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(第二部)第四章 光と闇
12 決裂とまさかの……
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世界で一番レアなアイテム。
それは「神様を封じ込めた宝石」と聞かされて、カノン王はポンと手を打った。
「確かにその通りだな!」
聞いていた樹も、口には出さないが思わず納得する。
だがこの流れにはいささか文句を言いたい。
「ちょっと待て」
口を挟むと、死の精霊エルルとカノン王が揃って樹を見た。
「異議がある」
「久しぶりねイツキ。元気そうで何よりだわ」
「そっちこそ。魔王になったと聞いたが」
情報源は吸血鬼の青年アルスだ。
エルルは微笑んで答えた。
「そうよ。魔王を作って魔族に動いてもらうのが、面倒になってしまったの。自分が王になって部下に命令した方が早いわ」
「それに気づくのに何年かかったんだか……」
人間や精霊に迷惑を掛けても構わないと攻勢をかけるあたり、死の精霊エルルはだいぶ危険な考え方をしている。
彼女の戦いを止めなければならない。
だが、今は……。
樹は咳払いすると、真剣な顔で言った。
「神様を宝石にしようが石ころにしようが、別に良いが」
「良いんだ」
「そいつは僕が鈴虫にしようと思ってたところだったんだぞ! この世界には鈴虫がいないから、秋の夜の風物詩に加えようとしていたのに!」
エルルは無邪気な様子で、やれやれと肩をすくめた。
「怒らないでよ。小さい男ね」
その瞬間、視力の良いソフィーは、背を向けた樹の額にぺきぺきと青筋が複数立った気配を察した。
「ひ、ひえ~……イツキ、怒ってるですぅ」
口元に手を当てて恐れおののくソフィー。
ハラハラする外野を余所に会話が続く。
死の精霊エルルは樹の怒りを一切気にせずに、気安い調子で言った。
「鈴虫よりも良い使いみちでしょう? 貴方だって天空神は嫌いよね。前回会った時、最後は天空神に喧嘩を売りかけていたじゃない」
「それとこれとは」
「話が違わないわよ。とにかく、彼は私がもらったの! 天空神を封じてもらうんだから!」
樹とエルルは睨みあった。
話題の勇者、カノン王は二人の間で所在無さそうにしている。
暗い森で光の翅を広げる二人の最高位精霊の姿は目立っていた。
周囲の人々は下手に割り込むと、とばっちりを受けそうなので黙って見ている。
遥か後方で観戦している樹の仲間達、その頭上の枝にとまるフクロウが重々しく鳴いた。
『……太古から続く因縁かのう。片や天空の島に生える世界樹、片や地下深くに座する古岩、生命と死、光と闇。相容れない二人なのじゃ……』
「そんなに大層なもんか? 凄くどうでも良いことで喧嘩してるようにしか見えないんだが」
聞いていた英司がフクロウに突っ込んだ。
樹に味方すると王様が鈴虫になる。しかし、死の精霊エルルの言い分も不穏である。彼女は勇者に天空神を封じさせるつもりだ。
睨み合う二人の間で見えない火花が散った。
「譲らないんだな?」
「譲らないわね」
交渉? は決裂した。
死の精霊エルルの周囲に煌々と炎が燃え盛り、樹は少し下がって炎を防ぐ碧の光の盾を展開する。
エルルは呆然としていたカノン王に言った。
「キヨハル、神を封じる前の予行練習よ。世界樹の精霊を封じましょう」
「!」
少女の言葉に、樹の顔に動揺が走る。
カノン王はエルルの言葉に我を取り戻したように頷いた。
「よし!」
完全に戦闘態勢に入ったカノン王と死の精霊エルルは、協力するように二人で魔法攻撃を樹に向かって放つ。
雷撃が走り、白い炎の弾が空を切って迫る。
樹は、王の部下達、エターニアの一般の兵士が周囲にいることを確認すると、炎や雷を碧の光で包んでひとつずつ消滅させる方法を取った。
死の精霊エルルの放つ炎は、普通の人間が浴びると即死してしまう。下手に避ける訳にはいかない。
「樹!」
「来るな!」
