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リハーサルが終わり、ユキ先輩から真っ当な指導をしていただいてすぐ、僕は訓練場の通路を猛ダッシュ。
ダッシュ一歩目、足を掛けて転かそうとしたユキ先輩はなかなか底意地が悪いよね。
でもそんなユキ先輩の相手してる時間はない。(死ぬほど怒られそう)
思ったよりも時間がかかって、もうすっかり夕方だ。
寮の門限はどの科も共通で決まっている。
急がないとせっかくのクロヴィスさんとの時間が・・・っ!
訓練場を出てすぐ、目に入ったのはいくつか並んだ木製のベンチ。
見覚えしかない後ろ姿に、僕は口角も頬っぺたも上がっていくのを抑えられない。
そのままの勢いで駆け寄ろうとした矢先、もう一人誰かいることに気がついて足が止まる。どうやら先客がいるらしい。
話し中に割り込むのも、僕が来たからといって話を中断させるのもよくない。
離れたところで少し待っていよう。
そして、このあと聞いてしまうのだ。
クロヴィスさんの、あの言葉を。
僕は走ってきた道を少しだけ戻り、訓練場の出入り口付近の壁にぴたりと背中を預けた。
帰る人もちらほら居て、目が合ったら一応会釈をする。
そうやって二人の会話が終わるのを待っていた僕はあることに気付いた。
ここ、意外とクロヴィスさんの話し声が聞こえるなぁって。
横風が少し強いから、聞こえない部分もあるけど、どうやらクロヴィスさんの前に立って話しかけている人は、クロヴィスさんの同級生。
しかもあの人・・・さっき場内でも見かけたな。
ユキ先輩が教えてくれた。確か三年士官科でクロヴィスさんに次ぐ成績の──・・・
「ミゲル、その件は終わったはずだ。蒸し返すな。」
そうそう!ミゲル先輩!
今みたいに、にかーって笑うと目が細くなるタイプの目元で、さっきユキ先輩は「あいつどこ見てるか分かんないんだよね」ととても失礼なこと言ってた。
白くて綺麗な大きな羽が印象的な鳥人。
こっちから見るとクロヴィスさんの背中しか見えなくて、表情は分からないけど、声から察するにあまり機嫌は良くなさそうだ。
「ええ~?いいじゃん、いい加減教えてくれたってさぁ~!俺、指導役あっんなに一生懸命補佐したのにぃ~」
「あれのどこが、だ。指導が手緩い。本番で困るのはあの一年なんだぞ。」
「だからってあんなにボコボコにしなくたってさぁ・・・、じゃなくて!俺に指導押し付けてまで中抜けしてさぁ、毎日どこに行ってたの?!」
「・・・・・・」
「あー?・・・絶対噂の"アレ"じゃん!恋人のところ行ってたんでしょ?!」
「え、」と声が出なかった自分を褒めたい。
寸前のところでぐっと下唇を噛んで堪えた。
今、ミゲル先輩は間違いなく恋人って言った・・・よね?クロヴィスさんの、恋人・・・
ティフくんも前言ってたな。三科の優秀な人たちにはもれなく恋人がいるって。
あれ、やっぱり本当だった・・・?
