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(第二部)第一章 願いを叶える方法
02 新たな事件の予兆
しおりを挟む樹がのんびりテントに戻っていた頃。
樹の仲間で、勇者の三人は火元へ向かっていた。
「樹君を置いてきて良かったの?」
三人の中で唯一の女子、結菜は、先を走る男子二人に向かって聞く。
セミロングの艶やかな黒髪が背中で踊る。彼女は、まるで図書室で読書をしていそうな雰囲気を持つ美少女だ。清潔な佇まいの中で、口元のほくろだけが色っぽい雰囲気を放っていた。
しっかりした性格の結菜は、男子二人が忘れがちなポイントについて確認する役回りだ。
「連れてこうにも、寝床にいなかっただろ」
仕方がない、と智輝が言った。
彼は同世代の中でも背が低い方で、童顔なので実年齢より下に見られる。異世界で勇者という役回り上、軽い皮鎧を身に着けていて動きやすい恰好をしていた。落ち着きがなく単純な性格で、見た目も中身も子供っぽい。
だが勇気がある者という意味では、一行の中でもっとも勇者に近い。火元に向かって真っ先に走り出したのは智輝だった。
「樹は放っておいても大丈夫さ。放っておいたらまずいのは、智輝だよ」
英司が肩をすくめる。
三人の中で見た目が勇者らしいのは英司だ。智輝に比べると体格が良く、身に着けた胸当てや防具も様になっている。長めの黒髪に涼やかな眼差しをしていて、女性受けしやすい容姿だ。
彼は常識人を自称していた。冷静な性格だが、肝心なところで抜けていたりするので、たまに樹に突っ込まれる。
「それもそうね、智輝の暴走は止めないと」
「ああ」
「え?!」
俺が問題なの? と疑問に思った智輝だが、火事に襲われている村が近くなったので足を止めた。
数件の農家や小屋が並び、畑が広がっている村が目の前にある。
複数の家が派手に燃えていたが、まだ無事な家もある。
状況を見定めようと火事の付近を見ていると、火の中から何かが飛び出した。
「あれは……?!」
丸いボールのような何かが転がってくる。
オレンジ色の丸い物体で、側面にはカッターで切れ込みを入れたような目と口が。
「カボチャ?」
カボチャのモンスターは地面を跳ねながら口を開けて炎を吐き出す。
ハロウィンに描かれるカボチャのお化けそっくりのモンスターに、結菜と英司は目を見張った。
「トリックオアトリートってか?!」
「可愛い……」
「和んでる場合か結菜! くそっ、俺の精霊武器でかち割ってやる!」
智輝は精霊を喚んで武器を構えようとしたが、英司が止める。
「敵は火の属性と見た。お前の火の属性の攻撃じゃ、火に油だ!」
「じゃあどうしろってんだよ!」
「俺に任せろ……藍水霊巫女、リリス!」
英司の背後に、巫女風の衣装を着た水の精霊が姿を現す。
精霊の姿は揺らめいて消え、英司の手に氷の双剣が出現した。
彼が剣をかざして合図をすると、氷のつぶてがカボチャに向かって放たれる。
「っつ、駄目よ英司! 人が!」
結菜の言葉に英司は咄嗟に攻撃を中断する。
逃げる途中らしい村人がカボチャの前に出てきたからだ。このままでは範囲攻撃に巻き込んでしまう。
「うわああっ、誰か助け」
「くそっ、間に合うか!」
悲鳴を上げて逃げる村人に、カボチャの吐いた火が迫る。
英司は駆け出したが、それは間に割り込むには遅いタイミングだった。最悪の悲劇を予想した結菜が口を手で覆う。
「?!」
ところが。
次に起こった事態は勇者達の想像とは異なっていた。
火を浴びた村人の身体があっという間に小さくなる。
まばたきする間に村人の姿は消えて、そこには代わりにカボチャが跳ねていた。攻撃を仕掛けたカボチャと同じような、目と口の切れ込みがある動くカボチャだ。
「ふ、増えた?!」
「いや今のは人間がカボチャになったぞ」
「どういうことなの?」
勇者達は混乱した。
混乱する彼等の前に火から次々カボチャが飛び出してくる。
「これ、もしかしてカボチャになっちゃった村人……」
「そうすると倒したら人殺しに?!」
迂闊に攻撃できない。
固まった勇者達の前で複数のカボチャが跳ね回る。
カボチャ達は火を吐き出すくらいで積極的に攻撃を仕掛けてくる気配は無いが、だからと言って放置もできない。
「どうしたらいいんだ」
「……何やってるんだ君達は」
途方に暮れる智輝達。
ちょうどそこに、テントを畳んで追ってきた樹が到着した。樹の隣にはエルフのソフィーの姿もある。
跳ねまわるカボチャを一瞥した樹は一言。
「大量のパンプキンスープが作れそうだな」
智輝達は思わず「食うな!」と突っ込んだ。
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