異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉

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(第二部)第三章 ここからもう一度

02 爆弾発言

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 異世界に戻ってきた翌朝。
 詩乃と面会したいという要望が通り、樹たちは王城に招かれた。
 風情のある城はハナファ古王国から引き継いで改修したものらしい。石造りの壁に囲まれた内庭に、尖塔に囲まれた巨大な館が建っている。
 城の一室に通された樹達は、それほど待たずに詩乃と再会できた。

「英司!」
「無事だったか」

 現れた詩乃は日本の学生服ではなく、裾の長い上品なドレスを着ていた。どうやら服は王城で手配されたもののようだ。
 詩乃の後ろから、身分の高そうな軍服を着た黒髪の男性と、護衛らしき厳めしい騎士が現れる。

「詩乃から話を聞いたよ。仲の良い友人だそうだね」

 身分の高そうな男性が低い声で言った。
 顔立ちは整っており紫の瞳は宝石のようだ。身に着けた臙脂色の上着も装飾が多く、高級な素材のようである。しかし樹は、彼にどこか違和感を感じた。
 さらに観察すると違和感の正体が分かる。服装の割に挙動が雑なのだ。
 周囲の護衛の騎士の方が、優雅で品のある動作をしている。この男は一番偉そうな割に、気品が無いのだ。平民の男を引っ張ってきて高級な服を着せたようなちぐはぐさを感じる。

「私はこの国の王だ」

 男性は奇妙にフレンドリーな調子で王だと名乗った。

「君達は異世界から来たんだね?」

 いきなりの断定に、肯定しても良いのか樹達は戸惑う。

「実は異世界から迷子になってやってくる人はたまにいるのだよ」
「そうなんですか」
「聞かないのか? 元の世界に帰る方法はないかって」

 不思議そうに言われて、樹は内心しまったと思ったが、すぐに取り繕った答えを返した。

「ここが異世界だと確信が持てなかったので……どうすれば日本に帰れますか?」
「残念だけど帰る方法は見つかってないんだよ。君達が異世界に馴染めるように、この国で支援しよう」
「……王様も、実は昔、日本人だったんだって」
「そうなのか?」

 詩乃の合いの手に、樹はきょとんとして、王の日本人離れした紫の瞳をまじまじと見た。
 先ほどから感じていた違和感は、間違いではなかったらしい。
 しかし元日本人にしては瞳の色が変だ。樹もこの世界に来て、眼鏡の下の瞳の色は鮮やかな碧に変色しているので、他人のことは言えないが。
 視線を受け止めた国王は動じる様子もなく、樹たちに向かって言う。

「君達には悪いのだが、少しの間、詩乃さんを貸して欲しい。心配に思うかもしれないが、身の安全は保証するから」

 その言葉に英司が反応する。

「どういうことですか」
「英司、大丈夫だよ」
「お前には聞いてない」
「バカ英司! 私が大丈夫って言ったら大丈夫なの!」
「お前が大丈夫だって言う時ほど、信用ならないことはねえよ!」

 王に向けた問いのはずが、詩乃が答え、いつの間にか二人の口喧嘩に発展してしまっている。
 樹はため息をついて眼鏡をいじった。
 無視されている格好の王に気分を害した様子は無い。
 王は口喧嘩中の二人をおいて、ソフィーに話し掛けてきた。

「まあ、正直に話せば先王の遺児に仕えてくれる、権力と無関係な女性が欲しいのだ。君はエルフだね。エルフは人の王国の権力とは無縁だ。どうだい詩乃さんと一緒に」
「え?」

 まさか、自分に会話が回ってくるとは思わなかったソフィーがポカンとする。
 樹は瞬間的に苛立ちを覚えて会話を遮った。

「駄目です」

 ソフィーの代わりに答えた樹に、王が訝しげな顔をする。

「どうしてかね?」
「彼女は僕の恋人ですから」
「い、イツキ?!」

 突然の樹の爆弾発言に、ソフィーは真っ赤になってウサギ耳を震わせた。
 予想外の答えに王も唖然とする。

「ちょっと待て。君は日本人だよね? こっちに来てから彼女と会ったんだよね?」

 樹は眼鏡に指をあてて傲然と顎を上げた。

「愛に時間が関係ありますか」

 ぷしゅーーっと音を立ててソフィーが茹で上がり、その場に倒れる。
 口喧嘩していた英司と詩乃も、びっくりして思わず無言になってしまった。




 王にどんな説得をされたのか、それとも元々頑固な気質なのか。
 詩乃は折れなかった。王に協力するの一点張りである。
 猫さんはどうする、という話もあるが、衆人環視の中、精霊の話をすることはできなかった。結局、樹たちは「少しの間だけ彼女を預けて欲しい」という王の言葉を信じて、城を出るしかなかった。

 樹達の身柄は、モンブラン伯爵という美味しそうな家名の貴族に渡された。
 伯爵の庇護のもと、それぞれ日銭を稼ぐ手段を見つけて一人立ちしてくれ、ということらしい。

「どうする、樹?」

 王都ツェンベルンにある伯爵の館に連れてこられた樹たちは、周囲に人がいなくなったタイミングを見計らって作戦会議をした。

「場所がまずいな。王宮なんて下手に手出しできない。それに詩乃さんの意志に反したことをすれば、英司、君は間違いなく嫌われるだろう」
「あああ! なんでこんなことになったんだ!」

 幼なじみと喧嘩別れしてきた英司の苦悩は深い。
 奇声を上げる英司を生ぬるい目で見ながら、樹はとりあえずの方針を決めた。

「万が一の時を考えると、英司の精霊魔法を取り戻した方がいいな。詩乃さんを説得する方法を考えながら、英司の精霊魔法について調べよう」
「……オレイリアは今、どうなってるんでしょう」

 不意にソフィーが不安そうな顔をして呟く。
 オレイリアとは、エルフが住む森で彼女の故郷だ。人間と違い寿命の長いエルフだから、彼女の家族は存命の可能性が高いのだが。

「そうだな。それも含めて、世界情勢を確認しなきゃな」

 かつてこの世界で出会った人々は、今どうしているのだろうか。

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