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(第三部)第二章 星に願いを
04 樹の精霊武器
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生暖かい風が吹く洞窟は、奥に行くにつれて段々広くなっていった。
最初は天井に手が届きそうな高さだったが、今は到底届かないだろう。天井はまるで空のように遠い。洞窟の横幅も人が数人並んで歩ける道から、数十人歩いても余裕な広間に変化していた。
「これは……」
突き当たりで樹は足を止める。
そこは立体の迷路のようにいりくんだ分岐になっていた。
目の前の二本の別れ道以外に、足場がない壁にも複数の穴が空いている。
「ねえ、これ、どの道に進むの?」
朱里が呆然として聞いた。
いつもピーピーうるさいヒヨコは、こういう時に限って黙っている。樹が視線を向けると、朱里のツインテールの中に逃げ込んだ。たぶん道を知らないのだろう。
「どこに行くか分からないなら私が決めていい? 蛙さん占いで、方向を決めるの!」
「朱里ちゃん、前から気になってたけど、蛙が好きなの?」
「大好き!」
やたら蛙のキーホルダーを付けていたり、蛙のバッグを持っていたから、答えは聞く前に分かっていた。
さて、朱里の提案に従って、行く道を占いで適当に決めてしまっていいものだろうか。
真面目に推理したり、精霊の力で探したりした方がいいのではないかと樹が考えていると、ヒヨコが悲鳴を上げた。
『イツキ様! のんきに話してる場合じゃないでしゅよ!』
ハッと振り返ると、来た道に数個の赤い光が灯る。
樹のかかげた精霊の明かりの下に、巨大な蜘蛛の姿をした魔物が姿を現した。
がっしりした頭に並ぶ複眼は赤く光り、鋭い牙が口から突きだして下に伸びている。体色は気味の悪い黒とオレンジの斑模様。胴体から伸びる八本の足には、剛毛が刺のように生えている。
「樹くん、前にも!」
朱里の指摘に前に視線を戻すと、前方の穴から同じような蜘蛛の魔物が現れる。さらに壁に空いた穴からも、次々と魔物が頭を出す。
「囲まれた……ここは、こいつらの巣穴だったのか」
道理であちこちに不自然に穴が空いている訳だ。
どこへ逃げようか、蜘蛛のいない穴を探して見回す間に、魔物たちはじりじりと迫ってくる。
まだ距離があるから大丈夫。
そう思っていると蜘蛛は頭部をあげ、白くネバネバした糸を吐いた。
「うわっ」
油断していた樹たちに、蜘蛛の吐いた糸が襲いかかる。
「キャーっ、ねとねとして気持ち悪い!」
「くそっ」
生理的嫌悪で朱里は悲鳴を上げ、樹は舌打ちする。
「こんなもの……!」
精霊の力を解放する。
少年の背中に八枚の光の翅が現れた。
樹の身体から発する光が蜘蛛の糸を押し返す。
しかし、構わず蜘蛛の魔物は糸を投げ続けている。
精霊の力で跳ね返しても上から糸が被さってきた。
きりがない。
「しっかり捕まってて!」
樹は朱里を引き寄せると、地面を蹴って空中を飛ぶ。
雨のように降ってくる糸をかいくぐって、蜘蛛のいない穴に飛び込んだ。そのまま弾丸のように飛翔する。
背後から白い糸が追ってくる。
敵の攻撃を回避しながら、樹はアクロバット飛行を披露した。
『イツキ様、あそこに生えている木を目指すでしゅ! あの木は光橙樹と言って、魔物が寄ってこないでしゅ』
ヒヨコが必死に朱里にしがみつきながら叫ぶ。
