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お祭り
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あいにくの曇り空。加えて夕方から雨予報。
直前まで予定が定まらず落ち着かない気分だったが、結局、花火大会は予定通り開催されるということで、俺たちも約束通り夕方五時に駅前に集合することになった。
俺が着いた頃には既に人で溢れていて、浴衣の人も多くいた。女の子たちは可愛く着飾っていて、お互いの浴衣を褒め合っては、はしゃいでいる。中にはカップルで浴衣を着ている人もいて、何だかいいなと思ってしまう。
俺は一生着れなさそうだけど。
こんな日でも俺はネックウォーマーを手放せない。トキとの関係が変わりつつある今でも、うなじを晒し続けることに抵抗がある。
まだ、トラウマは完全に治っていないらしい。
「先輩」
「うぁ、びっくりした……」
背後から声をかけられ小さく飛び上がる。
「なに見てたんですか?」
「なにって……」
カップルが浴衣を着ているのを見て、羨ましいと思っていたなんて、なんとなく言いたくない。
「女の子の浴衣姿って可愛いよな。なんか気合い入ってます! って感じで」
「そうですか?」
「トキは思ったことない?」
「興味ないですね」
やけに言葉にトゲがある。
男子高校生っぽい話題を振ったつもりだったのに、なにか気に障ってしまったらしい。
「人が多くなる前に行きましょう」
「あ、うん……」
トキはしらけた視線のまま、歩き出す。
俺も一歩遅れてトキを追いかけるが、人混みの多さに飲まれそうになる。みんな向かう方向は同じで、辛うじてトキとの距離が引き離されることは無かったが、群衆から頭ひとつ分抜けているトキに対して俺は揉まれ気味だった。
「……トキ、」
小さな声で名前を呼ぶ。すると、すぐに聞きつけて、人の波を掻き分けながら戻って来てくれた。
「ごめんなさい、俺、自分のペースで……」
「大丈夫だから。もう少しゆっくりで頼むわ」
さっきのトゲのある態度はどこへやら。またいつものトキに戻ったようで、すかさず俺の心配をしてくれた。
「じゃあ……」
トキはゆっくりと俺の手を掴もうと腕を伸ばしてきた。が、俺はそれをかわす様に手を後ろに引っ込めた。
「え、」
「あ、……ごめん。逸れないようにって気使わせちゃったかもしれないけど、このお祭り、学校のやつらも多いし……」
「……そうですよね、軽率でした」
悲しそうに目を伏せるトキの顔に罪悪感が増す。トキは俺のために手を差し伸べてくれたのに、俺はそれを拒否した。
もし、ここがどこか遠い場所だったら、トキの優しさを素直に受け入れられたかもしれないと思うとやるせない気持ちになった。
「大丈夫、自力で着いて行くくらいのガッツはあるから!」
出来るだけ明るくそう言うと、トキは少しだけ表情を和らげた。
「せっかくトキが誘ってくれたんだから、全力で楽しむつもりでいるし」
言葉の通り、俺は今日をすごく楽しみにしていた。何日も前から、なにを食べよう何しようと考えいたくらいだ。
それなのに、出だしで躓いてしまった。だが、まだ挽回はできる。
「だからトキも俺にばっか気使ってないで、楽しんで欲しい」
「分かりました」
気を取り直して、二人で露店を回った。
トキは日本の露店で食べ物を買うのが初めてだと言い、驚いた俺は色々なものを買い与えて反応を見ては笑った。
かき氷を食べて真っ青になった舌を撮るために、初めて二人で写真を撮った。自撮りなんて普段やらないような事をしたせいで、右手が攣り、今度はトキに笑われてしまった。
他にも、これは何だ、と聞かれたヨーヨー釣りでトキの分を取ってやると、動きが面白かったのか、真面目に手で突き始めて、その様子がおかしくて動画を撮った。
もうだいぶ、お祭りを満喫した気分なのに、肝心の花火大会はまだ始まっていない。
こんなに楽しいお祭りはいつ以来だろうと言うと、トキは一拍遅れて笑ってくれた。
最初の気まずかった空気なんてすっかり忘れて遊んでいるうちに、花火大会の時間になった。
「俺たちの場所はこの辺みたいです」
土手に等間隔にロープが張られており、ブロック毎に座る位置が指定されていた。
思っていたよりもひと区間のスペースが広く、家族連れを意識した場所なのだと思った。
しかし、そのおかげで見晴らしは良く、花火を見るには絶好の場所だった。それだけに懸念材料があるのが残念で仕方がない。
「天気持ってくれるかなぁ」
「ですね」
今までは持っていた天気もいよいよ降り出しそうな雰囲気になっていた。小雨程度なら花火は上がると言っていたが、どうせなら雨は降らないで欲しい。
「あ、俺一応、今のうちに傘買って来ますね」
「え、そんなの悪い……」
「いいんです、どうせどこかのタイミングで買おうと思ってたので」
そう言ってトキは立ち上がった。
「先輩はここで待っててください。すぐに戻ってきますから」
「分かった。遅れるなよ」
トキが人混みの中に紛れていくのを見届けると、自分の座る位置を正した。
トキは椅子が用意されているものと思っていたらしいが、実際は土手のスペースが用意されているだけだった。つまり、地べたに直に座ることになる。流石にそれではお尻が汚れてしまうと、出店で貰ったビニール袋を下に敷いて座ることにした。
俺は、今までトキが座っていたスペースに目をやる。潰されてくしゃくしゃになったビニール袋を風で飛ばされないように手で押さえながら、笑った。
少し前の俺からは想像も出来なかった光景だ。あんなに嫌いだったαと花火大会に来て、土手にビニール袋を広げて座っている。
