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(第三部)第二章 星に願いを
09 叶えたい未来
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世界の間の暗闇を通り抜けて、樹は地球に戻ってきた。
目を開けると旅館の和室の天井が見えた。
時刻は夜半らしく部屋は消灯されている。樹以外の子供たちも布団の中で眠っていた。同級生の少年、近藤武も間抜けな顔でイビキをかいている。
樹はそっと布団から抜け出した。
枕元の眼鏡を拾いあげて身支度を整え、部屋を出る。
旅館のロビーは非常灯がついていた。
誰にも見つからずに外に出る。
首尾よく外に出られた事に、樹はほっとした。
あまりにも人の気配が無いことをおかしく思わなかった。
朱里を迎えに行くことで頭が一杯だったからだ。
暗い田園の道を、墓場を目指して歩く。
その時、空に一筋の光が流れた。
「流星群……」
樹は立ち止まって空を見上げた。
昼間、曇っていた空は晴れていて、満天の星空がそこにあった。
見上げた空に次々と星が落ちていく。
「流れ星に三回願いが言えたら、叶うんだっけ」
見事な流星に見とれて、束の間、樹は自分の目的を忘れた。
ただ無心に星を見上げて思考する。
欲しいものは何か。
こうなって欲しいという、強い願い。
叶えたい未来。
「……大人になっても、アウルに会いたい」
樹の唇からこぼれたのは、そんな願い事。
「ずっと異世界にいたいよ……大人になんかなりたくない。アウルや皆と一緒にいられる、世界樹の精霊でありたいんだ……」
時の砂は止められない。
だから、樹の願いは叶わない。
無理だと分かっているから、余計に想いが募る。
誰も聞いていないと思ったからこそ、樹は夜空に弱音を吐いた。
『その願い、叶えてやろうか?』
急に空気が重くなって、樹は背筋に悪寒を覚えた。
一人言のつもりなのに回答が返ってきて狼狽える。
「誰だ?!」
『くくく……』
声は複数の男女が同時にしゃべっているような、合唱のような音声だった。気持ちの悪い響きだ。
樹は振り返って唖然とした。
道化師の面のようなデザインの、巨大な円形の物体が樹を見下ろしている。仮面の裏側からは、透明な触手が夜空に向かって伸びていた。不気味な笑い声が面をカタカタ揺らす。
『思い通りにならない世界は、ワタシが食らってやろう。だからイツキ……』
仮面の中央に亀裂が入り、左右にパカッと割れる。
それは化け物の口だった。
無数の牙が亀裂に沿って生えており、ピンク色の内部から蛇のような長い舌が現れる。
化け物の口は、樹を余裕で丸呑みにできる大きさだ。
『ワタシのものになれ、生命を司る光の精霊』
金縛りにあったかのように身体が動かない。
まるで悪夢の中のようだ。
樹は動揺して精霊の力を発揮できなかった。
生暖かい暗闇に飲み込まれて、樹の意識はプツンと途絶えた。
同じ頃、地球に戻ってきた朱里は呆然としていた。
ファンタジーな異世界から帰ってきた彼女を出迎えたのは、生まれ故郷の地球の田園風景……とは微妙に違う恐ろしい光景だったからである。
「ここ、どこ……?」
世界は朝焼けの直前で静止している。
空は明るくなり始めたミッドナイトブルーで、周囲は薄暗かった。
朱里の周りには一緒に帰ってきた子供たちが倒れたままだ。
不気味な紫色の植物が石畳を多い尽くしており、植物の間から卒塔婆や石塔が生えている。石塔の上には、赤い目のカラスがとまってギャアギャア鳴いていた。
何よりもおかしいのは、田園風景を台無しにする、巨大な建造物。
灰色の石で出来ていて意味不明な複雑な彫刻が無数に彫られたその建造物は、世界遺産のサグラダ・ファミリア教会に似ていた。
朱里は、自分がまだ夢を見ているのかと思った。
よく見ると偽サグラダ・ファミリアの周りは地球の田園風景なのだが、前衛的な芸術家の作品のように、奇妙な色や形に変わっていて分からなくなってしまっている。
『ぼけーっとしてる場合じゃないわよ!』
どこからか、元気の良い女性の声がした。
「な、何?」
『ここよ、ここ!』
朱里は慌てて声の発生源を探す。
そして、身に付けている蛙のキーホルダーが、跳ねて喋っているのに気付く。
「か、カエルさんが!」
『私は蛙じゃないわ。正確には、蛙にとり憑いた死の精霊、エルルよ!』
「エルルさん?」
びっくりした朱里だが、地球に帰る直前に会った、白い髪に赤い瞳の少女の姿を思い出す。
「何が何だか……樹君はどこ?」
『あの建物の中よ』
「えっ」
『あの馬鹿、油断して、侵略者に捕まっちゃったのよ! 仮にもイツキは世界樹の精霊よ。イツキの力を利用して、侵略者は、あなたの世界を滅ぼそうとしているの!』
「ふええええええっ?!」
正直に言うと、朱里はエルルの言葉の意味が分かっていない。
だが非常に大変な事態だということだけは理解できる。
「わ、私、どうしたらいいの?!」
『こうなったら仕方ないわ。私がサポートしてあげるから、あなたはあの建物に乗り込んで、捕まっているイツキを解放するのよ!』
「それって……」
朱里は訳の分からないままに、自分なりの解釈をした。
「正義のヒーローの仕事よね! 私の時代が来た!」
『やる気があるのは良いことだわ。ガンガン行くわよ』
