異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉

文字の大きさ
82 / 97
(第三部)第二章 星に願いを

03 死の精霊と会うために

しおりを挟む
 野原でエルフの夫婦と別れた樹は、そのまま死の精霊の棲み処に通じるという、ヨモツサカへ向かった。

『死の精霊は、魔物を作っているという噂でしゅよ。ヨモツサカには、危険な魔物がいっぱい……ハッ、イツキ様、精霊武器スピリットアームは?』
精霊武器スピリットアーム?」

 危険な場所に行くのに乗り気ではないヒヨコは、怯えているようだった。
 緊張を紛らわせるためか、あれこれ樹に話しかけてくる。
 魔物と戦う手段を持っているのかと聞かれて、樹は首をひねった。

精霊武器スピリットアーム? 強そうだね。何それ」
『知らないでしゅかーっ? 基本でしゅよーっ?』

 ヒヨコは騒いで飛び回った。
 狼の霊獣の背中で運ばれている朱里が「う、うん……」と呻く。
 どうやら目を覚ましかけているらしい。

精霊武器スピリットアームとは、人間と契約した精霊が人間のイメージをもとに作り出す武器で……って、イツキ様は最高位の精霊だから、人間と契約しないでしゅか』
「今は朱里ちゃんと契約してるよ」

 だから、ここにいられるんじゃないか。
 そう呆れて呟くと、ヒヨコがぼとんと樹の頭の上に落ちてきた。

『僕は世界樹の精霊さまについては、噂で聞くくらいしか知らないでしゅけど、なんで精霊武器について教わっていないでしゅ? おかしいでしゅね。確かにイツキ様は最高位の精霊だから、人間と契約するなんて滅多にないだろうけど、別に知っていてもいいのに』
「……」

 そういえば、アウルは人間との契約について、樹に教えてくれなかった。
 世界樹に戻ったら詳しく聞いてみよう。
 確かに魔物と戦うのに、何となくで使える光のつただけだと心もとない。
 武器があればいいのだが。
 
精霊武器スピリットアームが、人間のイメージ? そのへん、詳しく聞かせて……」
「うわっ、ここどこ?」

 会話の途中で、朱里が目を覚ます。
 ばたばたする彼女を、狼の霊獣が地面に下ろした。

「あのお婆さんの家じゃないの、ここ? 私はふかふかのベッドで眠っていたかったのに!」
「そんな悠長なことを言ってたら、ばれない内に地球に帰れないよ。近藤だって、君のことを心配してるのに」

 地球の状況を知る樹は、朱里を連れ戻さないと大変なことになると焦っている。
 けれど朱里の方はいきなり異世界に来たものだから、心の整理がついていない。

「まだ夜じゃない! ねえ、ホテルはどこ? ゆっくり休みましょうよ」
「……」

 朱里は異邦の地で行方不明になっているという自覚が薄いようだ。
 ちょっとこめかみを押さえて頭痛をこらえた樹だが、ここで彼女を説得しても状況は変わらないと、気持ちを切り替える。どのみち、朱里に異世界にずっといてもらうつもりはないのだ。

「朱里ちゃん、武器と言ったら、何を想像する?」
「武器? 正義のヒーローの武器は剣と相場が決まっているわ!」
「剣ねえ」

 聞きながら、樹はなぜ朱里が「正義のヒーロー」にこだわるのか、疑問に思った。

「ねえ、なんで自分のことを正義のヒーローっていうの?」
「え? ええっと、改めて聞かれると新鮮ね。皆、生暖かい目で見るだけで、聞いてこなかったから」
「生暖かい目で見られている自覚はあったんだね」

 ちなみに樹も突飛な行動を生暖かく観察していた一人だ。

「私のお父さんは、なんと正義のヒーロー、警察官なの!」
「へえ」
「だから、私も正義のヒーローになるんだ!」
「ふーん」

 親の影響かと納得した樹は、うんうんと頷いた。

「朱里ちゃん、正義のヒーローには体力も必要だよ。お父さんもそう言ってなかった?」
「た、確かに牛丼を食べながらスタミナ第一、って叫んでたけど」
「体力をつけるには歩かなきゃ。さあ、立ち止まってないで歩こうね」
「仕方ないわね」

 朱里が自分の足で歩き出したので、樹はほっとする。
 二人はヒヨコと、狼の霊獣と共に草むらを踏みしめて進む。
 背の高い草が無くなって地面の露出が多くなってきたところに、大きく盛り上がった丘があった。
 丘は近づいてよく見ると、巨大な生物の頭のようだった。
 岩のようなゴツゴツとした肌の亀の頭が、地面から頭を出して口を開けている。ぱかっと開いた口には無数のすり減った歯が並んでいて、口蓋はそのまま洞窟の壁になっていた。洞窟イコール、この生物の腹の中、ということだ。

「こいつがヨモツサカ……」
『食われるでしゅー! やっぱり止めるでしゅよー!』

 ヒヨコが鳴いて樹を押しとどめようとする。
 洞窟の中から生暖かい空気が上がってきて、樹の頬をかすめる。
 不快な気配に樹は眉をひそめた。
 ここまで付いてきてくれた狼の霊獣に「ありがとう、帰っていいよ」と礼を言う。

「ヒヨコは囮に使えるかもしれないから、連れていこう」
『ひどいでしゅー! あんたは悪魔でしゅか!』
「悪魔を自称してたのは君でしょ」

 朱里も「ここに入るの?」と気が進まない様子だったが、洞窟に入ることを決めた樹は、ためらう一羽と一人の腕をつかむと、さっさと生き物の口の中に足を踏み入れた。
 不気味な洞窟に扮している生き物は、動く気配はない。
 口に入った後に出入口を閉じられると怖いな、と思っていた樹はほっとした。
 洞窟は下り坂が延々と続いている。
 樹は精霊の力で光の玉を呼び出すと、手のひらに浮かべた光で前方を照らしながら、洞窟を進み始めた。


しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。