「この三年間言い寄ってくる奴らをことごとく無視してきたクロヴィスの恋人かぁ!」
「・・・・・・」
「頑なに教えてくれないけどさ?!早く会わせてよ~~!見たい~~!ね~え~!?」
「・・・知らん。」
「隠されると余計気になるって!・・・あ!!もしかして!実は俺もう会ったことある・・・とか?!」
「・・・・・・」
「うわ!当たり?!やっぱ俺って感が鋭い男じゃん?えーっと、どの子かな・・・えー・・・・・・、あ。もしかしてさっきのあの、めちゃくちゃ可愛い竜人の、」
「ミゲル、黙れ。」
低く唸るようなクロヴィスさんの声に、周りに居た人たちも思わず息を飲んだのが分かる。
僕はここに居ちゃだめだ。
これ以上、聞いてはだめだ。
頭で警告の鐘が鳴り響く。
だって、きっと、この後続くであろうクロヴィスさんの言葉を聞いたら、僕は──・・・・・・
「彼は恋人ではない。金輪際近づくな。さもないと────・・・」
目が開けられないくらい強い風がびゅうッと吹く。木を揺らし、落ち葉を巻き上げ、砂埃が舞う。
僕の耳はキーンと耳鳴りがしていて、目も開けられないし、まるで一人きりのあの静かな寮の部屋にいるみたいだった。
あの場にいた竜人は僕一人だけ。
・・・恋人じゃない。
なら僕は、関係ない。そりゃ、そっか。
だって、僕、ただの幼馴染だもの。
「やっぱりラウーくんじゃん。何してんの、こんなとこ・・・、どうしたの?」
「・・・あ、」
ゆっくり目を開くと、すぐ近くに茶色と黒色が混ざった獣耳がぼやけて見えた。
薄黄色の瞳の持ち主は辺りをぐるりと見渡すと一瞬何か考えるそぶりをした。
見覚えのあるハンカチを僕の目元に押し付けてから、頭をぐしゃぐしゃと撫でて、小さく息を吐く。
「ア、ントス・・・先輩・・・」
「・・・やっぱり俺が殴ってこようか?」
「・・・ふ、ふふ、だめです、」
「やっぱり・・・・・・いや、何でもない。寮まで送るね。」
「はい」と小さく答えた声が思っていたよりも震えてしまった。
僕の顔を隠すように掛けられた上着からは、蜜のような香の匂いがする。
分かってた。分かってたんです。
だから今溢れてくるこの感情は、僕の勝手な思い違いが生んだものであって、さっきのクロヴィスさんは何も間違ったことは言ってない。
「・・・今まで、邪魔して、ごめん・・・なさい。」
「・・・なぁに?」
「待って・・・くれてたのに、勝手に、帰ってごめん、なさい・・・」
「・・・・・・やっぱ殴っちゃうかも。」
「だ、めです。」
「・・・歯食いしばって伝えとく。」
ふふ、と思わず笑った瞬間に見えた空は、クロヴィスさんの瞳と同じ色。
大丈夫。
大丈夫。
僕はちゃんと幼馴染としてやっていける。
でも、ちょっと今は、クロヴィスさんの顔が見られない。
「ちゃんとご飯食べてね?」
「(こくん)」
「早く寝るんだよ?」
「(こくん)」
「・・・ちゃんと、あいつと話したほうがいいよ。」
「・・・・・・・・・」
上着を返すのはいつでもいいから、とアントス先輩は来た道を戻って行った。
振り返る先輩の獣耳はぺしゃん、尻尾はしゅん。
アントス先輩から優しい気持ちが伝わってきて、僕は何度も頭を下げて見送った。
ダッシュ一歩目、足を掛けて転かそうとしたユキ先輩はなかなか底意地が悪いよね。
でもそんなユキ先輩の相手してる時間はない。(死ぬほど怒られそう)
思ったよりも時間がかかって、もうすっかり夕方だ。
寮の門限はどの科も共通で決まっている。
急がないとせっかくのクロヴィスさんとの時間が・・・っ!
訓練場を出てすぐ、目に入ったのはいくつか並んだ木製のベンチ。
見覚えしかない後ろ姿に、僕は口角も頬っぺたも上がっていくのを抑えられない。
そのままの勢いで駆け寄ろうとした矢先、もう一人誰かいることに気がついて足が止まる。どうやら先客がいるらしい。
話し中に割り込むのも、僕が来たからといって話を中断させるのもよくない。
離れたところで少し待っていよう。
そして、このあと聞いてしまうのだ。
クロヴィスさんの、あの言葉を。
僕は走ってきた道を少しだけ戻り、訓練場の出入り口付近の壁にぴたりと背中を預けた。
帰る人もちらほら居て、目が合ったら一応会釈をする。
そうやって二人の会話が終わるのを待っていた僕はあることに気付いた。
ここ、意外とクロヴィスさんの話し声が聞こえるなぁって。
横風が少し強いから、聞こえない部分もあるけど、どうやらクロヴィスさんの前に立って話しかけている人は、クロヴィスさんの同級生。
しかもあの人・・・さっき場内でも見かけたな。
ユキ先輩が教えてくれた。確か三年士官科でクロヴィスさんに次ぐ成績の──・・・
「ミゲル、その件は終わったはずだ。蒸し返すな。」
そうそう!ミゲル先輩!
