会社員だった俺が試しに選挙に出てみたら当選して総理大臣になってしまった件 権力闘争編

もっちもっち

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嵐の前

子分となったブラッド

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料亭「夕凪」。
政界の裏舞台として幾多の密謀が交わされたそのVIPルームに、週刊誌が知れば踊りだすような顔ぶれが集っていた。

障子の向こう、漆黒の卓を挟んで座るのは――
門関幸太郎。そして、水園寺義光。

義光は薄く笑いながらも、どこか警戒心を漂わせている。

「まさか、あんたとさしで話す日が来るとはね。正直、驚いてるよ」

「驚くことはない。君の名前はずっと前から、選択肢にあった。
ただ、“その時”が来たというだけのことだよ」

門関は盃を差し出す。義光は無言で受け取った。

「さて……」と門関が切り出す。

「君が――次の総理をやりなさい」

静寂が落ちる。

義光の目が、鋭く揺れた。

「俺が総理、だって?」
口にした瞬間、自嘲気味な笑いが漏れる。

(父より上になったと思ったことはある。
だが、そうは認めたくなかった。認めたら、すべてが終わる気がしていた)

「……あんた、父さんのことをどう思ってる」

門関の笑みは変わらなかった。

「義光君。君の父上――水園寺幸房のことは、あきらめてもらわねばならんよ。
あの人には、もう政界の未来を託すことはできない」

義光は盃を机に置き、ゆっくりと目を伏せた。

(父親なんて……さすがにもう壊れている)
(俺は父親を超えたかった。だけど、それがどれだけ空虚なことか、今はわかる)

「俺はもう……子どもじゃない」

そう呟いた義光の横顔に、門関の目が光った。

「君には味方がいる。手を貸す者もいる。
政党も、財界も、“次の顔”を探している。
君が『メシア』だと――世論に囁かせればいい」

義光の頭の中を、血が逆流するような衝動が走る。

――メシア? 俺が、救世主だと?

(子孫を残していくことが、生物としての使命ならば……
親は、子のために死ぬものだ。だったら俺は、俺の人生を生きる)

義光は一度、大きく息を吸い、盃を掲げる。

「……いいでしょう。あんたの“シナリオ”、乗ってやるよ」

門関を指さした義光は無礼だったが、そんなことはどうでもいい。
この男の言動も態度も荒削りで、因縁浅からぬ水園寺家の血筋を考えれば、なおさら不愉快なはずだった。
だが――門関にとって重要なのは“駒が進む”こと。ただそれだけだった。

(言動も行動も無礼だが、あっさりと乗ったな……。やはり、欲望に正直な若造は動かしやすい)

この一手が通れば、阿相も秋屋も“過去の人”になる。
政界は再び門関の設計図の上に組み直され、実権はこの老獪な男の手に返ってくるだろう。

だが、それだけでは足りない。
門関は、この地位を“さらに不動”のものとするために、もう一人の若造――古味良一にも、別の策を向けようとしていた。

義光に勝たせ、古味を封じる。
すべては、“自分が選んだ”という記憶を、民意に植え付けるためだ。

「歓迎しよう、メシア候補・水園寺義光君」

「はっはっは……俺がメシア、俺が総理……やったあ、ついにやったぞ」

外の夜は静かだったが、
政治の海には、確かに新たな“波”が起きつつあった。

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