二対一で樹が不利な状況に、下がっていた英司が声を上げる。
駆け寄ろうとする英司を、しかし樹は鋭く制止した。
神に等しい力を持つ最高位の精霊同士の戦いには、いかに勇者といえど、下手に踏み込めばただでは済まない。
「しまった……!」
エルルの放つ白い炎を捌いていた樹は、何かに気付いたように目を見張った。樹の足元に浮かび上がる紫の光の円。幾何学的な文字のような模様が円に沿って描かれている。
魔方陣の真ん中に樹はいた。
跳躍して逃げようとするが、その進路を白い炎が遮る。
「くそっ」
「はははは! 掛かったな、精霊封じの魔方陣に!」
カノン王が高笑いする。
魔方陣が一際まばゆい光を上げると、中心に立つ樹に向かって収束する。
「樹ーーっ!」
制止されていた英司がたまらず駆け寄って精霊魔法を放とうとするが、間に合わない。
魔方陣は小さくなって樹を飲み込む。
暗い森を照らしていた光が消え、地面の上にダイヤのような輝きを放つ拳より大きな宝石が転がった。
静かになった森に樹の姿が見当たらない。
「まさか……そんな、まさか……?!」
「あはははっ、ついにレアな光属性の魔晶石を手にいれたぞ!」
絶句する英司に、ダイヤに手を伸ばす王。
驚いて目を丸くしていたソフィーが立ち上がって駆け出す。
セリエラが制止しようとしたが間に合わない。
「ちょっ、ソフィー! 止めなさい!」
「イツキを返して!」
ソフィーは契約精霊のココンを呼び出すと、金色の炎を弓矢にまとわせる。そして、止めようとする英司を振り切って矢を王へと放った。
「貴方、邪魔よ」
金色の炎はカノン王に辿り着く前にかき消えた。
ふわりと王の前の空中に舞い降りる死の精霊。
白い腕を伸ばすと、エルルは死の炎をソフィーに向かって放つ。
「ソフィー!!」
あっという間に白い炎が金髪のエルフの少女を飲み込んだ。
炎の消えた後には何も残っていなかった。
「嘘でしょ……樹君、ソフィーちゃん……?」
詩乃の震える声が、静かな森の空気を揺らす。
多くの人々は展開に付いていけずにただ呆然とした。
それは「神様を封じ込めた宝石」と聞かされて、カノン王はポンと手を打った。
「確かにその通りだな!」
聞いていた樹も、口には出さないが思わず納得する。
だがこの流れにはいささか文句を言いたい。
「ちょっと待て」
口を挟むと、死の精霊エルルとカノン王が揃って樹を見た。
「異議がある」
「久しぶりねイツキ。元気そうで何よりだわ」
「そっちこそ。魔王になったと聞いたが」
情報源は吸血鬼の青年アルスだ。
エルルは微笑んで答えた。
「そうよ。魔王を作って魔族に動いてもらうのが、面倒になってしまったの。自分が王になって部下に命令した方が早いわ」
「それに気づくのに何年かかったんだか……」
人間や精霊に迷惑を掛けても構わないと攻勢をかけるあたり、死の精霊エルルはだいぶ危険な考え方をしている。
彼女の戦いを止めなければならない。
だが、今は……。
樹は咳払いすると、真剣な顔で言った。
「神様を宝石にしようが石ころにしようが、別に良いが」
「良いんだ」
「そいつは僕が鈴虫にしようと思ってたところだったんだぞ! この世界には鈴虫がいないから、秋の夜の風物詩に加えようとしていたのに!」
エルルは無邪気な様子で、やれやれと肩をすくめた。
「怒らないでよ。小さい男ね」
その瞬間、視力の良いソフィーは、背を向けた樹の額にぺきぺきと青筋が複数立った気配を察した。
「ひ、ひえ~……イツキ、怒ってるですぅ」
口元に手を当てて恐れおののくソフィー。
ハラハラする外野を余所に会話が続く。
死の精霊エルルは樹の怒りを一切気にせずに、気安い調子で言った。
「鈴虫よりも良い使いみちでしょう? 貴方だって天空神は嫌いよね。前回会った時、最後は天空神に喧嘩を売りかけていたじゃない」
「それとこれとは」
「話が違わないわよ。とにかく、彼は私がもらったの! 天空神を封じてもらうんだから!」
樹とエルルは睨みあった。
