異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉

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(第三部)第三章 囚われの王子を助けに行く姫

05 ストライク!

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 朱里あかりの中で、主人公の武器といえば剣だった。
 なのに自分に与えられた武器は不気味な鎌だ。
 偽サグラダ・ファミリア内部の階段を駆け上りながら、朱里は鎌の柄を握りしめた。
 納得いかない。

「どうして剣じゃないの?!」
『我がままね。最高位の精霊たる私が手を貸してやってるのよ。身の程を知りなさい、人間』

 蛙のキーホルダーが涼やかな少女の声で喋る。
 姿が見えない、蛙にとり憑いている少女は自分のことを「死の精霊」だと言う。正義のヒーローを目指す朱里にとっては、悪魔のような死の精霊はハズレくじも良いところの属性だ。
 
『ヒーロー? あなたの国の言葉では、それは男性を表しているのではなくて?』

 死の精霊エルルは、朱里の考えていることを読めるらしい。
 プライバシーの侵害だ。

「ヒーローは男? そんなの、分かってるわよ! だけど、なんで男じゃなきゃいけないの? 私みたいな女の子は、なんでヒーローになれないの」

 朱里だって、誰かを助けたり守ったりしたい。
 いまだに事件の全容が掴めている訳ではなく、今の状況だって夢の中のようだ。自分が何に巻き込まれていて、地球の田舎町が何故おかしな風景に変わっているのか、敵は誰で死の精霊を名乗るエルルが何者なのか、理解できた訳ではない。
 それでも分かっていることは、ひとつ。
 肝試しの時からずっと自分を助けてくれていた樹を、今度は朱里が助けたい。

『人間らしい強欲さね。自分の役割を越えて、強い力を望むのは……だけど、その純粋な想い、悪くないわ。私もイツキを助けたいもの』

 二人の少女の気持ちは一致していた。
 階段を上がる朱里を邪魔するために、神社にある狛犬の石像のようなモンスターが何体も襲い掛かってくる。
 朱里は鎌をかかげて、縦横無尽にモンスターを爆砕した。
 初めて使う武器なのに自然に扱える。自分にはもしかして正義の味方の才能が……。

『私があなたの身体を操っているだけだからね。勘違いしないようにね、人間』

 エルルの容赦ない突っ込みが入る。
 少しぐらい良い気分にさせてくれてもいいじゃない、と朱里は涙目になった。
 階段を登り切ると、大きな石の扉があった。
 マンションや一戸建てでお馴染みのちょっとお邪魔します的な扉ではなく、偽サグラダ・ファミリアにふさわしい凝った彫刻が施された古式な扉だ。
 朱里が扉の前に立つと、扉は内側から勝手に開いた。
 鎌を持って広間に足を踏み入れる。
 正面には巨大な道化師の仮面が空中に浮いていた。
 仮面の後ろには、壁に触手で固定されている少年の姿がある。

「樹くん!」

 少年は眠っているようだ。
 仮面が視線をさえぎるように移動する。
 
『……死の精霊か。しかし、本来の世界から遠く離れたここでは、大して力を発揮できないようだな』

 仮面から複数の人間が同時に喋ったような、不気味な声がした。

『邪魔者は、消えろ』

 壁と一体化していた触手がうねって動き、四方八方から襲い掛かってくる。
 経験したことのない全方位攻撃に、朱里は動揺した。

「きゃああああっ!」
『こらアカリ、死の炎でまとめて消滅させるのよ! って、聞こえてる?』

 エルルが何やらアドバイスしているが、朱里はパニックになっていた。
 迫る触手を全部焼き払えない。
 壁際に追い詰められた朱里は、死の炎を手当たり次第に爆発させた。
 偽サグラダ・ファミリアの壁に穴が空く。
 少女の華奢な身体は、塔に空いた穴から外へ吸い出された。

「いやあああ!」
『まったく仕方ないわね』

 鎌が勝手に動いて、壁に刃を打ち付ける。
 刃の無い方の柄から鎖が現れて、朱里の身体を絡めとった。
 鎖鎌を命綱にして、朱里は偽サグラダ・ファミリアの外壁にぶら下がる。
 うっかり下を見て朱里はぞっとした。
 昔、登った東京タワー程ではないが、かなりの高さだ。

『それでしのいだつもりか』

 偽サグラダ・ファミリアの外壁の穴から、道化師の仮面が姿を見せる。
 仮面から伸びた触手は、壁に刺さった鎖鎌を外そうとしていた。
 朱里は真っ青になる。

「これで終わりなの……?」

 頑張ったんだけどな。
 朱里は鎖鎌にぶら下がったまま、終わりが訪れるのを待った。
 その時。

『すとらいくでしゅーーーっ!』

 ?!

 黄色い弾丸が飛んできて、すごい勢いで仮面の真ん中にぶつかった。
 道化師の仮面はのけぞって後ろ倒しになる。
 何が起きたのか。

『今よ、アカリ。戻りましょう!』
「う、うん」

 鎖をクライミングのロープのように使って、朱里は懸命に壁をよじ登った。
 幸い、壁の穴はそんなに遠くない。
 瓦礫を乗り越えて偽サグラダ・ファミリアの内部に復帰する。
 石壁の破片が無数に散らばった広間では、黄色いヒヨコが床に座り込んで目を回している。
 ヒヨコの足元にはフレームの折れ曲がってレンズが割れた、眼鏡が転がっていた。
 
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