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(第二部)第四章 光と闇
11 最高のレアアイテム
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オレイリアの森がざわめく。
満月の下で隠れていた精霊達が動き始める。
世界樹の精霊、最高位の生命を司る精霊が降臨したことを知って。
檸檬色の満月の下、樹は肩の力を抜いて翅を広げる。
八枚の光の翅が背中に出現した。
流線型に伸びた翅から光の燐片がふわっと散る。
『世界樹の精霊様ー、ゲコゲコ』
『赤い月が無くなったー、ありがとうございますー』
蛍火が森のあちこちから浮かび上がる。
それはこの森に住む精霊達。
温泉で出会った蛙の精霊の群れの姿もある。
「こちらこそ、エルフに伝言してくれてありがとう。おかげでセリエラさんと合流できたよ」
『お安いご用でさー』
樹は、自分の周りで歓喜の声を上げて飛び回る精霊達に苦笑した。
「ついでにもうひとつ、お願いがある」
『なんでしょ?』
「あの魔物達を大地に還してあげてくれないか。もう何十年も自然に還れない可哀想な奴らなんだ」
オレイリアの森にうごめく、死者の群れを指す。
「僕の力を貸すから。あいつらを還してやってくれ」
『あいあいさー!』
精霊達は蛍の群れのように夜の森を乱舞する。
世界樹の精霊に頼まれたことが嬉しいらしい。精霊にとって最高位の精霊は「王」ではない。彼らにとって最高位の精霊は「家族」だ。特別に愛おしい、守るべき、仕えるべき存在。
蛍火に触れたアンデットモンスターは、次々と崩れて消えていく。
光の乱舞が夜の森を幻想的に彩る。
「さて、と……」
樹は跳躍すると、いまだ睨みあう王と英司の近くに降り立った。
光の翅を広げた樹の姿に、英司がぎょっとする。
「英司、交替だ。君は時間掛けすぎだよ」
八枚の光の翅を見た王の視線に欲が混じるのを、樹は不快に思った。
王の視線を受け止めながら英司に向かって手を振る。
「わ、悪い」
「いいから、詩乃さんの所に戻ってあげてくれ。ついでにウチのソフィーが暴走しないか見張っておいてくれると助かる」
「無茶すんなよ」
「誰に向かって言ってるんだ」
後方に下がる英司と簡単に会話する。
カノン王は、アンデットモンスターが現れたにも関わらず、部下に目もくれずに英司と戦っていた。英司の方は幼なじみが魔物に襲われないか気が気で無かったようだが。
王は今は去っていく英司よりも、樹の方を見ている。
「前は気付かなかったが、やっぱりお前は精霊だな! しかも八枚翅の、最高位の精霊!」
人差し指を樹に突きつけて王は楽しそうに叫んだ。
「人を指差すなって習わなかったかな……」
「魔王は闇属性の最高位の精霊らしいな。と、言うことは残るのは、光属性の最高位の精霊!」
樹はどんどん不機嫌になっている。
カノン王は樹のことを「目の前に現れた珍しいモンスター」くらいにしか思っていない。人を人として見ない態度は不愉快だった。
「……面倒くさい」
「え?」
一瞬だった。
楽しそうに叫ぶ王の顔面に足形が付く。
眼前に転移した樹が、彼の顔の真ん中を蹴り飛ばしのだ。
「ぐえええっ!」
鼻血と折れた歯を飛ばしてカノン王はふっとんだ。
近くの木の幹に激突して崩れ落ちる。
見ていた部下達の目が点になった。
「え、えげつないな」
後ろに下がりながら英司は冷や汗をかいた。
カノン王は身につけていた魔道具で自動で防壁を展開していたが、樹はそれごと力技で吹っ飛ばしたのだ。最高位の精霊ならではの豪快な力の使い方だった。
