生命との共感】。力こそ正義の世界で、その優しすぎる力は無能の証とされていた。 死を覚悟した吹雪の夜、リアムは傷ついた巨大なもふもふの聖獣「月光狼」と出会う。最後の力を振り絞って彼を癒したことから、気まぐれで甘えん坊な聖獣にべったり懐かれてしまう。 そんな一人と一匹の前に現れたのは、「氷の公爵」と恐れられる辺境の領主カイゼル。無愛想で冷徹な仮面の下に「大のもふもふ好き」を隠す彼は、聖獣と、その聖獣に懐かれるリアムに興味を持ち、二人まとめて城へ連れ帰ることに。 「今日からお前は、この聖獣の専属飼育係だ」 これは、追放された心優しい青年が、もふもふ聖獣と不器用な公爵様からの愛情に包まれ、自らの本当の価値と幸せを見つけていく、心温まる溺愛ストーリー。

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

ヒメ様が賊にさらわれました!

はやしかわともえ
BL
BLです。 11月のBL大賞用の作品です。 10/31に全話公開予定です。 宜しくお願いします。

出来損ないΩと虐げられ追放された僕が、魂香を操る薬師として呪われ騎士団長様を癒し、溺愛されるまで

水凪しおん
BL
「出来損ないのβ」と虐げられ、家族に勘当された青年エリオット。彼に秘められていたのは、人の心を癒し、国の運命すら変える特別な「魂香(ソウル・パフューム)」を操るΩの才能だった。 王都の片隅で開いた小さな薬草店「木漏れ日の薬瓶」。そこを訪れたのは、呪いによって己の魂香を制御できなくなった「氷の騎士」カイゼル。 孤独な二つの魂が出会う時、運命の歯車が回りだす。 これは、虐げられた青年が自らの力で居場所を見つけ、唯一無二の愛を手に入れるまでの、優しくも力強い癒やしと絆の物語。

処理中です...