異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉

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(第二部)第一章 願いを叶える方法

04 皆で帰る方法

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 樹達は気を失った村人の何人かを介抱して、目覚めた村人に襲ってきた魔物はすべて倒したと説明すると、村を後にする。村は派手に燃えたが、幸い死人はいないようだった。
 もうすっかり夜は明けて太陽が昇っている。
 村から離れたところで、樹達は遅めの朝ごはんを食べることにした。

「アストラルまで後少しだな。一度、神様と話して地球に帰してもらおうぜ」

 アイテムバッグから取り出したパンを食べながら、智輝が言う。
 勇者一行は夏風の都アストラルを目指していた。
 目的は、地球への送還。
 智輝達は神の力で勇者として召喚され、この世界に来ている。アストラルは召喚された場所であり、異世界と行き来するための魔方陣がある。

「大丈夫、樹が帰れないって件も、神様に相談すれば解決するって!」

 智輝は楽天的に笑った。
 樹は世界樹の精霊になった影響で「地球には帰れないだろう」と白竜に予言されていた。
 精霊は本来、宿っている本体と離れて長く活動できない精神生命体の生き物だ。例えば杉の精霊なら、宿っている杉から遠く離れることはできない。樹は例外で、最高位の精霊として規格外の力を持ち、人間の体で自由に移動できる。しかし、さすがに世界の壁を越えて移動するとどうなるか分からなかった。
 智輝たちは、樹と一緒に地球に帰ることができる方法を探してくれている。
 勇者である彼らは、神様とやらと神殿で話をすることが可能らしい。

「……勇者の皆さんは、元の世界に戻られるんですか?」

 会話を聞いていたソフィーが柳眉をひそめた。

「さっきみたいなカボチャの怪物が暴れまわってるかもしれないのに、この世界の人たちを見捨てて、帰っちゃうんですか?!」
「それは……」

 ソフィーの台詞に、智輝、結菜、英司はそろって顔を見合わせた。
 彼らは困惑した表情をしている。

「見捨てる訳じゃ……」

 智輝が困った顔のまま言った。

「異世界って、水道もコンビニもないし、ハンバーガーも食えないし、ゲームも漫画も無いよな。たまに来る分には楽しいけど、ずーっとこっちで生活すると考えると、微妙というか」
「ひどいですぅ!」

 ソフィーの突っ込みに、樹は思わず内心で同意した。
 たとえ思っていても現地人の前で口にするのはどうだろうか。

「勇者たちが自分の世界に帰れば、我々魔族の脅威がいなくなるので、それはそれで良いと思わないでもないのだ」

 吸血鬼は魔族の一種で、人間の敵である。
 アルスは飄々と言って肩をすくめた。

「イツキ殿はどう思う?」
「僕は……」

 話題を振られた樹は、考え込む時の癖で、眼鏡を外して布で拭き始める。

「……カボチャは、煮つけて挽肉のそぼろあんをかけた料理が一番美味いと思うな」
「誰が料理の話をしてるよ?!」

 斜め上の返答に、智輝が突っ込みを入れる。

「あー、仕方ないな。樹も地球に帰りたいと言ってることだし、早く神様と話して地球に帰ろうぜ!」
「樹君の返事はそういう意味なの……?」

 智輝は強引に話をまとめ、結菜は釈然としない顔になった。




 勇者たちがワイワイと焚火を囲んで話しているところから、樹はそっと抜け出した。
 小川の土手に立って深呼吸する。

「イツキ殿……」
「イツキ……」

 樹の後を追ってきたのだろう。
 アルスとソフィーが何事か言いたそうにしている。
 彼らの不安の正体を察して、樹は振り返って微笑んだ。

「この世界は、僕のもうひとつの故郷だ。放っておけないよ」

 智輝たちは迷わずに地球に帰ることを選択した。
 だから、地球に帰るかどうするか、迷っていること自体が樹の答えなのかもしれない。ここにいたいと、精霊やこの世界に暮らす者たちの力になりたいと、そう感じているのだから。

「イツキ!」

 ソフィーが感極まったように声を上げて、樹の胸に飛び込んでくる。
 頭をぐりぐりと樹の胸に押し付け、細くても力のある両手で樹の腰あたりに抱きしめた。

「大好きですっ、イツキ! 帰らないで! ずっとそばにいてくださいぃー!」
「分かった分かった。大丈夫だって言ってるだろ。落ち着けよ……」

 樹は苦笑しながら、ソフィーの柔らかい金髪をゆっくり何度も撫でた。

「だけど一回は、智輝たちと一緒に地球に戻らないとな。あいつらが無事に帰るところを見届けたい」

 智輝たちとここでお別れ、というのも寂しい話だ。
 ひとまず地球に戻る方法を見つけて、一旦戻って家族の顔を見た後、異世界に帰ってこようと、樹は考えていた。

「イツキ殿が不在の間のことは、吾輩に任せてくれたまえ」

 アルスが自分の胸を張って宣言する。

「イツキ殿がいない間、私も魔界に戻るとするか。そして父の跡をついで魔王に即位するのだ!」
「え? ああ、そういえば、それがお前の目的だったっけ。すっかり忘れてた」
「忘れないでほしいのだ!」

