敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない

如月 そら

文字の大きさ
32 / 86
7.香澄ちゃんの冒険

香澄ちゃんの冒険 ①

しおりを挟む
 名前で呼ぶこともそうだが、恋愛には超えなくてはいけないハードルがたくさんあるらしい。
 それでも、神代と離れることを考えたくはなかった。

 きっとこれからも香澄の前にはたくさんのハードルが現れるはずだ。その度に逃げてはいられない。
 香澄はベッドの上で愛用のクッションをきゅっと抱きしめた。


「柚木さん、東部書道展に出す文字は決まりましたか?」
 香澄がお稽古で文字を練習していると師匠にそう声をかけられ、香澄は顔を上げる。

 書道展に出す文字はまだ決まっていない。正直を言えばそれどころではなかったのだ。けれど、そうもいっていられないだろう。

 立ち上がった香澄は師匠に頭を下げる。
「すみません。まだ決まっていなくて……」
「もちろんまだ時間はあるから大丈夫です。珍しいですね。迷っていますか?」

「いえ……まだしっかり自分が書きたいものに向き合えていないというか……迷っているというところまでもいっていませんね」
 自嘲するような笑みしか浮かんでこなかった。恋愛のことでばかり悩んでもいられない。やらなければならないこともあるのだから。

「もう一度、自分が書きたいものを見つめ直します」
「とてもいい顔をしていますね」
 師匠はそういって微笑む。自分ではダメダメだと思うのに、師匠からはそうは見えないらしい。
「頑張ります」
「新しい柚木さんの書が楽しみですね。どんな文字を選ぶのかも含めて」

 ──どんな文字を選ぶのか……。
 それは自分が選択することだ。
 今の自分はどういう文字を選ぶのだろう。

 お稽古から帰ってきて、香澄は書道用の平屋の方に足を向ける。確かに師匠に言われた通り、早く文字を決めなくては練習もままならないのだから。

 先日持ち出した小説の付箋が貼ってあるところを再度チェックしているときだ。香澄のスマートフォンが振動しているのに気づいて、カバンから取り出す。画面に表示されていたのは知らない番号だった。


 それでも生徒さんの保護者の可能性もあるので、香澄はすべての着信には出ることにしている。
「はい……」
『香澄ちゃん?』

 それは従姉妹の菜々美の声だった。
 叔父からは家出をしたまま、どこに行ったかも分からないと聞いている。美人で魅力的で行動的な従姉妹だ。

「菜々美ちゃん……?」
『うん!』
「今、どこにいるの? 叔父さますっごく探しているわよ!」
『知ってる……。ごめん! 香澄ちゃん』

 突然聞こえたお詫びの声に香澄は驚いてしまった。お詫びされる心当たりはなかったから。
「どうしたの?」

『私、結婚させられると思って家を出たの。なんか父がお見合いをセッティングしていたでしょう。私がいなくなれば諦めると思った。そうしたら、香澄ちゃんを身代わりにしたんだね!』
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

勘違いで別れを告げた日から豹変した婚約者が毎晩迫ってきて困っています

Adria
恋愛
詩音は怪我をして実家の病院に診察に行った時に、婚約者のある噂を耳にした。その噂を聞いて、今まで彼が自分に触れなかった理由に気づく。 意を決して彼を解放してあげるつもりで別れを告げると、その日から穏やかだった彼はいなくなり、執着を剥き出しにしたSな彼になってしまった。 戸惑う反面、毎日激愛を注がれ次第に溺れていく―― イラスト:らぎ様 《エブリスタとムーンにも投稿しています》

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...