会社員だった俺が試しに選挙に出てみたら当選して総理大臣になってしまった件 権力闘争編

もっちもっち

文字の大きさ
8 / 19
嵐の前

囁かれるメシアの名

しおりを挟む
最初にその言葉を見かけたのは、ある深夜の匿名掲示板だった。

「“メシアシミュレーション”って知ってる? 政府が有事の際に救世主を選ぶために使うAIだってさ」

誰かが何気なく流し読みしていると、その一文に目が止まる。実に巧妙に目につくように作られていた。

“メシアシミュレーション”など最初は誰も本気にしなかった。
選挙でも世論調査でもない、“救世主を選ぶ”などという言葉が真顔で語られる時点で、オカルトじみたジョークの域を出ていなかったのだ。

だがその後、ヨーツーベ風の情報チャンネルに次々と動画が上がる。タイトルはどれもセンセーショナルだった。

「非常時、誰が“次のメシア”に選ばれるか?」

「政府の極秘AI“メシアシミュレーション”の存在が明らかに?」

「若者の救世主待望論と、ある名前の浮上」

映像ではAIの脳内を模したようなCGが流れ、解析される“民意の流れ”とともに、いくつかの政治家や一般人の名が意味深に表示される。どれも憶測と演出に満ちた内容だったが、奇妙なリアリティがそこにあった。

Xwritterでもトレンド入りしたその言葉は、いつしか若者たちの間でミーム(インターネット上で模倣や改変を通じて拡散される画像、動画、テキストなどのコンテンツ)となり、TikTikでは「#メシアチャレンジ」なるタグが生まれ、自分が選ばれるならどんなスピーチをするとかいう動画が流行した。

“ある日突然、AIが自分を救世主に選んだらどうする?”
自然発生したその問いに対し、世間の人々の回答は千差万別であった。
例えば、
 単なるふざけ半分のもの
 かなり凝った自撮り系のもの
 啓発系・陰謀論混じりの語り動画
 半分ガチの政治系インフルエンサーの乗っかり解説
などなどである。

そんな妄想に近い空想が、じわじわと現実の空気を侵食していった。



その頃、永田町・議員会館。

古味 良一は自室で調べ物をしていた。手元の資料は、選挙区で起きた地元企業の不祥事に関する報告書。午後には支持団体の面会が控えていたため、昼も外出せず、コーヒーを啜りながら手持ち無沙汰に時間をつぶしていた。

そんな折、スマホが震えた。妹の由香からだった。

「お兄ちゃん、メシアだって」

「メシア?」古味は片眉を上げた。「また怪しい宗教の勧誘か?」

「ちがうってば。今ネットで超話題になってる。“メシアシミュレーション”ってやつ。知ってる?」

「知らんわ。くだらん……」

そう言いつつも、通話を切った後、つい気になってノートPCを開き、ヨーツーベを検索してみた。

「……なんだこれ」

そこには、やたら作り込まれたCG映像と、胡散臭いナレーションが交互に流れる“情報系”チャンネルがずらりと並んでいた。

「メシアシミュレーション。それは政府が隠し持つ“民意予測AI”……」

古味は鼻で笑った。

「救世主を選ぶAIねぇ。誰がこんなもん信じるんだか」

──そう呟きながらも、動画の再生ボタンを押す指は止まらなかった。

そして思った。

「なるほど。メシアシミュレーションというのは、陰謀論的なものだろう」

世の中で起こる出来事の裏には、それを意図的に起こそうと陰謀を巡らせている秘密組織なり影の権力が存在する――そう信じる人間はいつの時代も一定数いる。時には地震や洪水といった災害でさえ、それが“人工的に起こされたもの”だと信じて疑わない。

「本当に政府がそんなことをやっているなら、ぜひ情報公開請求させてもらいたいものだ」
俺は余裕しゃくしゃくで独り言をいった。

「まあ、世の中の退屈してる奴は、そういう話が大好きさ」
俺は鼻で笑った。

だが、このとき俺はまだ知らなかったのだ。

それが単なる陰謀論ではなく、実在する“実験”の名であることを。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...