樹は前方でぼんやり白く光る樹木を確認して、飛行速度を上げた。
もう少しで安全ゾーン、というところで白い糸が樹の足に絡み付く。
「しまったっ」
「樹くん?!」
「先に行ってて、朱里ちゃん!」
樹は光橙樹に向かって朱里を放り投げる。
地面までそんなに距離がないので大丈夫だろう。
少女を安全な場所に降ろして気を抜いた樹の手足に、白い蜘蛛の糸が絡み付く。糸は樹を引っ張って、魔物の元に引き寄せようとしていた。
精霊の力で振りほどけないか試す樹だが、上手くいかない。
「刃物で切り裂ければ、楽に脱出できるのに……刃……精霊武器?」
人間と契約した精霊が生み出す武器。
朱里のイメージだと、ごてごてした装飾の剣になりそうで、それは嫌だなと樹は思う。もっとスマートでシンプルな、扱いやすい長剣が良い。
蜘蛛の糸は一旦、意識の外において、樹は目を閉じた。
集中して銀色の剣をイメージする。
『イツキ様!』
「樹くん!」
動きを止めて蜘蛛の糸に呑まれそうになっている樹の姿に、ヒヨコと朱里が悲鳴を上げた。彼女たちの声を背中に聞きながら、樹は魂の底から精霊の力を汲み上げる。
幾多の葉を繁らせる常緑の大樹の姿が、応えるように心に浮かびあがった。
「僕に力を……世界樹!」
目を見開いた樹の前に、光が集まって、銀色の長剣が出現する。
樹は瞬間的に精霊の力を爆発させて、一気に蜘蛛の糸を引きちぎり、自分の精霊武器を掴んだ。
「はああっ!」
蜘蛛の前に逆に飛び込み、剣を一閃する。
光の波が弾けて、蜘蛛の糸が消し飛んだ。続けて剣を振ると、蜘蛛の足や牙が切り飛ばされる。虹色の光の粒が、軽やかに宙を舞った。
追ってきた蜘蛛たちは、一斉に後ずさる。
「……まだやる?」
剣を構えて、樹は碧に染まった瞳で蜘蛛たちを睨んだ。
威嚇は魔物に伝わったらしい。
蜘蛛たちは我先に暗い穴の中へと逃げ去って行った。
最初は天井に手が届きそうな高さだったが、今は到底届かないだろう。天井はまるで空のように遠い。洞窟の横幅も人が数人並んで歩ける道から、数十人歩いても余裕な広間に変化していた。
「これは……」
突き当たりで樹は足を止める。
そこは立体の迷路のようにいりくんだ分岐になっていた。
目の前の二本の別れ道以外に、足場がない壁にも複数の穴が空いている。
「ねえ、これ、どの道に進むの?」
朱里が呆然として聞いた。
いつもピーピーうるさいヒヨコは、こういう時に限って黙っている。樹が視線を向けると、朱里のツインテールの中に逃げ込んだ。たぶん道を知らないのだろう。
「どこに行くか分からないなら私が決めていい? 蛙さん占いで、方向を決めるの!」
「朱里ちゃん、前から気になってたけど、蛙が好きなの?」
「大好き!」
やたら蛙のキーホルダーを付けていたり、蛙のバッグを持っていたから、答えは聞く前に分かっていた。
さて、朱里の提案に従って、行く道を占いで適当に決めてしまっていいものだろうか。
真面目に推理したり、精霊の力で探したりした方がいいのではないかと樹が考えていると、ヒヨコが悲鳴を上げた。
『イツキ様! のんきに話してる場合じゃないでしゅよ!』
ハッと振り返ると、来た道に数個の赤い光が灯る。
樹のかかげた精霊の明かりの下に、巨大な蜘蛛の姿をした魔物が姿を現した。
がっしりした頭に並ぶ複眼は赤く光り、鋭い牙が口から突きだして下に伸びている。体色は気味の悪い黒とオレンジの斑模様。胴体から伸びる八本の足には、剛毛が刺のように生えている。