「……ちょうど秋の夜長に鈴虫の声を聞きたいと思ってたところだ。この阿呆は鈴虫にでも転生させてやろうかな。そうすれば世のため人のためになってちょうど良いかもしれない」
『おやぶんそれ職権乱用……』
上空で王子を乗せて飛んでいる、白い竜の姿をしたイタチの精霊クレパスが、樹の台詞に突っ込みを入れた。
木の根元に転がる王様の元に一瞬で転移して追い付いた樹は、世界樹の剣の切っ先を彼に向ける。
誰の目にも勝敗は明らかだった。
樹の力を知っている面々は、虫に転生させられるのは自分だったら御免だと思いつつ、誰も止めなかった。
虹色の光の唐草模様が、世界樹の剣に向かって収束する。
「……待ちなさい」
しかし、涼やかな少女の声が樹の動作を遮った。
樹は咄嗟に後ろへ大きく跳躍する。
青白い炎が王と樹の間で炸裂した。
「死の精霊……」
「エルルと呼んで、イツキ。久しぶりなのにつれないわね」
炎と共に、八枚の光の翅を広げた少女が姿を現す。
雪のように白い肌を光沢のある黒いドレスで包み、瞳と同じ瑪瑙のような赤い花で身を飾った少女だ。
彼女は微笑んでカノン王に向かって身を屈めた。
白い手を差しのべると、王の顔面の損傷が回復する。
何のつもりだと険しい表情の樹の前で、死の精霊エルルは王に語りかけた。
「異世界人、カノウキヨハル。この世界で一番のレアアイテムが欲しくない?」
「お、お前は魔王?!」
「そうよ。貴方が私に会いに来るというから、待ちきれなくて迎えに来たの」
カノン王は呆けた顔で美しい少女の笑みに見とれている。
樹は嫌な予感がした。
「レアアイテム?」
「キヨハル、貴方、神から私のような最高位精霊を封じ込めた魔晶石がレアアイテムだと教えられたのよね?」
「そ、そうだ」
「貴方は騙されたのよ。世界で一番のレアアイテム、それは神様を封じ込めた宝石に決まってるでしょう」
死の精霊エルルは、どこまでも綺麗な笑顔で、そう言った。
満月の下で隠れていた精霊達が動き始める。
世界樹の精霊、最高位の生命を司る精霊が降臨したことを知って。
檸檬色の満月の下、樹は肩の力を抜いて翅を広げる。
八枚の光の翅が背中に出現した。
流線型に伸びた翅から光の燐片がふわっと散る。
『世界樹の精霊様ー、ゲコゲコ』
『赤い月が無くなったー、ありがとうございますー』
蛍火が森のあちこちから浮かび上がる。
それはこの森に住む精霊達。
温泉で出会った蛙の精霊の群れの姿もある。
「こちらこそ、エルフに伝言してくれてありがとう。おかげでセリエラさんと合流できたよ」
『お安いご用でさー』
樹は、自分の周りで歓喜の声を上げて飛び回る精霊達に苦笑した。
「ついでにもうひとつ、お願いがある」
『なんでしょ?』
「あの魔物達を大地に還してあげてくれないか。もう何十年も自然に還れない可哀想な奴らなんだ」
オレイリアの森にうごめく、死者の群れを指す。
「僕の力を貸すから。あいつらを還してやってくれ」
『あいあいさー!』
精霊達は蛍の群れのように夜の森を乱舞する。
世界樹の精霊に頼まれたことが嬉しいらしい。精霊にとって最高位の精霊は「王」ではない。彼らにとって最高位の精霊は「家族」だ。特別に愛おしい、守るべき、仕えるべき存在。
蛍火に触れたアンデットモンスターは、次々と崩れて消えていく。
光の乱舞が夜の森を幻想的に彩る。
「さて、と……」
樹は跳躍すると、いまだ睨みあう王と英司の近くに降り立った。
光の翅を広げた樹の姿に、英司がぎょっとする。
「英司、交替だ。君は時間掛けすぎだよ」
八枚の光の翅を見た王の視線に欲が混じるのを、樹は不快に思った。
王の視線を受け止めながら英司に向かって手を振る。
