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6.夢の途中
夢の途中④
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「いらっしゃいませ。僕、お席は分かるかな?」
走っていったこうちゃんは飛行機の入口で綺麗なお姉さんに話しかけられて急にもじもじしている。
「これ……」
チケットを客室乗務員に見せていた。
「こちらの通路にどうぞ」
JSAの社員は顔で選んでいるわけではないだろうが、それでも顔立ちの整った社員が多い。
そこからさらに自分を磨くのだから、それは魅力的な人物が多いことも納得だなと五十里はその客室乗務員を見ながらそんなことを思っていた。
子供に向けた笑顔がとてもキュートなスタッフだった。
くりっと愛嬌のある目元と、笑った時に口角にできるえくぼが表情を豊かに見せている。
そんな彼女を見てふっと微笑んで、五十里は自分の座席に向かった。
今日乗る機体は五十里重工のものではないが、それでも最新の機体で、ブースに区切ってあるビジネスシートに五十里は満足する。
(やはりビジネスシートは区切るべきだな)
自分は客目線なので客室にもこだわって五十里重工の新型機はシートを数センチだが、広くとってある。
単純に数センチというが、かといって通路を狭くするわけにはいかない。
通路はサービスカートが行き来するサービスに使用するだけではなくて、避難の際の避難路にもなるので、安全を守るため厳格に広さが定められているのだ。
じゃあ機体を大きくすればというと、機体を横に広げてしまうとその分空気抵抗が大きくなってしまい今度は燃料を多く消費することとなり、燃費が悪くなる。それも問題だ。
椅子を数センチ広げる、というのは言葉にすると単純なことだが、簡単なことではないのだ。
それでも開発に努力を重ね実行した。
先日はその旅客機の実物大の模型であるモックアップがJSAの訓練施設に組み立て上がったというので見に行ってきたところだった。
実際に組み立てたものを見てみると確実に広く感じるエコノミーシートは長身の五十里ですらも快適であり、これならば乗客にも満足してもらえるだろうと確信した。
「うん。いいな」
つい漏れてしまった言葉にはその場にいた開発スタッフ達も安心した様子だったし、JSAの職員達も喜んでいた。
「たかが二センチと言いますけど、ものすごく広く感じるものですね! シートも高級感があります」
「足元も広くない?」
キャビンの椅子の下の救命胴衣の置き場所を変えることで足元を広くしたと聞いていた。
みんなで座ってみて意見を共有する。
開発部に良いリマインドができそうだと五十里はまずはその模型の造りに満足していた。あとは実機の確認である。
その前にアメリカのシカゴに本社を置く世界最大の航空機器開発製造会社に視察へ行くことになっていた。
そのシカゴへと向かう機内だ。
ビジネスシートは快適だったが、酔客らしき人物が大声を出すのは頂けない。
「俺はここの株主だぞ。この会社に貢献しているのだからそれくらいはできるだろう」
ビジネスシート中に響き渡りそうな大声だ。せっかくブースに分けていてもこれでは意味がない。
確かに株主にはいくつかの権利がある。議決権や配当をもらう権利などだ。
けれど、社員に物申す権利はない。
それは上司の役割だからだ。
男性は客室乗務員を困らせているようだ。
普段紳士であってもアルコールが入ることで人格が豹変するという人もいなくはないことは理解できるのだが、決して気分の良いものではなかった。
走っていったこうちゃんは飛行機の入口で綺麗なお姉さんに話しかけられて急にもじもじしている。
「これ……」
チケットを客室乗務員に見せていた。
「こちらの通路にどうぞ」
JSAの社員は顔で選んでいるわけではないだろうが、それでも顔立ちの整った社員が多い。
そこからさらに自分を磨くのだから、それは魅力的な人物が多いことも納得だなと五十里はその客室乗務員を見ながらそんなことを思っていた。
子供に向けた笑顔がとてもキュートなスタッフだった。
くりっと愛嬌のある目元と、笑った時に口角にできるえくぼが表情を豊かに見せている。
そんな彼女を見てふっと微笑んで、五十里は自分の座席に向かった。
今日乗る機体は五十里重工のものではないが、それでも最新の機体で、ブースに区切ってあるビジネスシートに五十里は満足する。
(やはりビジネスシートは区切るべきだな)
自分は客目線なので客室にもこだわって五十里重工の新型機はシートを数センチだが、広くとってある。
単純に数センチというが、かといって通路を狭くするわけにはいかない。
通路はサービスカートが行き来するサービスに使用するだけではなくて、避難の際の避難路にもなるので、安全を守るため厳格に広さが定められているのだ。
じゃあ機体を大きくすればというと、機体を横に広げてしまうとその分空気抵抗が大きくなってしまい今度は燃料を多く消費することとなり、燃費が悪くなる。それも問題だ。
椅子を数センチ広げる、というのは言葉にすると単純なことだが、簡単なことではないのだ。
それでも開発に努力を重ね実行した。
先日はその旅客機の実物大の模型であるモックアップがJSAの訓練施設に組み立て上がったというので見に行ってきたところだった。
実際に組み立てたものを見てみると確実に広く感じるエコノミーシートは長身の五十里ですらも快適であり、これならば乗客にも満足してもらえるだろうと確信した。
「うん。いいな」
つい漏れてしまった言葉にはその場にいた開発スタッフ達も安心した様子だったし、JSAの職員達も喜んでいた。
「たかが二センチと言いますけど、ものすごく広く感じるものですね! シートも高級感があります」
「足元も広くない?」
キャビンの椅子の下の救命胴衣の置き場所を変えることで足元を広くしたと聞いていた。
みんなで座ってみて意見を共有する。
開発部に良いリマインドができそうだと五十里はまずはその模型の造りに満足していた。あとは実機の確認である。
その前にアメリカのシカゴに本社を置く世界最大の航空機器開発製造会社に視察へ行くことになっていた。
そのシカゴへと向かう機内だ。
ビジネスシートは快適だったが、酔客らしき人物が大声を出すのは頂けない。
「俺はここの株主だぞ。この会社に貢献しているのだからそれくらいはできるだろう」
ビジネスシート中に響き渡りそうな大声だ。せっかくブースに分けていてもこれでは意味がない。
確かに株主にはいくつかの権利がある。議決権や配当をもらう権利などだ。
けれど、社員に物申す権利はない。
それは上司の役割だからだ。
男性は客室乗務員を困らせているようだ。
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