敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない

如月 そら

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7.香澄ちゃんの冒険

香澄ちゃんの冒険 ②

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 電話の向こうで菜々美はプリプリ怒っている。菜々美はこういう人だった。他からは破天荒に見えても菜々美にはいつもきちんと説明できるだけの理由がある。多少それに自己中心的ところがあったとしても理由もなく家出までするような人ではないのだ。

 香澄はため息をついた。理由があることはいつも分かっているけれど、菜々美の突飛な行動は周りに迷惑をかけることも多い。
「お見合いはお断りすればよかったでしょう? 家出まですることはなかったんじゃないの?」

 香澄がそう言うと、しゅんとした声が受話器の向こうから聞こえる。
『断っても父は次の話を持ってくるつもりにしていたんだもん。絶対に私を結婚させたかったみたい。結婚でもすればおとなしくなるだろうって。そうはいくかっていうの』

「菜々美ちゃん……」
 それでも菜々美が香澄に迷惑をかけたことは間違いない。
『香澄ちゃん……ごめんなさい。断った? 断っていいよ!』
 そう言われて話が変わってしまったことを菜々美が知らないことに香澄は気づく。

「あ……のね、結局お見合いは進んでいて……」
 こうなるとなんと説明してよいか分からない。
『え!? 香澄ちゃん大丈夫? 私が断ろうか? 香澄ちゃん、優しいからなぁ』
「もう! 菜々美ちゃんは最後まで私の話を聞いて! あのね、素敵な人だったの」
『は?』
 目を丸くする菜々美の姿が見えるようだった。

『あの、さ、香澄ちゃんはうちの家族にバラさないって分かってるから言うんだけど、もし都合が悪くなかったら会えないかなぁ? 直接会ってお詫びしたり伝えたいことがあるの』
 それはとても真剣な声だった。

 もちろん菜々美の言う通り、菜々美の家族に香澄が即座に伝えることはしない。
「うん。叔父さんには言わないわ。私は菜々美ちゃんが元気だということが分かっただけでもよかったもの」
『香澄ちゃーん』

 親族はどう思っているか知らないが、菜々美と香澄は仲の良い従姉妹同士なのだ。
 電話を切ったあと、メールアプリに登録申請があった。叔父からは菜々美が家族からのメールアプリをブロックしてしまって連絡がつかないと聞いていたが新しいアカウントも作っていたらしい。

 本当にいろいろと聞かなくてはいけないことがあるようだった。
 菜々美はメールアプリで家から少し離れた駅の小さな割烹を指定してくる。香澄は一人で料理屋など行ったことはなかったが、菜々美が一緒ならばなんとかなるだろうと冒険をする決意をしたのだ。

 香澄にしてみたら、自宅から離れて訪れたことのない駅に行くのすら冒険だ。
 日にちは来週で、香澄の教室が終わってから行くことにした。


 その日香澄は生徒さんたちを見送り、カバンを持ってどきどきとしながら駅に向かった。一人で出かけることももちろんあるのだが、家に黙って出てくるということはほとんどない。
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