異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉

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(第三部)第三章 囚われの王子を助けに行く姫

03 逆転に向けて

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 眼鏡にとり憑いた樹と、侵略者メテオラを裏切ったヒヨコのパドは、偽サグラダ・ファミリアの外壁を滑り降りた。
 平和な田園風景は海の中に沈んでいるように、不気味に沈黙している。田んぼの真ん中にドンと建った偽サグラダ・ファミリアの違和感が半端ない。
 変わりはてた世界を観察していた樹は、建物の門付近で騒がしい声がすることに気付いた。

『パド、隠れて様子を見よう』
『了解でしゅ』

 ヒヨコは柱の陰に身をひそめる。
 偽サグラダ・ファミリアの門前では、石の巨人とツインテールの少女が喧嘩していた。

「そこをどきなさい!」

 ツインテールの少女は、同級生の朱里あかりだ。
 キャンプの肝試しの時から着ていた麻のワンピースは、異世界の旅を経て少しよれている。しかし少女は生き生きとしていて、とても楽しそうだった。
 彼女は死神の鎌のような、柄の長い三日月状の刃が天辺に付いた武器を持っている。柄が細いので、少女の細腕で持ってもそんなに違和感はない。

「食らえ、正義の鉄槌!」

 朱里が鎌を頭上に掲げると、黒い禍々しい炎が刃にまとわりつく。
 動きが鈍い石の巨人に向かって、彼女は鎌を振り下ろした。
 爆発が起きて石の巨人が砕け散る。
 飛び散った石の欠片が、ヒヨコの隠れている柱に当たった。

『ひょえええ』

 もう少しで眼鏡を付けたヒヨコを直撃するところだった。
 ヒヨコは柱の陰でガタガタ震える。

「ふう。呆気ないわね!」
『油断は禁物よ。イツキはたぶん、この塔の上だわ。そこに辿りつくまでに、もっと手強いモンスターが出てくるかも』
「きっと大丈夫よ! 正義は必ず勝つ!」

 朱里は無意味に空中に向かってピースサインを決めた。
 少女の肩で蛙(にとり憑いた死の精霊)がしゃべっている。
 黒い炎が燃える鎌で閉まった扉を切り裂いて、朱里と蛙は偽サグラダ・ファミリア内部に突撃していった。

『イツキ様。あれ、ほっといていいんですか?』
『パド、世の中には関わったらいけない人達もいるんだよ。あれはその一種さ』

 樹は清々しい声で答えた。
 実は面倒だと思っていることは口に出さない。

『でも、イツキ様を助けに行こうとしてるみたいですよ』
『そのことだけど、パド、僕を助けて事態が好転すると思う?』

 同級生の少女の後ろ姿を見送った樹は、冷静に言う。
 ヒヨコはきょとんとした。

『イツキ様を解放したら、侵略者メテオラの計画は終わるのではないでしゅか?』

 滅びのイメージで世界を上書きするという危険な計画も、樹の力が無ければ頓挫するだろうと、パドは単純に考えていた。

『既に僕の力は半分以上、奪われてるんだよ。計画はそりゃ、終わるだろうけど、僕の危機は終わらない。へろへろの状態で敵と戦って勝てるもんか。逃げることもできないんだから、詰んでるね』

 そう、世界の滅亡は回避できるかもしれないが、計画を邪魔された侵略者メテオラがどうでるか未知数だ。
 おまけに、この滅びのイメージで作られた世界から逃げられないときた。

『逆転のチャンスを作らないと、僕ら全員死んでしまうよ』

 樹の言葉の冷たい響きに、パドは震えた。
 ヒヨコは小さな頭で必死に考えを巡らせる。

『……そうだ、イツキ様! 外から味方を喚ぶのはどうでしょう? 逃げることはできないけど、外から味方を引き入れることはできるでしゅ』
『味方かあ』

 樹は、保護者がわりの賢いフクロウを思い浮かべて、すぐに駄目だと思った。戦う力のない者を連れてきても危険にさらすだけだ。
 かと言って、どれだけ強いか分からない侵略者メテオラと戦える猛者もさに心当たりは無い。
 しばらく沈黙して、樹は考えこんだ。

『……召喚の対象は何でもいいよね』
『イツキ様?』
『じゃあ…………を召喚するのはどうかな』

 樹の突拍子の無い提案に、パドは一瞬固まった。
 少しして『どうしたの?』と樹が聞いたので、呪縛から解放される。パドは迷いながら答えた。

『……可能だと思いますでしゅ。召喚には普通、媒介が必要でしゅが』
『じゃあその媒介を手に入れようか』

 方針は固まった。
 密かに侵略者メテオラの打倒を目指して、樹たちは動き始めた。




 耳元を蚊が飛んでいるような気配がして、近藤武こんどうたけしは目覚めた。まだ夜中らしく旅館の一室は闇に包まれている。

「何……?」

 目元をこすりながらたけしは上体を起こす。

『近藤……』
「うわっ」

 枕元に白い人影が立っているのに気付いて、武は仰天した。

『しぃーっ』

 幽霊かと思った人影は、同級生の少年、樹だった。
 少年の姿は半透明にぼやけていて、なぜか肩に黄色いヒヨコを乗せている。樹は唇に人差し指をあてて「黙って」とジェスチャーで示した。

「か、各務かがみ……どうしちまったんだよ」
『詳しい説明は後。近藤は植物の種を持ってない?』

 種?
 質問の意図は分からなかったが、武は周囲で雑魚寝ざこねしている、同じキャンプに来ている子供たちを見回した。

「確か、夏休みの自由研究の宿題を持ってきたって、ヒマワリや朝顔の種を見せびらかしてる奴がいたような」
『じゃあ、その種を荷物から取って、こっちに来て』
「盗むのは……くそっ。なんか事情があるんだな!」

 迷いながらも武は、眠っている子供の荷物を開けて、種の入った袋を探した。幸い、リュックの外側のサブポケットに入っていたため、そう時間を掛けずにモノは見つかった。

「これ、どうすれば……」
『ありがとう、近藤。それとゴメン。巻き込んじゃった』

 眼鏡の少年は悪びれずに微笑む。
 武は嫌な予感を覚えた。

「巻き込んだって……何を……うおおおおっ?!」

 途端に風景が歪んで一変する。
 気が付くと武は、旅館の中の和室ではなく、奇妙な植物が生い茂った田んぼの畦道あぜみちに佇んでいた。


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