どこまでもポジティブ思考の朱里は、喋る蛙のキーホルダーを手に、意気揚々と悪の居城たる偽サグラダ・ファミリアを見上げた。
朱里の冒険はこれから始まる!……たぶん。
目を開けると旅館の和室の天井が見えた。
時刻は夜半らしく部屋は消灯されている。樹以外の子供たちも布団の中で眠っていた。同級生の少年、近藤武も間抜けな顔でイビキをかいている。
樹はそっと布団から抜け出した。
枕元の眼鏡を拾いあげて身支度を整え、部屋を出る。
旅館のロビーは非常灯がついていた。
誰にも見つからずに外に出る。
首尾よく外に出られた事に、樹はほっとした。
あまりにも人の気配が無いことをおかしく思わなかった。
朱里を迎えに行くことで頭が一杯だったからだ。
暗い田園の道を、墓場を目指して歩く。
その時、空に一筋の光が流れた。
「流星群……」
樹は立ち止まって空を見上げた。
昼間、曇っていた空は晴れていて、満天の星空がそこにあった。
見上げた空に次々と星が落ちていく。
「流れ星に三回願いが言えたら、叶うんだっけ」
見事な流星に見とれて、束の間、樹は自分の目的を忘れた。
ただ無心に星を見上げて思考する。
欲しいものは何か。
こうなって欲しいという、強い願い。
叶えたい未来。
「……大人になっても、アウルに会いたい」
樹の唇からこぼれたのは、そんな願い事。
「ずっと異世界にいたいよ……大人になんかなりたくない。アウルや皆と一緒にいられる、世界樹の精霊でありたいんだ……」
時の砂は止められない。
だから、樹の願いは叶わない。
無理だと分かっているから、余計に想いが募る。
誰も聞いていないと思ったからこそ、樹は夜空に弱音を吐いた。
『その願い、叶えてやろうか?』
急に空気が重くなって、樹は背筋に悪寒を覚えた。
一人言のつもりなのに回答が返ってきて狼狽える。
「誰だ?!」
『くくく……』
声は複数の男女が同時にしゃべっているような、合唱のような音声だった。気持ちの悪い響きだ。
樹は振り返って唖然とした。
道化師の面のようなデザインの、巨大な円形の物体が樹を見下ろしている。仮面の裏側からは、透明な触手が夜空に向かって伸びていた。不気味な笑い声が面をカタカタ揺らす。
『思い通りにならない世界は、ワタシが食らってやろう。だからイツキ……』
仮面の中央に亀裂が入り、左右にパカッと割れる。
それは化け物の口だった。
無数の牙が亀裂に沿って生えており、ピンク色の内部から蛇のような長い舌が現れる。
化け物の口は、樹を余裕で丸呑みにできる大きさだ。
『ワタシのものになれ、生命を司る光の精霊』
金縛りにあったかのように身体が動かない。
まるで悪夢の中のようだ。
樹は動揺して精霊の力を発揮できなかった。
生暖かい暗闇に飲み込まれて、樹の意識はプツンと途絶えた。
同じ頃、地球に戻ってきた朱里は呆然としていた。
ファンタジーな異世界から帰ってきた彼女を出迎えたのは、生まれ故郷の地球の田園風景……とは微妙に違う恐ろしい光景だったからである。
「ここ、どこ……?」
世界は朝焼けの直前で静止している。
空は明るくなり始めたミッドナイトブルーで、周囲は薄暗かった。
朱里の周りには一緒に帰ってきた子供たちが倒れたままだ。
不気味な紫色の植物が石畳を多い尽くしており、植物の間から卒塔婆や石塔が生えている。石塔の上には、赤い目のカラスがとまってギャアギャア鳴いていた。
何よりもおかしいのは、田園風景を台無しにする、巨大な建造物。
灰色の石で出来ていて意味不明な複雑な彫刻が無数に彫られたその建造物は、世界遺産のサグラダ・ファミリア教会に似ていた。
朱里は、自分がまだ夢を見ているのかと思った。
よく見ると偽サグラダ・ファミリアの周りは地球の田園風景なのだが、前衛的な芸術家の作品のように、奇妙な色や形に変わっていて分からなくなってしまっている。
『ぼけーっとしてる場合じゃないわよ!』
どこからか、元気の良い女性の声がした。
「な、何?」
『ここよ、ここ!』
朱里は慌てて声の発生源を探す。
そして、身に付けている蛙のキーホルダーが、跳ねて喋っているのに気付く。
「か、カエルさんが!」
『私は蛙じゃないわ。正確には、蛙にとり憑いた死の精霊、エルルよ!』
「エルルさん?」
びっくりした朱里だが、地球に帰る直前に会った、白い髪に赤い瞳の少女の姿を思い出す。
「何が何だか……樹君はどこ?」
『あの建物の中よ』
「えっ」
『あの馬鹿、油断して、侵略者に捕まっちゃったのよ! 仮にもイツキは世界樹の精霊よ。イツキの力を利用して、侵略者は、あなたの世界を滅ぼそうとしているの!』
「ふええええええっ?!」
正直に言うと、朱里はエルルの言葉の意味が分かっていない。
だが非常に大変な事態だということだけは理解できる。
「わ、私、どうしたらいいの?!」
『こうなったら仕方ないわ。私がサポートしてあげるから、あなたはあの建物に乗り込んで、捕まっているイツキを解放するのよ!』
「それって……」
朱里は訳の分からないままに、自分なりの解釈をした。
「正義のヒーローの仕事よね! 私の時代が来た!」
『やる気があるのは良いことだわ。ガンガン行くわよ』
どこまでもポジティブ思考の朱里は、喋る蛙のキーホルダーを手に、意気揚々と悪の居城たる偽サグラダ・ファミリアを見上げた。
朱里の冒険はこれから始まる!……たぶん。
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