敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない

如月 そら

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16.餞(はなむけ)

餞(はなむけ)①

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 金額の問題ではないのだと香澄は言いたかったのだが、神代は首を傾げている。
「表装……ですか?」
 多分『表装』に神代はピンときていないのだ。
 そんな時、香澄は説明するようにしている。神代はいつも興味深そうに聞いてくれるので説明していても楽しい。それにふと、後日思い出したように質問をしてくれたりもする。

 お互いに知らないことが多いので最近はたくさん話すことにしているのだ。
 香澄も神代の仕事について分からないながらも、質問をして教えてもらうようにしていた。神代の仕事のことは本当に難しいけれど、神代は分かりやすくかみ砕いて説明してくれる。
 そうしてすれ違いをなくすのが二人のやり方になっていたのだ。

 香澄は表装について説明することにした。
「表装とは書を紙や布で裏打ちして補強し、それにふさわしい装飾を行うことです。展覧会に出す時も表装してから出品します。昨日書いて、明日出品というわけにもいかないんですよね。表装がありますから」
「確かに。この前展覧会にお邪魔したときも綺麗に額に入っていたりしていたな」
 こくこくと香澄は頷いた。
「表装をすることで紙も真っすぐ綺麗になってそれらしい感じになりますね。半紙に書いてそのままにしておくと、墨が乾いて紙がシワになるんです。そういうのを防ぐ効果もあります」
 神代は顎に手を当てて心当たりに頷いていた。
「学校の宿題は言われてみればシワが寄っていたな」
 こくこくと香澄も頷いて同意する。
「表装をしないとそうなりますね。がくだけではなくて、掛け軸や屏風にしたりします」
「巻物もあったな」
 先日の展覧会のことだろう。巻物状に表装することもあるのだ。
「それも表装ですね。あれは巻物のような長い紙があるというより、短い紙を繋いで表装しています。表装も人の手でやりますから、とても技術のいることなんですよ」
「なるほど……」
 
 そんな話をしながら食事を終え、ダイニングを片付けた二人はリビングのソファへ移動する。
 香澄の居場所はいつの間にか、神代の膝の間になっていた。今日は今週末、行くことになっている神代の家の話になる。
「神代さんのおうち、とっても緊張します」
「普通の家だからそんな風に緊張しなくていいですよ」
「あの、お菓子は扇堂で大丈夫ですか?」
「いちごケーキですね? 母が好きなんです。とても喜ぶでしょうね」
 お土産は近くの洋菓子店に予約をしてあった。ご挨拶用の服は先日神代についてきてもらってデパートで見立ててもらっている。
 香澄は初めて会う神代の家族だから緊張してしまうのだが、神代はそれほど気にしなくていいというのだった。

 緊張しながら過ごしていたら、週末があっという間に来てしまい、香澄は神代の自宅の前にいた。
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