「わ、悪い」
「いいから、詩乃さんの所に戻ってあげてくれ。ついでにウチのソフィーが暴走しないか見張っておいてくれると助かる」
「無茶すんなよ」
「誰に向かって言ってるんだ」
後方に下がる英司と簡単に会話する。
カノン王は、アンデットモンスターが現れたにも関わらず、部下に目もくれずに英司と戦っていた。英司の方は幼なじみが魔物に襲われないか気が気で無かったようだが。
王は今は去っていく英司よりも、樹の方を見ている。
「前は気付かなかったが、やっぱりお前は精霊だな! しかも八枚翅の、最高位の精霊!」
人差し指を樹に突きつけて王は楽しそうに叫んだ。
「人を指差すなって習わなかったかな……」
「魔王は闇属性の最高位の精霊らしいな。と、言うことは残るのは、光属性の最高位の精霊!」
樹はどんどん不機嫌になっている。
カノン王は樹のことを「目の前に現れた珍しいモンスター」くらいにしか思っていない。人を人として見ない態度は不愉快だった。
「……面倒くさい」
「え?」
一瞬だった。
楽しそうに叫ぶ王の顔面に足形が付く。
眼前に転移した樹が、彼の顔の真ん中を蹴り飛ばしのだ。
「ぐえええっ!」
鼻血と折れた歯を飛ばしてカノン王はふっとんだ。
近くの木の幹に激突して崩れ落ちる。
見ていた部下達の目が点になった。
「え、えげつないな」
後ろに下がりながら英司は冷や汗をかいた。
カノン王は身につけていた魔道具で自動で防壁を展開していたが、樹はそれごと力技で吹っ飛ばしたのだ。最高位の精霊ならではの豪快な力の使い方だった。
「……ちょうど秋の夜長に鈴虫の声を聞きたいと思ってたところだ。この阿呆は鈴虫にでも転生させてやろうかな。そうすれば世のため人のためになってちょうど良いかもしれない」
『おやぶんそれ職権乱用……』
上空で王子を乗せて飛んでいる、白い竜の姿をしたイタチの精霊クレパスが、樹の台詞に突っ込みを入れた。
木の根元に転がる王様の元に一瞬で転移して追い付いた樹は、世界樹の剣の切っ先を彼に向ける。
誰の目にも勝敗は明らかだった。
樹の力を知っている面々は、虫に転生させられるのは自分だったら御免だと思いつつ、誰も止めなかった。
虹色の光の唐草模様が、世界樹の剣に向かって収束する。
「……待ちなさい」
しかし、涼やかな少女の声が樹の動作を遮った。
樹は咄嗟に後ろへ大きく跳躍する。
青白い炎が王と樹の間で炸裂した。
「死の精霊……」
「エルルと呼んで、イツキ。久しぶりなのにつれないわね」
炎と共に、八枚の光の翅を広げた少女が姿を現す。
雪のように白い肌を光沢のある黒いドレスで包み、瞳と同じ瑪瑙のような赤い花で身を飾った少女だ。
彼女は微笑んでカノン王に向かって身を屈めた。
白い手を差しのべると、王の顔面の損傷が回復する。
何のつもりだと険しい表情の樹の前で、死の精霊エルルは王に語りかけた。
「異世界人、カノウキヨハル。この世界で一番のレアアイテムが欲しくない?」
「お、お前は魔王?!」
「そうよ。貴方が私に会いに来るというから、待ちきれなくて迎えに来たの」
カノン王は呆けた顔で美しい少女の笑みに見とれている。
樹は嫌な予感がした。
「レアアイテム?」
「キヨハル、貴方、神から私のような最高位精霊を封じ込めた魔晶石がレアアイテムだと教えられたのよね?」
「そ、そうだ」
「貴方は騙されたのよ。世界で一番のレアアイテム、それは神様を封じ込めた宝石に決まってるでしょう」
死の精霊エルルは、どこまでも綺麗な笑顔で、そう言った。
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