話題の勇者、カノン王は二人の間で所在無さそうにしている。
暗い森で光の翅を広げる二人の最高位精霊の姿は目立っていた。
周囲の人々は下手に割り込むと、とばっちりを受けそうなので黙って見ている。
遥か後方で観戦している樹の仲間達、その頭上の枝にとまるフクロウが重々しく鳴いた。
『……太古から続く因縁かのう。片や天空の島に生える世界樹、片や地下深くに座する古岩、生命と死、光と闇。相容れない二人なのじゃ……』
「そんなに大層なもんか? 凄くどうでも良いことで喧嘩してるようにしか見えないんだが」
聞いていた英司がフクロウに突っ込んだ。
樹に味方すると王様が鈴虫になる。しかし、死の精霊エルルの言い分も不穏である。彼女は勇者に天空神を封じさせるつもりだ。
睨み合う二人の間で見えない火花が散った。
「譲らないんだな?」
「譲らないわね」
交渉? は決裂した。
死の精霊エルルの周囲に煌々と炎が燃え盛り、樹は少し下がって炎を防ぐ碧の光の盾を展開する。
エルルは呆然としていたカノン王に言った。
「キヨハル、神を封じる前の予行練習よ。世界樹の精霊を封じましょう」
「!」
少女の言葉に、樹の顔に動揺が走る。
カノン王はエルルの言葉に我を取り戻したように頷いた。
「よし!」
完全に戦闘態勢に入ったカノン王と死の精霊エルルは、協力するように二人で魔法攻撃を樹に向かって放つ。
雷撃が走り、白い炎の弾が空を切って迫る。
樹は、王の部下達、エターニアの一般の兵士が周囲にいることを確認すると、炎や雷を碧の光で包んでひとつずつ消滅させる方法を取った。
死の精霊エルルの放つ炎は、普通の人間が浴びると即死してしまう。下手に避ける訳にはいかない。
「樹!」
「来るな!」
二対一で樹が不利な状況に、下がっていた英司が声を上げる。
駆け寄ろうとする英司を、しかし樹は鋭く制止した。
神に等しい力を持つ最高位の精霊同士の戦いには、いかに勇者といえど、下手に踏み込めばただでは済まない。
「しまった……!」
エルルの放つ白い炎を捌いていた樹は、何かに気付いたように目を見張った。樹の足元に浮かび上がる紫の光の円。幾何学的な文字のような模様が円に沿って描かれている。
魔方陣の真ん中に樹はいた。
跳躍して逃げようとするが、その進路を白い炎が遮る。
「くそっ」
「はははは! 掛かったな、精霊封じの魔方陣に!」
カノン王が高笑いする。
魔方陣が一際まばゆい光を上げると、中心に立つ樹に向かって収束する。
「樹ーーっ!」
制止されていた英司がたまらず駆け寄って精霊魔法を放とうとするが、間に合わない。
魔方陣は小さくなって樹を飲み込む。
暗い森を照らしていた光が消え、地面の上にダイヤのような輝きを放つ拳より大きな宝石が転がった。
静かになった森に樹の姿が見当たらない。
「まさか……そんな、まさか……?!」
「あはははっ、ついにレアな光属性の魔晶石を手にいれたぞ!」
絶句する英司に、ダイヤに手を伸ばす王。
驚いて目を丸くしていたソフィーが立ち上がって駆け出す。
セリエラが制止しようとしたが間に合わない。
「ちょっ、ソフィー! 止めなさい!」
「イツキを返して!」
ソフィーは契約精霊のココンを呼び出すと、金色の炎を弓矢にまとわせる。そして、止めようとする英司を振り切って矢を王へと放った。
「貴方、邪魔よ」
金色の炎はカノン王に辿り着く前にかき消えた。
ふわりと王の前の空中に舞い降りる死の精霊。
白い腕を伸ばすと、エルルは死の炎をソフィーに向かって放つ。
「ソフィー!!」
あっという間に白い炎が金髪のエルフの少女を飲み込んだ。
炎の消えた後には何も残っていなかった。
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詩乃の震える声が、静かな森の空気を揺らす。
多くの人々は展開に付いていけずにただ呆然とした。
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