今みたいに、にかーって笑うと目が細くなるタイプの目元で、さっきユキ先輩は「あいつどこ見てるか分かんないんだよね」ととても失礼なこと言ってた。
白くて綺麗な大きな羽が印象的な鳥人。
こっちから見るとクロヴィスさんの背中しか見えなくて、表情は分からないけど、声から察するにあまり機嫌は良くなさそうだ。
「ええ~?いいじゃん、いい加減教えてくれたってさぁ~!俺、指導役あっんなに一生懸命補佐したのにぃ~」
「あれのどこが、だ。指導が手緩い。本番で困るのはあの一年なんだぞ。」
「だからってあんなにボコボコにしなくたってさぁ・・・、じゃなくて!俺に指導押し付けてまで中抜けしてさぁ、毎日どこに行ってたの?!」
「・・・・・・」
「あー?・・・絶対噂の"アレ"じゃん!恋人のところ行ってたんでしょ?!」
「え、」と声が出なかった自分を褒めたい。
寸前のところでぐっと下唇を噛んで堪えた。
今、ミゲル先輩は間違いなく恋人って言った・・・よね?クロヴィスさんの、恋人・・・
ティフくんも前言ってたな。三科の優秀な人たちにはもれなく恋人がいるって。
あれ、やっぱり本当だった・・・?
「この三年間言い寄ってくる奴らをことごとく無視してきたクロヴィスの恋人かぁ!」
「・・・・・・」
「頑なに教えてくれないけどさ?!早く会わせてよ~~!見たい~~!ね~え~!?」
「・・・知らん。」
「隠されると余計気になるって!・・・あ!!もしかして!実は俺もう会ったことある・・・とか?!」
「・・・・・・」
「うわ!当たり?!やっぱ俺って感が鋭い男じゃん?えーっと、どの子かな・・・えー・・・・・・、あ。もしかしてさっきのあの、めちゃくちゃ可愛い竜人の、」
「ミゲル、黙れ。」
低く唸るようなクロヴィスさんの声に、周りに居た人たちも思わず息を飲んだのが分かる。
僕はここに居ちゃだめだ。
これ以上、聞いてはだめだ。
頭で警告の鐘が鳴り響く。
だって、きっと、この後続くであろうクロヴィスさんの言葉を聞いたら、僕は──・・・・・・
「彼は恋人ではない。金輪際近づくな。さもないと────・・・」
目が開けられないくらい強い風がびゅうッと吹く。木を揺らし、落ち葉を巻き上げ、砂埃が舞う。
僕の耳はキーンと耳鳴りがしていて、目も開けられないし、まるで一人きりのあの静かな寮の部屋にいるみたいだった。
あの場にいた竜人は僕一人だけ。
・・・恋人じゃない。
なら僕は、関係ない。そりゃ、そっか。
だって、僕、ただの幼馴染だもの。
「やっぱりラウーくんじゃん。何してんの、こんなとこ・・・、どうしたの?」
「・・・あ、」
ゆっくり目を開くと、すぐ近くに茶色と黒色が混ざった獣耳がぼやけて見えた。
薄黄色の瞳の持ち主は辺りをぐるりと見渡すと一瞬何か考えるそぶりをした。
見覚えのあるハンカチを僕の目元に押し付けてから、頭をぐしゃぐしゃと撫でて、小さく息を吐く。
「ア、ントス・・・先輩・・・」
「・・・やっぱり俺が殴ってこようか?」
「・・・ふ、ふふ、だめです、」
「やっぱり・・・・・・いや、何でもない。寮まで送るね。」
「はい」と小さく答えた声が思っていたよりも震えてしまった。
僕の顔を隠すように掛けられた上着からは、蜜のような香の匂いがする。
分かってた。分かってたんです。
だから今溢れてくるこの感情は、僕の勝手な思い違いが生んだものであって、さっきのクロヴィスさんは何も間違ったことは言ってない。
「・・・今まで、邪魔して、ごめん・・・なさい。」
「・・・なぁに?」
「待って・・・くれてたのに、勝手に、帰ってごめん、なさい・・・」
「・・・・・・やっぱ殴っちゃうかも。」
「だ、めです。」
「・・・歯食いしばって伝えとく。」
ふふ、と思わず笑った瞬間に見えた空は、クロヴィスさんの瞳と同じ色。
大丈夫。
大丈夫。
僕はちゃんと幼馴染としてやっていける。
でも、ちょっと今は、クロヴィスさんの顔が見られない。
「ちゃんとご飯食べてね?」
「(こくん)」
「早く寝るんだよ?」
「(こくん)」
「・・・ちゃんと、あいつと話したほうがいいよ。」
「・・・・・・・・・」
上着を返すのはいつでもいいから、とアントス先輩は来た道を戻って行った。
振り返る先輩の獣耳はぺしゃん、尻尾はしゅん。
アントス先輩から優しい気持ちが伝わってきて、僕は何度も頭を下げて見送った。
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