異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉

文字の大きさ
81 / 97
(第三部)第二章 星に願いを

02 ツキミソウと再会の約束

しおりを挟む
 この野原に月光が射し込む時にだけ地上にその姿を見せ、花開くというツキミソウ。
 エルフの夫婦はツキミソウを探しに来たが、なかなか見つからず「せっかくここまで来たのだから、あとすこし」と粘っている内に、時間が経ってしまったらしい。

『薬草でしゅか。そんなの、世界樹の精霊さまの力で生やしたらいいじゃないでしゅか』
「え?」

 熟睡中の朱里あかりの頭上で、黄色い毛玉がぴょんぴょん跳ねた。
 ヒヨコが樹に向かって当然のように提案するが、樹は戸惑って答えにつまる。

「植物を生やす……?」
『世界樹で精霊は生まれるでしゅ。精霊たちは世界樹から巣立って、大自然に宿って、ありとあらゆるものに恵みを与える。世界樹は全ての根源なのでしゅ。そしてイツキ様は、命を司る世界樹の精霊なのでしゅ』
「僕は……」

 世界樹の精霊の力を、今まで樹は積極的に使ってこなかった。
 アウルから簡単な話は聞いていた。
 しかし改めてヒヨコに説明されて、自分の能力を再認識する。

「ツキミソウを生やせるか、やってみる」

 エルフの夫婦にツキミソウの特徴を詳しく聞いた後、樹は野原を見回した。
 目をつむると、意識を研ぎ澄ませて、土の中に眠る植物の種を探す。
 月の下で咲く白い四枚の柔らかい花弁をイメージする。
 沢山の命の気配の中で、月光に反応している植物を探し出した。
 その種は弱っていて土の下で縮こまっている。
 樹は種に呼びかける。
 出てきて大丈夫だよ。
 僕が力を分けてあげるから。

「おお……!」

 傍観していたエルフの夫婦が固唾を呑んだ。
 月光に照らされた少年の背に、淡い光の線が八枚の翅のかたちを描き出す。
 一瞬、八枚の翅が光輝いたかと思うと、パッと消えた。
 野原の片隅にいくつかの光を帯びた若葉が地面から伸びあがり、子供の背の高さまで到達すると、柔らかい乳白色の花を咲かせる。月光を受けた白い花弁は、ほのかに幻想的に光った。

「ツキミソウだ……ありがとうございます!」

 目的の薬草を見つけてエルフの夫婦は嬉しそうにする。
 彼らは生えてきた薬草を全部摘み取ってしまわず、その中の数本だけ選ぶと、布に包んで大事そうに鞄の中にしまいこんだ。
 薬草の採取がひと段落したところを見計らって、樹はエルフの夫婦に「世界を渡る方法」について聞いてみる。

「別の世界、ですか」

 唐突な質問に、彼らは困惑を隠しきれない。

「そもそも世界が複数存在しているということについて、私たちが知っている世界は三つだけ。人間世界と魔界と、世界樹を中心とした精霊の世界のことだけです。それ以外の世界については……」

 エルフの夫婦は、樹の欲しい知識を持っていないようだ。
 朱里を地球に還す方法を知りたい樹はがっかりした。

「あ、そういえばもうひとつありました」

 残念そうな樹を見ながら、エルフの夫婦は愛娘を連れてきてくれて、ツキミソウを生やしてもらった礼をしたいと考える。夫婦は、何とか関係のある話を思い出して、樹に伝えようとした。

「この野原の先に、ヨモツサカと呼ばれる不気味な洞窟があり、そこは死の世界に通じているそうです」

 ヒヨコが驚いたようにポーンと飛び上がった。

『死の精霊の棲み処に通じているところでしゅ! こんなに近くにあったでしゅか!』

 樹は死の精霊と聞いて、以前に精霊の卵を盗まれたことを思い出した。
 ちょうどいい。

「行ってみようか」
『何を言ってるでしゅ?! イツキ様の天敵じゃないでしゅか! 戦争に行くでしゅか?!』
「戦いに行く訳じゃないよ。精霊の卵がどうなったか知りたいのと、あと、この世界で最も古い精霊だという死の精霊なら、朱里ちゃんを地球に還す方法も知っているかもしれない」

 言いながら、樹は正解に近づいている気がした。
 実際、世界を越える魔法を使えるのは、神々と最高位の精霊だけ。そんなに的外れな探索ではないのだが、この時の樹はそこまで詳しくは知らない。

「行っちゃうの……?」

 かぼそい声がした。
 両親の服の裾にぎゅっとしがみついたままで、ソフィーが水色の瞳をうるませて、樹を見ている。

「また会える……?」

 エルフの少女に聞かれて、樹は答えることができなかった。
 本来、世界樹から離れられない精霊の樹がここにいるのは、地球から迷いこんだ朱里というイレギュラーあってのこと。その朱里を地球に還せば、樹はまた世界樹から離れられなくなるだろう。
 もう二度と会えない可能性が高い。
 軽々しく「うん」と肯定できなかった。

「それは」
『世界樹の精霊さまは、ずっと僕らを見守ってくださるでしゅ! ね、イツキ様!』
「君ちょっと遠慮してよ。大事な話をしてるんだからさ」

 ヒヨコが割り込んできて、二人の間で飛び回る。
 樹はヒヨコの台詞を聞きながら、一瞬、疑問に思った。
 僕は世界樹の精霊としてこの世界をずっと見守っていくんだろうか。
 本当に?
 何か違和感がある。小骨を飲み込んだような感覚が喉の奥で消えない。
 子供の僕はいつか大人になる。大人になったら、どんな仕事をしているのだろう。いったい何になっているのだろう。想像がつかない。そこに「異世界の世界樹の精霊」という未来があるのだろうか。

「じゃあ、いつかまたきっと会えるよね!」

 黄色い毛玉のせいで、ソフィーは話を誤解してしまった。
 今更ちがう、とも言いだしにくい。
 樹はどうしようかと思う。

「……世界樹の精霊さま、私たちエルフは永い時間を生きます。すぐは無理でも、いつかは再会できるでしょう。私たちには時間がありますから」

 樹が困っているのに気付いて、エルフの夫婦はさりげなくフォローを入れた。
 そうか、別に時間がかかってもいいんだ。
 今すぐ答えを出さなくてもいい。

「じゃあ、いつかね」
「うん!」

 幼い樹は、ソフィーと小さな約束を交わす。
 果たされるか分からない、お互いに覚えていられるか分からない、大切な約束を。


しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

幼馴染の勇者が一般人の僕をパーティーに入れようとするんですが

空色蜻蛉
ファンタジー
羊飼いの少年リヒトは、ある事件で勇者になってしまった幼馴染みに巻き込まれ、世界を救う旅へ……ではなく世界一周観光旅行に出発する。 「君達、僕は一般人だって何度言ったら分かるんだ?!  人間外の戦闘に巻き込まないでくれ。  魔王討伐の旅じゃなくて観光旅行なら別に良いけど……え? じゃあ観光旅行で良いって本気?」 どこまでもリヒト優先の幼馴染みと共に、人助けそっちのけで愉快な珍道中が始まる。一行のマスコット家畜メリーさんは巨大化するし、リヒト自身も秘密を抱えているがそれはそれとして。 人生は楽しまないと勿体ない!! ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。