9 / 25
学食デート
しおりを挟む
「先輩、着きましたよ! 何にしますか?」
弾んだ声でトキがメニューを指差す。トキのノリと同じになるのが気恥ずかしかったが、俺も初めての学食で少しテンションが上がっていた。
「俺は……カレーかな」
「先輩っぽいですね」
「え、そう……?」
カレーっぽいというイメージを持たれていたのかと、複雑な気持ちになる。いや、カレー自体は素晴らしい食べ物なんだけど。
「俺はパスタにしようかな……」
「そっちこそ似合いすぎ」
思わず吹き出してしまう。
トキが上品に学食のスパゲッティを食べている様子がいとも簡単に思い浮かぶ。焼きそばパンが好きなところを見ると、トキは麺類が好きなんだろうなと思う。
と、ここまで考えて、トキとの距離が近くなっていたことに気がついた。物理的にも心情的にも。
俺は悟られない程度にまたトキと距離を空けた。忘れている内は大丈夫だが、思い出すとやっぱりまだ身体が緊張し始める。
それぞれで食券を買い、さっき購買にいたおばちゃんに手渡す。俺のことを覚えていてくれたのか大盛りにしてくれた。いつも、菓子パンでは物足りなさを感じていたので有り難かった。
先にスパゲッティを受け取っていたトキは困ったような顔で俺を見た。トキが何かを言う前にその理由を察する。
「席が……無い、な……」
いつも混雑している学食。加えて今日は購買が休みで流れてきた生徒で溢れ返っていた。
「え、立ち食いとか……?」
テーブルも無い状態では立ち食いすらままならない。それに俺だけだったらどこで食べても構わないが、トキをそれに付き合わせるのは、何というか、目立ってしまって落ち着かない。
「あれ? 千秋が学食にいるの珍しいーじゃん」
「ん? 祥太じゃん。いつも学食だっけ?」
「だって楽じゃん」
トレーにご飯を乗せて、行き場もなく立ち尽くしていた俺たちに、同じクラスの祥太が声をかけてきた。
祥太たちのグループはテーブルを丸々占領していて優雅にラーメンを啜っている。
「何? 椅子取りゲームに乗り遅れた?」
「まぁ、そんなとこ」
「学食座席数少ないからなぁ……今日やけに混んでるし。しょーがないな……」
言いながら祥太は身振り手振りで友達に席を詰めるように促してくれた。横並びになってしまうが、ギリギリ二人座れそうなスペースが空いた。
「ほら、狭いかもしれないけど座れよ」
「マジで? サンキュー」
意気揚々と座ろうとすると、俺が座る前にトキが座ってしまった。詰めてくれた祥太の友達も驚いた顔をしている。
そんなに疲れてたのか?と思ったが、そういえば腕を怪我しているのだからトレーを持つ手が限界だったのかもしれない。
俺はトキの隣に座ることになり、長椅子のへりからお尻が飛び出しそうになった。
「トキ……もう少しそっちに……」
言いかけて、急に実感する。
俺の左側が全部トキと接していて、今までにない近さに身体が固くなり始める。
「? どうしたんですか……?」
「あ、いや。別に……」
トキの意外な一面を見て親近感すら覚え始めたのに、軽い抵抗することすらできない。
ここまで来ると自分の意気地なさに情けなくなってくる。
なんでここまで過去に怯えなくてはならないのか。復讐してやると息巻いていた強気の自分はどこへ行ってしまったのか。
「もう少しそっち詰めろ。狭い」
意を決して声を出す。自分が思っていたよりすんなりと声が出た。
途端に視界が開ける。
きょとんとしたトキの顔がちゃんと見れた。
「すみません、気が利かなくて」
嬉しそうな顔でトキが言う。
「でもごめんなさい。こっちも結構ギリギリなんで。良かったら、俺の膝の上に座りますか?」
「は!? お前何言ってんの?」
「この際、座らせて貰えば? 案外座り心地良いかもよ」
「適当なこと言うな!」
「ごめんなさい。座り心地には自信がないです……でも安定感なら……」
「真面目に答えなくていい!」
翔も祥太も俺の友達は揃いも揃って適当なやつらばっかりだと思ったが、祥太が会話に入ってくれて更に緊張が解けてきた。
普通に……とまではいかないが、俺と祥太で繰り広げるくだらない会話を、たまにトキに振りながら時間が過ぎていった。
新しい景色が見え始めた俺は、少しだけトキと向き合ってみようと心に決め、このぎこちない時間を楽しんだ。
弾んだ声でトキがメニューを指差す。トキのノリと同じになるのが気恥ずかしかったが、俺も初めての学食で少しテンションが上がっていた。
「俺は……カレーかな」
「先輩っぽいですね」
「え、そう……?」
カレーっぽいというイメージを持たれていたのかと、複雑な気持ちになる。いや、カレー自体は素晴らしい食べ物なんだけど。
「俺はパスタにしようかな……」
「そっちこそ似合いすぎ」
思わず吹き出してしまう。
トキが上品に学食のスパゲッティを食べている様子がいとも簡単に思い浮かぶ。焼きそばパンが好きなところを見ると、トキは麺類が好きなんだろうなと思う。