「樹くん、前にも!」
朱里の指摘に前に視線を戻すと、前方の穴から同じような蜘蛛の魔物が現れる。さらに壁に空いた穴からも、次々と魔物が頭を出す。
「囲まれた……ここは、こいつらの巣穴だったのか」
道理であちこちに不自然に穴が空いている訳だ。
どこへ逃げようか、蜘蛛のいない穴を探して見回す間に、魔物たちはじりじりと迫ってくる。
まだ距離があるから大丈夫。
そう思っていると蜘蛛は頭部をあげ、白くネバネバした糸を吐いた。
「うわっ」
油断していた樹たちに、蜘蛛の吐いた糸が襲いかかる。
「キャーっ、ねとねとして気持ち悪い!」
「くそっ」
生理的嫌悪で朱里は悲鳴を上げ、樹は舌打ちする。
「こんなもの……!」
精霊の力を解放する。
少年の背中に八枚の光の翅が現れた。
樹の身体から発する光が蜘蛛の糸を押し返す。
しかし、構わず蜘蛛の魔物は糸を投げ続けている。
精霊の力で跳ね返しても上から糸が被さってきた。
きりがない。
「しっかり捕まってて!」
樹は朱里を引き寄せると、地面を蹴って空中を飛ぶ。
雨のように降ってくる糸をかいくぐって、蜘蛛のいない穴に飛び込んだ。そのまま弾丸のように飛翔する。
背後から白い糸が追ってくる。
敵の攻撃を回避しながら、樹はアクロバット飛行を披露した。
『イツキ様、あそこに生えている木を目指すでしゅ! あの木は光橙樹と言って、魔物が寄ってこないでしゅ』
ヒヨコが必死に朱里にしがみつきながら叫ぶ。
樹は前方でぼんやり白く光る樹木を確認して、飛行速度を上げた。
もう少しで安全ゾーン、というところで白い糸が樹の足に絡み付く。
「しまったっ」
「樹くん?!」
「先に行ってて、朱里ちゃん!」
樹は光橙樹に向かって朱里を放り投げる。
地面までそんなに距離がないので大丈夫だろう。
少女を安全な場所に降ろして気を抜いた樹の手足に、白い蜘蛛の糸が絡み付く。糸は樹を引っ張って、魔物の元に引き寄せようとしていた。
精霊の力で振りほどけないか試す樹だが、上手くいかない。
「刃物で切り裂ければ、楽に脱出できるのに……刃……精霊武器?」
人間と契約した精霊が生み出す武器。
朱里のイメージだと、ごてごてした装飾の剣になりそうで、それは嫌だなと樹は思う。もっとスマートでシンプルな、扱いやすい長剣が良い。
蜘蛛の糸は一旦、意識の外において、樹は目を閉じた。
集中して銀色の剣をイメージする。
『イツキ様!』
「樹くん!」
動きを止めて蜘蛛の糸に呑まれそうになっている樹の姿に、ヒヨコと朱里が悲鳴を上げた。彼女たちの声を背中に聞きながら、樹は魂の底から精霊の力を汲み上げる。
幾多の葉を繁らせる常緑の大樹の姿が、応えるように心に浮かびあがった。
「僕に力を……世界樹!」
目を見開いた樹の前に、光が集まって、銀色の長剣が出現する。
樹は瞬間的に精霊の力を爆発させて、一気に蜘蛛の糸を引きちぎり、自分の精霊武器を掴んだ。
「はああっ!」
蜘蛛の前に逆に飛び込み、剣を一閃する。
光の波が弾けて、蜘蛛の糸が消し飛んだ。続けて剣を振ると、蜘蛛の足や牙が切り飛ばされる。虹色の光の粒が、軽やかに宙を舞った。
追ってきた蜘蛛たちは、一斉に後ずさる。
「……まだやる?」
剣を構えて、樹は碧に染まった瞳で蜘蛛たちを睨んだ。
威嚇は魔物に伝わったらしい。
蜘蛛たちは我先に暗い穴の中へと逃げ去って行った。
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