【完結】待って、待って!僕が好きなの貴方です!

N2O

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僕の家には鏡というものが無かった。
それは"竜人たる者、常日頃から身だしなみは整っていて当たり前、確認するべきことではない"という謎の教えからである。
だから僕は鏡がなくても髪を結えるし、前髪程度なら自分で切れる。(兄さんが基本やってくれていたけど)


だから朝起きて洗面台に行き、鏡を見て落ち込むなんてこと、今までに経験がない。





「・・・・・・ひっどい顔。」




目は充血、その周りは赤く腫れていて、いかにも「一晩中一人で泣いてました~」って顔してる自分に嫌気がさす。
小さな桶に水を溜め、氷魔法を応用しながらギリギリ凍らない程度に水を冷やす。
布を浸し、ぎゅっと絞って閉じた目の上に乗せると、昨日のあの光景が鮮明に瞼の裏に浮かんできて、また泣きそうになった。



ほとんど寝れず、今はまだ早朝。
太陽はまだ顔を出していないから、外はまだ薄暗い。カーテンをしている室内は尚の事。
・・・ああ、空気が澱んでる。入れ替えだけでもしよう。

両開き窓の錆びた鍵に手を伸ばし、音で隣の部屋の子を起こさないよう、静かに開いた。
僕の部屋はニ階。森と校舎以外何もないけど、割と見晴らしは良くて気に入ってる。

肌寒い空気が部屋に入ってきて、少し気持ちも落ち着いた。
登校時間までまだ時間はある。
部屋でゆっくりストレッチでもしようかなー・・・・・・




「ラウー、」

「・・・・・・え?」




突然自分の名前を呼ばれ、ギシッと、と大きく胸が軋む。
声がした先、薄暗い中で目を凝らさなくても分かる。
だってさっきまで夢の中でも貴方に会っていたから。





「ク、ロヴィスさん・・・ど、うして・・・」

「ラウーと話がしたいからだ。」

「・・・あ、え・・・っと、それは・・・」

「どうして、昨日帰った?」

「あの・・・アン、トス先輩、から、」

「聞いたさ。ラウーは・・・帰ったと。ついでに一発強烈なのを貰ってな。」

「・・・ええっ?!」





ニ階からここからじゃ、さすがに傷や腫れは分からない。
ア、ア、アントス先輩・・・本当に殴ったんですか・・・?!史科だからそういう訓練も経験も殆どないはずなのに。





「ご、ごめん、なさい!ぼ、僕が、そのっ、」

「誤解されては困るが、ラウーのせいだとは一切思っていない。どうして、泣いた?」

「・・・・・・それは・・・・・・言いたく、ありません。」

「"邪魔してごめんなさい"とアントスに言伝をしたな。それは何に対しての邪魔だ?」

「・・・・・・だ、からっ・・・」






視界が霞む。
泣くな、泣くな。泣いちゃだめだ。
ここで泣いてしまったら、もう幼馴染としてそばに居るのもだめになる。


喉が締まる。息ができない。


どうして僕は、こんなにも貴方が好きなんだろう。
どうして貴方は、いつも真っ直ぐ僕を見るんだろう。



グッと奥歯を噛み締めようとして、唇を犬歯で強く噛んでしまった。
血の味がして、涙が少し引っこむ。



「・・・大事な、方との・・・貴重な時間を・・・邪魔して・・・しまいました。」

「・・・ラウー、やはり何か誤解をして、」

「自分の立場も弁えず・・・・・・ほ、っんと、僕、馬鹿、で・・・・・・」

「お願いだ、ラウー。ちゃんと話を、」

「僕、人よりも魔法が使えて、良かったと・・・今までで一番思ってます。」

「・・・っ、何をっ!」

「ごめんなさい・・・クロヴィスさん。」








転移魔法は竜人族が誇りとする固有魔法の一つ。
消費する魔力量が一般的な攻撃魔法の何倍も掛かるため、一度使うとその日は他の魔法を何も行使できない。


そうなってでもいい。
僕は今、貴方に会うことができません。






「今日以降ここへ来ても僕はいません。クロヴィスさんの時間が勿体無いです。」

「ラウー!!お願いだ、話をっ、」

「すぐ・・・幼馴染のラウーに戻ります。その時は僕を思いっきり殴ってください。」

「そんなこと・・・っ、するわけがなかろう!!」

「クロヴィスさん、怪我はしないでくださいね。」

「・・・・・・っ、ラウー、」








「・・・会いに来てくれて、嬉しかったです。ありがとうございました。」








苦しそうに顔を歪ませたクロヴィスさんが次の言葉を紡ぐ前に、足元を囲うようにして展開した魔法陣が一気に光り輝き、そして消失する。


崩れるようにしてその場に座り込んだ。
ギリギリまで耐えた僕の涙は、一度許してしまえばもう止められない。

僕は嗚咽が出るまで泣き続け、この日初めて学校を休んだ。
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