 魔王の息子だというアルスと魔界で出会って、うやむやの内に仲間にした過去を、樹は遠い目をして思い出した。見た目や言動は不穏当だが、中身はいたって常識的なアルスが魔王になれば、さぞかし魔界は平和になることだろう。

「そうだな。僕が地球に帰る時には、よろしく頼む」

 非力でへなちょこなアルスを知っている樹は何となく嫌な予感がしたが、自信満々な彼にもしもの時は後を託すことにした。




 ロステン王国の中心部に位置する、夏風の都アストラル。
 樹が友人達に巻き込まれて異世界召喚された場所であり、旅の出発点となった場所だ。
 出発点に戻ってきた樹は感慨深く、街の様子を眺めた。中世ヨーロッパのような街並みに、夏風を意味する青い渦巻きと鳥の翼の模様が入った旗がたなびいている。街は人々の活気にあふれていた。
 アストラルには天空神ラフテルの神殿がある。

「この世界でも神様と交信できる神殿のある国は少ないんだよ。五大国と呼ばれるロステン王国やハナファ古王国にしか、大きな神殿はないわ」
「へーえ。五大国?」
「ロステン王国と、セイファート帝国、ハナファ古王国、アラバスタ自由都市連合……ええと後なんだっけ。ところで樹はなんで国名を知らないの?」

 結菜ユウナはこの世界の地理を説明しかけて、途中でやめた。
 歩きながら、ふんふんと興味深く聞いていた樹に向き直る。

「樹君、この世界は初めてじゃないんだよね?」
「え? まあね……」

 この世界に来た最初、樹は巻き込まれて召喚された一般人を演じていた。
 途中まで自分が精霊だということを思い出していなかったので、別に嘘をついていた訳ではないのだが。少し後ろめたい気持ちがある樹は頬を掻いて視線を逸らす。
 魔王と戦った後に正体を明かしたので、一般人のフリで結菜に知らないことを説明してもらうことが難しくなってしまった。

「なら国名くらい知ってるでしょ! 考えてみれば精霊演武スピリットダンスだって、本当はできる癖に私に説明させたわね」
「誤解だって」

 結菜は言いながら怒り出した。
 慌てて、樹は顔の前で手を振る。

「確かに僕はこの世界は初めてじゃない」
「なら」
「違うって。今までこの世界に来たときは、精霊たちの世界にいたんだ。だから人間の世界のことは、知らないんだよ」

 世界樹は巨大で広く、少年の樹は世界樹の外に世界があることすら知らなかった。
 そして精霊達とひたすら遊び倒す毎日を送っていたので、人間の一般常識については全く無知な状態で、この世界に来てしまったのだ。実質、この世界のことは何も知らないに等しい。

「世界樹……精霊達の世界、か。そういえば樹は、自分は世界樹の精霊だと言っていたが、人間じゃないのか?」
「……」

 英司が思い出したように言う。
 樹は何と返すか迷って、口をつぐんだ。
 同じ人間の友達のように勇者たちと接しているが、この世界で樹は精霊という別の種族に属している。
 そのことをどのように説明すればいいか悩むところだ。
 言葉を探していると、一緒に歩いていたアルスが立ち止まった。

「では、吾輩はこの辺で」
「どうしたんだ?」
「吾輩、神殿は苦手である」
「そうか、吸血鬼のアルスには、神殿は鬼門だから……」

 街の中でアルスは一行と別行動を申し出た。
 彼は魔族なので神殿に立ち入ることは自殺行為だ。
 用事がすべて終わった後で合流しようと約束して、神殿の前で別れた。

「着いたわよ……ソフィーちゃんは控室で待ってて」
「はい」

 神殿に着いた樹達は神官達の出迎えを受ける。
 一人だけ地球とは関係ないソフィーは、控室で待つことになった。
 勇者三人と樹は、神と謁見できるという奥の祭壇へ向かう。
 神と話せるのは勇者だけということだったが、同じ地球人ということで特別に樹も同席させてもらえることになった。奥の祭壇に入れるのは、勇者や一部の神官だけらしい。
 人の気配の無い神殿の最奥、年代物の建築の広間には、厳かな空気が漂っていた。
 
「話がしたいんだけど、神様」

 智輝がざっくばらんな調子で部屋の中央に立って言うと、空気が変わる。
 薄暗い広間に光が差し込み、一瞬で風景が塗り替えられた。
 足元が埃の積もった床ではなく雲海に変わる。
 樹達は異空間と思われる場所に転送されたようだった。

「……ようこそ、私の世界へ」

 少し上の空中に、光り輝く太陽を背に少年が浮かんで立っている。
 光輪を背にした少年は金髪に金の瞳、白い衣服に金の装飾品を身に着け、得体のしれない笑みを浮かべている。
 彼が天空神ラフテルか。
 思わず凝視する樹を、天空神の黄金の瞳が一瞥する。
 その瞬間、樹の背筋に悪寒が走り抜けた。

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