異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉

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(第二部)第一章 願いを叶える方法

03 トリックオアトリート!

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 ソフィーはウサギ耳をピクピクさせながら、目の前で飛び回るカボチャ達に興味津々である。

「美味しそうなカボチャですね! 活きがいいです! ビチビチ跳ねてます!」
「いやソフィー、魚じゃないし」

 普通のカボチャは跳ねないものだ。
 それとも異世界のカボチャは別なのだろうか。
 思わず結菜ユウナは真剣に悩んでしまう。

「そうだな。食材は新鮮さが重要だ。こいつらは目も輝いてるし」
「樹君、面白がってるでしょ」

 便乗して樹も訳の分からないことを言い出している。
 いつも通りの真面目な顔のため、冗談で言っているか分からない。

「あーっ、ふざけてる場合じゃねえよ! 樹、こいつら魔法でカボチャの化け物にされた村の人達なんだ!」
「そうなのか? 人間……?」

 ついに智輝トモキが苛々して声を上げる。
 変身現場を見ていない樹は不思議そうにした。
 一行の中で一番冷静な英司エイジが我にかえったように言う。

「ともかく、火事は消火しないとな。リリス、雨を降らせよう!」
『お任せあれ』

 英司エイジは己の契約精霊リリスに呼び掛けた。
 腕を振った彼の背後に、光の六枚翅を背負った巫女姿の水霊が浮かぶ。彼女が舞うように袖を振って回転すると、上空に雲が集まって冷たい霧雨が降ってきた。燃え上がっていた民家が雨に濡れ、火が小さくなる。
 雨は消火以外にも予想外の効果があった。
 跳ねまわっていたカボチャのモンスター達は雨に当たると力を失ったように地面に転がり、さながら陸に打ち上げられた魚のように痙攣して動かなくなったのだ。

 数分後、村はすっかり静かになり、カボチャが地面に転がっているだけになった。

「これが人間、ね」

 樹は近くに転がっていたカボチャを拾い上げて観察する。
 火事は消し止めたものの、人の気配はなく、どうやら村人たちはすべてカボチャになってしまったらしい。夜明けが近づいているらしく、空は少し明るくなっている。普通の人間の目にも状況が見渡せるようになっていた。
 焦げ臭い匂いが漂う村の中は、樹たち以外に動いている者はなかった。

「カボチャから人間に戻す方法を探さないと……」

 勇者達は浮かない顔だ。
 ソフィーは首を傾げて、カボチャを撫でている樹に話しかけた。

「イツキに直せないんですか?」
「おいおい、ソフィーちゃん何言ってるんだよ。樹にそんなことできるはずが」
「そうだな、試してみるか」
「っておい!」

 智輝の合いの手を無視して、樹は地面にカボチャを戻した。
 ここに来る途中で掛けた眼鏡を外す。
 精霊の力を意識して抑えるため、樹は昼間や人前に出る時は眼鏡を掛けるようにしていた。
 涼やかな碧の瞳が露わになる。
 腕を前方にかざすと、その手の中に流麗な銀色の長剣が現れた。樹の、世界樹の精霊の精霊武器スピリットアームだ。気負いのない動作で、樹は手に取った剣を地面に立てて柄に手をおいた。

「樹君……何を」

 不思議そうにする結菜や英司の視線は視界から追い出して、樹は目を閉じて集中する。
 カボチャには人間の命の気配を感じる。閉じ込められているその生命の輝きを解き放ってやればいい。生命を司る精霊である樹なら、それが可能だ。

「……檻に繋がれ時間を奪われた命達よ。生命の循環の輪へ、あるべき姿へ戻れ」

 言の葉は世界の理に則って、生命をあるべき姿に戻す奇跡を発動させる。
 樹の足元から虹色の光の唐草模様が立ち上がり、円を描いて一瞬で付近に広がった。
 樹を中心に生じた光の波が、カボチャ達の間を走り抜ける。

 カボチャは光の波に当たると砕け散り、砕けた中から光がもやが生じて人の形になった。
 気を失った人々が地面に次々と現れる。
 ほとんどのカボチャが人間に戻った中で、人間に戻らないカボチャが一体いた。
 目を開けた樹は、一体残ったカボチャを見て険しい表情をする。

「智輝、あの人間に戻らないカボチャが親玉だ」
「なるほどっ!」

 茫然としていた智輝だが、すぐに樹の言葉の意図を悟って動く。
 視線の先で正真正銘のカボチャのモンスター、おそらく人間をカボチャに変えた元凶のモンスターが、地面を転がって逃げ出そうとしていた。智輝は追いかけながら自分の精霊武器を召喚する。
 智輝の精霊武器スピリットアームは槍の形をしている。
 普通の槍よりも刃の面積が広いタイプで、剣のような使い方もできる武器だ。
 精霊演武スピリットダンスの下級第二種、跳躍を使って敵の逃げる先に回り込むと、智輝は槍をふるってカボチャを地面に縫いとめた。

「智輝、まだ倒すなよ! おい、カボチャ、なんでこんなことをしたんだ? 答えろ!」

 英司が急いで駆け寄って、智輝と共にカボチャを挟み込んで尋問する。

『クケケ……死の精霊さまへの、生贄を集めていたのだ』
「死の精霊さま?」
『死の精霊さま万歳!』

 カボチャが突如、燃え上がる。
 そのまま敵のカボチャは爆発四散した。
 近くにいた智輝達は自爆に巻き込まれたように見えたが。

「……精霊演武、上級第一種、霊鎧れいがい!」

 結菜がいつの間にか取り出した自身の精霊武器である白い杖を振っている。
 彼女の魔法が勇者達や村人達を守っていた。
 うっすら発光する膜が彼等を覆い、カボチャの爆発によるダメージを軽減している。
 智輝達は無傷だ。
 今度こそ脅威が去ったと判断して、智輝達はそれぞれ精霊を送還して手にした武器を消し去る。

「ったく、なんだよ、死の精霊さまって。新しい敵なのか? キリねえなあもう」
「勇者の仕事は終わらない訳か。そろそろ一回、地球に戻りたいんだが」

 ぶつくさ文句を言う智輝と英司の言葉を聞きながら、樹は顔をしかめていた。
 死の精霊。
 どこかで聞いたことのある響きだ。
 精霊、ということは、樹と同族である。精霊は本来、世界を守護し、人を見守る生き物だ。それが魔物と一緒に人間を襲っているのは、どういう訳だろうか。

「イツキ殿~、もう少しゆっくり歩いて欲しいのだ」
「アルス」

 遅れて最後の仲間が到着する。
 長髪に紫の瞳をした大層な美青年で、フリルや飾りが付いた貴族のように派手な格好をしている。しかし、背中に背負った大荷物と、本人の気弱そうな下がり気味の眉が、美青年を台無しにしていた。
 彼はアルスという名前で、種族は吸血鬼だ。

「吾輩に荷物を押し付けて、酷いのである……」
「悪いないつも」
「少しでも報いるつもりがあるなら、ソフィー殿の血を飲ませて欲しい……」
「それは却下」

 アルスは物欲しそうな目でソフィーを見た。
 吸血鬼のアルスは、たまに「血が飲みたい」と言い出すのだが、いつも樹に蹴り倒されて終わっている。ソフィーは慌てて樹の後ろに隠れた。

「皆、話はあと。村の人たちを起こさなきゃ」

 腰に手を当てた結菜の言葉で、一行は会話を切り上げて、地面に倒れた村人たちの介抱を始めた。


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