そうか、トキはαなのか……
なんとなく、そう思った。
直前まで予定が定まらず落ち着かない気分だったが、結局、花火大会は予定通り開催されるということで、俺たちも約束通り夕方五時に駅前に集合することになった。
俺が着いた頃には既に人で溢れていて、浴衣の人も多くいた。女の子たちは可愛く着飾っていて、お互いの浴衣を褒め合っては、はしゃいでいる。中にはカップルで浴衣を着ている人もいて、何だかいいなと思ってしまう。
俺は一生着れなさそうだけど。
こんな日でも俺はネックウォーマーを手放せない。トキとの関係が変わりつつある今でも、うなじを晒し続けることに抵抗がある。
まだ、トラウマは完全に治っていないらしい。
「先輩」
「うぁ、びっくりした……」
背後から声をかけられ小さく飛び上がる。
「なに見てたんですか?」
「なにって……」
カップルが浴衣を着ているのを見て、羨ましいと思っていたなんて、なんとなく言いたくない。
「女の子の浴衣姿って可愛いよな。なんか気合い入ってます! って感じで」
「そうですか?」
「トキは思ったことない?」
「興味ないですね」
やけに言葉にトゲがある。
男子高校生っぽい話題を振ったつもりだったのに、なにか気に障ってしまったらしい。
「人が多くなる前に行きましょう」
「あ、うん……」
トキはしらけた視線のまま、歩き出す。
俺も一歩遅れてトキを追いかけるが、人混みの多さに飲まれそうになる。みんな向かう方向は同じで、辛うじてトキとの距離が引き離されることは無かったが、群衆から頭ひとつ分抜けているトキに対して俺は揉まれ気味だった。
「……トキ、」
小さな声で名前を呼ぶ。すると、すぐに聞きつけて、人の波を掻き分けながら戻って来てくれた。
「ごめんなさい、俺、自分のペースで……」
「大丈夫だから。もう少しゆっくりで頼むわ」
さっきのトゲのある態度はどこへやら。またいつものトキに戻ったようで、すかさず俺の心配をしてくれた。
「じゃあ……」
トキはゆっくりと俺の手を掴もうと腕を伸ばしてきた。が、俺はそれをかわす様に手を後ろに引っ込めた。
「え、」
「あ、……ごめん。逸れないようにって気使わせちゃったかもしれないけど、このお祭り、学校のやつらも多いし……」
「……そうですよね、軽率でした」
悲しそうに目を伏せるトキの顔に罪悪感が増す。トキは俺のために手を差し伸べてくれたのに、俺はそれを拒否した。
もし、ここがどこか遠い場所だったら、トキの優しさを素直に受け入れられたかもしれないと思うとやるせない気持ちになった。
「大丈夫、自力で着いて行くくらいのガッツはあるから!」
出来るだけ明るくそう言うと、トキは少しだけ表情を和らげた。
「せっかくトキが誘ってくれたんだから、全力で楽しむつもりでいるし」
言葉の通り、俺は今日をすごく楽しみにしていた。何日も前から、なにを食べよう何しようと考えいたくらいだ。
それなのに、出だしで躓いてしまった。だが、まだ挽回はできる。
「だからトキも俺にばっか気使ってないで、楽しんで欲しい」
「分かりました」
気を取り直して、二人で露店を回った。
トキは日本の露店で食べ物を買うのが初めてだと言い、驚いた俺は色々なものを買い与えて反応を見ては笑った。
かき氷を食べて真っ青になった舌を撮るために、初めて二人で写真を撮った。自撮りなんて普段やらないような事をしたせいで、右手が攣り、今度はトキに笑われてしまった。
他にも、これは何だ、と聞かれたヨーヨー釣りでトキの分を取ってやると、動きが面白かったのか、真面目に手で突き始めて、その様子がおかしくて動画を撮った。
もうだいぶ、お祭りを満喫した気分なのに、肝心の花火大会はまだ始まっていない。
こんなに楽しいお祭りはいつ以来だろうと言うと、トキは一拍遅れて笑ってくれた。
最初の気まずかった空気なんてすっかり忘れて遊んでいるうちに、花火大会の時間になった。
「俺たちの場所はこの辺みたいです」
土手に等間隔にロープが張られており、ブロック毎に座る位置が指定されていた。
思っていたよりもひと区間のスペースが広く、家族連れを意識した場所なのだと思った。
しかし、そのおかげで見晴らしは良く、花火を見るには絶好の場所だった。それだけに懸念材料があるのが残念で仕方がない。
「天気持ってくれるかなぁ」
「ですね」
今までは持っていた天気もいよいよ降り出しそうな雰囲気になっていた。小雨程度なら花火は上がると言っていたが、どうせなら雨は降らないで欲しい。
「あ、俺一応、今のうちに傘買って来ますね」
「え、そんなの悪い……」
「いいんです、どうせどこかのタイミングで買おうと思ってたので」
そう言ってトキは立ち上がった。
「先輩はここで待っててください。すぐに戻ってきますから」
「分かった。遅れるなよ」
トキが人混みの中に紛れていくのを見届けると、自分の座る位置を正した。
トキは椅子が用意されているものと思っていたらしいが、実際は土手のスペースが用意されているだけだった。つまり、地べたに直に座ることになる。流石にそれではお尻が汚れてしまうと、出店で貰ったビニール袋を下に敷いて座ることにした。
俺は、今までトキが座っていたスペースに目をやる。潰されてくしゃくしゃになったビニール袋を風で飛ばされないように手で押さえながら、笑った。
少し前の俺からは想像も出来なかった光景だ。あんなに嫌いだったαと花火大会に来て、土手にビニール袋を広げて座っている。
そうか、トキはαなのか……
なんとなく、そう思った。
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