と、ここまで考えて、トキとの距離が近くなっていたことに気がついた。物理的にも心情的にも。
俺は悟られない程度にまたトキと距離を空けた。忘れている内は大丈夫だが、思い出すとやっぱりまだ身体が緊張し始める。
それぞれで食券を買い、さっき購買にいたおばちゃんに手渡す。俺のことを覚えていてくれたのか大盛りにしてくれた。いつも、菓子パンでは物足りなさを感じていたので有り難かった。
先にスパゲッティを受け取っていたトキは困ったような顔で俺を見た。トキが何かを言う前にその理由を察する。
「席が……無い、な……」
いつも混雑している学食。加えて今日は購買が休みで流れてきた生徒で溢れ返っていた。
「え、立ち食いとか……?」
テーブルも無い状態では立ち食いすらままならない。それに俺だけだったらどこで食べても構わないが、トキをそれに付き合わせるのは、何というか、目立ってしまって落ち着かない。
「あれ? 千秋が学食にいるの珍しいーじゃん」
「ん? 祥太じゃん。いつも学食だっけ?」
「だって楽じゃん」
トレーにご飯を乗せて、行き場もなく立ち尽くしていた俺たちに、同じクラスの祥太が声をかけてきた。
祥太たちのグループはテーブルを丸々占領していて優雅にラーメンを啜っている。
「何? 椅子取りゲームに乗り遅れた?」
「まぁ、そんなとこ」
「学食座席数少ないからなぁ……今日やけに混んでるし。しょーがないな……」
言いながら祥太は身振り手振りで友達に席を詰めるように促してくれた。横並びになってしまうが、ギリギリ二人座れそうなスペースが空いた。
「ほら、狭いかもしれないけど座れよ」
「マジで? サンキュー」
意気揚々と座ろうとすると、俺が座る前にトキが座ってしまった。詰めてくれた祥太の友達も驚いた顔をしている。
そんなに疲れてたのか?と思ったが、そういえば腕を怪我しているのだからトレーを持つ手が限界だったのかもしれない。
俺はトキの隣に座ることになり、長椅子のへりからお尻が飛び出しそうになった。
「トキ……もう少しそっちに……」
言いかけて、急に実感する。
俺の左側が全部トキと接していて、今までにない近さに身体が固くなり始める。
「? どうしたんですか……?」
「あ、いや。別に……」
トキの意外な一面を見て親近感すら覚え始めたのに、軽い抵抗することすらできない。
ここまで来ると自分の意気地なさに情けなくなってくる。
なんでここまで過去に怯えなくてはならないのか。復讐してやると息巻いていた強気の自分はどこへ行ってしまったのか。
「もう少しそっち詰めろ。狭い」
意を決して声を出す。自分が思っていたよりすんなりと声が出た。
途端に視界が開ける。
きょとんとしたトキの顔がちゃんと見れた。
「すみません、気が利かなくて」
嬉しそうな顔でトキが言う。
「でもごめんなさい。こっちも結構ギリギリなんで。良かったら、俺の膝の上に座りますか?」
「は!? お前何言ってんの?」
「この際、座らせて貰えば? 案外座り心地良いかもよ」
「適当なこと言うな!」
「ごめんなさい。座り心地には自信がないです……でも安定感なら……」
「真面目に答えなくていい!」
翔も祥太も俺の友達は揃いも揃って適当なやつらばっかりだと思ったが、祥太が会話に入ってくれて更に緊張が解けてきた。
普通に……とまではいかないが、俺と祥太で繰り広げるくだらない会話を、たまにトキに振りながら時間が過ぎていった。
新しい景色が見え始めた俺は、少しだけトキと向き合ってみようと心に決め、このぎこちない時間を楽しんだ。
131
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。
一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。
✤✤
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
すみっこぼっちとお日さま後輩のベタ褒め愛
虎ノ威きよひ
BL
「満点とっても、どうせ誰も褒めてくれない」
高校2年生の杉菜幸哉《すぎなゆきや》は、いつも一人で黙々と勉強している。
友だちゼロのすみっこぼっちだ。
どうせ自分なんて、と諦めて、鬱々とした日々を送っていた。
そんなある日、イケメンの後輩・椿海斗《つばきかいと》がいきなり声をかけてくる。
「幸哉先輩、いつも満点ですごいです!」
「努力してる幸哉先輩、かっこいいです!」
「俺、頑張りました! 褒めてください!」
笑顔で名前を呼ばれ、思いっきり抱きつかれ、褒められ、褒めさせられ。
最初は「何だこいつ……」としか思ってなかった幸哉だったが。
「頑張ってるね」「えらいね」と真正面から言われるたびに、心の奥がじんわり熱くなっていく。
――椿は、太陽みたいなやつだ。
お日さま後輩×すみっこぼっち先輩
褒め合いながら、恋をしていくお話です。
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる