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(第三部)第二章 星に願いを
03 死の精霊と会うために
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野原でエルフの夫婦と別れた樹は、そのまま死の精霊の棲み処に通じるという、ヨモツサカへ向かった。
『死の精霊は、魔物を作っているという噂でしゅよ。ヨモツサカには、危険な魔物がいっぱい……ハッ、イツキ様、精霊武器は?』
「精霊武器?」
危険な場所に行くのに乗り気ではないヒヨコは、怯えているようだった。
緊張を紛らわせるためか、あれこれ樹に話しかけてくる。
魔物と戦う手段を持っているのかと聞かれて、樹は首をひねった。
「精霊武器? 強そうだね。何それ」
『知らないでしゅかーっ? 基本でしゅよーっ?』
ヒヨコは騒いで飛び回った。
狼の霊獣の背中で運ばれている朱里が「う、うん……」と呻く。
どうやら目を覚ましかけているらしい。
『精霊武器とは、人間と契約した精霊が人間のイメージをもとに作り出す武器で……って、イツキ様は最高位の精霊だから、人間と契約しないでしゅか』
「今は朱里ちゃんと契約してるよ」
だから、ここにいられるんじゃないか。
そう呆れて呟くと、ヒヨコがぼとんと樹の頭の上に落ちてきた。
『僕は世界樹の精霊さまについては、噂で聞くくらいしか知らないでしゅけど、なんで精霊武器について教わっていないでしゅ? おかしいでしゅね。確かにイツキ様は最高位の精霊だから、人間と契約するなんて滅多にないだろうけど、別に知っていてもいいのに』
「……」
そういえば、アウルは人間との契約について、樹に教えてくれなかった。
世界樹に戻ったら詳しく聞いてみよう。
確かに魔物と戦うのに、何となくで使える光の蔦だけだと心もとない。
武器があればいいのだが。
「精霊武器が、人間のイメージ? そのへん、詳しく聞かせて……」
「うわっ、ここどこ?」
会話の途中で、朱里が目を覚ます。
ばたばたする彼女を、狼の霊獣が地面に下ろした。
「あのお婆さんの家じゃないの、ここ? 私はふかふかのベッドで眠っていたかったのに!」
「そんな悠長なことを言ってたら、ばれない内に地球に帰れないよ。近藤だって、君のことを心配してるのに」
地球の状況を知る樹は、朱里を連れ戻さないと大変なことになると焦っている。
けれど朱里の方はいきなり異世界に来たものだから、心の整理がついていない。
「まだ夜じゃない! ねえ、ホテルはどこ? ゆっくり休みましょうよ」
「……」
朱里は異邦の地で行方不明になっているという自覚が薄いようだ。
ちょっとこめかみを押さえて頭痛をこらえた樹だが、ここで彼女を説得しても状況は変わらないと、気持ちを切り替える。どのみち、朱里に異世界にずっといてもらうつもりはないのだ。
「朱里ちゃん、武器と言ったら、何を想像する?」
「武器? 正義のヒーローの武器は剣と相場が決まっているわ!」
「剣ねえ」
聞きながら、樹はなぜ朱里が「正義のヒーロー」にこだわるのか、疑問に思った。
「ねえ、なんで自分のことを正義のヒーローっていうの?」
「え? ええっと、改めて聞かれると新鮮ね。皆、生暖かい目で見るだけで、聞いてこなかったから」
「生暖かい目で見られている自覚はあったんだね」
ちなみに樹も突飛な行動を生暖かく観察していた一人だ。
「私のお父さんは、なんと正義のヒーロー、警察官なの!」
「へえ」
「だから、私も正義のヒーローになるんだ!」
「ふーん」
親の影響かと納得した樹は、うんうんと頷いた。
「朱里ちゃん、正義のヒーローには体力も必要だよ。お父さんもそう言ってなかった?」
「た、確かに牛丼を食べながらスタミナ第一、って叫んでたけど」
「体力をつけるには歩かなきゃ。さあ、立ち止まってないで歩こうね」
「仕方ないわね」
朱里が自分の足で歩き出したので、樹はほっとする。
二人はヒヨコと、狼の霊獣と共に草むらを踏みしめて進む。
背の高い草が無くなって地面の露出が多くなってきたところに、大きく盛り上がった丘があった。
丘は近づいてよく見ると、巨大な生物の頭のようだった。
岩のようなゴツゴツとした肌の亀の頭が、地面から頭を出して口を開けている。ぱかっと開いた口には無数のすり減った歯が並んでいて、口蓋はそのまま洞窟の壁になっていた。洞窟イコール、この生物の腹の中、ということだ。
「こいつがヨモツサカ……」
『食われるでしゅー! やっぱり止めるでしゅよー!』
ヒヨコが鳴いて樹を押しとどめようとする。
洞窟の中から生暖かい空気が上がってきて、樹の頬をかすめる。
不快な気配に樹は眉をひそめた。
ここまで付いてきてくれた狼の霊獣に「ありがとう、帰っていいよ」と礼を言う。
「ヒヨコは囮に使えるかもしれないから、連れていこう」
『ひどいでしゅー! あんたは悪魔でしゅか!』
「悪魔を自称してたのは君でしょ」
朱里も「ここに入るの?」と気が進まない様子だったが、洞窟に入ることを決めた樹は、ためらう一羽と一人の腕をつかむと、さっさと生き物の口の中に足を踏み入れた。
不気味な洞窟に扮している生き物は、動く気配はない。
口に入った後に出入口を閉じられると怖いな、と思っていた樹はほっとした。
洞窟は下り坂が延々と続いている。
樹は精霊の力で光の玉を呼び出すと、手のひらに浮かべた光で前方を照らしながら、洞窟を進み始めた。
『死の精霊は、魔物を作っているという噂でしゅよ。ヨモツサカには、危険な魔物がいっぱい……ハッ、イツキ様、精霊武器は?』
「精霊武器?」
危険な場所に行くのに乗り気ではないヒヨコは、怯えているようだった。
緊張を紛らわせるためか、あれこれ樹に話しかけてくる。
魔物と戦う手段を持っているのかと聞かれて、樹は首をひねった。
「精霊武器? 強そうだね。何それ」
『知らないでしゅかーっ? 基本でしゅよーっ?』
ヒヨコは騒いで飛び回った。
狼の霊獣の背中で運ばれている朱里が「う、うん……」と呻く。
どうやら目を覚ましかけているらしい。
『精霊武器とは、人間と契約した精霊が人間のイメージをもとに作り出す武器で……って、イツキ様は最高位の精霊だから、人間と契約しないでしゅか』
「今は朱里ちゃんと契約してるよ」
だから、ここにいられるんじゃないか。
そう呆れて呟くと、ヒヨコがぼとんと樹の頭の上に落ちてきた。
『僕は世界樹の精霊さまについては、噂で聞くくらいしか知らないでしゅけど、なんで精霊武器について教わっていないでしゅ? おかしいでしゅね。確かにイツキ様は最高位の精霊だから、人間と契約するなんて滅多にないだろうけど、別に知っていてもいいのに』
「……」
そういえば、アウルは人間との契約について、樹に教えてくれなかった。
世界樹に戻ったら詳しく聞いてみよう。
確かに魔物と戦うのに、何となくで使える光の蔦だけだと心もとない。
武器があればいいのだが。
「精霊武器が、人間のイメージ? そのへん、詳しく聞かせて……」
「うわっ、ここどこ?」
会話の途中で、朱里が目を覚ます。
ばたばたする彼女を、狼の霊獣が地面に下ろした。
「あのお婆さんの家じゃないの、ここ? 私はふかふかのベッドで眠っていたかったのに!」
「そんな悠長なことを言ってたら、ばれない内に地球に帰れないよ。近藤だって、君のことを心配してるのに」
地球の状況を知る樹は、朱里を連れ戻さないと大変なことになると焦っている。
けれど朱里の方はいきなり異世界に来たものだから、心の整理がついていない。
「まだ夜じゃない! ねえ、ホテルはどこ? ゆっくり休みましょうよ」
「……」
朱里は異邦の地で行方不明になっているという自覚が薄いようだ。
ちょっとこめかみを押さえて頭痛をこらえた樹だが、ここで彼女を説得しても状況は変わらないと、気持ちを切り替える。どのみち、朱里に異世界にずっといてもらうつもりはないのだ。
「朱里ちゃん、武器と言ったら、何を想像する?」
「武器? 正義のヒーローの武器は剣と相場が決まっているわ!」
「剣ねえ」
聞きながら、樹はなぜ朱里が「正義のヒーロー」にこだわるのか、疑問に思った。
「ねえ、なんで自分のことを正義のヒーローっていうの?」
「え? ええっと、改めて聞かれると新鮮ね。皆、生暖かい目で見るだけで、聞いてこなかったから」
「生暖かい目で見られている自覚はあったんだね」
ちなみに樹も突飛な行動を生暖かく観察していた一人だ。
「私のお父さんは、なんと正義のヒーロー、警察官なの!」
「へえ」
「だから、私も正義のヒーローになるんだ!」
「ふーん」
親の影響かと納得した樹は、うんうんと頷いた。
「朱里ちゃん、正義のヒーローには体力も必要だよ。お父さんもそう言ってなかった?」
「た、確かに牛丼を食べながらスタミナ第一、って叫んでたけど」
「体力をつけるには歩かなきゃ。さあ、立ち止まってないで歩こうね」
「仕方ないわね」
朱里が自分の足で歩き出したので、樹はほっとする。
二人はヒヨコと、狼の霊獣と共に草むらを踏みしめて進む。
背の高い草が無くなって地面の露出が多くなってきたところに、大きく盛り上がった丘があった。
丘は近づいてよく見ると、巨大な生物の頭のようだった。
岩のようなゴツゴツとした肌の亀の頭が、地面から頭を出して口を開けている。ぱかっと開いた口には無数のすり減った歯が並んでいて、口蓋はそのまま洞窟の壁になっていた。洞窟イコール、この生物の腹の中、ということだ。
「こいつがヨモツサカ……」
『食われるでしゅー! やっぱり止めるでしゅよー!』
ヒヨコが鳴いて樹を押しとどめようとする。
洞窟の中から生暖かい空気が上がってきて、樹の頬をかすめる。
不快な気配に樹は眉をひそめた。
ここまで付いてきてくれた狼の霊獣に「ありがとう、帰っていいよ」と礼を言う。
「ヒヨコは囮に使えるかもしれないから、連れていこう」
『ひどいでしゅー! あんたは悪魔でしゅか!』
「悪魔を自称してたのは君でしょ」
朱里も「ここに入るの?」と気が進まない様子だったが、洞窟に入ることを決めた樹は、ためらう一羽と一人の腕をつかむと、さっさと生き物の口の中に足を踏み入れた。
不気味な洞窟に扮している生き物は、動く気配はない。
口に入った後に出入口を閉じられると怖いな、と思っていた樹はほっとした。
洞窟は下り坂が延々と続いている。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
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本当に、ありがとうございます。
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